第二章 アイドル編

第25話 チケット

※サブタイトル変更しました。


 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 突然のことだが、皆に聞いてほしいことがある。





 ――最近、雅宣が全然構ってくれないんだけどっ!


 撮影とかレッスンが終わって雅宣の家に戻った時、前なら「凄く疲れた……」とか言って玄関で倒れ込めば、手を貸してくれたりはしたのに……最近は特に何もしてくれない。ちなみに、この前のお姫様抱っこは特別だったってこと。


 それ以外にも、見送りの時に手を繋ぐことはもちろん、ちょっと体が触れることすら拒否されている気がする。距離だってちょっと取っちゃって……本当に、なんでだろう?


 私を避けるようになったのは……二人でデートした後くらいからだったっけ。

 次の日からは露骨に避けられていた気がする。


 私、なんかしちゃったかな……?

 しかもデートの日からってことは、デートした時あたりで何か不満なとこがあったんだろうし……流石に、私とのデートが本当に嫌だったって訳じゃないよね。嫌なら嫌って言える人だし。雅宣は。


 じゃあ、結局なんで私は避けられてるんだ?

 うーん……わかんない……。


 そんなことを考えながら、私は帰り道を歩く。……今日も、雅宣は構ってくれないのかな

 ぁ……?



 ……というか、それよりも――雅宣にアレ渡さなきゃ。



 折角覚悟を決めいたんだ。

 構ってくれないだとかそういうことは後にして、取り敢えず渡そう。覚悟が揺らいで、前みたいに途中で諦めないように。




 それからしばらく歩き、私は雅宣の家にたどり着いた。


「ただいまぁ~」

「……お帰り」


 雅宣が部屋から出てきて、一応は出迎えてくれる。

 けど……視線は私の方を向いてない。本当にどうして?


 でも、それを聞くのはまた後で。その話を始めたら言うタイミングを逃しかねないからね。


「……雅宣」

「っ! な、なんだ?」


 見るからに動揺する雅宣。ほらね? 避けられてる感じするでしょ。


「ちょっと雅宣に渡したいものがあって……」

「わ、渡したいもの?」

「うん……。はい、これ」


 そして私は、ポケットの中から二枚の紙を取り出した。


「これ……え、月末のシャスのライブのチケットじゃん! しかも……さ、最前列ぅっ!!」

「そ。ほんとはこういうコネとか使いたくないんだけど……これが雅宣にとっての初ライブになるでしょ? だったら、一番いいところで見せたくて。もう一枚は葉月ちゃんのね」


 そう。雅宣はまだ私のライブに来たことがない。多分、葉月ちゃんも。


 別に見せようと思えばいつでも見せられたんだけど……私の覚悟が足らなくて、ライブに招待したことはない。……だって.恥ずかしいじゃん。


 しかも、私のライブはかなりの高倍率。気の毒だけど、一回も当たったことがないはずだ。少なくとも、今まで一度も私のライブを見たという話を聞いていない。


 だけど、そろそろこうやって恥ずかしがるのもやめないと。そう思った。


 折角「偽恋人」という関係になってるんだ。

 偽とはいえ恋人。

 覚悟を決めて、雅宣に見せるにはいい機会だと思う。


 それに……ライブでの私のかっこ良かったり、可愛い姿を見せたら、私の魅力をたくさん知ってもらえるかな――なんてね。


「い、良いのか……?」

「うん……そろそろ雅宣にも見せた方がいいかなーって」

「そうか……ありがとな」

「ううん。私が恥ずかしがって雅宣に見せたくないなーってずっと思ってたせいで、雅宣にみせるの待たせちゃったから……ごめんね?」

「いや……こうして特等席で見れるだけでありがたいよ」


 そう言って、雅宣は――私の頭を撫でてきた。


「――っ!!」


 突然のことに驚いてしまい、私はビクッとしてしまう。


「あっ……ご、ごめん。嫌だったよな……」


 しかしその反応を雅宣は「嫌悪」と受け取ってしまったのか、慌てて私の頭から手を放す。……あそこあんな反応しなければ、雅宣のなでなでをもっと長い間享受できてたのかも……失敗したなぁ。


 そんなことを考えていたら、ボソッと欲望が漏れてしまう。



「……もっと撫でてくれたら、頑張れる気がする」


「――っっ!!」


 言った後で、後悔する。

 これじゃあ、私が雅宣のことを好きって言ってるのと同じようなものじゃん……いやまあ、間違ってはないんだけどさ、なんというか、恥ずかしいじゃん。


「……そ、それなら――」


 雅宣はそれに気付いたのか気付いてないのかわからないが、顔を赤らめながら頭の上に手を置いて、ゆっくりと、撫でてきた。



 あぁ……幸せ……。


 心地よさが全身を駆けまわり、一生このままで居たいという欲望が生まれる。


 ……なんかもう、全ての辛いことが消えてく気がするよぉ……。

 悩みも、不安も、何もかもが和らいでいく。


 本当に、今ならどんなことがあっても頑張れる気しかしない。



 その「なでなで」という行為は、リビングになかなか来ないことにしびれを切らした露子さんが私達のことを呼びに来るまで続けられたのであった。


 露子さんに見つかったことで顔を今まで見たことないくらい真っ赤にした雅宣は、可愛かったなぁ。




 ……あれ? 私ってなんで悩んでたんだっけ?

 雅宣のことで何かしらの悩みがあった気がするけど……まぁ、いっか。





 ☆あとがき

 第二章「アイドル編」、開幕です。

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