歳月不待人〜魔道祖師中国版最終回に寄せて

 2021年10月16日、動画『魔道祖師完結篇』最終話が配信された。


 後発の『天官賜福』と比べると、アニメらしくない」作品であった。『天官賜福』が、良くも悪くも日本のアニメに寄せたセオリーで作られているとすれば、こちらの見せ方は実写ドラマや映画寄りに感じる。


 原作がBLということと、中国製だったことで、かなりバイアスがかかる上に、着地点が過去の負の遺産を片付けての隠棲なので、日本アニメの嗜好とは反りが合わないかも知れない。でも私は好きだった。

 この美しい動画に出会えたこと、見届けることができたことは非常に幸運だった。制作に関わった全ての方々に感謝したい。


 結末はハッピーエンドではあるが、よくよく考えると、魏無羨と藍忘機を含めた同世代ほぼ全員が、あの社会で幸福を得られず実質的にリタイアしてしまったとも取れる。世間の姿勢が一貫して「心置きなく叩ける敵は必要だけれど、自身を裁く正義は要らない」で、結局大勢は何も変わらないところが、リアルと言うか大人向きと言うか。


 雲深不知処の座学から現在に至るまでの二十年という時間が何と多くのものを変えてしまったことか。


 転生によって人生をやり直すことができたのは、主人公魏無羨ウェイ・ウーシェンではなく、藍忘機ラン・ワンジーであったように思う。十三年前、若く世情に疎かった藍忘機は、自分が何をしたかったのか、どうすべきだったのかもわからず、魏無羨を死なせてしまった。魏無羨と再会した時、彼は自分が何を望み、何を為すべきか迷わなかった。歳月は彼を打ちのめしもしたけれど成熟もさせたのだ。


 果たして、藍忘機は、愛のために全てを投げ出す一途な男、はたまた情に目がくらんで、社会的地位や名誉も投げ捨ててしまった愚か者だろうか。そんなもののために、自分の一番大切なものを失うとしたら、その方が余程愚かだ。


 晩秋の夕暮の中、魏無羨は驢馬に乗り藍忘機は手綱を取り、共に歩んでいく。そこはかとなく寂しさを感じると同時に、どこか暖かい幸福に満ちている。ふと自分の黄泉路はこのようであって欲しい、と思った。我ながら、おかしな感想だ。


 彼らの人生の春と夏は、とうの昔に過ぎ、秋も終わろうとしている。しかし、残された冬は静かで美しい。



追記:2022年11月よりwowowにて、完結編字幕版放送開始。吹替版は2023年1月より放送開始決定。

2022年11月17日、誤字訂正。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

中国アニメはつまらない?魔道祖師・考 たおり @taolizi9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ