彼女への追悼
時は少し遡り……
ずらりと立ち並ぶ『それ』。
規則正しく、その合間は石畳で整備されている。
そこにいる人は疎らで、多くはない。そして誰もが儚げで悲し気な、あるいは涙を流していた。
無数に立ち並ぶ『それ』、そしてその間を縫うように敷き詰められた石畳の道。
そこを、とある一団が歩いていた。
男女六名、背丈も年もバラバラだが……何をしに来たかは想像に難くない。
何故なら『それ』が立ち並ぶ、ここで彼らがすることと言えば多くはないからだ。
その一団が、一つの『それ』の前で止まる。
前に進み出てきたのは一人の少年。
男性にしては長めの白髪、瞳はルビーのような紅、優し気だがどこか愁然とした容貌……そして手には、白い花束を携えていた。
膝を折り、手にした花を『それ』——墓へと供えた。
「……お初にお目にかかります。セス・バールゼブルと申します」
静かに、風が吹いた。
少年の挨拶に後ろにいる五人は何も言わない。
「『ブレンダ・リトルトン』さん、出来るなら……直接あなたにご挨拶したかったです」
この墓に眠るのは一人の女性、冒険者ギルドで多くの冒険者を見送った人。
「自分達の登録、本当ならあなたにお願いしていたはずなんですよね?」
そして多くの人を、新たな冒険者として迎えた女性。
「……アランさんと、レベッカとジャンナとも仲が良かったと伺っています。デビーさんとは、姉妹のようだったとも」
少年の後ろに控える五人、そのうちの四人の名前。
「自分とフィルミナは……みんなと仲間に、良き友人になれました。きっと貴方とも、そうなれたと思います」
誰も、何も言わなかった。
それは無言の肯定だった。
「……会話すら出来なかったことを、残念に思います。ですがそんな自分でも、せめてあなたの安寧を願うことだけは出来ます」
膝を折ったまま、少年が祈る。
そうして祈りをささげた後、立ち上がった少年は一団へと戻っていく。
一際大柄な男が、少年の肩に優しく手を乗せた。
「……ありがとよ、セス」
優しい——鬼である——少年が目覚め、最初にするべきと望んだこと。
それは人知れず犠牲となっていた女性の弔いだった。
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