第二章

遥かな地より

 余が目覚めてから300年。今日それが起こった。

 真っ赤な、血を流したかのような夕焼け。余の心にすら不安の影を落とす不気味な黄昏だった。


 同じように見ていた同胞にも動揺が走ったが、それを収めるのは余の役目。


『同胞よ、案ずるな。余がついておる。この地の安寧は崩れぬ』


 その一声で、余の大切な同胞は平静を取り戻した。

 愛しさと同時、僅かな不満と不安も湧き上がる。



 この地に復活した後、50年は力を取り戻すことに使った。


 力を取り戻した後は当時の皇帝を下し、再び余が『皇帝』として君臨した。


 その後、250年間……安寧と平穏を同胞とこの地に与え続けた。



 だが、思う。

 あの黄昏は……何かの前兆であったのであろう。

 それは余と、その同胞達にも大きな何かが訪れるのではないだろうか?



 まさにそう考えた直後、余の心に波が届く。

 その小さくも確かなさざめきに答えるために、声を送る。



 ……遠すぎる。

 首を上げ、全身を起こし、大いなる空へと飛び立つ。


『同胞よ、しばしこの地を任せる。案ずるな、必ず戻ると約束しよう』

 己の声を届けるため、それが大きな何かに繋がると確信し、遥か彼方にある人の地へと飛ぶ。

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