潜航
音崎 琳
潜航
うす青の底に町が沈む頃
潜水艇を抜け出して
少しのあいだ 自由に泳ぐ
おおきくひらいた指のあいだを
青い水がすりぬけていく
肺の中に水をすいこむ
みずみずしい花の香りがする
鉄の箱に守られているうちに
二〇二〇年の春は咲き終わろうとしている
あちらにひとり こちらにひとり
青く染まっていく水に紛れて
潜水艇を抜け出してきた
かれらも息をしようとしている
口許にあてがったシュノーケルは
どこか遠くの別の潜水艇につながっていて
おたがいの酸素で呼吸している
人影が黒くにじんでいく
わたしとかれらとの間を流れる水が
かれらをわたしから わたしをかれらから守っている
ちいさな潜水艇にしがみついて
われわれは航行をつづけている
まるいちいさな窓から水面を見上げ
太陽の影を探している
船はたしかめようのない正しさに乗り
舵を握っているのは誰か
閉じこもる潜水艇のあることに安堵しながら
おのおののシュノーケルをにぎりしめ
しにものぐるいで息を継いでいる
潜航 音崎 琳 @otosakilin
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