三人麻雀 2

 さて、どうしたものか……。

 俺の手牌は、丁度聴牌の状態。

 そこまではいい。そこまではいいんだが、俺の待ちの牌は振り聴してる牌なんだよな。

 つまり、自分で引かなくてはいけない。

 しかも、残りの牌の数は13。

 そして、当たり牌は一枚。

 望み薄も望み薄。

 もちろん、待ちを変えようと思ったりもした。

 けど、そんなことは諦めた。

 というか、残りの牌数的に、今回は流れる可能性なんかもある。

 もし、ここで流れるんだったら、聴牌しておかないと、終わる可能性もある。

 とりあえず、和了あがるとことは諦めた。

 でも、今のところ立直してる奴もいないから、もし流れたら親が流れてくれる可能性はある。

 もし、親が流れるんだとしたら、そこからが俺の勝負の始まりだ。

 と、そんなことを考えながら打ってると、俺の予想通り流局する。

 あとは、俺だけが聴牌してればいいんだが……。


「あー、聴牌してたんですね」


 聴牌してたのは、俺だけだった。

 これで、俺の点数は3000点となり、立直ができる点数となった。


「悪いな。まだ、勝ったと思うなよ」


 俺は吐き捨てるように、そう言う。

 もちろん、点差は縮まったが、まだまだだ。

 相手の点の合計が102000点。

 そして、それの3分の2だから、相手の点は68000点だ。

 相手との点差は65000点。

 これは、かなりきつい。

 正直に言えば、巻き返すのは無理な気がしてくる。

 けど、諦めたら隣のマリーがしばらくはうるさいし、そもそも最後まで結果はわからない。

 もちろん、勝てるとは思えない。

 けど、勝てると思えない勝負だとして、負けるわけにはいかない。

 いや、気持ちから負けてちゃ、どんな勝てる勝負ゲームにも勝てはしない。

 ここは、勝てると思うことが大事だ。


「……っ! ええ、さっきまでの顔つきと、随分変わりましたね。私たちも、最後まで本気でいきます」


 どうやら、俺が気持ちを入れ替えたことが伝わったようだった。

 まあ、単なる気持ちだけのことに、そこまで気にすることもないとは思うのだが……。

 けど、それだけの気持ちが相手には届いているのだろう。


「それでは、南三局オーラスを始めますね」


 そうして、最後の局が始まった。

 順繰りと、それぞに牌が配られていく。

 そして、配られた手牌は──


「ツモ。天和、役満」


 既に和了あがれる状態だった。

 滅多に見ない、いや、俺は始めて見たし、実際にこの役ができるとは思ってなかった。

 この役は、もはやただの運でしかない。

 つまり、ただの偶然の産物だ。

 もちろん、二人も目を丸くして驚いている。

 この中で、一番驚いているのはきっと、俺なんだろうが……。

 けど、ここにはもう一人、ことの重大差のわからないやつが一人いる。


「なんかよくんからないけど、凄そうね。ところで、勝てそうなのかしら?」


 こう、脳天気なことを言っている。

 そして、点数が移動し、俺の点数は3000点から、51000点になった。

 二人のうち片方は1200点とギリギリで耐え、もう片方は52800点あり、俺よりも高いため、通常もう一局打つ必要はあるのだが、点差は-15000点となった。

 つまり、あの絶望的な状況が一変し、逆転した。

 それはつまり、勝ちが見えたことになる。


「今のところは、勝ってる。このままいけば勝てるはずだ」


「そう。0点になったときは、負けるかと思ったけど、私の目に狂いはなかったということね」


 正直、天和なんて、ただの運でしかない役だから、あいつの目が狂ってないかどうかはわからないが、この勝負に勝てるのだったら別に問題はない。


「それじゃ、そろそろ次の──」


「えっと、なんかもう一局あると思ってるところ悪いんだけど、僕たちは諦めるよ。というより、いい役を見せてもらったから、それでもう十分楽しめたからね」


「ああ、えっと、なんだ……? その、いいもん見せてくれたお礼みたいなもんだ」


 初めて、もう一人の、爽やかな方ではないやつが喋った。

 声は結構ないい声で、今まで喋ってなかったのが不思議なぐらいだ。

 そして、言った通り相手は降参し、麻雀が終わる。

 もちろん、全部の勝負ゲームが終わるまでは、ここで待機になる。

 さて、これからどうしたものか……。

 負けた方は、このあと二つの選択がある。

 対戦相手と会話をするか、席を取れなかった者たちと同じように観戦するか。


「その、せっかくなので、自己紹介といきませんか?」


「自己紹介……?」


「はい。こうして会ったのも、なにかの縁があってのことですから、仲良くしませんか?」


 結果、相手は前者を選ぶらしい。

 それに、自己紹介をするというのは、悪い話じゃない。

 俺は、一度マリーの方をちらりと見る。

 マリーはどっちでもいいらしく、好きにしたら? という顔をしていた。

 それじゃ──


「悪い。自己紹介はなしで」


「あっ、いえいえ、無理にとは言いませんし、気にしないでください」


「冗談だ。俺の名前は、釘宮祐翔だ」


「あはは、僕の名前は青葉朝陽で──」


「俺が青葉夕陽だ」


 俺の自己紹介に続いて、彼らは流れるように自己紹介をしたのだった。

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