3分あれば読み切れる短編です。スナック感覚でどうぞ。

大蒜檸檬

軽めの謎の短編です。

 僕は、今日初めて恋をした。

 その子はクラスの人気者で、いっつも明るい可愛い子だった。

 僕はその子の近くにいつも行きたくて、でも行けなくて、もどかしい気持ちでいっぱいだった。

 移動教室の時には2m後ろで残り香を嗅ぎ、幸せな気持ちになり、教室ではうなじを見てニヤついていた。

 いつも周りに笑顔を振るう彼女は、とても可憐で、可愛かった。

 ある時、彼女は初めて僕に話しかけてくれた。

「ごめん席借りていい?」

 俺はそっと立ってすぐに教室から出てトイレでご飯を食べた。

 今、僕の席であの子がご飯を食べてる。

 そう考えるととっても母のグチャっとしたお弁当が美味しく感じた。

 教室に帰ると、そこには男子からカバ子と呼ばれている、汗っかきのぽっちゃりした女の子が座っていた。

 俺はかなり落胆したが、話しかけてきてくれたことを思い出し喜びを感じてすぐにテンションは上がった。

 カバ子さんの座っていた席はベタベタしていて、机の裏は液体がベチャッってしていたけど気にしなかった。

 ある日僕は初めて彼女に触れてしまった。すれ違いざまに手が当たったのだ。

 僕もこれには運命を感じた。

 こんなことは人生で初めてだった。

 手に神経を研ぎ澄ませていた僕は、前にいたカバ子さんに気づかず、ベチャッっとなった。

 ある日僕は、初めて彼女と歌を歌った。音楽の時間。

 彼女は指揮者で僕は指揮から一瞬たりとも目を話さなかった。

 真剣に歌っている僕の横から、とんでもないニンニク臭がしてきて僕はベチャッと倒れた。

 ある日僕は、初めて彼女とハイタッチした。運動会の日だ。

 ハイタッチしたあとは、手なんて洗えないと嬉々としていたが、手を上に向けて広げていると、バカ夫くんが両手をバチーンと叩いて、どっちの手が痛い?から始まる友達か友達じゃないか占うという変なローカル占いをし始めた。

 あまりの痛みに両手を開いたまんまにしていると、カバ子さんにベチャベチャの汗を拭いたタオルをかけられた。

 ある日から、僕の周りにはベチャベチャと痛みが増えるようになった。

 席に着くと感じるベチャベチャ。

 挨拶がわりの肩パン。

 前から渡されるプリントが汗でベチャベチャ。

 気づいたら分解されてるペンで手を撃たれる。

 消しゴムを貸したら帰ってくるベチャベチャと潰れた消しゴムのケツの四隅。

 その消しゴムも練りケシ作りの材料と化した。

 具合悪くて寝た保健室の枕と布団がベチャッってしていた。

 教室に帰ってくると机にたくさんの落書き。

 気づいたらベチャベチャしていたリコーダーの吹くところ。

 足をかけられて転んだ僕。

 絶対食べる前にこぼれてベチャベチャになる汁。

 黒板消しで叩かれて粉がついた僕。

 修学旅行のバスで隣の人がゲロを吐いてベチャベチャ。

 意味もないのに後ろからゆらされるバスの椅子。

 貸すとベチャベチャになって帰ってくる教科書。

 貸すと帰ってこない教科書。

 何故かほうきがベチャベチャしている掃除。

 僕だけ机が戻されてない掃除の後。

 捨てられないバケツの水をひっくり返されてベチャベチャのまんま僕だけしかしない後始末。

 教室を走り回っている男子に蹴られる僕。

 明らかに自分のでは無いのにロッカーに入っている放置されすぎてベチャベチャに腐ったパン。

 バケツを片付けようと掃除用具箱を開いたら倒れてきた長ほうき。

 トイレから出たら後ろから叩かれてベチャベチャになる背中。

 教室に入ろうとしたらドアが閉められて痛む挟まれた手。

 座るとベチャベチャしてるブランコ。

 ジャングルジムでの鬼ごっこで押されて鉄筋に肘を打ち付ける僕。

 僕の周りにはたくさんのベチャベチャと痛みがあった。

 ある日、僕はとうとう彼女に告白をしようとした。

 直接は言いづらいから、手紙にして、震える手で下駄箱に入れた。

 次の日。僕はクラスの女の子に昼休みに体育館裏に来てと言われた。

 多分返事だろう。僕はソワソワして、昼休みが始まってすぐに体育館裏に行った。

 ソワソワしながら待ってても、彼女は来なかった。

 振られたんだと思い、俺は諦めて帰ることにした。

 その時、後ろから待ってと声をかけられた。

 振り返ると、そこにはカバ子さんがいた。

「ここ暑いわね。汗かいちゃった。」

 何故、ここにカバ子さんがいるのか僕には謎だった。

「手紙の返事しようと思うの。」

 そうか。この人は伝令役だったんだ。本人は恥ずかしいのか後ろめたいのか来れなかったのか。

 カバ子さんの息が整うまで十何秒。

「彼女になってあげてもいいよ。」

 そう言われて僕は飛んで喜んだ。

 奇跡が、奇跡が起きたんだ。

 僕はまだ知らぬ神様に感謝をし続けた。


 ぶちゅ


 口に変な感触が走った。鼻息の荒い。カバ子さんがキスをしてきたのだ。


 ファーストキスの味は、きっついニンニクの味だった。

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3分あれば読み切れる短編です。スナック感覚でどうぞ。 大蒜檸檬 @hagane56

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