2:サキュバスと学校


 登校し、教室の扉を開けた瞬間に一斉に集まる視線。

 説明するのも面倒だから、このまま押し通せないかと席に就く。

 駄目だった。窓際の席だから、クラスメイトに囲まれて出られなくなった。






「……マジで由良?嘘でしょ!??」

「オレも嘘だと思いたいって」


「Sランクって、規格外のハズレって事かよ!」

「うるさい。ステータスは高いし」


「もっと微妙にならいいのに、なんで可愛いんだよ……」

「そこは正直嬉しい」


「ぶっちゃけ行ける。元から女みたいな顔だったし」

「オレは無理だから」


「揉ませて下さい」

「死ね」



 からかわれるなんてわかってたけど、いざ本当にそうなると結構しんどい。

 多分、自分だって他の誰かが女の子になったらからかっただろうけど。



「そう言えば、あいつ・・・は?」

「遅刻だろ。最近夜更けまでずっと探索してるっぽいし。」



 隣の席のあいつが居ないのは救いかも。

 あいつは特に女好きだから、酷いからかわれ方をされるだろうし。 

 ……それにしても。



(胸が……きつい。)



 学ランに無理やり押し込めた胸は、飛び出してしまいそうなほどで息苦しい。

 漫画だったらボタンを飛ばしたりするんだろうけど、本当はただただ苦しい。

 ボタンを二つ外すと乳房が弾んで飛び出した。そこに一斉に視線が集まって。

 ……男だからか、視線がいやらしいのが凄くわかる。



(友達だと思ってたやつにこんな目で見られるの、思ったよりやだな……)



 先生がやってきて視線は離れたと思ったのに、授業中もずっとちらちら。

 四限の授業の間それを絶えて、昼休みになったら逃げる様に教室を出た。


 教室から運動場を挟んだ旧校舎、その中庭。

 忘れ去られて人の居ないそこで、購買で買った菓子パンをかじる。

 せめて学校に居る時だけでも元の姿になれないだろうか。

 昨日の事を思い出すと、その可能性はほとんどないんだけど。


 そんな考え事をして居たら、後者の陰から足音がした。振り返ると──



「──参った。噂の何倍もかわいいじゃん?」



 制服を着崩した金髪の男子が、へらへら笑って近づいてくる。



「男だらけのクラスで怖かったかい?でもこんな所に居なくても大丈夫。

 この俺、三部猛みのべたけるが君の騎士ナイトとして、いつでも傍で守ってあげよう」



 目の前で跪いて手を取る男子。その唇が手の甲に口付けを迫るが、そうなる前に。



「成程ね。こんなへったくそなナンパじゃフラれる訳だ」


「…………は?」



 名前も、先週もナンパに失敗してふてくされていた事も知ってる。

 だってこいつが入学式からずっと隣の席のあいつ・・・、今では一番絡む同級生なんだし。

 一方猛は言われた事の意味が解らないのか、ポカンと口を開けたまま。



「クラスの奴からは転校生って聞いたんだ。残念だけどオレは」

「分かった!!!夏希の妹だろ!!!!」



 思いっきりこちらの声を遮って話し出す猛。

 今度はこちらがぽかんとして、呆れた目で見つめるけど。

 向こうはそれに気づいていない。



「ちょっと面影あるし、マジ完璧に分かったわ。

 しっかし妹ちゃんよ、クラス丸ごと巻き込んで悪戯とか趣味悪くなーい?」

「……違う。その夏希本人だって。」



 勝手に納得してようやく落ち着いたので、端末でステータスを見せつける。

 あんぐり口を開けて黙ってくれている間に、更にスキルも見せて状況を説明する。口は開いたままで聞いてるのかわからないけど、きっと目の前の女子が由良夏希だと理解してくれた筈。

 





「俺の隣の由良クンが?Sランクスキル持ちで?しかも女の子になりました?

 や、いやややや、意味わかんね。」

「オレも意味わかんないしおんなじ事言ったよ」


「探索者登録してくるとは言ってたけどこんなん予想できるかよぉ……

 あいつら全部知ってて騙しやがったんだな……」

「まあ、そこはこんな時間まで遅刻してくる猛が悪いって」


「いやでもマジであり得んし……しかも、うわー……なんで、お前、マジ……

 オレ夏希をナンパした訳?キツイわ……」

「キツいのはこっちだって。あんなキメ顔でクサい台詞言われたんだし。」

「ナシ!!!さっきのナシだから!!!!」



 あの台詞を言ったときの、自分に酔いきったへたくそなウィンク。

 今ちょっと思い出すだけでも笑いがこみあげてくる。

 事情を知らなかったのだから、初対面の女子だと思うのは仕方ないけど。



「……ぷふっ」

「こらえてくれんのはありがてぇけど、よけい惨めになるわ」



 ……初対面の女子に言う台詞にしては恥ずかしすぎる、駄目だ。

 抑え切れずに笑ってしまった



「じゃーお前、日曜日の約束どうするよ。」

「登録したら一緒に異界潜ろうって言ってた、けど。

 ……こんなスキルじゃ、行ってもなぁ。」



 スキルがわかる前は楽しみにしてたけど、そんな気持ちは正直残ってない。

 まさかこんなことになるとは夢にも思ってなかった。


 

「わかんねぇ事もあるんならそれこそ色々トライっしょ。

 しかもお前のスキルはSランク、このまま何もしねぇのはマジないって!」


 

 確かにもしかしたら超強いチートスキルかもとは思った。

 だとしても、強くなるたびに心の傷を負う事になるかもしれない。

 もう探索の楽しみ何て──



「そこは俺に任せちゃえって。

 まず夏希のレベル上げ、一個思いついたんだわ。」



 そんな考えが漏れていたのか、猛が言って。



「だから日曜、飯食ったら異界前集合な!!!

 方法が知りたきゃちゃんと来いよ!!」


 普段からアホっぽい猛の考えに、あんまり期待はできないんだけど。

 なのに探索への期待と、Sランクスキルならもしや……その考えが捨てきれずに。



「わかった、けど何時かぐらいは決めよ?」

「んじゃ一時だ。来いよ、マジで!!」



 日曜日、初めての探索へ。その約束を交わしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強のSランクスキルでダンジョンも楽々攻略する筈でした~サキュバスになったオレはヤられないとレベルが上がりません~ @akirakawakami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ