悪役を貫いた先に (百合注意、イメージがかなり変わります)

本編

 夢を見た。


 舞台は現代日本とは全然違う、何処か中世ファンタジーの世界。


 あたしは美形王子様の婚約者で白銀の髪の女ラケルと呼ばれ、よく分からない呪いをかけられて、王子様の身に起こる不幸や災いを身代わりとして自身で受けてた。


 あぁ…おっも…。


 昔から何度も何度も見る夢。

 朝から鬱過ぎてガチで最悪なんだけど。


「ってやばい、朝練に遅れるじゃん!!」


 急いで着替えて下に降りると、20代にしか見えない30代主婦が台所で格闘していた。


 くそぅ、今日もお母さんは美人過ぎ!

 本当は襲いたいけど我慢、我慢。


 一応反抗期っぽくしてるから、機嫌悪そうな雰囲気を出しながら下心一杯でお母さんを見て、お母さんが用意したパンを食べながら玄関を出る。


沙耶香さやか!みっともない!」


 お母さんの怒鳴り声が聞こえるけど無視。


 いや、だってあんな美女が近くに来られたら押し倒しちゃいそうだったし。


 朝から揉んだり舐め回すなんて出来ないじゃん。

 だからこの塩対応は大切なお母さんの貞操を守る為だよ?


 あたしって親孝行で良い子!


「おはよう沙耶香、今日は朝練かしら?」


 声がした方向に振り向くと、今日も見惚れるぐらい美人の幼なじみの梨花りか


 ハッキリ言おう。

 梨花の顔も身体も中身も超好みだから、ガチで結婚して子作りしたい。


 重要だから二回言うね、とりあえずアンタと子作りしたい。


「おはよ、梨花は生徒会?」

「えぇそうよ」


 …ラケル様…。


 微笑みながら頷く梨花を見たら、夢に出て来た聖女様をまた思い出した。


 何だか鬱になって来た…。

 今日のあたしは最高にキモいな!


 いや、いつもか…。


「どうかしたの?」


 覗き込む梨花の顔を見て気不味くなったあたしは、誤魔化す為に彼女の尻を撫でて変態かって叩かれた。



◆◆◆



 さぁ朝練終終わったし着替えないと。


 正直面倒くさいからジャージで授業参加するのを許可して欲しい。

 バスケ部の一年はボールの片付けもあるから大変なんだって!


「おい沙耶香、まだなのか?早く着替えないと間に合わないぞ」


 ゴッ!!


 話しかけて来た幼なじみの武志たけしの腹をとりあえずパンチする。コイツは空手有段者だから気にしないでね。


「ゔぐっ…、おい…、何をする…」


 うずくまりながら喚く武志。

 いや…女子更衣室じゃん、ここ。


「覗くどろこか侵入とは良い度胸だな、死ね」

「いや待て、そんな貧相な体で…」


 はぁ!?死ね!!


 ゴッ!!


 ムカつく事を言った武志に止めをさして、あたしは先に教室に戻る。


 マナーやモラルの問題だよ、アンタ。


 距離感が分かってるからってやりすぎ。

 武志じゃなかったらまた発作が起きてたじゃん。


 ってやばい、もうこんな時間!?


 とりあえず悪いとは思うけど、廊下を走って教室を目指す。


「セーフ!」

「アウトよ」


 勢いよく教室に入ったら先生に怒られた。


 あたしは先生のアイアンクローを受けながら考える。


 武志はしばらく復活しないだろうから、武志が戻った時に先生のターゲットはアイツに移るはず。

 アイツに止めをさして教室に戻る時差を作って正解だったな。


 この素晴らしい策はどう?

 学年二位の賢さを舐めるなよ。


 だから武志さん、お願いですからあたしの頭蓋骨が砕かれる前に戻ってきて下さい。


「策士策に溺れるって知ってるかしら?」

「うるへぇ」


 先生の素手による顔面のみの熱い抱擁にやられ、白目を剥いて机に伏せていると、後ろの席に座る学年1位梨花に呟かれた。


 それから20分後。


 武志がよろよろしながら教室に戻って来てアイアンクローをかまされる。


 アンタもっと早く戻ってよ!

 あたしの頭蓋骨が死にかけたんだけど!


 あの梨花似の美人先生の細腕に、何故ゴリラ並みの握力があるのか不思議だ。


 初めて会った時にあたしの体で貴方の欲求を満たして下さいと上目使いで可愛いく言ったら、よしそうさせてもらおうと言って、アイアンクローされた事は忘れない。


 未知の何かに目覚めたね。


 梨花も梨花のお母さんも負けず劣らずの怪力だから母親家系の遺伝なのだろう。流石は親戚…恐るべし。


 武志がこちらを睨んだので、満面の笑みでかえしてやった。


 あたしの下着姿は安くない。

 あたしはやり返せる子だ、ざまーみろ。



◆◆◆



 沢山の手、手、手。

 無理矢理抑えられて、男達が朝から晩まで「私」を凌辱する。


「あのラケル様をこんなに出来るなんてな!」


 男達が興奮する。

 痛い、苦しい、もうやめて。

 気持ちいい、絞めて、もっとして。


 2つの気持ちに支配されるけど、抵抗なんて無意味で彼等にとっては興奮する材料でしかない。


 髪の毛を掴まれ、怒鳴られる。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 気持ち良い気持ち良い気持ち良い。


 手が伸びていて首を掴まれる。


 あぁ…もう死んでも良いや…。


 恐怖と快楽が身体を支配する。


「…最悪」


 恐怖で目覚めたらまだ夜中。

 身体中が汗ばんで呼吸が乱れている。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」


 今日の夢はよりにもよってあの悪夢。

 上手く呼吸が出来ず、恐怖が「私」を支配する。


 暗いのは特に怖い。

 暗い地下室で沢山の男が「私」を玩具にして、まともに寝かさずに犯さす。


 時間が無いからと、毎日毎日、口も、前も、後ろも、全て使われ続ける。

 首を絞められて狂ったように喘ぎ失神して快楽に堕ちる。


 身体が震えて止まらない。


 両親の部屋か妹の部屋に行き「私」の状態を見れば、いつも通り一緒に寝てくれるけど。


 でも今日は気を抜いて部屋の電気を完全に消してしまった。


 無駄な声を出すと動くと殴られる、足首を刺される、骨を折られる。

 男の気持ち良い状態を邪魔すると殺される、男が不満になると殺される。


 どれだけ怯えても、快楽に負けて最後は喘ぐ。


 だって「私」夢の恐怖で怯えているのに、快楽に興奮してしまったあたしは下がぐしょぐしょになってるから。


 あたしはいつも自分で慰める。


「ふっ…んぁ…」


 怖い、死にたく無い、殺して欲しい。

 気持ち良い、気持ち良い、気持ち良い、イク。


 狂った身体。

 堕ちた身体。

 壊れた身体。


「あぁっ…!!」


 快楽が噴き出して、ベッドや指が濡れる。


 忌々しくて汚らわしい身体。


 また犯される。


 震える「私」は膝を抱えてベットの上に座る、男が襲ってくる恐怖と湧き上がる快楽に怯えながら夜明けを待つ。


 だから悪夢の次の日は体調が悪い。


「ふわぁ…眠っ…」

「何だ?せっかくのバスケなのに、昨日は寝れなかったのか?」

「…武志うるさい…」


 欠伸をしながら体育を見学してると、顔だけイケメンの変態男が来た。


「変態はお前だと思うぞ?」

「あたしはセクハラでアンタは更衣室入って下着姿を見た変態。ってか心でも読んだの?」


 アンタ最近あたしを見る時も梨花を見るような下心あるからね。いくらあたしの男性恐怖症の対象外とはいえ、そろそろ幼馴染みって言葉で許されないよ?


「アンタさっさとコートに戻れって。みんな待ってんじゃん」

「へいへい」


 武志がコートに戻るのを見たから、クラスの男子達が目に入った。


 女性とは違う、硬くて大きな手。

 大きな手に押さえつけられる恐怖。


 くっそ失敗した…。

 今男子を見るべきじゃなかった。


 夢を思い出して身体が震えだす。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」


 ラケルの夢を見る事は多いけど、沢山の男達に犯される夢を見るのは久しぶりだから。


 最悪…、昼間の学校でこんなになるなんて、あの夢だけはたまったもんじゃない。


 克服なんて出来る訳がないじゃん。


 あたしの男性恐怖症の原因。


 子供の頃からあんなR18のエログロの夢を何度も見るから、しっかりと歪んだ子に育ちました。


 火で直接腕を焼かれると痛みで気が狂うんだよ、知ってた?

 あたしだって知りたくなかったけどな!!


 HAHAHA⭐︎


 …。


「…怖い…孤独は嫌…助けて…」


 思わず呟くとフワッと良い匂いがして思わず顔を上げると、顔を歪めた梨花が覗き込んでいる。


「沙耶香…?震えてるけど大丈夫?」

「…だ、だい…じょうぶ…」


 コートから抜けて来た梨花が声をかけてくれたけど、梨花にカッコ悪い所を見せたくないので、大丈夫と言いとりあえず彼女の胸を揉む。


「…おぉデカいですな!」

「やめて」


 梨花があたしの後ろに周り、優しく抱きしめてくれて頭を撫でた。


「無理しないで。どうせいつものやつでしょう?」


 温かい…。

 心の底から安心して涙が滲む。


 恐怖が無くなる。 


 けれども、梨花にそんな顔を見せたく無いから、手を後ろに伸ばして太腿付近を撫でてやった。


 調子に乗るなと頭突きされた。



◆◆◆



 最近は悪夢を見るペースが早い。


 王子様に振られて沢山の男達に犯され壊され、最後にギロチン刑にかかる。


 気持ち悪い。

 毎晩毎晩見るから眠るのが怖いし本当におかしくなる。


 だってこの夢のあたしは…「私」は何も報われないし、辛いだけじゃん。

 夜が訪れて恐怖があたしを支配する。


 怖い、気持ち良い、呼吸が乱れる。


「…オネェ…大丈夫?今日一緒に寝ようか?」


 いつもはあたしに気持ち悪いやらゴミやら言う塩対応の妹も、この状態の私にやさしい。


 この天使はマジ最高。


「そのままあたしの初めてをもらって下さい」

「死ね」


 土下座したらゴミ屑を見るような目をされた。

 たまらん!


 一緒に横になりかえでのパジャマに手を突っ込み背中を直接触る。

 …温もりを求める。


 妹は嫌がらないし、何も文句言わない。


 普段なら間違い無く怒るし文句を言うが、最近のあたしは本当にヤバいと分かってくれている。


「楓ごめんね…」

「し、仕方がない…オネェだね…」


 発作が起こると恐怖で狂いそうになり呼吸困難になり、下半身が疼いてどれだけ自分で慰めても治らない。


 そんな時、あたしは女性に触る。

 無意識に男性に恐怖して女性の優しさに触れたくなる。


 聖女様に癒された最後の数日間を感じたくなる。


 あたしは恐怖と発作が出た時は、他人の温もりを感じないと治らない。


 優しく抱きしめて欲しいと思ってしまう。

 温もりで満たして欲しいと思ってしまう。


 普段は何とも無いけど、あの悪夢を見るとダメなんだ、何日も引きずっちゃう。


 夜は特に呼吸が乱れ、恐怖を感じるが泣く事も出来ない。

 出して良いのは喘ぎ声だけ。


 「私」が泣いたり声を出すと、楽しんでいる男達の怒りをかってしまうから。


 男が喉に出した体液が詰まり呼吸困難になって吐き出そうとすると殺されかける。

 喘げと言われたら一生懸命に喘ぎ、泣けと言われたら一生懸命に泣く。

 締まりが悪いと首を絞められたら、死なないように一生懸命に下半身に力を入れて締める。


 薄暗い地下室で男の邪魔をしないように、ただただ「私」が男の為に犯されないと、楓まで犯されちゃう。


 そう思ったら何も出来なくなるんだ…。

 ただの夢なのに。


 でも、たとえ夢だとしても。


 母が犯されて喘ぎ狂って殺された事も、奴隷のような貴族との生活も、魔法で身体がボロボロになっていく事も、暴行された痛みや恐怖も、首を絞められて何度も何度もイッた事も、薬付けにされて狂った事も、孤独に処刑された事も、全て実際に体験したように思い出せるんだ。


 だから夢でもあたしにとって真実で…。


 薄暗い中で男達に犯され快楽に堕ちて身体を壊されて、最後に孤独のまま殺される事は、「私」にとっては現実であり恐怖の時間なんだ。


 だから夜と孤独は怖い。


 でも一人、聖女様だけは助けてくれた。

 癒してくれた。

 超美人の聖女様だけは、最後まで味方だった。


 「私」の全てになった。


 だからいつも温もりを求める。


 発作が起きた時はお母さんか妹か、梨花が泊まりに来た時は必ず梨花が温もりをくれる。


 いやぁ女性を触らないと精神が安定しないなんて不便な心だよ。

 まぁ、お陰で女性相手だと見境なく発情出来るようになったけどね。

 女体って美しくて神秘じゃん?


 あたしにとって一番好きな温もりは梨花。


 聖女様と同じなんだよね。

 あの二人って顔と言うか雰囲気というか色々似てるじゃん。


 それに「私」は死ぬ前に聖女様へ依存してた。

 あたしは今、梨花に依存している。


 そんな意味でも似てると感じるのかも知れない。


 本気で恋愛するなら聖女様か梨花が良い。


 あっ、男性はガチで無理です。


 男性恐怖症の対象外の武志ですら、恋愛対象にはなりえない。


 昔から男性恐怖症のあたしに対し、父は何も出来なかったから、かなりの負い目を感じてるらしいけどね。


 でもお父さんの事大好き。

 ラケルのクソ親父に比べたら雲泥どころか神様としか思えない優しさだよ。


 自衛出来るように古武道を教えてくれるし、くっつき過ぎず孤独も感じさせない距離感で接してくれる。


 あたしが男性恐怖症じゃなければ、間違い無くお父さんと結婚すると思う。



◆◆◆



 今週の土日は梨花の家に泊まる日。


 特に今週は梨花の両親が仕事で出張に行くらしいから、都合が良かったって。

 本当に弁護士って大変だよね。


「沙耶香ちゃんだったら安心よ〜」


 ママさんごめんなさい。


 娘さんを夜のオカズに喘ぐ狼はあたしです。

 2日に一回は妄想の梨花のお世話になります。


 えっ?毎日じゃないのかって?


 2日に一回は聖女様の日だからね!

 冗談抜きで梨花と聖女様であたしは一年間毎日自分で慰めてるよ。


 梨花が犯してくれたら、あたしは一生をささげる覚悟がある。

 だからこのまま犯してくれないかなぁ。


「…声が出てるわよ…」

「その冷たい目もゾクゾクしちゃう」


 あたしは完全ドM。

 あの夢のせいで歪んじゃったよ、へてぺろ。


 土日の泊まりは梨花と彼女の家族からの提案。


 あたしとあたしの家族の負担を減らす為に中学時代からほぼ毎回どちらかの家で行ってくれている。


 もともと小学校時代から男性恐怖症の事を梨花も梨花の家族も知っていたけど、「私」が夜にあれ程怯える事を知らなかった。


 だから中学時代の合宿の時に「私」の発作を見た梨花はあたしの家族に提案してくれたんだ。


 勿論、常識的に考えて娘が土日を犠牲にしてあたしの介護みたいな事をするなんて嫌がると思ったんだけど、家族ぐるみの付き合いだったから梨花の家族は梨花の提案を歓迎してくれた。


 おかげであたしの両親も負担が減ったと思う。


 それだけあの夜は衝撃だったんだろうね。


 あれは中学時代、バスケ部合宿中の夜に発作が起きてしまったんだ。

 勿論、合宿だから家族はいない。


 恐怖に支配された「私」は、夜中に一人で部屋の角に膝を抱えて座っていた。


 溢れる恐怖と快楽。


 その時にたまたま梨花の目が覚めて、部屋の角で恐怖に怯える「私」気づいたんだ。


「…沙耶香?凄い顔してるわ、どうしたの?震えているけど寒いの?」


 ほっといて欲しかった。

 男達に梨花が見つかるとまずいと思った。


「だ、大丈夫だよ。興奮して誰を襲うか考えていただけ。早く寝ないとパジャマ脱がして胸を揉むか抱きしめるぞ」


 ここにいるのはいつもの変態な親友だ。

 男の犠牲になるのは「私」1人でいいから、アンタは男に見つかる前に早く寝てくれ。


 犯される恐怖と親友を守りたい気持ちで、夢と現実がごっちゃ混ぜになる。


 梨花が殺されるぐらいなら「私」を殺して。


 それを聞いていた梨花が真面目な顔をして、パジャマを脱いで下着になり両手を広げた。


「はい、これでいい?」

「へ?」


 あまりの事にあたしは止まった。


「…な、なな何してるの!胸を揉むって冗談に決まってるでしょ!?」

「ば、馬鹿!そんなこと分かってるわよ、抱きしめてあげるの!!貴方は温もりが欲しいんでしょ?」


 あたしは止まった。


「な、何でそれを?」

「…昔から時々怯えたようになると、私を必死に探して触りたがるじゃない、気づいて無いの?」


 月明かりの中、あっさりと言う美人で優しい顔があの夢の聖女様と被る。

 でもスタイルの良い下着姿の美人を見ると、とても恥ずかしくなってきた。


「ほら、遠慮しないで、親友でしょう」

「あ、あ、あの…せめて服は着て頂けると…。そ、その…は、恥ずかしいので…」


 下着姿でカッコいい事を言うから流石にキュンとして濡れる。

 いや、すでに悪夢でぐちょぐちょだけど…。


「そ、そうね…いきなり裸は…、恥ずかしいわね」

「あたし達は新婚の夫婦か!…ってあれ、震えが止まってる?」


 温もりを感じて無いのに、どうして…?


 心が温かかった…。

 心が満たされたからだと分かったんだ。


 こんなふうに「私」からあたしに戻してくれたのは梨花だけだった。


「そう…なら良かったわ。普段、家で発作が起こったら、どうしてるの?」

「…あの…言いづらいけど…、お母さんか楓が一緒に寝てくれる」


 むっちゃ恥ずかしいなこれ、罰ゲームか!?

 梨花が立ち上がりあたしの枕を自分の布団の所に置いたけど、この人は何してんの?


「発作が起きた時に家族が隣で寝てるのなら、家族がいない時は私がしてあげるわよ。また怖くなったら、起こすなり抱きつくなりすぐ出来るでしょ?全く、無理してないで早く言ってよね」


 異常な反応が気持ち悪いとか思われて嫌われたく無いからずっと言えなかったのに、まさかこんなに簡単に受け入れられるとは思わなかった。


「あ、変な事したら殺すわよ」


 おぉ、冷たい目のリカ様がおる。


「あ、あのね…背中を直接触っても良いかな…?」

「別に今は怖くないんでしょう?これじゃあセクハラになるわよ?…でも今日だけはいいよ」


 抱きしめてくれた。


 あたし達は布団に入って梨花に手をまわす。

 よしよしと頭を撫でられる。


 …温かい…聖女様みたいだ。

 あたしは涙が溢れて止まらなかった。


 その時に見た夢は悪夢では無くて、包帯だらけの「私」を聖女様が優しく抱きしめてくれる幸せな夢だった。


 だけど、朝起きたら梨花の服をまくり上げ、胸を直揉みしてたから怪力で殴られた。


 と言う中学時代の事があってから、家族以外に梨花と梨花の家族にも助けられて生きてる。


 ただ、最近は毎日悪夢を見過ぎる。


 ラケルと同じ歳ぐらいになったからだろうか?

 鬱になる…ってかハゲる…。


 くそっ、ストーカーお姉さんに貴方を食べちゃいたいわって言われたぐらいの美貌なのに!! 


 ってか無駄な事を考えていたから悪夢を思い出しちゃったじゃん!


 ベッドに入り隣で寝ている梨花を抱きしめる。


 彼女の匂いでイケるとおもう。

 下着の彼女が寝ぼけて頭を撫でてくるからキュンとしてしまう。


 包帯だらけで寝てると超美人の聖女様が、あたしを優しく抱きしめて頭撫でてくれたなぁ。


 まじまじと顔を見るけどやっぱり梨花に雰囲気が似てるなぁ。


 こらラケル!!


 妻になりたいと言われた時に何故聞こえ無いふりをしたのか?

 怪我が何だ!想いが何だ!気合で体を動かして押し倒さんかい!!

 片腕だけは動くんだから凄腕テクで満足させてみんかい!!


 あの美人さんの体を好きに出来ると思うと…。


 聖女様に似た顔、聖女様に似た唇、聖女様に似た細い身体、聖女様に似た大きい胸…。

 おっと、涎が出た。


 アホな事考えて無理やりテンション上げようと思ったけど、あの夢を思い出してしまう。


 大体あの虐める令嬢達も犯した貴族の男達も王子も王妃も全員本当にムカつく。


 あの夢の中の「私」も感情を黙って押し殺さないで、言い返すなり殴るなり殴るなり殴れば良いじゃん!!


 お決まりのように「私」は奴隷だから…、ってムカつく!


 あたしは夢の中のラケルと同じ事を繰り返さない為に、強くなる為に古武道も空手もやったんだからね!!


 くっそ、マジでノイローゼになりそう…。



◆◆◆



 次の土日泊まりの日はまた梨花の家。


 準備の為に妹と買い物に行った。


「おい妹よ…。その痴女注意ってシールを買うか買わぬかで真剣に悩んでいるけど、買って何するつもりなの?」

「梨花お姉様が危険だからオネェに貼るの」

「えっ?そんなプレイがあるの?」

「ばっかじゃ無いの!?」


 痛っ…蹴られた。


 買い物を済ませて先に店に出たら、たまたま商店街にいた梨花が三人の男に絡まれていた。


 湧き上がる恐怖を感じたけど、楓の静止を無視して梨花と男達の間に入る。


「あ、あの馬鹿オネェ!」

「サヤカ…?」

「た、たまたま通りかかっただけ…」


 男が目の前にいるから息が乱れる。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 梨花を守らないと、梨花を守らないと。


「ん?君はその子の友達?君も可愛いね、俺達と一緒に遊びに行こうぜ」


 腕を掴まれる。


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 梨花を守らないと、梨花を守らないと。


 妹も男達の前に立つ。


 何でアンタまで来たの?男達にみんな犯されて壊されちゃうよ!!


「か、楓…お願い…下がって…」


 あたしがみんな守らないと…「私」が身代わりにならないと。

 奴隷の「私」が出来るのはそれだけだから。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」

「おい、チンピラ共、オネェと梨花お姉様に触るなよ、殺すぞ」


 妹が現れ凄むが、所詮は中学生。

 実力が測れない雑魚には脅しがきかないよ。


 男達は「私」を引き寄せて、二人がかりで「私」の両手首を掴んだ。


「ひっ…」


 発作が酷くなり体が震え出す。

 胸を触られる。


「触っちゃったけど、お嬢ちゃんに殺されるの?」


 男が舌を出して私の頬を舐める。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。


「いや、俺が代わりにぶっ殺す」

「武志兄ぃ!」


 武志が「私」を掴んでいたやつを一人殴り飛ばして、楓が残りの一人を蹴り飛ばす。


 梨花が私の事を舐めたやつの腕を掴む。


「貴方…今何したの?貴方ごときがサヤカの胸揉んで顔舐めたわけ?」


 怒気を含んだ声で言ってから、巨大な握力で腕を握りしめる。


「ぎゃああ」

「てめぇ!離せよ!」


 楓に蹴られた男がナイフを出して梨花に向かう。

 梨花が危ない!!?


「だ、駄目!!」


 無意識だった。


 あたしは梨花を引き寄せ、梨花が掴んでいた相手を当身で吹っ飛ばし、ナイフ男の顎を蹴り抜き、回し蹴りで壁まで吹っ飛ばした。


「…えっ?」


 あまりの速さに全員が停止して、蹴られたチンピラは白目を剥いてピクピクしてるけど、恐怖と発作で限界だった「私」は腰が抜けて座り込む。


「ひ、ひぃいやぁああああ!!」


 チンピラ二人が叫んで顎を打ち抜かれ気絶した一人をかかえて逃げ出した。


「オネェの蹴りが…見えなかった…」

「お前は相変わらずの化け物だな…」


 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 男に逆らったから殺される。


「無理しないでよ、馬鹿!!」


 梨花が震える「私」を抱きしめて叱る。

 梨花の温もりで、しばらくしたら落ち着いて来た。


「ははっ…、武志助かったよ」


 梨花に抱きしめられながら武志を視界に入れないようにしてお礼を言うと、発作が出た事に気付いている武志が背を向けながら、ああ、と言った。


「梨花…ごめんね。もう大丈夫」

「本当に?無理してないかしら?」


 考え無しに庇うんじゃなかった。

 みんなに迷惑をかけちゃったから…。


「…この状態のオネェは不味い…。リカお姉様の貞操が心配だから、やっぱり私も泊まる!こんな弱ったオネェ危険だからリカお姉様が落とされちゃうもん!」

「楓…貴方は何言ってるの?」


 梨花の突っ込みには悪いけど、まだまだ楓の事が分かって無いね。

 これはあたしの事を心配してるのさ。


「心配してくれるのはありがたいけど、直接言わないなんて素直じゃないなぁ。ツンデレか?超かわいいあたしの天使め」

「気持ち悪い、死ね!」


 あれ違う…?


 結局泊まりを説得するのが大変だった。


 何だか、あたしの心配をしてなくない?

 本当にリカの貞操を心配してる感じ?


 アンタの姉はあたしなんだけど?



◆◆◆



「夢?」


 ベットの上で梨花が何言ってんの?って顔で聞き返した。

 あたしもおかしいって思うからアンタに相談してんのよ。


「だから、昔から同じ夢をみるの」

「でも、夢ってだいたい内容を忘れない?」

「だけど、覚えてるから怖いの」


 あたしが男性恐怖症で恐怖に陥る原因は分かっていないとされている。

 家族や病院の先生に夢が怖いからと何度も言ったけど信用されてない。


 梨花には初めて理由を話した。


「で、どんな内容なの?」


 内容が痛々しいし、変人と思われたくないから何と伝えたら良いか分からない。


「とりあえず引くなよ」

「親友を何だと思ってるのよ」


 笑いながら言われた。


「えっと…魔法がある国であたしが処刑される夢」

「ごめんなさい。ちょっと引くわ」


 おいブルータスか!?

 アンタあっさりと引いたな、裏切ったな!


 こんなのまだタイトルだからな序の口だぞ。

 詳しい内容を伝えたら、もっとグロくて鬱になるからな!!


「沙耶香、貴方何か悪い事でもしたのかしら?」

「何で?」

「夢の中とはいえ処刑だなんて、悪い事した罪悪感とかあるのかなって」


 うーん…、そう言われても心当たりが…。


「普段を思い出してみたらどう?」

「お母さんのお風呂覗いて怒られたり、梨花の胸を揉んで叩かれたり、妹にセクハラして怒られたり、昼間はチンピラ蹴ったし、この前は武志を何となく殴ったり、いつも通りだから特に何も悪い事してないかな」

「自覚無しなのね…」


 リカが虚無の目で遠くを見ながら呆れたように呟いた。


 …何故呆れる?


 相変わらず美人の幼馴染み。

 風呂上がりの火照った顔が一段と色気をだしてるね。


「それにしても髪をまとめるとリカの首筋がよく見えるなぁ。美人で聡明でいやらしい体も持ってるのに、首までエロいって何なの?長いし細いし色白いしガチでエロいじゃん。あぁ、押し倒して、舐めまわして、キスマークだらけにしてあたしの物アピールしたい。はい今晩の夜のオカズ決定」

「ちょっと貴方、心の声がだだ漏れてるわよ!!」


てへぺろ。


 一つ屋根の下にといるのが運の尽きだから、貞操をあたしにくださ…痛だだだだ!


 頭蓋骨を鷲掴みするアイアンクローは…先生の奥技じゃないか!?


 あたしは白目を剥いて崩れ落ちた。


「もう少しムードを大切にしてよね…ばか」


 恋する乙女の顔で言う親友だが魂が飛びかけていたあたしは気づく事無かった。


 気付いたら朝になっていた。

 妹よ、リカは自力で貞操を守れる子だったよ。



◆◆◆



「気持ちいいだろ?」

「ぎ…も…ぢぃ…がっ…」


 快楽に歪む令息が更に指に力を込めるから首に指が食い込み意識が朦朧とする。


 突かれて下半身の快楽が常に達しており、快楽を噴き出して尿を漏らしてイク。


 あぁ、もう死んでいい。

 このまま犯して殺して。

 絞め殺して。

 首の骨を砕いて殺して。

 気持ち良いから殺して!!


 惨めで汚れた「私」を殺して下さい。


「もう…無理…。狂いそう…助けて梨花…」


 ビチャビチャになった布団。

 何度も何度も噴き出す体液。


 一人暗い部屋で自分の首をギチギチに絞めながら、狂ったように慰めて呟く。


 今回の土曜日は梨花が家に来た。


 梨花が来る事を妹には伝え無かったから楓は友達の家に行っており、両親は晩まで出かけているから梨花と2人きり。


「首どうしたの?あざになってるわよ?」

「本当?ぶつけたのかな?」


 タートルネックの服を着たけど隠しきれていない絞め痕。


「…今日も悪夢を見たのかしら?」

「どうして?」

「顔…隈を隠しきれてないわよ」


 …そっか…。


 もうお母さんでも楓でも恐怖が治らない。

 梨花がいないと眠れない。


「聞いて欲しい事があるんだ…」


 もう心が折れて隠し切れないから頼りたかった。

 だから少しだけ夢の内容を梨花に伝えたんだ。


 魔法がある国。

 「私」が子供の頃に母親が目の前で殺されて、王族に奴隷として売られる。

 奴隷のくせに幸せを願ったから周りに虐められて事件が起きて捕まる。

 最後は首を切られて処刑される。


 流石に全部伝える事は出来ないからこれだけ。


「随分ハードな夢ね…。ただ貴方の夢の話と男性恐怖症や発作はどのように関係するのかしら?」


 梨花が聞いてきた。


 言い淀む…話すべきか悩む。


 引かれる程度ならそれで済むけど、こんなグロい闇を抱えてると思われて梨花を失いたくない。


「何、不安になってるのよ。別に言えないならそれで構わないし何を言われても嫌いになんてならないわ。貴方は幼馴染みで親友でしょう?」


 梨花が笑顔で言った。

 その笑顔が聖女様に被って心が満たされる。


 この親友は、あたしの大切な彼女はいつだって孤独も恐怖も癒してくれる。


 だからあたしは汚れた「私」を梨花に教える覚悟をする。


 息を吸ってあれを思い出す。

 拷問の内容を思い出す。

 どう思ったのかを詳細に教える。


「その夢でね、捕まった後に拷問されるの」

「拷問…?」


 あたしが「私」になり、あの時の拷問を思い出す。


 1日目は貞操を奪われるの。


 凄まじい激痛がしたけど、助けが来るまで心を折られるわけにはいかないから耐え続けたんだ。

 「私」が我慢している事も男達には関係無くて変わる変わる「私」を犯して楽しむんだ。

 抵抗しては何度も殴られて、痛みを我慢出来ず悲鳴を上げて泣き出したら喜ばれるの。

 人が増えすぎたので後ろの穴も使われて、口も使われて、明け方に「私」は監禁された部屋に1人放置されるんだ。

 前と後ろと口から男の物が溢れ垂れて、一人ごめんなさいと呟くの。


 梨花が絶句する。


「まって…何の冗談?夢の話…なのよね?」

「そうだよ当たり前じゃん、ただの夢の話。夢じゃないなら心が壊れちゃうよ」


 あたしが震えながら言う。


 これはただの夢だ。


 子供の時からずっと変わらない数日間拷問され続けるだけの夢。


 あたしの目が曇って「私」になる。


 3日間はマシなんだ。


 朝から晩までずっと複数人同時に相手するだけだから。

 ただ後が裂けて血だらけになっちゃったんだけど、痛くても苦しくても気持ちいいだろうって聞かれるんだ。

 殺されたくないから、はい気持ちいですって言って一生懸命満足させる為に腰を動かすの。

 血だらけでも涙を流しても気持ちいい振りをすれば、満足してくれて暴力をふるわれない。

 だから媚びを売っていっぱい喘いで助けを待ち続けるんだ。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ」


 震えが止まらない、呼吸が安定しない。


 しっかり思い出そうとしたから、あの恐怖を空気を匂いを全て完全に思い出してしまった。



 ある時は一日中首を絞めながら犯されるの。


 母親が殺される時に、犯されながら首を絞めて殺されたからトラウマになってて、怯える姿や反応が面白いって。

 細くて長くて絞めやすいって、何十人に痕がつくまで絞められて、数日後には喉が潰れちゃうの。

 でもとても気持ちよくてたくさん濡れて喘いでイッておかしくなるの。


「だから今でも恐怖でおかしくなると、自分で首を絞めながら狂った様に慰めるんだよ。凄く気持ち良いの。これはその痕なんだ」


 タートルネックを脱いで絞めた痕の付いた首を梨花に見せる。


「…っ、もういいわ沙耶香。止めましょう」


 梨花が青ざめながら言うけど、もう「私」は止めれない。


「あの日々…私が受けた拷問の日々は、一度思い出したら止まらないよ。だって、たとえ夢でも体と心に刻み込まれた恐怖、体と心に刻み込まれた快楽は消えないから」


 ある時は水を貯めた桶に顔を押し込まれるの。


 薬を大量に混ぜた水を持ってきて、顔を無理やり押し込められて後ろから犯されるんだ。

 苦しくてもがいていっぱい水を飲むけど、薬が入ってるからどんどん気持ち良くなってきて意味が分からなくなって。

 いっぱい気絶していっぱい漏らすんだけど、気持ち良過ぎてもう喘ぎ声以外出ないの。

 白目を剥いて、ずっと水を嘔吐し続けるけどね。

 ただ「私」が壊れちゃったから男は気持ち良くなくなったみたい。

 締まりを良くする為だって何度も首を絞められたり、痛みを与えると使えると言って叩いたり、殴られたりもしたかな?


「沙耶香お願い!もう止めて!」


 梨花が「私」の肩を掴み止めようとするけど、もう恐怖が溢れて止まらない。

 止められ無いよ。


 もう気持ちいいだけの玩具になって、時々我に返っては泣きじゃくるだけ。

 ただ我に返った時に逃げ出そうとして、ナイフで足首ごと床に突き刺されて、あまりの痛みに暴れたら足の骨を折られちゃうの。

 お腹を殴るとよく締まると言ってずっとずっと殴られて、どっかの臓器が破裂したんだ。

 でも薬を打たれたら全部気持ち良いんだ。


「ぜぇぜぇぜぇぜぇ…かはっ…」


 恐怖と発作で息が出来なくなる。


 梨花が泣きながら抱きしめて呼吸が出来る様に手伝ってくれる

 背中と頭をずっと撫でてくれるから、あたしは落ち着いてくる。


 リカの温もりが伝わる、愛が伝わる。


 徐々に呼吸が落ち着いて来て発作が治った。


「落ち着いた…ようね…」

「…今、話したのは前半のマシな所。最後は暴力と拷問で人間の形をした肉の塊みたいにされるから。でも夢だから怖がる必要は無いんだよ」


 あれはあくまでも夢であたしの現実じゃない。


「ただね、夢なのにあたしはその痛みも恐怖も快楽も、全部体験したかのように知ってるんだ。目を抉られる痛さも、耳を千切られる痛さも、火で腕を燃やされたら、どのように痛いか気が狂うか?その時の恐怖、肉が焼ける匂い、全てを体験したように思いだせちゃうんだよ」


 梨花が絶句して顔をしかめる。


 長い長い時間あたしは涙を流して、梨花は無言であたしの頭を撫で続けてくれた。


「この事は家族に言ったのかしら?」

「流石にここまでは話せないよ」


 あたしの闇を聞いても梨花は疑う事をしない。

 本当に彼女の親友で良かった…。


 受け止めてもらえるとは思わなかったから。


 梨花は夢の話をしばらく考えてから決意したようにあたしに聞いてきた。


「沙耶香…もし、もしなんだけどね。その悪夢が夢ではなくて、過去に体験した事だったとしら…?」

「過去?どう言う事?」

「例えば…、前世とかで体験した事を夢で思い出している、とか?」


 前世…か。

 なるほどなって思う。


 毎回毎回、繰り返しに見る夢が前世の記憶なら、見る夢が変わらないのも理解出来ると思う。


 だとしたら、あのラケルがあたしの前世?


 性格真逆じゃん。

 流されるまま、やりかえせない子。


「もし前世だとしたら…また子供に戻ってる?みたいな事を感じた事なかったかしら?」

「ふふっ、何それ」

「あれ、違う?なら前世じゃないの?」


 梨花が何だかブツブツ言ってる。


 本当に可愛いなぁ…。

 後ろから抱きしめて欲しい。


 じっと梨花の顔を見たら察してくれたのか後ろに回って抱きしめてくれる。


 やばい、それガチで好き。

 温かいし幸せで満たされる…。


「…大丈夫よ。貴方が辛い時、私はいつでも側にいるからね」

「うん…」


 …ん?


 いつでも…?


 あれ?もしかして今のは愛の告白か!


「梨花…今のって…」

「ごめんなさい、…今はこっち向かないで」


 梨花の震える手を見る。

 声を殺して悲痛な泣き声が聞こえて来る。


「えっ…?泣いてる…?」


 何で…?


 梨花は返事をしてくれない。

 静かな部屋に声を殺した泣き声が響いた。


 困惑するあたしは梨花が泣き止むまで、後から抱きしめてくれている梨花の手をずっと撫でていた。


「…ごめんなさい。驚かせたわね、もう大丈夫よ」


 梨花があたしから離れて目の前に座る。


「梨花…あの…さっきの事だけど…どうしたの?」

「…そうね。実は遠い昔から恋い焦がれていた人が私にはいたのよ」

「へっ…?」


 はぁあああああああああ!!?

 は、は、は、は初耳なんだけどぉおお!!


「こ、こ、恋って…好きなの…?」

「えぇ…愛しているわ」


 いや、おかしいじゃん!!

 さっきの流れはあたしが好きとかじゃないの?


「だけどいくら探しても見つからないよ。もう二度と会う事が叶わないんだって、最近気づいてしまってね…」


 そんな事、全く知らなかった…。

 こんな美人が求める人がいて、その人間のせいで梨花が泣くなんて。


 ヘドロのような醜い嫉妬心が湧き上がる。

 かつて「私」が聖女様に抱いた感情なんか超えるぐらいの嫉妬心。


「でも家族のように思っていたもう一人大切な人が、長い時間を一緒に過ごす中で恋焦がれていた人と同じぐらいに大切になってしまったから」


 また別の人間が出てきた!

 あーモヤモヤする!全く分からないじゃん。


「だからさっきその幼馴染みを選んで、恋焦がれた人とお別れしたのよ。まさか涙が溢れるとは思わなかったわ…」


 未練タラタラな顔で話す梨花。

 もう一人は幼馴染み…武志か?


 なぁあああ!発狂しそうだ!!


「つまり…梨花は武志を選んだって事?」

「はっ?」


 質問したら、とてつもなく怖い顔で睨まれた。



◆◆◆



 結局あれから二人で前世について調べてみたけど分からなかった。


 まぁ当たり前か。


 他人の記憶が身体にある可能性とやらをまず探してみた。

 別の人の記憶が見える条件として、移植手術をすると他人の記憶が見えたりするらしい。

 だけど移植手術なんてした事無い。


 自分には無い体験を夢で見る可能性を探してみた。

 子供の時に虐待を受けて人格が二つ出来て、もう片方の人格が体験した事を夢で見るらしい

 夢の出来事は虐待とも言えるけど、そもそも夢を見だした事が先で歪んだから、虐待とは言えないよね?


 まぁ、様々な他人の記憶がある可能性を見てみたがどれも当てはまらない。


 これはもう素直に前世でいいやって思った。

 一番納得出来たから。


「いやぁ、あたしの前世は散々だわ」

「もう無理して思い出さないで」

「無理に思い出さないから、まぁ聞いてよ」


 あたしは後ろを向く。


 本当に汚れた「私」は報われなかったから、虚しくて悲しくて、でも涙流す所は見られたくない。


「大好きだったお母さんを、戦争の英雄で貴族だった実の父親の命令で殺されて、その実の父親には一年ぐらい犯されて、金の為に奴隷として王族に売られて…」


 大好きだった「私」の母や「私」を恨んで死んだスラムの親友…。


「王子様の婚約者になったけど、良く分からない王子様の身代わりに災いを受ける呪い?みたいのをかけられて、王子様の暗殺の身代わりで体をボロボロにされて、感情も出せない子になって…」


 血を吐いて、内臓が傷つき、子供が産めない身体になっても、ただただ生きる事に必死で…。


「結局編入してきた癒しの魔法を使える聖女様と王子様が…、殿下が惹かれ出して、嫉妬して、王妃様の策略で聖女様を虐めていた事にされて、無意識にしがみついていた婚約を破棄されて…」


 殿下の笑顔が好きだった…、あの時「私」を救ってくれた笑顔が本当に好きだったんだ…。


「捕まって沢山犯されて拷問されて死にかけて、まともに動けない身体にされて、聖女様を暗殺しようとしたと国に冤罪かけられて、最後はギロチン刑になっちゃった」


 息継ぎしないで一気に言って、深呼吸をする。

 あの最後までの地獄の日々を思い出す。


 唯一の光を思い出す。


「処刑される少し前なんだけどね。聖女様がいつも優しく抱きしめくれたの。あたしが虐めの犯人とされてたのにさ。本当に凄い人なんだ。もしかしたら恨んでいたかも知れないけど敵わない人だった。あの温もりに本当に癒されたんだ」


 あの美人の聖女様を虐める人、暗殺する人がいるならあたしが守るわ!


 「私」の思い出で幸せなのは、お母さんが殺される前と聖女様が癒してくれた時間だけだ。


「だから聖女様には本当に感謝してるんだ。それがあたしの前世だよ」


 言ってからて振り返る。


 はらはらと落ちる涙。

 梨花がペタンと座って大粒の涙を流してる。


「な、な、な、何?どうしたの!?」

「…もう…出会う事を…諦めたのに…。そんな事言われたら…ありえない事に…すがりたくなってしまうじゃない…」


 梨花が一生懸命涙を拭うのに溢れて止まらない。

 それは悲痛な泣き声に変わっていく。


 梨花がこんなに泣く所を見た事がないから、思わず頬を撫でて呟いた。


「…良い子良い子」


 梨花が顔を歪ませてあたしの手を掴んで泣く。


「…さ…沙耶香…ごめ…なさぃ…。私の…ね…諦めていた希望…を…勝手に…押しつける。本当に…本当に…ごめんなさい」


 梨花、アンタが何を言ってるのかさっぱり分からないけど…、その美人の顔が聖女様と被る。


「貴方は…もしかして…ラケル様ですか?」


 ドクンと心臓が鳴った。

 鳥肌が立った。


 何でアンタがその名前を知ってるの?


 だって、あたしは絶対に「私」の名前をアンタに言わなかったのに!


「えっ…」


 泣きながらすがる様にあたしを見る彼女は、その表情もすべて聖女様に被ってみえた。


「何で…何で私の名前を…?」


 だって「私」もありえない奇跡を思ってしまったから。

 あたしの目から「私」の涙が溢れた。


「…リ…ディア…?」


 夢にしか出てこない聖女様の名前を呼ぶ。


 耐えきれなくなった梨花は、顔を抑えて声を出して泣いてただただ頷く。


 あの時の気持ちが駆け巡りぐるぐる回る。

 とっさに梨花の手を取ってあたしは無意識に叫んでいた。


「アーデン殿下をよくも奪ってくれたわね、このアホ聖女!!」


 そう言って梨花を抱きしめてる。

 涙を流す梨花をもう離したくない。


 処刑場でリディアに言いたかった言葉がようやく言える奇跡に本当に本当に感謝した。


「あたし…いや私の孤独を癒してくれて最後の最後まで一人味方でいてくれて、本当にありがとうございまじだ…」


 最後は我慢出来ずに声を出して泣いてしまった。


「ごめんなざい…、助けられなくて、ごめんなさい…」


 梨花が…リディアが泣きながらただただ謝罪を言い続ける。

 私はただただ感謝を言い続ける。


 この奇跡を手放したくなくて、お互いに強く強く抱き合って泣き続けた。



◆◆◆



「あー…涙も枯れたわ…」

「本当ね…」


 風呂の中、湯船に2人で並んで漬かり手を繋ぐ。


「ラケル様…」

「今のあたしはラケルじゃなくて沙耶香。アンタの事が大好きな幼馴染みだって」


 少しでも赤みを減らす為に、濡らしたタオルで目を冷やすけど…もう遅いかな。


 お互いの真っ赤な目を見たら両親に何と言われるか…。

 お前、襲ったのかって誤解されて怒られそう。


 いっそこのまま裸の梨花を襲ってやりたいとか言いたいけど、あたしも「私」の記憶がぐちゃぐちゃしてそんな気分にもならない。


 ただ愛しの梨花に超キスしたい。


「ラケ…沙耶香。目を閉じてこっち向いて」

「えっ、キ、キスか!?この流れはそうなのか?」

「ば、ばか!違うわよ!」


 梨花があたしの目蓋に触れる。


 梨花の手が暖かい気持ちい…目が癒される…。


 …ん?

 もしかしてガチで癒されてる!!!?


 慌てるあたしを見て、はにかむように笑う梨花。

 自分の目にも手をかざして、当然のように赤くなった目を治してる。


 とりあえず梨花の肩を掴みガクガクと揺らす。


「おいアンタ!!そんなチートを前世から持ってくるなよ!!」

「ちょ、ゆらし、過ぎ、よぉお、おおお」


 梨花がギブギブと言うから離してやった。


 そう言えば…幼稚園や小学校低の時に、怪我をしたらいつも梨花が痛いの痛いの飛んでけってして、本当に痛みが無くなっていたな。

 癒しの力を知ってて使っていたのかな?


「そもそも梨花はいつぐらいから前世の記憶があるの?」

「…表現が難しいのだけど、記憶をずっと失っていないのよ」


 ん?…どう言う事?


「リディアとして死んだ後に死後の世界みたいな所に行ったわ。そこで光の中に飛び込む事になって、光が消えた時に母さんのお腹にいたのよ」


 何とも不思議な話だ。


 どこへ行くのかしら?

 決まってるでしょう未来ですよ

 そう…喜んでお供するわ、ラケル様


 ん?ふとリディアとのやり取りを思い出した。

 いつの記憶だろう?


「だから私の梨花としての人生はリディアの延長でもあるのよ。つまり中身はお婆ちゃんって事。何だかごめんなさい」


 …つまり、合法ロリばばあだと!

 ご馳走様です。


「おっと、失礼…」

「…今の話のどこに鼻血を垂らす要素があるのかしら?」


 あぁ、その梨花の冷たい目…ご褒美です。


 ガタン!!


 そしてずっとあたし達のやり取りを盗み聞きをしてたヤツが、風呂の中に突入してくる。


「ひっ!」

「きゃああああ!」

「ラケル!俺はアーデ…」


 梨花が悲鳴を上げて怯え、あたしは恐怖のままに武志の腹を殴る。


「おい…何をする…」


 何故殴られたのか分からないって顔をして、うずくまりながら喚く武志。


 いやここは風呂じゃん!

 勝手に入って来るな!

 もはやマナーとモラルどころか犯罪だよ。


「冗談にしては酷すぎ…る…ぐふっ!」


 おぃコラ、動揺して人の股を見上げながら鼻血を垂らすなよ!


 うずくまりながらあたしの股を覗いた罪で、タケシの顔面を踏み潰した。


 ん?今、アーデンって言った?


「おい武志!!アンタ今俺はアーデンとか言ってなかった!?」

「気絶…してるわよ…」 

「ちょっとオネェ!!アーデンへい…武志兄ぃに何するのよ!」


 ちょっと待って!?

 予想外の人物から予想外のセリフが出て、理解が追いつかないんだけど!?


「えっ?ちょっと待って楓。アンタの中身は誰なのよ!?」

「私はアーデン陛下の妻よ!!」


 つ、妻ぁあ!??………プチ!


 あたしは気絶する武志を殺す為に腹へ更なる一撃を加える。


「きゃあああ!武志兄ぃ!」

「こら武志!!人の妹に手をだすとはふざけやがって!!今すぐ死ね!」

「止めてよ変態オネェ!!」

「楓!離して!!二度と目を覚さないようにコイツを殺すんだ…」


 ガシ!ガシ!


 あたしと天使は先生と同じ怪力を持つ超絶美人に頭を掴まれる。

 二人共顔が青ざめて、二人で顔をふるふるする。


「話が進まないから…二人共黙ろうか?」


 聖女様スマイルで梨花があたし達の頭を握り潰して、二人揃って気絶した。



◆◆◆



 全員回復して貰ってから改めて話を聞いたけど、まずあたし以外の三人は前世の記憶がある事を知っていたみたいだ。


「ってか何で楓まで黙ってたのよ!」

「私は前世でラケルさん…、オネェと面識無いんだから知らないって!」


 そりゃあそうか。


「改めて整理するけど…、あたしがラケルで、梨花が超絶美人聖女リディア様で、武志がゴミ屑不倫殿下で、天使がゴミ屑の側室クレアさん。それであってる?」


 武志があたしに土下座した。


「サヤカ、いやラケル!本当に済まなかった!!許してくれとは言わんが謝罪をさせてくれ!!」

「今すぐ死ね!」


 あたしは謝罪を拒否した。

 呪いのせいで身体壊されたし、直接では無いけど犯されて拷問されて処刑されたからね。


「前世の記憶のせいで男性恐怖症になったし、性癖も歪んだし、女性の温もりを感じないと発作が止まらなくなったからな!!」


 大体、リディア様という羨ましい奥さんがいるのに天使みたいな側室もいるなんて許せない!


「ってか私の事はどうでもいい!梨花を前世で欲求不満解消道具にして、前世の妹には子供4人も産ませただと!お前なんて絶交だ!殺されないだけ感謝しろ」

「えっ…、自分のことよりそこなの?」


 妹が呆れながら言う。

 当たり前でしょ?リディア様の心も身体もあたしのモノなのに!!


 思わず梨花が吹き出す。


「ふふっ、私のヒーローはそんな人よ…」

「普段からお人好しだけど、改めて思うけど聞いた通りなんだね…」


 その後、あの時何があったのか?私が死ぬ迄と死後の全てを聞いた。


 王妃様を思い出す。


 あの方のした事を「私」は許せないけど、でもあの方が無意識に与えてくれた愛情は偽りでは無かったのかもしれない。


 目の前の土下座男を見る。


 腐った貴族を排除して国をまとめ上げて発展の為に尽くした殿下。

 「私」が死んだ事を無駄にせず、真摯に受け止めて人生をかけて償ったらしい人。


 昔、愛した人。


「…モヤモヤするけど、まぁ結果国の平和を繋げてくれたから絶交は勘弁してやる」


 そんな笑顔を向けるな面倒臭い。


 それから数日経った。


 妹は特に変わらない。

 普段通りの塩対応。


 ただ憧れの梨花お姉様の好きな相手だからと、間違いなく前より嫌われている。


 武志と良く一緒にいるのは二人が付き合ってるかららしい。


 何だと…絶対に許さん。


 健全な付き合いだろうなと言ったら二人して目を逸らしやがった。


 ここは前世じゃ無いからな!!

 子供出来たらどうするんだ!?

 武志、お前は高校生で歳上なんだからお前が自制しなよ!


 あぁそうだ、妹に一つだけ変化があった。


 発作が出た時は一番心配してくれる愛しくて優しい天使は、梨花がいない時は私が面倒みるから良いよって母に言い、どんな状況でも面倒を見てくれるようになった。


 前世ではクレアは中等部にいたらしい。


 「私」の処刑は国をまとめ、その結果長きにわたり平和であったらしい。


 だから素直に感謝された。


「ラケルという方を今まで誤解してごめんなさい。ただしラケルさんは尊敬するけど、オネェは変態だから尊敬出来ない」


 分かりやすくて好ましい。

 あたしの大切な妹、本当に大好き。


 問題はコイツだ…。

 朝から邪魔だから殴り飛ばして、教室で倒れている武志。


 武志とは本当に絡みづらくなった。


 今度こそ結婚しないかと言ってくる。


 アンタ妹に手を出してるよな??

 ガチでキモいなこいつ。


 武志だけ男性恐怖症が出ない理由は、おそらく中身がアーデン殿下だからだろう。


 そんな気の知れた幼馴染みだけど、アンタとそのような男女関係になるなんて考えた事も無い。


 大体、貧相な体と言われた事は根に持ってる。


 あぁそういえば中学時代、お前なんて顔だけだ、梨花みたいに顔と立派な体を持てなんて言われた事もあったな。


 それに、愛しの聖女様を性処理の道具にしやがって!


 口で無理やりやるんだってな!

 楓にやったら、本当に殺すからな!!


 あと梨花に触れたら殺す!


 お前の性根は前世から変わらないね。

 顔だけのクズ男が。


 そんなクズ男を無視してあたしの隣にいるのは、美しい元聖女様。


 梨花は凄く変わった。


 今も仲の良い親友。

 いや…こ、こ、恋人になりたいけどさ…。


 あれ?生まれ変わる前に二人で会って、キスしたような気がする。


 気のせいか?


 リディア目線の「私」の話を聞く時、別人の気がするのだけれど確かに話は一致するから不思議な気分になる。


 前世の「私」はそんなヒーローじゃない。


 ただの悪役令嬢でしたけど。

 悪役を貫いて最後処刑されてたじゃん。


 前世の濃い時間があるから勘違いしてるけど、聖女様と「私」が一緒に過ごした時間は一年にも満たない。


 無表情の「私」だったから、印象も良くないはずなのに、今互いを求める関係になってる。


 まぁあれだけの事があったので、大分好意が増してラケルの行動全てが美化されてるだけど。


 確かに前世でリディアを助けたのは間違い無いけど、私のせいで何かあったら困るから、虐めの現場を見つけたらとりあえず見守ってただけ。


 「私」は出来た人間じゃないから。


 まぁ身体が勝手に動いて助けた気もするけど、あの時は…聖女様にムカついたのも事実。


 だから必要以上に愛されている事は不思議だ。


 ちなみに土日は今まで通り基本泊まりあってる。


 あれから悪夢が落ち着いてきたけど別の意味でやばい。


 隣で寝るだけで朝下着を変えないとだめになる。

 匂いとかでイける、触るだけでイける、抱きしめてられたらイける。


 びっちゃびちゃです。


 梨花は柔らかいし優しいからやばい。


 あ、まだお付き合いしてないので梨花の下半身を触ったりしてないよ。

 他は舐め回してるけど。



 梨花にも色々と感情の苦労があるみたいで、前世の夢を見た次の日とか色々な感情が溢れるみたい。

 はぁはぁ息を乱しながらラケル様と言って抱きついてくる。


 今、こんな風に。


「…ラケル様…ラケル様…ふふっ…」


 目がヤバいよガチで!

 いつもの聡明なアンタは何処いったの?


 そもそもあたしは沙耶香だからね!!

 学校で前世の名前言うのはやめてよ!


 ってか今は学校だから、せめて家でしてよ!!

 教室だからね、みんないるからね!!


「ちょっと!胸はやめ…あっ!!首筋を舐めるな、吸う…んっ!!跡がつくで…あっ!!…ぁあ…」


 は、恥ず!!

 学校でイかされるとかあり得ないんだけど!?


 おぃコラ、周りもこの光景も慣れたなとか言ってないで助けてよ!!


 男共は前を抑えるな!!

 武志は混ざりたそうな顔するな、殺すぞ!


 ちょっ、何服まくろうとしてんの!?

 先生早く助けて、また貴方の親戚が暴走を…。


 笑顔を浮かべた先生がアイアンクローで梨花を持ち上げつつ、握り締めた拳をあたしの上に作る。


 ま、待ってあたしは悪くな…!


 白目剥いて気絶してる梨花を見ながら、殴られた頭をなでる。


 ねぇ梨花、あたし達親友だよね?

 まだ恋人では無いのに最近どんどん過激になっていませんか?


 最近敏感になってやばいんですが…。

 セクハラはあたしがしたいのに!


 あたしはサヤカ、もとラケル。

 元悪役令嬢。


 この先も悪夢と恐怖に向き合う事になるのだろうけど、愛する人が隣りにいてくれるから多分今は幸せかな?





End

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悪役令嬢は最後まで悪役を貫きます aibsmn @ats-siva

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