幼馴染乱入

俺が七菜の家に泊まることが決定してから約10分。

絢子さんと車で自分の家に向かっている最中である。

「あの子ね、すごい喜んでたわよ」

あの子というのは七菜の事だろう。しかしこの年にもなってお泊りするとは思わなかった。

「そうなんですか。でもこの年にもなってお泊りするなんて思いもしませんでしたよ」

「まあそうだよね。まあ楽しんでくれればいいから」

「全力で夜更かしします」

「あの子と?」

「あの、一つ聞きたいんですけど、寝る場所ってどこですか?」

何を想像したのか絢子さんが顔を赤くする。

「あ!そういうことではなくて!――」

「――そういうことって?」

今度は顔をにやにやさせながら質問してくる。

(絢子さんといい、七菜といい、なんで親子揃って悪魔みたいな一面があるんだよ……)

「いや、何でもないです。それより寝る場所って?」

「寝るまでのお楽しみ!」

なんでわざわざ引っ張るんだ。


「じゃあ少し待っててください」

そういって車を降りて、家のオートロックを解除する。

家に入り、階段を上って自室に向かう。

「やべ。PCの電源消してなかった」

そのせいかPCの内部が熱くなっている。

「とりあえず電源落としとくか」

待たせてはいけない、そう思い電源ボタンを押す。

数秒後に中のファンが止まった。

(よし、じゃあバッグに着替えと部屋着と……)

泊まるのに必要なものをバッグに詰め込み、家を後にする。


「お待たせしました」

「別にそんな待ってないわ」

「お世話になります」

「お世話になられます」

中身のありそうな、なさそうな話をして泊まる家に向かう。

「なんで七菜が喜んでたんです?」

「それは、秘密」

どこまでも引っ張るなこの人。教えてくれてもいいのに。

「それは、夜更かしした時に、あの子に聞いて」

わかりました、と返事をする。

「え?じゃあ俺は七菜と一緒に寝るんですか?」

「ばれちゃったか……そうね。一緒に寝てあげて」

「親としていいんですか⁉俺一応男ですよ⁉」

「大丈夫。渚君のことは信用してるから」

信用してくれるのはありがたいが、どういう信用だろう。何もしないほうの信用なのか、告白してくれるという信用なのか(←エロゲのし過ぎによる勘違いである)


「お世話になります」

荷物を七菜の部屋におろして改まった挨拶をする。

「いいよー」

と柔らかい声が返ってくる。

「じゃあ、絢子さんが風呂入っていいよって言ってるから入ってくる」

「んー」

七菜の返事を後ろに聞きながらバスタオルやパジャマなどをバックから出して部屋を出て、廊下の突き当りを右に曲がり、脱衣所に入る。

パジャマや下着、バスタオルを籠に置き、1日来ていた服を脱ぐ。

小さめのタオルをもち、擦りガラスの扉を開けて、浴室に入る。

「意外と広いんだな」

それが最初に思ったことだ。変な妄想をするほど俺は頭おかしくないから。

シャンプーを出し、泡立てて頭につけて、髪を洗う。

10分ほど洗い、シャワーのお湯で流す。次にボディーソープを出して、体を洗い、シャワーで流す。

「ふぅ~」

洗ってきれいになった体でお湯を張ってある湯船に浸かる。

「渚ー。入るよー」

え?柔らかい声、すりガラスに映る人影、間違いなく七菜だ。


Question 幼馴染がお風呂に入ってこようとしている。

    1 扉に鍵をかけたうえで追い返す

    2 鍵をかけずに追い返す

    3 勝手にすれば、と返す

    4 いいよーと、快い返事をする


「入ってくるのを阻止するから、1しかないな」

鍵をかけるために湯船から体を出して、扉に向か――。

「失礼しまーす」

誰が?七菜が。しかも裸で。とっさにタオルをつかみ、下腹部を隠す。

「いやいやいやいやいやいやいや……。なんで入ってきてるの⁉」

「え?大好きな幼馴染がお風呂に入ってるんだから、一緒に入らなきゃ損じゃん」

「そうなの!?ってか出てってくれ⁉」

軽くパニック状態で幼馴染を追い出そうとする。裸の幼馴染を見たことで軽く息子が臨戦態勢をとってしまう。

「ほんとに早く出てってくれ⁉」

「渚は、ボクとお風呂に入るの、イヤ?」

「え?それってどういう?」

幼馴染の乱入により、軽くパニック状態のため、正常に理解が追い付かない。

しかも、七菜の問いかけで思考が停止し、少し力が抜けた。


「あー!!渚、タオルタオル!」

「へ?……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

いつからタオルが落ちていたのだろう。ってか!いつから息子がこんにちわしていたのだろうか。



「お見苦しいものをお見せしてすみませんでした」

渚はタオルを腰に巻いて、七菜にはしっかり服を着てもらい、すりガラス越しに会話をする。

「渚、謝らなくていいよ。」

「ほんと、ごめん」

「大丈夫。事故だってわかってるし、あと」

「あと?」

「可愛かったから」

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。羞恥で顔が真っ赤に染まる。七菜は可愛かった、と連呼している。何この羞恥プレイ!?



「七菜、俺の息子のことは忘れてくれ」

思わぬ事故から約1時間。やっと布団を敷いて寝る雰囲気になった。

「わかったわかった。忘れるよ」

「よかった」

忘れてくれるらしい、よかった。

電気が消え、七菜はベッドに、渚は布団に入る。


「絢子さんから聞いたけど、俺が泊まることになって、すげぇ喜んでたらしいじゃん」

「ああ、それ聞いたんだ。」

恥ずかしいのか、声がいつもより小さくなっている。

「なんでそんなにうれしいんだ?」

「ボクたちさ、幼稚園で知り合ってから、一度もお泊りしたことなかったじゃん」

「そうだな、したことなかったな」

「だから、渚とお泊りできるのが凄い嬉しかったんだよね」

いわれてみれば、知り合ってから何度か一緒に出掛けることはあっても、お泊りをしたことはなかった。

「俺でよかったの?好きな人とお泊りすればいいのに」

「それについてはね、大丈夫」

部屋が暗く、高さが違うため俺は七菜の顔が見えないが、たぶん頬が緩んでいただろう。


「なあ七菜」

「んー?」

「お前ってさ、好きな人とかいないわけ?」

「何?いきなりー」

「高校生みたいな会話だろ?」

「そうだね。ボクの好きな人?聞いてどうするの?」

「特にどうも」

「ボクは好きな人いるよ」

それを聞いて、なぜか嫌な感じ……なんてしなかった。

薄情者といわれるかもしれないが、幼馴染に好きな人ができても、なんとも思わない。まあ俺に恋愛感情自体ないからな。

「逆に渚は好きな人――」

「いない」

「……食い気味なのね、なんで好きな人できないの?」

そりゃあな、告白もされたことないし。”それ”がどんなモノなのかわからないし。

「七菜は友達多いほうか?」

「ボクは少ないかな」

「そういうことだ」

どういうこと?と一人で考えてる奴がいるが、何も言わないでおこう。


     ◇


「渚、起きてる?」

今何時かわからないが、呼ばれた。が眠気で返事ができる状態ではない。

「……」

「寝ちゃってるのね」

起きてはいるが、返事をするだけの気力がないだけだ。

「渚、ありがとう」

「渚が幼馴染でほんとによかった」

「渚と高校が同じじゃなかったら、私友達ができなかったかもしれない」

(私?七菜ってそんなキャラじゃないよな……)

「ありがとう、渚」

そういって、七菜が何かをする音が部屋に響く。

「……⁉」

渚が寝ている布団に、七菜が入り込んでくる。

「本当に、ありがとう。」

眠気が限界を迎えて、夢の世界に飛び立とうとする渚の頬に何か柔らかいものが当たったが、それが何だったか判断できるほどの力は残されていなかった。

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青春するくらいなら、エロゲします 青色パレット @Blue_Palet

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