毒竜は聖女に恋想ふ

黄田毅

第1章 毒竜と聖女

第0話 序章

かなりと昔の話になるが人と魔族が争っていた時代があった。きっかけは些細なものだ。互いに気に入らない。

 それだけで?と思うかもしれないが、知性ある生物にとっては十分なものらしい。

 血は新たな血を生み、死はさらなる死を呼び、恨みは次の恨みを招き、戦いはさらなる激化の一方となった。

 やがてその様子を見かねた『世界の神』は人と魔族の前に姿を現し、戦いを終わらせた。

 そして、『世界の神』は去る際に、戦いの再発を防ぐために『九竜』と呼ばれる『世界の監視者』をおいた。

 九竜は圧倒的な戦闘力を持ち、世界各地へと飛び、自分の居城を作った。そして、また、人と魔族の無益な争いが発生すればそれを抑制するという役割を神から命じられた。

 竜達は各々の使命を果たすべく各地へと飛んだ。

 


 ある竜は炎が絶えず吹き続ける山がある土地へ

 ある竜は止むことのない吹雪が荒れる土地へ

 ある竜は天候が急激に変わる土地へ

 ある竜は神々に最も近き土地へ

 ある竜は鉄を打つ音が響く土地へ

 ある竜は豊穣されし森林深き土地へ

 ある竜は陽の光さえ入らない深き海の中へ

 ある竜は全てを見下ろす天上の世界へ

 ...そしてある竜は命の息吹なき死の土地へ


 その地にて己が居城を作り、世界を見据える。また、醜き争いが起きないか。

 彼らは世界の安定を守る。ただそれだけの存在のはずだった。

 ある竜があろうことが人に恋をした。ただの変哲もないただの人間に。

 それがこの世界の歯車を狂わせてしまったとは知らずに....

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る