勝負はしたくないんだが?2

 負けた。

 あいつが負けた。A等級ランクであるあいつが、負けた。

 俺が今、ここで取るべきベストな行動は逃げることだろう。

 運がものをいう内容であったとしても、A等級ランクが負けた相手に、E等級ランクの俺が勝てるわけがない。

 もちろん、同じように運がものをいう内容なら勝てるかもしれないが、それはゼロではないにしても、限りなくゼロに近い確率だろう。

 けど、俺は逃げなかった。

 気が狂ったわけじゃない。頭がおかしくなったわけでもない。

 約束だからというのもあるが、俺は自分の運にかけてみようと思ったのだ。これからの未来を。俺の運命を。

 それに、逃げるところもない。

 そんなことを思ってる、結果を待つ。


「ぎりぎり負けてしまいましたか。残念ですが諦めます」


 彼が最初に発したのは、そんな意味不明な言葉だった。

 彼の数字は8だったはずだ。

 それならマリーの負けのはず。

 そして、そのあと表示された画面を見ると、マリーの画面には“You win”の文字。

 俺は数字をもう一度しっかりと確認してみる。

 俺の方からはやはり数字の6で……。

 そこで、俺は理解する。

 ああ、逆なのか、と。

 つまり、マリーの数字は9だったということだ。


「まあ、仕方ないわよ。私はA等級ランクだからね。あんたは善戦した方よ」


 なんかあいつがほざいてやがる。けど、実際、勝ったのだからあいつに文句は言えない。


「僕はこれで行かせてもらいますね。また会えるといいですね」


「ふん、会えるわよ。だって、A等級ランクのこの私がいるもの」


 俺はいま、一番お前が信じられないんだが?


「さて、私たちもそろそろ行くわよ」


「いや、どうすんだ……?」


「私の予想がただしければ今が逃げどきなのよ」


「なんでそう思うんだよ」


「私の勘よ」


 マリーは全く信用できないような理由を言う。

 まあ、三度目の正直っていうし、俺はもう一度だけ、マリーを信じてみることにした。

 それに、俺にはこうすることしかできないのだから。


「わかった」



 そうして、正門まで行くと彼女の言った通り、逃げどきだった。

 だって、正門には誰もいなかったから。


「ほらね。言った通りだったでしょ?」


 マリーは自慢げにそういう。

 だが、なぜか、それが無性に腹立たしい。

 そんな不思議な光景をボーッと見ていると、ある一人の女生徒ランカーが近づいてきた。

 俺は身構えるのだが、マリーは気にすることもなく聞きに行った。


「ねぇ、ここで何があったの?」


「5人目のE等級ランクを見つけたとあるものが言っていたので、全員そちらに向かいました」


「ふ~ん、そういうことね。もう行っていいわよ」


「それでは、これで」


 そう言うと、彼女は俺のことは気にも留めず行ってしまう。

 それを疑問に感じる。


「なんで話しかけたんだ?」


「なんでって、この状況を疑問に感じたからだけど……?」


「もしものことがあったらどうすんだよ」


「はっ……? そんなことあるわけないじゃない。だって、私の能力マギアは『プリンセス』なのよ?」


「ああ、そういやそうだった」


 マジで忘れてた。

 てか、その能力が本当にあるとは思ってなかったしな。成功してるの見てなかったし。

 成功すると騎士ナイトみたいになるのか。


「あんた、もしかして信用してなかったの?」


「悪かった」

 

 素直にそのことは認める。ただ、その原因はほとんどお前にある気がするんだか?


「それじゃ、罰として奢りね」


 マジかよ。

 まあ、悪いのは俺……? なわけだし仕方ないか。

 確かに信じれてなかったわけだし。


「で、どこで何を奢ればいいんだ? 高いのはさすがに無理だからな」


「そうね……私はとっても優しいから、自販機でジュースを買って来てくれればいいわよ?」


「優しい……?」


「優しい、でしょ?」


 あの程度のことで罰をあたえるやつのどこが優しいのかわからない。

 ただ、彼女は有無を言わせない表情でそう言うので、首を縦に振るしかなかった。

 罰が重くなっても嫌だしな。

 けど、そこで自販機ではなく、コンビニが頭に浮かぶ。コンビニのが安いと判断し、聞いてみる。


「コンビニじゃダメなのか?」


「ダメよ」


 コンビニじゃダメらしい。理由は知らないが……。喉でも渇いてるのだろうか?

 まあ、これは俺が悪いわけだからと思い、俺は近くの自販機に向かい、適当なジュースを買って戻る。


「ほら」


 そう言いながら首筋にピタッと、オレンジジュースの入った冷たいペットボトルをくっつける。


「ありがとう」


 しかし、思ってた反応は見られなかった。

 いや、冷たいわけだし、「ひゃっ!」て驚いてくれることを期待したのだがな。


「なに? もしかして、驚くと思ってたの……? 私、そんな程度のことじゃ驚かないわよ? だって、A等級ランクだもの」


 ポーカーフェイスはできないくせに、感情は無くせるんだ、と、思う。

 いや、感情がなくせるならポーカーフェイスもできるか……。

 気にしたところでどうしようもないので、考えないことにする。


「今からあんたの家に行っていい?」


「まあ、別にいいけど……なんで? 別になんにもないぞ? この辺に来たばっかだし」


「別にいいわよ。あんたなんかの家に期待なんてしてないから。ただ、パートナーとして知っておきたいのよ。それじゃ、行くわよ」


「はいはい」


 そうして、俺の家に行くことになったのだった。

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