第5話 俺様《世界一の幸せもの》


 三人で写真撮りたいって百合が言ったから、ゲームセンターにやって参りました。


 二つの花に余計な雄まで混ぜる必要は無いとは言ったが、三人がいいって妹が駄々をこねたから半端なく可愛かった。建物に入るなり百合が真っ先に向かったのは音楽ゲームだったから、マイペースな妹が半端なく可愛いくて仕方ない。


 折角だから協力プレイと言われてしまったから、喜んで参戦。百合の色がオレンジ色だったが、ところどころマーブル模様になっているのに気が付いた。


 クルマユリの花言葉は、多才な人だ。今の妹なら行ける、と思って上級モードを選択した。余裕で突破したもんだから、二人で手を合わせて喜んだ。


「す、すごいですね」


 そういえば、彼女に協力プレイを見せるのは初めてだっけか。かおりちゃんが澄んだ声で関心の言葉を述べてくれたから、こっちも半端なく気分が良くなった。


「良かったら、カオリーヌも一緒にやってみんか?」


「いえいえ、無理です。私、どんくさいし!」


 カオリーヌっていう呼称も気にならないくらいなのか、かおりちゃんが必死に首を左右に振った。


「大丈夫、俺様が教えてやっから」


 それから、かおりちゃんへのゲーム講座の時間となった。手取り足取り教えてあげた結果、何とか初心者モードくらいは一人で突破出来るようになった。


 三人で手を合わせて、それから記念にプリントシールを撮った。すると百合の花が何やら見た事ないような形になっていた。赤に近いオレンジだし、スカシユリに似ているけど、花びらが細くて長い形だった。


 遊び疲れてしまったのか、帰りの電車で寝てしまったのは意外にもカオリーヌの方だった。普段からしっかりしていて、遊ぶときも気を張っているのかもしれない。


 起こすのも可哀想だったから、そっと背負って駅構内に出る。妹と同じくらい細くて軽かったが、背中に当たる半端ない柔らかさだけは気にしないことにした。


 改札を出ると、街は朱色に染まっていた。妹の花も先ほどからずっと変わらなくって、どこか夕陽に似ている色だと思った。


「ねえ、おにいちゃん」


 一歩前を歩く百合が、丸い声と共に夕焼けに染まった笑顔をこっちへ向けた。

 

「お兄ちゃんがお兄ちゃんで、本当に良かった!」


 夕陽より眩しいって、その言葉を耳にして思った。俺様の心にも百合が咲いていたら、きっと妹と同じ色をしていたのかもしれない。


 そうか、思い出した。


 この花、以前にも咲いていたことがあった。


 情けない事に完全に忘れていたが、これは初めて妹が百合を咲かせた時の品種だ。


 あれは小学校のときだっけか、かおりちゃんが溺れてしまった事件があった。


 三人で川で遊んでいた時、足を滑らせた彼女は深い所へと転げ落ちてしまった。妹の悲鳴を耳にした瞬間、かおりちゃんを助けに俺様は飛び込んだ。


 幸い命は助かったし、怪我も擦り傷程度で済んだものの。親には滅茶苦茶怒られたんだっけな。


 その後、かおりちゃんと一緒に、ありがとうって言ってくれた時だ。百合の心にオレンジ色の花が咲いていたのが分かったんだ。


 のちに図書館で調べた結果、それがヒメユリだっていうのも分かって。それから妹の心には、何度も様々な百合が咲くようになったんだ。


 つまり今の百合が、あの時と同じ感情を持ってくれているっていうのであれば。


 こんなに嬉しいことは無いぞ。


「百合」


 振り向いた妹が笑顔だったから、こっちも満面の笑みで気持ちに応える。


「俺様も百合が妹で、世界一幸せだ!」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

百合の花咲く我が妹で。 直行 @NF41B

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ