グリムリーパーと約束【EDF5】
任務中に合流した際、一言二言何か言ってくる程度で待機中に呼ばれることなどそれこそ初めてだ。
フェンサーたちの待機所を経由して、GRたちがいつもいる場所にお邪魔する。
パワードスケルトンやアーマー、スピアを手入れする隊員、筋トレしている隊員など様々だ。
こちらに気づいた隊員が、副隊長のいるらしい方向に声をかければさほど時間がかからず目的の人物が現れる。
隊長が見当たらないことを何気なく口にすれば、副隊長である彼の眉が寄った。
その事で呼んだのだ、と。
「一つ、借りを返させてやる。……毎年、この時期になると隊長は行くところがある。様子を見てこい。俺のことは言うんじゃないぞ」
事あるごとに貸し借り勘定をする副隊長だが、どうやら返済させてもらえるようだ。といっても、今現在どれだけ借りているのかも不明。
多分副隊長である彼の常套句なので本人もきちんと数えてないのかもしれない。
要は頼み事という訳だ。とくに断る理由もないので、二つ返事で了承して教えてもらった場所に向かった。
うっすらと雲のかかる青空。朽ち果てた建物、コンクリートの残骸が広がる場所。
それは侵略者、プライマーとの戦禍の爪痕。既に人が住めるような状態ではなく、人の気配もない。
そんな元市街だったようなところの一角で、
彼の足元にはもう一つ、中身の入ったグラスが置かれている。だがその近くには人影はない。
手持ちのグラスが空になったころ、近づいてそっと置かれていた酒瓶を手に注いでみた。
隊長は咎めることも驚くこともなく、足元に置かれたグラスを顎で指す。
「暇なら付き合え」
明らかに自分のために用意されたグラスではないそれを取るかは少し迷った。
結局はそれを手に地面へと座って無表情の彼を見上げる。
前に行った平原でプライマーを迎え撃つ作戦の時、誰かがGRについて言っていた。
以前の紛争でコンバットフレームを3機も倒したのが彼なのだと。
英雄の如く祭り上げられるその話は、功績だけが独り歩きしてしまう。よく聞けば、続きがある事を知った。
その作戦の時、GR隊やほかの隊員たちも多く犠牲となってしまったのだと。
予測にしか過ぎないが、恐らくこの場所はその作戦の場所で、この行為はいわゆる失われた戦友たちの追悼なのではないか。
「おめおめと生き残り、未だ俺は地獄に行けずにいる。笑えるな。」
自分に言ったのか、かつての仲間にかけたのか。独り言のように呟かれたその言葉をただ手元のウイスキーを減らしながら目を伏せる。
出撃要請がある度に、まるで死にに行くような勢いをつけて突貫。戦場で期待も強敵も何もかもを背負い、すべての兵士の盾となる。
そんな身をすり減らすような痛々しい姿は、あまり見たいものではなかった。
死に場所を求めるような発言もよく聞く。その比類なき堅い覚悟が、彼を強くしているような気もした。
琥珀色の液体を注ぎ、注がれ、ゆっくりと時間が流れる。
プライマーに侵略を受けている最中とは思えないほど柔らかな風が頬を撫でた。
思えば、こうして隊長とゆっくり酒を酌み交わせる機会は今までなかった。お互い口数は多くない。だからこそしっとりと静かな時間を共有しているのは気持ちがよかった。
「また酒に付き合え。お前と飲むのは悪くない」
「それ、約束してほしい」
主張をあまりしない男が、約束という珍しい言葉を使ったことにGR隊長が今日初めて彼の顔を見る。
また酒を酌み交わすことを、約束する。
それは生き残るということだ。互いが、互いの存続を縛る契り。
この男は今、己の存在を賭けてグラスをこちらに突き出していた。
自分は作戦中、地上で一人だ。
だけど無線の向こうにはいつでも仲間がいる。みんなが居る限り、絶対に負けない。
彼はこんなことを言う男だったか。
立ち上がってこちらを見下ろす光を湛えた眼は、こんな荒廃した世界の中でも曇りない。
戦場でこう何度も会う奴も居ない。普通はすぐ死ぬ。
戦場で彼を見つける度に、まだ生き残っているのかと安堵するような不思議な気持ちにさせられる。
おかしなやつだ。だが、同じく立ち上がりグラスを持つ俺もおかしいと言える。
「ふっ。……いいだろう。俺がお前の盾だ」
グラスを合わせ、二人は中身を飲み干した。喉を通り、胸を熱くし、ウイスキーが腹に落ちる。
琥珀色の液体は身体を巡り、揺るぎない約束へと昇華する。
いつもなら馬鹿馬鹿しいと一蹴しただろう。だがこの男は、他とは違う。そんな気がした。
でなければこんな気持ちは抱かないだろう。
悪くない、と。
それから任務ではGR隊は一層団結し、生存率と討伐数が高くなる。
隊長の変化を感じた隊員たちは首をひねり、副隊長はエアレイダーを見て複雑な顔をするようになった。
時折、GR隊長とエアレイダーが静かに酒を酌み交わす姿が目撃されるようになるのはもう少し後のお話。
えとせとら(小話) @_SMOG
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