勇白乙女2

 視線が痛い。

 そりも、そうだ。

 だって、隣には美少女がいるのだから。そして、それだけじゃない。

 男なら、自然と目がそこにいってしまうほどのたわわな果実が、勇白には実ってる。

 今なら、こいつの母親が乙女と名前を付けたのも頷ける。というか、納得がいく。


「最悪の高校デビューになったよ」


 そんなことを言われてしまっては、こっちとしても罪悪感が芽生える。

 しかも、今は女の子の姿だけに、罪悪感も倍増だ。


「あっ、別に君を責めてるわけじゃないよ!」


 全力で否定してるが、もう遅い。

 一度ぐさりと刺された心は、なかなかもとには戻らないのだ。


「勇白、勝負を挑まれたら、ってやつなんだが、昼休憩のときでいいか?」


「うん、いいよ。それと、ありがとう」


 とりあえず、俺は昼休憩になるまで、罪悪感に苛まれていた。

 そして、勇白のことを考えていたら、気づいたときには昼休憩になっていた。



「それで、この子は誰なわけ?」


 苛立ちを隠すことのないマリーが、そんなことを言ってきた。

 それもそのはず。彼女から見れば、彼は女にしか見えない。

 で、俺がこのあと言うことがこうだと思ってるはずだ。


『こいつは、俺の彼女だ』


 とにかく、そんな誤解を解いておくべく、言葉をかけようとして、


「なんで、面倒ごとを増やすのよ」


 誤解してなかった。なんも、誤解していなかった。

 それどころか、これからマリーに頼もうとしていることすらもバレている。


「あんた、今の現状わかってる? もし、私があなたのパートナーじゃなかったら、あなたは退学待ったなしのE等級ランクなのよ?」


 おっしゃる通りです。


「あんたバカなの? それぐらいのこと、わかってると思ってたけど?」


 おっしゃるとお……らねぇよ!

 いや、わかってたよ。

 わかってたけどな、なんとなく断れなかったんだよ。

 なんてことは言わず、ただ一言だけ。


「わかってる」


「はあ、あんたってもしかして、ドM?」


 どんな思考回路をしてたら、そんな発想が生まれるんだよ!

 いや、そんな思考回路をしてるからA等級ランクなのか。


「違う。というか、全くもってそんな事実はない」


 とりあえず、否定しておく。

 こういうのは、否定しておくことに意味がある。自分のことは自分が一番理解してるはずだし。

 ただ、隠れた自分の性癖なのかもしれないが、今のところそんなことはない。


「その、僕は迷惑だったかな? その、迷惑なら僕はこれで」


「迷惑に決まって──」


「少しだけなら時間もあるから大丈夫だ」


「な・に・が、大丈夫だ、よ! 私に頼る気満々のあんたが、なんでそんなことを言うのよ!」


 マリーはやはり怒ってる。そりゃ、そうだ。

 俺じゃ解決出来ないからこそ、こう頼みにきたのだから。

 そもそも、俺に解決できるわけがない。

 なぜなら、学年最弱、いや、学園最弱と言っても過言ではないほどに、勉強も出来ないのだから。

 そんな俺が、知恵を出そうだなんて、完全に無茶な話だ。


「ただ、ほら、話を聞くぐらいいいだろ、別に」


「それは……確かにそうね。もしかしたら、すでに解決してる内容かもしれないし」


 なんか、意味わからないことを言っている。

 俺には、彼女の言ってる意味がさっぱり理解できない。

 ただ、これで話は聞いてもらえる。

 それに、そもそもそこまで時間もかからない。


「それで、なんの話なのよ」


「そのことなんだが、勝負を挑まれたら──」 


「それなら、もう解決してるわ」


 俺が少し言っただけで、彼女は答えを出した。


「解決してるって、どういうことだ?」


 俺の頭じゃ、到底理解ができない。

 勇白もそれは同じらしく、首を傾げている。


「はぁ、確かあんた、勇白と言ったわよね? あんたのパートナーの等級ランクはいくつ?」


「えっと、B等級、です」


「そうよね。なら、解決してるじゃない」


「だから、それがなんでか聞いて──」


 彼女はどこか煩わしそうに首を振ると、


「あんたって、本当にバカなの? この学校において、パートナー片方だけと戦っても、勝ちじゃないのよ。パートナーの相手とも戦って勝つ必要があるの」


 それぐらいのことわかりなさい、と言わんばかりにそう言われた。

 確かに、言われてみればそうなのだ。

 そうでなければ、パートナーをすぐに失うことになる。

 まだ、試験も始まっていないというのに。


「そもそも、釘宮。あんたが勝負を挑まれない理由はそれよ。私がパートナーじゃなければ、あんたは今どき退学ね。私に感謝するといいわ」


 その言い方には腹立つが、彼女の言ってることは事実だ。

 それなら、言葉にして伝えておくべきだろう。


「そのことについては、ありがとう。これからもきっと、迷惑をかけると思うが、よろしく」


「えっ……? あっ、その……。と、とにかく! すでに解決してるわけなんだから、これで話は終わりよ」


 マリーは顔を熱があるときのように、真っ赤にさせ照れている。

 そんなマリーに、俺は少しドキリとした。


「それじゃ、釘宮。話もあるし、訓練もしなきゃよね?」


 彼女がそう言い終わると、タイミングよく、昼休憩終了のチャイムがなった。


「それじゃ、マリー。放課後な」


 俺は、その場から逃げるように離れた。

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