好きになれない人

烏神まこと(かみ まこと)

1

「僕は藩くんの声好きですよ」


 同じ軽音サークルの麗先輩は、俺の汚声が話題になる度にそういってお上品に笑う。今日もそうで、オレはオレをいじる女子よりも先輩にイラついてた。

 男だけど先輩は清潔感があって見た目も趣味も上品な感じで声も綺麗でよくモテて、苦手だ。ああいうふうに先輩が俺を褒める度に、オレはみじめな気持ちになる。自分の方が何もかもオレより上だから、見下してるんだ。


「優しすぎ〜!」


 女子たちも先輩の発言を餌に遠回しにオレのことを貶す。あんなブサイクで頭の悪い猿にまで麗先輩は優しいんだ、って。

 イヤホンをつけてたオレはなんも聞いてないですよ、って顔で立ち上がり、クラブ室を出ようとドアノブに手を掛けた。そのときになんとなく後ろを振り返ると女子に囲まれていた先輩と目が合う。先輩は一度目を見開いたあと、形の良い唇でにっこりと笑った。気をつけていってらっしゃい、と言っているのが微かに聞こえる。

 ああ、キモチワルイ。いっそちょっと貶してくれたらいいのに。オレはわざと大きめに「はーい、いってきまーす」と汚声を放ってドアを閉じた。

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