雲の虚/Cloud emptiness

※読み方は雲のうろ です



たったひとつの夜が星を飾っている

そして僕をゆっくり呑み込んでいく

昇降口の蛍光灯さえも 心中には届きやしないから

廊下の電気は要らない 目も耳も鼻も口もなにもかもがブラックホール

包み込んでって 隠し込んでって 塞ぎ込んでって 

「がんばって」も「はやくいって」も聞けやしない 聞きたくないから


深く 深く 海へ潜ってって

耳骨に響く批判は皮肉と見なすか

乱反射する白肌も 渇いた口内も

記録メモリに残すのは勿体無いんだから 嫌 嫌 いや


檻に執着していた

鍵穴を首から下げていた

想いは封じて 羊皮紙にあらわさないで

掻い潜ったカーテンの表には埃が

棄てて終ったことや 抗った傷跡は

何度も塗りかさねている


思い出させないで





根こそぎすりつぶしてく

自分を睨み返す

気味が悪かっただけなのに 嗚呼…


難渋に汝がすみで拾った

爪の欠片はとうの昔に居なくなっていた

スケッチブックは満足しなくて

爪楊枝で刺すのも怖くて

総てイコール化は不能


深く 深く 海へ潜ってって

耳骨に響く批判は皮肉と見なすか

薄暗い瞳も 液状の分泌物も

泥臭い葛藤を積みかさねるのは いな 否 異な


脚は動かなかった

今朝もまた否んだ

感じ悪い鬱憤は二度と燃やせないんだ

冷たいドアノブには鍵が差して–––

鬱屈なんて 鬱鬱なんて

幾度も見失った







死生を彷徨っていた

辞世は言えないままだ

感情は噛み殺したのち

自分も解らなくなった

耐えきれなくなったなら–––あ

早世も 叢生そうせい


いや

異なだ

いや


いなむ僕が苦しがっていたんだ

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うさぎ小屋 朝陽うさぎ @NAKAHARATYUYA

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