3話 不穏な平穏

 今までいろいろあったせいで、マリーのことをしっかりと見てなかったなと、歩きながらあらためてマリーを見る。

 金色に輝く髪の毛をポニーテールに纏め、歩くたびにゆさゆさと揺らしている。髪の長さは大体セミロングぐらい、だと思う。

 少し細めの目の色は碧色よりの紫色。

 顔もとても可愛く、いわゆる美少女だ。

 そんなふうに何も言わずに彼女の横顔を観察する。


「なによ。なんかおかしなところでもあるの?」


 そんなことを言われてしまった。

 ただ、それは当然の反応だ。俺だって、隣を歩いてるやつが自分の方を見ながら歩いてたら気になる。

 俺は「いや、別に」と答えながら、典型的なお嬢様なのかなと思うのだった。



「ここが俺の家だよ」


 そう言いながら、俺はエントランスにある端末でロックを解除する。


「マンション、なのね」


 俺とマリーはエレベーターで自分の部屋の階まで上がる。


「ここの部屋だよ」


「409号室ね。覚えたわ」


 そうして、俺は部屋にカードをかざし、ロックを解除する。


「本当に何もないわね」


「いや、だから来る前にそう言っただろ」


「聞いてたけど、思ってた以上に何もなかったのよ! この状態を想像する方が難しいわ」


 俺の家には文字通り、家具は一つもない。

 まあ、最低限のはあるが、ソファとかベット、机などはない。

 あるのはポットと備え付けのものだけだ。


「で、すぐ帰るのか?」


「そんなわけないでしょ。すぐ帰るなら、なんのために部屋に入る必要があるのよ」


 まあ、それもそうか。

 場所が知りたいだけならここまでついてくる必要はない。

 マンションの部屋の位置の確認だとしても、不自然とまではいかないが、自然ではない。


「それじゃ、なんか淹れるけど、紅茶と珈琲どっちがいい?」


「紅茶でお願い」


 そう言われ、ティーバッグをカップにいれ、お湯を注ぐ。

 そして、俺は次に珈琲を淹れる。もちろん、インスタントだ。

 珈琲を淹れてから少しして、カップに入ってるティーバッグをとり、スプーンをカップにいれ、スティックシュガー2、3本といっしょに彼女のもとに持っていく。


「あんた、机ぐらい買いなさいよね」


 そこは、ありがとう、と言ってほしかった。一応、俺は紅茶を淹れてあげたわけだし。

 けど、彼女の言うことももっともな意見なので、何も言わず、話の続きを待つことにした。


 しばらくの間、沈黙の時間が続いた。

 けど、彼女は話を始める気配がない。いい加減、俺はその空気に耐えきれなくなって、彼女に訊くことにした。


「それで、なんの用事なんだ?」


 すると、彼女は何かを考えながら、こう言った。


「これからのことについてよ。まず、あんたのことをあらためて教えてちょうだい。一度整理しておきたいの」


 そして、俺はそれに納得する。

 パートナーとなるんだから、俺は当然のことなのだと思う。

 だから、俺は彼女に応じ、話すことにした。


「名前は省いていいか?」


「もちろんよ」


「まず、俺のクラスは3組で、出席番号は17番だ。能力は『ギルティ』。使い方、効果は一切不明。あえて言うのであれば、罪に関係してるのではないかと考えてはいる。こんな感じでいいか?」


「まあ、及第点といったところね」


 よくわからんが、その微妙な点数に腹が立つ。


「それじゃ、次に私ね。私も名前は省くわよ? 私のクラスは1組。出席番号は33番。能力は『プリンセス』で、使い方は私の意思よ。効果は相手を思い通りにできる。一応自分より弱い相手なら使えるわ。今日は一回しか成功しなかったけど、明日からは平気よ! たぶんね」


 俺は2回も騙されたけどな。

 その後も話は続いた。

 これから、学校でどうしていくのか。

 明日にはパートナーの話があるだろう、といった話をして。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 時間は少し遡ることになる。


「時野、なんで起こさなかったんだ?」


「何を言ってるの……? 起こしたわよ。なのに、『まだ眠い~』って起きなかったのはあなたでしょ? 会長さん、そうでしたよね?」


「はい。まあ、おもしろくはなかったですし、私は起こさなくてもいいと思ったんですが……。起こすべきだと思う、と、そんなことを言って、時野先生は黒羽先生を起こしに行きましたよ?」


「そ、そうか。それは、悪かった。それで、どうなったんだ?」


「特におもしろいことは起きませんでしたよ。一つだけあるとすれば、E等級ランク生徒ランカーがA等級ランクの生徒と接触したにも関わらず、何も起きなかったことですね。なんの話をしていたかは、残念ながらわかりませんが……」


「そのE等級ランクというのはあいつなのだろう?」


「はい、その通りです」


「その子ってあれよね、っていう」


「そうだ。それで、そいつは生き残ったのか?」


「はい。正門から出ていきましたし、逃げ切ったとみていいでしょうね」


「A等級ランクの生徒も一緒か?」


「そうですが、なぜそれがわかったんですか?」


「なに、そのA等級ランクというのはマリー・マーガレットだろう。なるほど、あいつもさすがだな」


「マリー・マーガレット、ですか?」


「ああ。まあ、お前に教えることはできないけどな」


「いえ、それは重々承知の上ですから」


「でも、あいつが関わってるのか。くく、おもろくなってきたな」


「それじゃ、時間だから私はそろそろ帰るわね」


「私もここで失礼します」


「ああ、わかった。私はもう少し残ることにする」


「それでは、先に失礼します」


 そうして、部屋には彼女だけになる。

 彼女は何かを再確認し、その部屋をあとにしたのだった。

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