9 真実
綾と渉は図書室の前で合流していた。
綾は、ここである人物を待っていた。渉と会う約束はしていたが、実はもう1人いるのだ。その人物が来るまで2人で会話をしていた。
「これお願いね、渉」
「分かった」
綾はずっと持ち歩いていた論文二冊のうちコピーの方を渉に渡した。原文はまだ持っている。
「渉……そっちはどう、心の準備とか、できた?」
「大丈夫だ。綾は?」
「少し不安かな……自分の考えが本当にこれでいいのかと考えちゃうも、ね」
「大丈夫」
渉は自然と綾の手を握った。そこから優しい暖かさを感じる。
いつもお互いに不安を感じたときに安心するように手を握って静かに『大丈夫』と何回も優しい声で、不安を感じている方が安心できるまで何度も繰り返す。2人岳の特別な呪文だ。
双子だけに『大丈夫』という言葉を繰り返し、他は何も言わないで通じるものがある。
「うん、大丈夫。ありがとう、渉」
「うん」
「お待たせ、綾ちゃん」
綾が持っていたのは天文部3年で副部長の桜坂小雪だった。
「いいえ、小雪先輩。少し移動したいとですけど、いいですか?」
「いいよ。集合時間はまだ先だしね。時間はたっぷりあるしね」
天文部は今、活動を中止にしている。天文部だけじゃあない、他の部活も今は活動を中止にしている。別にテスト期間とかではない。
学校で2つの事件が起きて解決するまでは全部活は活動が中止になっている。
けど、今日の天文部は先生の許可を取り少し話し合う予定になっている。時間は5時から。今は4時15分くらい。まだ、時間はある。
「じゃあ、行ってくるね、涉」
「うん」
綾は小雪と歩き始めた。
2人がその場から去っていくのを見た涉もまた、1人で移動を始めた。
「話したいって何かな?」
「すみません。誰にも聞かれたくない事なので」
「じゃあ、3年の教室でも行く? 確か誰もいなかったし、みんな帰っちゃったから平気だよ」
「はい、お願いします」
綾は小雪の3年生の教室に行くことになった。小雪は3年。3年の教室は3階の第二理科室より、1階上で何かあってもすぐに移動できるので今の状況からして悪くない場所だった。
早速小雪の教室に入ると本当に誰もいなく、適当なところで2人は椅子に座った。
「で、何かな?」
「時間がないので単刀直入に聞きます。これ。書いた本当の人を教えて下さい」
綾はずっと持ち歩いていた論文を小雪に見せた。もちろん、綾は論文を書いた人が誰なのかはもう知っている。
小雪に聞いたのは、小雪も本当は知っていて知らないふりをしているのではないかと綾は、思っていた。そうでないと始めに小雪が論文を見たときの反応が綾にとってずっと気になっていたことだから。
滝森探偵事務所 ~ 高校生探偵雇いませんか?~ ≪天文編≫ 神崎 あやめ @Ayme
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