パートナー訓練2

「ちゃんと狙って撃てば、拳銃でもそこそこのものになるわ。でも、できるだけ即死の場所はさけるようにしてちょうだい」


 だいたい3時間くらい、こうして拳銃での狙撃をしている。

 ただ、なんで即死の場所をさけるのかがわからない。

 殺すのがダメだというのはわかる。

 ただ、これは訓練だ。

 なら、とっさの時のために即死を狙っておくのがベストだろう。


「なんで即死の場所をさけるんだ?」


「はっ……? そんなの、そいつから情報を訊き出すためよ。だって、死なれちゃったら訊けないでしょ」


 なるほど、それもそうだ。

 けど、殺すことはさすがにないと思うが……。

 ただ、即死の場所をわざとさけて撃つことに慣れていれば、いざというときにも役立つわけだし、やることに意味はある。



 そうして、拳銃で狙撃の練習をすること、それから2時間。


「今日はこんなもんね。それにしても、あんたは呑み込みがいいわね。もう少し時間がかかると思ってたわ」


 今日の練習がやっと終わった。

 まあ、今日は試験の予行練習ということで、授業らしい授業はなかった。

 それにしても、だいたい5時間くらい続けていたということになる。

 それだけの時間練習すれば、そこそこできるようになると思うのだが……。

 それでも、思ったよりも早かったということなのだろう。褒め言葉は素直に受け取っておこう。


「まあ、C等級ランク相手だったらどうにかなるレベルにはなったわ」


 俺は、そんな彼女の言葉に、今回ばかりは驚きを隠せない。

 というのも、等級ランクの差というのはたった1等級ランクでさえ、超えるのは難しい。

 そんな等級ランクの中でも最低等級ランクのEとCでは、2等級ランクの差がある。

 つまり、たった5時間でその差が、埋まったということだ。


「まあ、拳銃の狙撃だけの話だけどね。それでも、かなり優秀よ」


「なんだよ」


「なに、あんなことをしただけで、C等級ランクとの差が埋まったと思ったの? そんなに簡単に埋まるわけないじゃない。よく考えたらわかるでしょ」

 

 確かに、その通りだ。

 さっきも説明したと思うが、1等級ランクの差は大きい。

 で、俺とC等級ランクまでの差は2。

 それが、簡単に埋まるなんて思うほうがおかしい。彼女の言う通り、よく考えればわかることだ。

 いや、よく考えなくても、常識的にそれが普通だ。

 しかし、彼女の教え方はとても上手だった。

 そして、的確だった。

 最初にしたのは、風を感じて、どの程度の湿気具合なのかを、ある程度捉えること。

 俺は、最初必要ないと思ってたが、いずれライフルなどを使う場合を考えれば、できておくに越したことはない。

 たとえ短い距離であったとしても、正確性をあげるのには必要なことだ。

 そんなわけで、俺の呑み込みが早かったのか、彼女の教え方が上手だったのか、どちらにせよ上達したことには変わりない。

 まあ、絶対に、教え方が上手だった、とは言わないけどな。

 

「ねえ、このあと時間ある?」

 

 かなりの時間が過ぎたことには変わりないのだが、太陽はまだ昇っており、沈むまでしばらくありそうだった。

 

「まあ、あるが……なんで?」

 

 なんか話でもあるんだろうか?

 俺としては、このまま練習を続けたいところなのだが……。

 

「そ、そう? それなら、ちょっと付き合ってくれる?」


「わかった。それで、どこに行くんだ?」


「そうね、それじゃ喫茶店なんかはどうかしら?」


「わかった」


 拳銃での狙撃は上手だと褒めてもらえたし、息抜きということで付き合うことにした。



「今回は私が奢るから、好きなものを頼みなさい」


 俺たちが入った喫茶店は、どこか落ち着いた雰囲気のお店で、さっきまでの疲れが一気に癒やされる。


「どうしたの? 頼むもの決めたなら早く頼んじゃいなさいよ。もしかして、このお店気に入ったの?」


「まあ、な。なんだか安心できるんだよ、落ち着いた雰囲気で」


「そう? まあ、人は少ないしね。でも、気に入ったのならよかったわ」


 メニューの値段をみると、どれもが割と手頃な値段で、俺でもちょくちょく来れるなぁー、なんて思う。

 俺はメニューと少しの間にらめっこすると、カフェオレを頼んだ。


「それで、なんか話とかあるのか?」


「話? そんなのないわよ?」


「えっ? それじゃ、なんで?」


「そんなの、ただの息抜きに決まってるじゃない! 私だって息抜きぐらいするわよ。それに、ただ教えるってつまらないのよ。そして、疲れるのよ」


 つまり、疲れるしつまらないから息抜きでもしようということらしい。

 その後、なにかあるわけてもなく、普通に帰宅した。



 日は沈みかけていて、時が経つのは早いなー、とか思いながら、家のドアを開け、入ると、


「おかえりなさいませ、ご主人様」


 そんな声が聞こえてきた。

 俺は、部屋を間違えたのかと思い、一言謝ってからドアを閉め、部屋の番号を確認してみる。

 しかし、何度確認しても間違いなく、俺の部屋だった。

 両親とは別々に住んでいるし、そもそもそんな風に言われたことなんてない。

 だったら誰なのか?

 俺の知り合いでそんなことを言ってくる人なんていないし……。

 そこで、一つの結論に至った。

 部屋の中にいた人が、間違えている場合だ。

 よく考えたら、何度確認しても俺の部屋なんだとしたら、それ以外あり得ない。

 俺は、そう思い、意を決して聞いてみることにした。

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