2話 勝負はしたくないんだが?

「なぁ、マリー。誰か来たんだが?」


「わかってるわよ。まさか、来れる人がいるとはね」


「あの、ここに来ることぐらいなら誰でもできると思いますが……。それで、勝負していただけますか?」


 そう言った彼は、さっきまで追いかけて来てたような奴らとは違って温厚なやつなのか、とても優しくそう話しかけてくれる。

 まあ、見た目はといえば、なんかいけ好かないやつではあるんだけどな。

 なんていうの、好青年みたいな感じで。


「あの、もしかして勝負の最中でした? それでしたら私は出直しますので──」


「してないわよ」


 いや、そこはしてるって言えよ!

 そうすれば戦わなくてよくなるんだから!


「そうですか。それでは、勝負していただけませんか?」


「やだ」


「まあ、等級ランクEの方でしたらそれが普通ですよね。それに、あなたには守ってくれる人がついているみたいですし。そうですね、それじゃ彼女との勝負に勝てたら勝負を受けていただけますか?」


 まあ、こいつがあいつに勝てるとは思わないし。

 あいつは等級ランクAなわけだし。

 ここにいるのは高くても等級ランクBなわけだから。

 俺は負ける要素もない上に、それで引き下がってくれるならと、


「わかった」


 勝手に承諾した。


「はっ……? あんた、なんで勝手に私を巻き込んでるの?」


「いや、お前なら勝てるだろ?」


「当たり前でしょ? まあ、今回は仕方ないからいいけどね。それに、その方が楽だろうし」


「それじゃ、そういうことでお願いします。それで、勝負の内容ですが、『インディアンポーカー』というものをしようと思うのですが、ルールはご存知ですか?」


「まあ、ある程度知ってるわ。けど、一応確認のために教えて」


「わかりました。それでは、簡単に説明しますね。まず、お互いにトランプを一枚自分には見えないように引きます。そして、相手に見えるように自分の額の近くにそのトランプを持っていき、そのカードが強いだとか弱いということを相手にいいます。で、そこでトランプをチェンジするかを決めます。チェンジは何回でもできます。そして、お互いのトランプを見せ合い数字の大きかった方が勝ちとなります」


 ここまでは普通のインディアンポーカーだ。

 ただ、これではただの運ゲーだ。


「で、これは今回の特別ルールの一つになるのですが、チップは使わず一度の勝負で決着をつけることにします。そして、能力マギアの使用はできません」


 結局、ただの運ゲーだった。

 けど、確かに等級ランクの差があるなら、それが一番のような気がする。


「わかったわ。それじゃ、始める前に教えてあげる。私の等級ランクはAよ」


「やはりそうでしたか。私は、等級ランクCなんですよ。ですが、負けませんよ? それでは、勝負をしましょう」


「ええ」


 そうして、彼は何かを起動すると手早くさっき説明したルールの内容を打ち、マリーに送る。

 てか、そういやここの入学が決定したときになんか打ち込まれたんだよな。

 使い方の説明書とかもあったと思うけど、俺はそういうの読まないから忘れてたわ。

 なるほど、勝負をするときはこういうことをしなくちゃいけないのか。面倒くさいなとか思いながら彼らを眺める。

 マリーはルールを確認し終えると、勝負を受けますか? という画面で受けるを選択する。

 そして、画面にトランプのカードが表示される。

 つまり、勝負が始まったということだ。


「なるほどね。あんたのカード、とてつもないほど弱いカードよ」


 そう言った通り、マリーの画面にうつってるトランプの数字は2だ。

 そして、俺は相手の画面を見ようとすると、やっぱり見れなかった。

 この勝負においては、俺は第三者にあたる。

 マリーの画面が見れるだけでもありがたい話なのだろう。


「そうですか。あなたのカードは強いので、それでは私の負けになってしまうのでチェンジしますね」


 マリーの助言を素直に受けとめるとチェンジしてしまう。

 そして、次にマリーの画面にうつったトランプのカードは11だった。

 マリーはなんか苦いものでも食べたような顔をしながら、


「また、弱いカードよ」


 そう言った。

 ……って、バレバレだろ! あきらかに嘘ついてるのがわかるからな? ポーカーフェイスをもう少し頑張れよ!

 そう思い見てると、


「そうですか。それなら、もう一度チェンジするとします」


 彼はチェンジした。

 お前もお前でわかってるだろ! とツッコミたくなる気持ちをなんとか抑えながら彼女の方を見る。

 すると、めちゃくちゃ嬉しそうにしていた。

 というか、お前はチェンジしないのかよ!

 で、次にマリーの画面にうつったトランプの数字は8だった。

 つまり、真ん中ということだ。とても微妙な数字。

 マリーも、なんだか微妙、という表情を浮かべている。


「そうね。さっきよりも強いカードになったわ」


「それでは、私はそのカードにするとします。あなたはこのカードでいいんですか?」


「そうね……。まあ、私はこういうゲームでは他人の言葉はあまり信じてないから、そのカードでいいわ」


「それでは、勝負です」


 そして、お互いの画面の数字があきらかになる。

 俺は、マリーの向かい側から画面を覗き込む。そこには相手の数字と自分の数字が表示されていた。

 相手の数字は8。

 こっちの数字は6だった。

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