青春するくらいなら、エロゲします
青色パレット
僕と幼馴染がお泊りするわけがない
こうして僕は、バイト先に泊まることにしました。
ピピピピピピピピピピ……。
(ん?何の音だ?)
部屋の中で電子音が木霊する。
そしてその音は、手元の時計からなっている。
「やばっ!バイトに遅れる!」
短針が指していたのは2。つまり2時ということである。
今日は2連休の初日。バイトを入れている。
ここで確認しよう、渚のバイトは2時30分から。
バイト先までは20分かかる。今から身支度をして家を出るまでに約10分。
「ギリギリじゃん!?」
やっば、完全にエロゲに熱中しすぎた!いっそいで準備しよう。
来ていた部屋着を脱ぎ捨て、私服に着替えて、寝癖を整えて、顔を洗って、歯磨きをして……。
「よし、準備完了!急いでいかねば」
急ぐあまり口調がおかしいが気にする暇などない。
「いってきまーす」
誰もいない部屋に向かって挨拶をする。靴を履き、扉を開けて飛び出る。
扉が閉まる音が聞こえる前に
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
息を切らしながら走り続けて駅に着く。駅に着く直前にモノレールが入ってくるのが見えたため、さらに加速したので息切れがなかなか治らない。
走って改札を抜け、階段を上り発車ベルを鳴らしているモノレールに飛び乗る。
「よかった、間に、合った」
モノレールに乗れば、あとは
「まもなく都賀、都賀です。お出口は左側です。JR線はお乗り換えです。
The next stop is Tsuga. The doors on the left side will open. Please change here for the JR Line.」
桜木駅でモノレールに乗って約3分、意外と早く着くようだ。
プシュー、と空気の抜ける音とともに扉が開く。
周りの邪魔にならないように走り出す。改札階に降りて定期券を改札にかざす。
改札を抜け階段を下りて道路に降りる。
「はっ、はっ、、はっ、はっ、はっ」
駅を出てから10分。なんとかバイト先に着いた。
喫茶店 New Wood 営業中
と看板が出ている。この店の裏口に回る。
「入りまーす」
そう声をかけて中に入る。
「あら、渚じゃない。今日バイトだったのね。」
そう声をかけてきたのは、
俺の自慢の幼馴染だ。昔のことはよく覚えてないが、幼稚園で知り合ってから、ずっと同じ学校に通っている。年齢は俺の1つ上、だから16歳、高校2年生だ。
「渚君。今日もよろしくね」
こういってきたのは、七菜の母親、
母親の数少ない友達だったようだ。
「渚君、今日もお夕飯、食べていくでしょ?」
「あ、毎回すみません。今日もいただきます」
「いいのよ」
いつもバイトが終わったら喫茶店の上、新木家の家で夕飯をいただいている。
「七菜も喜んでるから」
ほんとだ。にやにやしてる。
「そのようですね。」
絢子さんの耳元で伝える。その様子を不審に思ったのか
「何の話してるの?ボクにも教えてよ」
と七菜が会話に入ってくる。
「なんでもねえよ。着替えてくる。」
厨房の奥に部屋があり、そこにこの店の制服がある。その部屋に荷物を置き、制服を取り着替え始める。
「着替え終わりましたー」
「じゃあ、オーダーとかの接客のほうよろしくね」
「わかりました」
ピンポーン、とちょうどベルが鳴った。
「はい、ただいま」
そう声を出しながら壁の上部に設置されているディスプレイを見る。
レストランとかにある番号を表示する機械。
「はい、ご注文は何でしょうか」
ケーキセットを、と注文が入る。これは一番注文が多い看板メニュー。
珈琲(お代わり自由)とショートケーキがついて300円だ。
学生にも主婦にも優しい値段だ。俺も結構気に入ってるメニューだ。
「なあ七菜、お前身長伸ばしたら?」
七菜の身長は最新のデータによると160cm、俺と10センチの差がある。
「渚、身長大きいもんねー、少し分けてよ」
「牛乳でも飲みなよ」
「ボク何しても身長伸びないんだよねー」
「あと一人称ボクって」
「いいの、ボクって気に入ってるから」
「まあお前がいいならいいけど」
じゃあわざわざ話題に出すな、と一人で怒り始めている。
こういう時は話題を変えるのが一番。
「期末テストまであと1週間じゃん?勉強してる?」
「わからないところがあるんだよね、渚頭いいしボクに教えて?」
「いいぞ、飯食った後な」
ほんとはすぐに帰宅してエロゲしたいけど、お世話になってるから教えよう。
「何を教えてほしいんだ?」
「えっと、歴史と国語を」
「わかった、教えられる範囲で」
1学年上の範囲なんてわからないが。
「少し休憩していいですか?」
疲れたから少し休憩していいか尋ねてみる。
「まあ、ちょうど半分だからに10分休憩していいわよ」
七菜のお母さんが休憩を許してくれた。
「ありがとうございます」
と言葉を残し厨房の奥の荷物の置いてある部屋に移動する。
「はあ、疲れた」
部屋の恥にある椅子に腰を掛ける。
立ち仕事だから腰と足がやられる。毎回バイトがあった日はお風呂で入念にマッサージをしているほどに。とにかく疲れた。
「お、渚お疲れー」
「あ、おつかれ」
「なんで渚って成績いいの?」
「なんでだろうな、集中して勉強してるから?」
「ボクも集中してるのになんでだろう」
「俺にはわからん。まあ人それぞれのペースがあるということだ。」
「なかなかいいこと言うね」
だろ、と格好つけてみた。
だがそれに対しての反応は返ってこない。
時刻は19時を過ぎたあたり。七菜をからかったり、絢子さんと話したりして時間をつぶしながらバイトの時間を終えた。
「疲れたぁ」
「お疲れ様、渚」
「おまえもな、お疲れ」
そう声をかけてやると、疲れた顔が笑顔に変わっていく。なかなかかわいい笑顔じゃないか。
「先に上に行ってね。夜ご飯少し待ってて」
「おけ、じゃあ上で待っとく」
と言葉を残して、制服から私服に着替え、厨房を通り過ぎて階段に向かう。
(毎回夕飯もらってていいのか?)
甘えすぎていないか、と少し申し訳ない気持ちになった。
「渚君、お疲れ様。はいこれお夕飯」
「あ、ありがとうございます」
絢子さんが追ってきてくれたのは
綺麗に器に盛られていて山椒の香りもして食欲を刺激する。おいしそうだ。
「「いただきまーす」」
俺と七菜が同時に声を上げる。
ご飯の上に麻婆豆腐をのせ、酢をかけて口いっぱいに頬張る。
「
「あら嬉しい」
絢子さんが笑顔になる。七菜と似ている。
麻婆豆腐のほかにも、わかめとタコの酢の物がある。
「この酢の物子好きなんだよなー」
「渚、大好きだもんね」
「これ美味しいんだよ」
「わかる」
と、七菜が同意する。
(今度、麻婆豆腐と酢の物の作り方でも教えてもらおうかな)
ねえ、渚、と七菜が声をかけてくる。
「なんだ?」
「家に一人で寂しくないの?」
七菜の言う通り、渚は家に一人なのだ。
俺が生まれた時に母親は帰らぬ人となったみたいだ。死産というやつだ。
父親は航空会社に勤めており、留学経験がある、ということで海外の支社に勤務している。
渚に兄や姉、弟や妹がいないため家に一人なのだ。
「慣れちゃったからね」
と答えておく。正直一戸建て住宅に一人は寂しいのだ。けど、それを父親に言うと迷惑をかけてしまうために、人前では「慣れてるから」と言っている。
「慣れたって、寂しいときは寂しいでしょ?」
「特にあまり」
「寂しくなったら、いつでもボクのところに来なよ」
「じゃあ今度泊まりに来るわ」
もちろん冗談だ、家でエロゲをしたいからな。
「ママ―。渚が今度泊まりに来たいってー」
「ちょ、おま……。何言って――」
「あら、渚君。いつでもきていいよ」
ここで絢子さんが会話に参戦してくる。
「いや、ただの冗――」
「渚―。何なら今日泊まってく?」
やばい、話が変な方に転がっている。
「だからただの冗――」
「渚ー?発言には責任持とうねー?」
七菜の顔が怖い。これはガチで泊まらなきゃいけないやつだ。
「わかった。今度泊まらせてもらいます」
やったー、と七菜が、わかったわ準備しておくわね、と絢子さんが。
待て待て待て待て、何の準備だよ。その答えは出てこなかった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「お粗末様でしたってお前が作ったのか?」
「ボクが作ったけど、おいしかったでしょ」
絢子さんが作ったのかと思ったけど、まさか七菜の手作りだったとは。
「おいしかった。ありがとうな」
「うん!あ、それよりボクに勉強を教えてよ」
「いいぞ。一個上の単元はあまりわからないけど」
「それじゃあ、ボクの部屋に行こう」
なんでこいつ勉強なのに張り切ってるんだよ。
「歴史なら、5分時間くれ。パパっと問題作るから」
「待ってるね」
そう言って、横になる七菜。太るぞ。
それよりも問題を作り始めなければ。
手で問題を書いていく。
「できたぞ」
「……」
あれ? 寝てんじゃんこいつ。男が部屋にいるのに無防備すぎるだろ。
Question 寝ている幼馴染をどうする?
1.叩き起こす
2.ほっぺをぷにぷにする
3.横で自分も寝る
4.服を脱がす
「とりあえず、3と4は論外だとして、2をして起きなかったら1をするか」
七菜のほっぺに触れる。
すげえすべすべしている。こりゃ驚いた。滑らしていた指を止め、つついてみる。
ぷにぷにして柔らかい。ずっと触っていたくなる。
だが一向に起きる気配はない。
「起きろー」
起きる気配がない。
「起きなきゃ帰るぞー」
がばっ!飛び起きたよこいつ。
「寝てなんかないから」
「そういうことでいいよ、それよりも早く解いてくれ」
「はぁい」
問題の内容は、近代についてだ。簡単だし、さすがに4分の3は正解できるだろう。
「……」
さすがに何も言えない。なんでかって?
3分の1も正解してなかったから。
「七菜、全力で解いた?」
「うん!」
なぜこの点数で自信満々なんだ。
小さくため息をついてから、じゃあまず復習から、と勉強を教え始めた。
時刻は9時を過ぎた。勉強を始めてから約一時間。
「……はぁ、今日はもう終わりな」
「ありがとう、渚。大好き」
「ありがとう」
「うん!」
勉強から解放され、嬉しくなったのかニコニコしてる。
「俺も疲れた。少し横になるわ」
と言って机の中に足を入れたまま後ろに倒れる。
「なあ」
天井を見たまま、七菜に問いかける。
「ん?何?渚」
「部屋に男がいるのになんで寝れるの?」
エロゲだったら襲われてたぞ、と心の中で付け足す。
「何?ボクに興奮しちゃったの?」
「いや、ほっぺつついても起きないほど爆睡してたから、襲ってほしいのかと思った。」
「渚は襲う度胸なんてないくせに」
と笑い始める。失礼な。
「お前のおっぱい揉むぞ」
と真面目な顔をして言う。
「渚にならいいよ?」
「ばーか。何言ってんの」
本気で何言ってるんだこいつ(笑)
「ボクは渚に――」
「――渚君。お風呂入っていかない?」
「さすがにそこまで世話になるのは……」
「あ!明日休みだし、泊まっていきなよ」
と絢子さんの提案に七菜が便乗する。
「着替えとか、持っていないので」
あたりまえだ。もともと泊まる予定なんてないのだから。
「今から家にいって、取りに行けばいいじゃない」
さも当然かのように、絢子さんが言う。
「流石に――」
「――泊まらないならクビだよ、渚」
マジトーンで脅してくる七菜。怖すぎる。絶対に逃がしてくれないであろう。
「わかりました、泊まらせてもらいます」
逃げれないと悟ったため、今日は宿泊することにしました。
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