第1話 出会い
世界の中心とされる場所にはある一つの大樹が生えていた。その名は世界樹『ユグドラシル』。
ユグドラシルには9つの根が地面に隆起しており、国一つに根が1つとされ、計9つの国が存在する。
その中で唯一、人どころか生物すら滅多に立ち寄らない国がある。そこには国をまとめる統治者はおらず、アンデット系のモンスターしかいない文字通り死んだ土地。
その中心には毒の池に囲まれた廃城のようなものがある。そしてそこの周囲にはアンデットやゴーストなどが、絶えず発生し、唸り声が絶えることがない。
その国の名は『
そんな死んだ国に珍しくある生者の一行の姿があった。
その数はおよそ100人。目立つ白い馬車を筆頭に馬に乗っているもの、歩いているものといるがその全員が鎧や剣といった武装している。
だが、そのものたちは魔族の集団に襲われている最中であった。
「総員!気を引き締めろ!聖女様を必ずお守りするのだ!」
指揮官らしき人物が戦いの最中、剣をふりかざし、大声をあげる。それに他の兵士も便乗し辺りにその怒号が響き渡る。
相手はゴブリン、オーガ、ナーガ、オークといった魔族の中でも代表的な者たち。兵士達の剣や鎧といった武器に比べ、彼らは石槍、欠けた剣、獣の皮一枚といったみずぼらしいという言葉しか出てこない装備だが、数の差が5倍以上あるため馬鹿にはできない。
戦局的には何とか持ち堪えてはいるが、やはり数の差というものには勝てず、確実にこちらが各個撃破されていき、聖女様がおられる馬車にまで迫っていた。
「ゲヘヘ。ソノ白イ馬車ニハ聖女トカイウヤツガノッテイルンダロ?オトナシク渡セ。ソウスレバ命ダケハタスケテヤルゾ?」
ドクロの腰巻、熊のような生物の皮を着た顔に模様が描かれているオーガが不気味な笑みを浮かべながら兵士達に提案する。他のを見る辺りこいつがこの集団のボスだろう。
「そんなことできるわけがないだろう!!くそっ。聖女様!お逃げを!ここは我らが時間を稼ぎます!おい、だせ!」
「ロッシュ!ダメですそんなことをしては。」
馬車から1人の女性が飛び出す。絹糸のように白く滑らかな髪。青い瞳はサファイアを連想させるかのように輝き、白色のドレスと相まって美人画から抜け出したかのようにおしとやかで美しい女性だ。
それと同時にオーガの群れからは雑音とも取れる歓声が上がっている。おそらく標的を見つけたという喜びだろう。
「聖女様。どうかお逃げなさってください。貴方様は私たちの希望なのです。私たちがここで死んだとしても貴方様さえ生きていてくだされば」
「ダメです!犠牲になっていい命など一つもありません!だから....」
「感動的ダナ。ダガ、オマエハニガサナイシ、残ッタヤツモ全員殺ス。コレハ我ガ『救世主様』ノオ考エナノダ。」
「『救世主様』だと?」
「『
どこからか男の声が聞こえ、ロッシュの右手から突如蛇が飛び出してきた。先程のオーガの首元に噛みつきオーガが悲鳴を上げた。そして途端にオーガが泡を吹きながら痙攣し始めた。
「なにをしている。おまえら。」
その声のする方を見ると目まで届いている紫色の髪。ボロボロの黒いマントの下には赤と黒色の禍々しい鎧。ヒョロヒョロと痩せた男。その男の右手が蛇のように変化し、オーガに噛み付いていた。
オーガの手下達は一体なにが起こっているのか理解ができていなかった。だが、
「そこの魔族共。今すぐに撤退しろ。でなくばこいつに入れてやった毒よりも強力なものを流し込むぞ。」
その一言に我に帰り、各々の武器を捨て、逃げていった。眼前の敵も去り、安全になったはずなのだがロッシュは剣を鞘には入れず、男に向けていた。
「そこの者。助太刀感謝する。だが、その魔法は一体?私はそこまで魔法に精通しているわけではないが体が蛇になる魔法など聞いたことがない。答えよ!お前は何者か!」
「はぁ、何でいつもこうなる」と紫髪の男がぶつくさと言いながら指揮官へと向き直る。睨み合う両者。今にも一悶着起きそうな雰囲気の中に
「ロッシュ団長補佐!恩人に対してなぜ剣を向けているのですか?」
ロッシュという目の前の男に物申したのは白髪の少女だった。青い瞳に絹のような白い肌。白いドレスを見に纏う姿は眩しく思える。
「聖女様!馬車へお戻りを。この男、素性がわかりません!」
「だとしてもです!そこの方がどなたかわからなくとも私たちを助けてくれたのには変わりません!それともロッシュ団長補佐。貴方は助けてくれた方にそうやって毎回剣を向けるのですか?」
「...申し訳ない。旅のものよ。おそらく偶然ここに通りかかり、私たちを助けてくれたのに対し、先ほどの無礼、許してくれないか。」
ロッシュは少し考えたのちに、剣をしまい、紫髪の男に頭を下げ、謝罪した。そしてそれに続くかのように女性も頭を下げた。
「私の方からも心からの謝罪を。私の名前は『マリア・レジナ』と申します。よろしければお名前をお伺いしても?」
「マリア....?」
マリアがにっこりと男に微笑みかける。その笑みはどこか優しげで、暖かく、とても若い見た目をしているのに何故か『母』のように感じてしまうほどの優しい笑み。
しかし、どこかで聞いたことのあるような名だが...
「あのぅ...お名前...」
「あっ...ヒュ....レルネー...」
「レルネー様ですね?良いお名前!もしよろしければ私たちとご同行しません?」
「いやっ...遠慮しておこう。」
「そうですか?それは残念です....でもここで出会えたのは神のお導きがあってこそのものです。また会えることをお祈りしております。」
すこししょんぼりとしたがすぐに立ち直ったようで馬車へと戻っていった。そして去っていくのを見届けた後、ふと思った。
(なんで俺はあの時偽りの名前を言ったのだろうか。今まで一度もそんなことしたことがなかったのに何故....もしや、俺は彼女のことを...いや、まさかな。)
ありえないとタカをくくりその場を後にした。
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