6話 アンドロメイド

 ドアを開け、俺は


「あの、部屋、間違えてませんか?」


 私服姿の女の子にそう訊いてみた。

 でも、よく考えてみれば、部屋を間違えているのであれば、鍵が開いてるのは不自然なのだ。

 つまり、そういうことだ。


「間違えてませんよ、ご主人様?」


 どっちの意味で言ったのかわからないが、状況が好転してないことは明らかだ。


「どうしました、ご主人様?」


「その、君は誰なの?」


「すいません。私としたことが、自己紹介を忘れてました。私は、メイド型、高性能アンドロイド、アイシスと申します」


 メイド?

 てか、アンドロイドっ!

 これが? ウソだろ?

 そう疑いたくなるのも当然だ。

 だって、彼女は一人の人間にしか見えない。

 というか、アンドロイドなのに名前があるのか?


「えっと、その、お前は本当に、アンドロイド、なのか?」


「いえ、メイドです」


「えっと、じゃあ、メイド、なのか?」


「いえ、アンドロイドです」


「いや、どっちなんだよ!」


「どっちもです」


 確かにそうだ。

 というか、今さらだとは思うが、めちゃくちゃかわいい。なんというか、女神みたいだ。

 まあ、アンドロイドだからな。

 なんというか、名前と銀髪碧眼の見た目がとても合っていると思う。


「ご主人様、どうかなさいましたか?」


「いや……。それで、君はメイド型アンドロイドってことでいいのか?」


「はい、そうです。わたくしのことはアイシスと呼んでいただいて結構です」


「えっと、それじゃ、アイシス。なんで、お前は俺の部屋にいるんだ?」


わたくしが、ここにいる理由ですか?」


「そうだよ。何者かもわからないやつが、自分の部屋にいるのは気味が悪い。たとえ、アンドロイドだとしてもだ」


「ですから、わたくしはアイシスです」


「とにかく、なんでお前がいるんだ?」


「それは、マリーお嬢様に頼まれたからです」


「えっ? マリーに?」


「はい。マリーお嬢様に頼まれました」


「なんで?」


「それでは、わたくしの方から、簡単に説明させていただきます。これは、昨日のことです。マリーお嬢様は帰って来てすぐに、わたくしにこう、仰られたのです」


 そう話すアイシスは、どこか寂しそうで、どこか嬉しそうだった。


「これからは、釘宮祐翔様に仕えないさい! と」


「だから、なんで?」


「詳しいことは知りません。ですので、これはわたくしの推測になりますが、男性が一人で生活するとなると、部屋が汚くなると考えたのではないでしょうか?」


 うんうん、なるほど、なるほど──じゃ、ねぇーよ!

 なんでだよ! ただの偏見じゃねえか!

 部屋をちゃんと綺麗にしてる、一人暮らしの男性に、まず謝れよ!

 と、この場にいないマリーへの、やり場のない気持ちを、頑張って抑えながら、ちょっとした興味本位からの質問をすることにする。


「お前って、アンドロイドなんだよな?」


「はぁ、まあ、一応その通りです」


「それだったらさ、お前の充電とかって、どうなってるんだ?」


「充電、ですか?」


 だって、そうだろ?

 アンドロイドってことは、電気を使って動いてるってことだ。

 それなら、充電をする必要がある。

 俺は、マリーのようなお金持ちってわけじゃないから、さすがに電気代とかが高くなると、普通に困る。


「そのことに関しては、お答えすることはできません。ですが、釘宮様が、電気代についてのことを心配しているのでしたら、お気になさらなくて結構です」


「なんで答えられないんだ?」


「はぁ」


 なぜか、一度呆れたようなため息をつくと、彼女は教えてくれた。


「ただの、企業秘密といったところです」


「ああ、そういうことか」


 まあ、そりゃそうだ。

 そういったことは、おいそれと話せるようなことじゃない。

 なんだか、呆れたようにため息をついたアイシスの気持ちが、今、なんとなくわかったような気がする。はぁ。


「それで、具体的には、何をするんだ?」


わたくしは家でのことを担当するので、家事全般だとお考えください。釘宮様の考えてるような、エロいことなんかは、一切しませんので」


「考えてねぇよ!」


「そうでしたか」


 いや、少しだけ想像してはいたけど……。


「まあ、釘宮様が、少しだけがっかりなされていたことは、マリーお嬢様には秘密にしておきますね」


 くそ、バレてやがった。

 てか、仕方ないだろ! 俺は、列記とした男なんだから!


「それでは、これからよろしくお願いします」


「うん? ああ、よろしく」


「あっ。大事なことを訊くのを忘れてました」


「なんだ?」


「掃除をするときのことなんですが、ベットの下も掃除して構いませんか?」


 なにを言ってるんだ? と、俺は疑問に感じる。


「別に、いいけど……なんで、そんなことを訊いたんだ? それに、大事なことって──」


「男性の方は、ベットの下にエロ本を隠しているものだとお聞きしていますので。一応、釘宮様にも訊いておかなくてはいけないなと思いました」


「俺はそんなことに興味ねぇよ!」


「それでは、先程のはなんだったのでしょうか……」


「それは、反射的なもので……特別他の意味はない! そう、ただの反射的なものだ!」


「はあ、そうですか……まあ、これからよろしくお願いします」


 彼女はもう一度そう言うと、ペコリとお辞儀をした。

 そんな、彼女の仕草は様になっているなと思う。


「釘宮様、どこを見ているのですか?」


 こういうところを除けば、完璧だと思う。

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