第11話
レーダー上の赤い点が消える。任務終了の表示が出る。
『お疲れ様でした』
チーフが言う。
『お疲れ様でした』
『お疲れ様でした』
「お疲れ様でした」
わたしの声も、ちゃんと通信に乗った。
ログアウト。
ヘッドマウントディスプレイを外し、寝椅子から起き上がる。
少し目眩を覚えながらも、部屋を出る。ロッカーへ向かう。
荷物を取って、駐輪場へ行く。
門を潜って夜道へ走り出す。
ペダルを踏む。
坂道を上る。
吐き出した白い息が、頬を掠めて後ろへ流れていく。
「ママ」
坂を上りきったところで、ちせに呼ばれた。
「月、きれいだね」
目の前には、満月。
眩しいほどの。いつか見た、ちせは俯いていて見なかった、月。
「ほんとだ」
わたしは言った。
「ねえ、ママ」
「なあに?」
「お歌、うたって」
「うん」
わたしはうたう。ちせと、声を揃えて。
わたしたちはうたう。自転車に乗って、坂道を下りながら。
わたしたちを乗せた自転車は、アパートへ向かう。わたしたちの住む、決して広くはないけれど温かな家へ。
わたしたちは帰る。自分たちの家へ。
わたしは帰る。自分の家へ。ちせのいる、あの家へ。
そこだけが、この世で一つだけの、わたしの帰る場所。
〈了〉
2030年のスイートホーム 佐藤ムニエル @ts0821
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