第26話 ダンスレッスン

 昨日雅宣に渡したチケットのライブが徐々に迫り、ダンスレッスンにも熱が入り始める。

 私は、完璧とはまだ言えずとも、少なくともミスなくダンスを通すことができるようにはなって来た。及第点ってとこかな、たぶん。


 一通り踊り終えるとダンスの先生から休憩の指示が出たので、私はダンス後の温まった身体が覚めない程度に休憩を始めた。


「――いやぁ、気合入ってるねぇ理音ちゃん。最近はあんまり元気なかったのに……もしかして、『彼』と昨日何かあったのかい?」

「ふぇっ!」

「……うんうん、その反応……何があったのか、ちょっとお姉さんに話してみない?」

「ちょ、茜さんっ! 揶揄わないでくださいよっ!」


 休憩中の私に声をかけてきたのは、私のマネージャーである茜さん。

 彼女は私が雅宣のことを好きなことも知ってるし、偽恋人という関係になったことも知っている。というか、他のメンバーとか関係者の中の一部の人は知っている。もちろん、スキャンダルにならないよう、信用できる人だけだけど。


 そもそもトップアイドルが恋をするどころか偽恋人になるという行為自体どうなんだって気持ちはあるけれど、茜さん曰く、「それでより良いパフォーマンスができるならよし」だって。それでいいのかshining☆stars。


 まあでも、そのおかげで雅宣とアイドルとなった今でもなお一緒に居られるんだし、茜さんやその他いろんな人に感謝するべきなんだろうけど……如何せん、茜さんがことあるごとに弄ってくるんだよね。正直恥ずかしいから止めてもらいたいけど、迷惑をかけている身としては何も言えず……。


「別に、昨日やっとチケット渡せただけですよ」

「おおっ! よくやったじゃない理音ちゃん! ついに『彼』がライブに来るのね!」

「まあ、多分来ますねー……って、なんで茜さんが興奮してるんですか?」

「だって、あの理音ちゃんが好きになるような子でしょう? どんな子か、やっぱ気になるじゃない」

「……雅宣はあげませんからね」

「あははっ! 大丈夫よ。流石に大事なメンバーの原動力を奪うような真似はマネージャーとしてしないし、それ以前に、折角理音ちゃんが好きになった人を奪うつもりはもとよりないから、安心していいわよ」

「ぬぅぅ……」


 茜さんは、私にはない魅力をたくさん持っている。


 なんでマネージャーをやってるのかと思うほどの美貌の持ち主で、女優と言われてもほとんどの人が信じるんじゃないかな。

 大人らしい妖艶さや、私にはない、それはもうしっかりとした二つの重さが彼女の胸にはある。まさに「大人の魅力」を持った人物だ。


 それに、まだ生涯を遂げるにふさわしい人が見つかっていないという理由から、三十代前半の今でなお独身を維持している。

 加えて雅宣はカッコいいし優しいし……もし雅宣の好きな人のタイプが茜さんみたいの人だったらって考えると……正直、雅宣を取られてもおかしくないと思う。そしたら私、号泣するけど。なんならアイドル止めるくらい絶望するけど。


 そんなことを考えていると、周囲に私と同じように休憩していたshining☆starsの他メンバーが集まって来た。


「なになに~? 理音のカレピ来るの~?」

「え、ほんと? たっのしみ~!」

「やっと誘えたのね……」

「理音さん、良かったですね!」

「あ、あのー、まだ彼氏じゃないんだけど……」

「聞いた? だって!」

「「「「きゃーっ!!」」」」


 違う、ただの言い間違えだ。もちろんそういう願望がないわけじゃないけどさ……。

 やはりこういった恋愛沙汰を女子は好むんだろうか……まあ私も女子だけど。話のネタにされる側としては、微妙な気持ちだ。


「こらこらそこの女子達~、あんまり騒がない~。ここには信用できる人しかいないけど、どっか別の場所でぽろっと口滑らしたらスキャンダルだからね。気を付けなさいよ~」

「「「「はーい」」」」


 茜さんが、きゃいきゃいと騒いでいた女子を鎮まらせる。いや、この話題広げ始めたの貴方でしょうが。


 文句を言いたい気持ちになりながらも、本当にスキャンダルになったら笑えない。

 この前雅宣に頼まれて雅宣の友人と会ったけど……うん、今度からは控えよう。あの二人にだったらもし知られても隠しておいてくれそうだけど、何があるかわかんないしね。あの場でバレなかったのが奇跡って思ったほうがいいだろうな。


 本当なら雅宣とのデートも止めた方がいいのかもしれないけど……まあ、人口密度の低いところに行く分には、最大限のバレない努力をすれば大丈夫じゃないかな? そうじゃなきゃ泣く。


 ……というか、今はそんなことを考えている余裕なんて無いんだった。

 ライブ本番までに、自分のできる最大限を引き出して、最高のパフォーマンスをしなければ。

 それが、私のトップアイドル通しての矜持だから。


 私は深呼吸をして、再集合の声がかかるまでただひたすらに脳内で振りを再現するのだった。




☆あとがき

毎度のことながら更新遅くなって本っ当に申し訳ないです……。

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恋愛禁止のトップアイドルな幼馴染と、偽恋人になった件 香珠樹 @Kazuki453

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