幼馴染

麻城すず

幼馴染

 リョウタに彼女が出来たらしいとナオリから聞いた。

「あ、そ。でも別にあたしには関係ないし」

「やせ我慢でしょ」

 何を言うか。…いやね、確かに多少の我慢はあるよ。けれどもそれは好奇心からくる興味というやつであって、決して、間違っても恋愛感情からくるものではあり得ない。

 だって、もう終わっているのだ。あたしとリョウタは。

 物心ついた時から側にいた、兄弟みたいに仲の良かった幼馴染みは第二次成長期の頃に他人になり、異性になり、恋人になった。

 初めて一緒に帰った、とか。初めて手を繋いだ、とか。初めて抱き締められたとか、初めて唇が触れた、とか。

 まあ、そこまでで初めての別れが来てしまった訳だけど。

「嫌いで別れたんじゃないでしょ」

「まあね」

 元々、好きだったのかどうかもあやふやで。

「いつも隣にいたから、そう錯覚したのかもしれない」

 切り出したのはあたし。

「そうだな。それは言えるかも」

 同意したのはリョウタ。

 それで特別な関係だった一年は過去になった。燃えるようなものはなく、揉めるようなこともなく。

 だから今も、あたしとリョウタの距離は変わってなんかいない。元通りの、幼馴染み。

「関係ないなんてわざわざ言うのが気になってるって証拠なのよ。本当にそう思ってたら、『ふーん』なんて軽く流すでしょ」

 なるほどね。ナオリはなかなか頭が良い。

「で?」

「で?」

 疑問に同じ言葉で返されたのに眉をひそめ、ナオリはあたしの頭を叩く。

「どうなの?実のところ。リョウタ君のこと好きなの?」

「好き、だけどさ」

 違うのだ、そういうのとは。好きにも色々種類があって。別れて初めて知ったこの感情の正体、それは。

 愛じゃなくて、愛情ってやつ。

 恋愛みたいに、まっすぐぶつけるような激しいものではなくて、穏やかに見守りたいようなそんな気持ち。

 好き、だけど少し違う、その感情。

「今のあたしが感じてるのは、この手の中にいたリョウタを、手放さなきゃならないっていう感慨なんだよ」

「なんだか、お母さんっぽい」

「ええ、母の心境です。巣立ちを見守る親鳥って感じ?」

 近い内に、リョウタから彼女のことを報告をされるだろう。あたしはきっとそれに笑って答えるに違いない。

 良かったねと。

 それは少し寂しいことには違いないけれど、でもきっと笑って言える。寂しい、けれどそれがリョウタへのあたしの、愛情の形だから。

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幼馴染 麻城すず @suzuasa

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