昔話——かつての世界、七つの種族——

「えー……皆様、先日の祝勝会はお楽しみいただけたでしょうか? 本日もまた同じようにお集まりいただけたようで、誠に感謝しております」

「いきなり何の真似じゃ。気色悪い」


 容赦ないな!

 変に芝居がかった挨拶から始まったイザベラさんを、無情に切り捨てるフィルミナ。



「ちょっとはノッてや! フィルミナ姐さん!」

「いいから早く本題を始めるがよい」

 フィルミナが再び切り捨てる。




 大森林にある、イザベラさんの隠れ家……今はその一室に全員が集まっている。

 さっきからコントのようなやり取りをしているイザベラさんとフィルミナ、壁にもたれかかったアランさん、ベッドで療養中のレベッカ、それに付き添うジャンナ、そして自分。

 合計六人である。


 言うまでもないが、狭い。

 そもそもが一人暮らしには広いくらいの家。その一室に六人も集まれば、手狭にもなるだろう。




「……しゃーないわ。ほな、始めるとしよか。フィルミナ姐さんと伊達男くんは、昔に何があったかを聞きたいんやろ?」

「うむ。2000年前に儂に何があったのか……そもそも何故、封じられて眠っておったのか……」


「ちょっ! ちょっと待つっす! フィーちゃん!」

 待ったをかけたのはジャンナ、そばにいるレベッカも呆気にとられて口を挟めなかっただけで、同じ意見だろう。



「何じゃ?」

「『何じゃ?』じゃなくて! 2000年前ってその、本当だったんすか? てか、封じられていたってなんすか! あたしら置いてきぼりっすよ!」

 ジャンナが結構なリアクションで捲し立ててくるが、それも当然だろう。

 イザベラさんと会った時に聞いた2000年という月日……それだけで、思考をショートさせるには十分だ。



「うーん……せやな、順を追って話していくとしよか」

「いやいや! そうじゃなくて……!」


「ジャンナ、とりあえず落ち着きましょう」


 尚も混乱のままに振る舞おうとしたジャンナを止めたのはレベッカだった。以外、ではないのかもしれない。

 前衛である以上、後衛のジャンナよりも一瞬一瞬の判断力が求められるため、こうした混乱から立ち直るのも早いのかもしれない。



「……まず、私達のこれまでの常識では測れない話が始まる、のだと思います」

「せやな。数回は頭をぶっ飛ばす内容やで」

 さらっとすごいことを言いますね、イザベラさん。


「ではそれを飲み込んだとして、その……フィルミナとセス様のお話は、私たちが聞いていても良いものですか?」

「……あ」

 レベッカの問いに、今度はジャンナが止まる。



「誰だって聞かれたくないことや、秘密にしておきたいことがあります。ここまでで……フィルミナの、そういう部分に触れる話ではないのですか?」


「私はフィルミナの、セス様の仲間です。だからこそ、それを理由に土足で踏み入るような真似はしたくありません」


「……そのお話は、私やジャンナが聞いていてもいいものなのですか?」



 最もだ。

 2000年も封印された理由、解かれた後でも恐ろしい副作用を残している恐ろしい物。如何にして、何故そんなものをフィルミナに降りかかったのか。


 冷静に考えると、その人の触れてほしくない部分に触れてしまうかもしれない。

 レベッカはそれを危惧している。



「それは問題あらへん。てか逆やな」

「逆、ですか?」




「せや。直接、ではないけどな……あんたらの生まれにも繋がる話なんや。聞いておかなあかん」




 自分は全く口を挟んでいないのに、早くも頭がショートしそうだ。

 思い返してみると……大森林で二人が迷わなかったこと、あれにも関係して……いや、そもそも大森林とイザベラさんの関係?

 そういえば、ドリュアデスがレベッカに『近しい力を感じる』とも言っていたはずだがそれは?



 そして……


 ちらっと視線だけで壁に寄り掛かる巨漢——アランさんを見る。

 レベッカとジャンナを育て、ゴーレムになったアランさんはどういう——?



「さて、まずは——伊達男くん!」

「! は、はい!」

「今のこの世界の、代表的な種を挙げて欲しいんやけど構わへんか?」

 急な指名に驚きつつも、質問の答えを頭に浮かべていく。

 哺乳類、植物、魚類、両生類に爬虫類に……


「あ、そこまで細かくなくてええで。せやなぁ……高度な思考能力や感情、それらを持つ種族だけで頼むわ」


「……人、龍、そして魔物です」

 神殿での知識と経験が活きた。

 人……は分かりやすいだろう。他の二種である龍と魔物……これは差が大きく、動物的な生態のものも多い。だが一部は人と同等の知性を持つ者がいる。

 いや、場合によっては人を超える知性を持つ者もいるとされる。龍だと龍帝こと、しろがね様なんかがそうだろう。



「せやな、今の世の中ではその通りや」

「……『昔』はそうじゃなかったんですね」

 思ったままのことを返す。

 考えるまでもない。すでに自分が成った、明らかな知性を持つ『鬼』という種族がいたことを知ったのだ。



「せやで。昔はな、七つの種族に分けられとったんや」

「な、七つ……2000年前は、ですか?」

「もっと前の話や。正確には『2000年前までは』って言った方がええか」

 イザベラさんがレベッカからの問いに答え、


「じゃあ人、龍、魔物は残って……他の四つの種族は滅んでしまった、ということですか?」

 次の自分の問いには首を横に振って見せる。




「かつては……人、魔獣、龍、不死者、植物、水棲……そして鬼の7種族だったんや」




 ……確かに七つの種族だけど、おかしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る