腐女子な妹の妄想?

かさかささん

腐女子な妹の妄想?

「ん……お兄ちゃん」


 午後十時。


 兄と並んでリビングのソファでTVを眺めていた妹が声を漏らす。


「どうした……って、寝言か」


 同じくソファに座っていた兄が返事をしたが、夕食後に血糖値が高まり眠気が訪れていた妹は瞳を閉じてスヤスヤと眠っていた。


 兄は静かにTVを消して、そっと妹に毛布をかけてやる。


「んん……ケンちゃん」


 妹の寝言から、兄の他に幼馴染のケンの名前。


 兄と同級生のケン。二つ年下の妹も含め、小さい頃から良く三人で遊んでいる幼馴染。高校生になった今でも、ケンは毎日のように家に遊びに来る程の仲だ。


「三人で遊んでる夢でも見てるのか?」


 可愛い妹の寝顔に、思わず笑みが零れる兄。きっと楽しい夢を見ているのだろう、妹もニコニコと笑いながら、また寝言を漏らす。


「あはは、ケンちゃん。またおにいちゃんにギューッってしてる」


「ケンはふざけてプロレス技とかするからな」


 兄と比べて体格のガッチリした筋肉質のケン。兄に対してからかって絞め技をしてくるのは日常茶飯事だった。


「あっ、そんな強引に……そっ、そんな無理やり」


「……ん?」


 妹の口からよだれが垂れ出した。どんな夢を見ているのだろうか、気になった兄は妹の寝言に聞き耳を立てる。


「あっ、お兄ちゃんとケンちゃんが……えへへ」


「……妹?」


「ああっ、そんな強引に唇をっ!」


「妹さん、おーい妹」


「ケンちゃん。ケンちゃんのそんな大きいの……お兄ちゃんには入らないよぉおおおお!」


「妹ぉおおおおおおお!」


 ――バシィイイイッ!


 寝ている妹の頭に容赦ないツッコミ。その衝撃で妹は飛び起きた。


「はへ、お兄ちゃん……ふぁあーあ、お尻大丈夫?」


「お前は頭が大丈夫か?」


 妄想癖。


 兄としては困った事に、妹は男性同士の絡みが好み。いわゆる腐女子という奴だった。一体兄と幼馴染の男とのどんな夢を見ていたのか、想像もしたくない。


「男同士の……そういう趣味の人も居るのはわかるから別に否定はしないけど、俺とケンで妄想するのだけは金輪際止めろよな」


「いやいや、ケン×兄はとうとい」


 兄の言葉を右から左に聞き流し、反省の色が無色の妹。


「それと、俺の部屋にソレ系の本を置いていくのも止めろ」


「ケンちゃんが遊びに来た時に、良い雰囲気になると思って」


「なるかぁあああああああああ!」


 バシィッ!


 あたかも良かれと思ってやりました感を出している妹の顔に、ソレ系の本を投げつける。


「全く、こんな本を部屋に置いとくなんて……ケンが来る前で良かったぜ」


「えっ、これからケンちゃん来るの?」


 午後十時。日中の時間に遊びに来るならともかく、夜も更けたこんな時間にやって来るのは珍しい。


「ああ、確か忘れ物したって言ってたな。お前はその本持って、ちゃんと自分の部屋で寝ろよな」


 バタン。


 半裸の男性達が肉体を主張しているソッチ系の本を持たされ、グイグイと強引に部屋へと押し込まれた妹。


「…………」


 部屋の中。妹は兄から顔面に叩きつけられたソレな本を眺めながら首を傾げた。


「……この本、私のじゃないんだけど?」

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