9話 放課後

「それでは、ホームルー厶を始める」


 帰りのホームルーム。

 先生の言っていたことが正しければ、今から試験について話すことになっている。


「それでは、まずは試験について話そう。試験日についてだが、5月の中旬を予定している。で、内容だが、詳しくはまだ教えられない。ただ、大まかな内容は教えてやろう。パートナー同士の争いになる予定だ」


 思ってた通り、試験の細かなことは教えてもらえない。

 ただ、それは当然のことでもある。

 そもそも、テストの内容を細かに教えてもらえるわけがない。

 けど、ある程度の内容はわかった。理解はできなかったが……。

 ただ、パートナー同士の争いということは、筆記の試験ではないということだ。


「それと、もう一つ話がある。今日、体育館で1年の交流会を生徒会長が行ってくれるそうだ。興味があるものは行ってみるといい。これで、ホームルームを終わる」


 黒羽くろば先生がそう言い終わるのとほぼ同時に、ホームルームの終わりを告げるチャイムが鳴った。


 俺は帰る支度を一通り終えると、真っ先に1組に向かった。

 正直、昼休みのことがあるから、あまり気乗りはしなかったが、担任の黒羽先生から言われた最後の一言は、おいそれと無視できるものじゃない。

 そして、そのことを一人で決めることは出来ない。

 それならば、マリーのもとに行くのはやむを得ないというものだ。

 そうこうしてるうちに、1組の教室に到着する。

 彼女は俺のことを一瞥すると、荷物を持って来る。


「あら、あんたもそれぐらいのことはわかるのね。来ないと思ってたわ」


「さすがにな。それで、どうするんだ?」


 もちろん、生徒会長が体育館で行うという交流会についてだ。

 彼女は少し考え込むような素振りを見せると、顔を上げる。


「そうね。あまり良い予感はしないけど、行こうと思うわ」


「それは、なんで?」


「まず、担任から聞いてるとは思うけど、5月の中旬に試験があるでしょ? で、それがパートナー同士の争いと先生は言っていたはずよ。もし、この交流会に参加すれば、他の人の能力マギアがどんなものかわかるかもしれないじゃない」


 マリーの言ってることには一理ある。

 けど、わざわざ危険なことに首を突っ込む必要はない。

 それに──。


「でも、それって、俺たちの能力も相手に知られることになるんじゃないか?」


「はぁ。あんた、バカなの? 私の能力は目に見えるようなものじゃないし、あんたの能力マギアはあっても無いようなものでしょ」


 確かにそうだった。

 マリーの持つ能力というのは、他の人が見ても理解出来るようなものじゃない。


「それに、あんたが能力マギアを使わなかったら、他の人はその能力が使えないのではなく、使わなかったと思うはずよ」


 それもそうだ。能力が使えないのなんて、まず俺ぐらいだろう。

 それなら、他の人からは使わなかったように見える。

 つまり、それは俺を警戒するに値する存在と認識するというわけだ。


「そんなわけだから、参加しましょう。たぶん、面白いことになるはずよ」


 まあ、実際、俺としてはその方がいい。

 だって、もし交流会に参加しないのなら、このあとマリーとの訓練になる予定だったのだから。


「わかった。そういうことなら」


「それじゃ、決まり。行きましょ。生徒会長が行う、交流会に」



 体育館には、すでにかなりの人数が集まっていた。


「結構多くの人が参加するようね」


「そのようだな。ところで、お前は知らないのか?」


「なにをよ」


「生徒会長がどんなことをするのか」


 ふと思ったのだ。

 マリーならなにか知ってるかもしれないと。

 なぜなら、マリーは以前に、パートナーのことを知っていた。

 だから、もしかしたら今回も知ってるかもと思った。


「ああ、それなら知らないわよ。だって、生徒会長が相手だもの」


「どういうことだ?」


「あんた、もしかして知らないの?」


 俺がピンときてない様子を見て、マリーは心底呆れたようにため息をつく。

 一体なんだというのだろうか?


「生徒会長の等級ランクはS。学年に一人しかいないと言われる、等級ランクS。それが、生徒会長なのよ?」


 それはつまり、マリーよりも強いことを表す。

 そして、俺と生徒会長には天と地の差があるというわけだ。


「それがどうしたんだ?」


「はあ~。そんなやつから情報を抜き取るなんて芸当、できるわけないでしょ。それに、今まで彼女の能力マギアを目にしたものはいないの」


「それは使ったことがないということか?」


「違うわ。たぶん。だって、彼女はどの試験が始まっても、次の瞬間には終わらしているから」


 それは確かに、能力マギアを使っていると考えるのが自然だろう。

 ただ、まだ誰も見たことのない能力。

 しかも、どの試験が始まっても、次の瞬間には終わってる、というのはあまりにも不気味過ぎる。


「ただ、彼女の能力マギアについて知られてることもあるわ」


「それは?」


「あんたと同じよ」


「同じ?」


 俺と生徒会長とでは天と地の差がある。

 なのに、俺と同じ能力マギア? 内容もわからない俺の能力が?


能力マギア名だけ知られてることよ。そして、その能力名は『未来時間タイム・ラプス』」


「それは、同じでいいのか?」


「いいのよ。だって、あなたは能力マギアがないに等しいのに、この学校にできたんだから」


「はっ? どういう──」


「ごめん、口が滑り過ぎたわ。忘れて頂戴」


 俺はその後も、そのことについて考えてみたが、全然なんのことかわからなかった。

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