44.厳しめモードで稼働中

 カクヨムコンに参加中だが、現在進行形で執筆中なので、筆が止まらないように此処にも宣言して自らを追い詰める作戦。現代ファンタジーは斯くも難き……と某RPGをしながら唇を噛み締める日々である。I pray for you 抱きしめるしか出来ない。


『群青区に神は滅びて』

https://kakuyomu.jp/works/1177354055003507189


 このエッセイをお読みの方の大半はエッセイのみを読みにいらしているので、こういうのが煩わしいと思われるかもしれない。しかし私はこういうのが煩わしくないので無問題である。大体そんなことを気にしているような人間だったら、こんなエッセイを書かない。綺麗なお花とか撮影してSNSにアップとかするし、自炊とかもする。掃除もするし、何なら髪とか梳かす。


 最近、家の環境を少し向上させようと思って加湿器を買った。生まれて初めて買った。濡らしたタオルを部屋に吊す生活をやめて、ちょっと進化した。今のところ特に効果の実感の程はないが、猫型の加湿器の頭頂部からミストが噴き上がっているのを見ると、良いことをしている気分になるので不思議である。何で猫型かと言うと、可愛かったからだ。どうせ側に置くなら、格好良いものか可愛いものにしたい。


 加湿器といえば、会社はビルの構造上の問題で非常に乾燥しやすい。加えてこのコロナ禍である。夏をすぎたあたりで一気に空気清浄加湿器が増えた。しかも全部喋るタイプである。朝起動すれば「おはようございます」と言い、水が減れば言葉で補充を促すタイプの機械だ。


 よく電化製品を使う人はわかるかと思うが、機械にも「個性」みたいなものがある。それは起動が遅かったり、いつも同じ箇所だけ不具合を起こしたり、反応が遅かったりすることを指す。会社にある空気清浄機も「個性」がバラバラで、人感センサーが鈍くて無口な個体や、水量センサが鈍くて慎ましやかな個体もいる。

 私が気に入っているのは、部屋の中央に構えている清浄機である。

 ある日のこと、出社してきた課長(四十代男性)が清浄機に近づいた時だった。軽やかな声が社内に響き渡った。


『空気が汚れています』


 何で? 課長が近づいたから?

 ウィンウィンと稼働する清浄機に聞いても答えは返ってこなかった。

 数時間後、課長は外回りに行くために準備を整えて席を立った。空気清浄機の側を通り過ぎて出入り口へ向かおうとした瞬間、再び華やかな声が響いた。


『空気が綺麗になりました』


 何で? 課長いなくなったから?

 一仕事終えてスリープ状態に入った清浄機は、やっぱり何も答えてくれなかった。


 別の日、部屋の湿度が異様に低く、朝から清浄機達は加湿モードをフル回転して忙しそうだった。数時間ごとに聞こえる、給水を促す声。近くの人が水を入れ替える仕組みで、大体は若手の作業となる。

 若手社員が呼びかけに応じて、給水タンクに水を汲んできた。家電に話しかけるタイプの子なので「はいはい、水ですよー」とか言いながらその清浄機に入れる。ピピッと電子音がして、続けて『ありがとう』と謝礼が聞こえた。


 それを聞いていたのが、普段会社にいない部長(四十代男性)だった。清浄機から流れた音声を聞いて、驚いた顔をした。


「何これ。喋るの?」

「喋りますよ。水入れるとお礼いいますし」

「じゃあ次やってみようっと」


 二時間後、再び給水を促す声がした。部長はいそいそと水をタンクに入れてくると、清浄機にセットした。

 清浄機は無言で動き始めた。


「お礼言われなかったですね」

「二度と入れてやらねぇ!」


 大人気なく声を出す部長。それをセンサーで察知したのか、清浄機が不意に声を出した。


『お疲れ様でした』


 そんな四十代男性に厳しめモードの清浄機が好きである。


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