入学式から俺はピンチなようだ。3

「それで、能力マギアについては、いろいろ試してみたの?」


「まあ、一通りには試した」


「そう……。まあ、それなら、とりあえず拳銃の使い方だけ覚えてちょうだい! 私が一通り教えてあげるわ」


「それはいいが、どうやって今日一日を逃げるつもりなんだ?」


「とりあえず、私がどうにかするわ。私、A等級ランクだもの。任せなさい」


 俺はとりあえず、彼女に任せることにする。A等級である、彼女に。


「そういえば、まだ私は名乗ってなかったわね。私はマリー・マーガレットよ。これからよろしくね」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「で、任せた結果がこれかよ!」


 そう、私がどうにかするわ、とか言っておきながら、結局、大勢の生徒ランカーから逃げることになっている。

 俺は、あれだけ無理だと言ったというのに……。


 話は数分前のこと──。


「それで、どうするつもりなんだ?」


「堂々と正門から行くつもりだけど?」


 いや、まじか? 正気の沙汰じゃないと思うんだけど?

 でも、確かマリーの能力マギアは相手を思い通りにできるとか言ってたはずだ。

 でも、自分より弱いってことは少なくともA等級ランクやS等級ランクのやつらには効かないということだ。


「A等級ランクやS等級ランク生徒ランカーがいたらどうするんだ?」


「いや、いないわよ? いるのは高くてもB等級ランクよ。まあ、C等級ランクが一番多いけどね」


 そういやA等級ランクやS等級ランクはそもそもヤる必要がないとの話だった。

 けど、俺はやっぱり不安だったため、


「それでも、やっぱやめた方がいいんじゃないか?」


「大丈夫よ。私がどうにかするから安心しなさい!」


 そう言ったのだが、何も安心できる要素のない説得で、俺は彼女をとりあえず信じ、従うことにしたのだった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 で、信じた結果、俺はまた走って逃げることになったというわけだ。


「なによ! 私の能力をあんただって知ってるでしょ? それだったらいけると思うじゃない!」


 つまり、彼女は自分の能力に絶対的な信頼をおいているというわけだ。

 てか、その能力が俺に対して失敗してるんだけどな。

 いや、待てよ。

 それってつまり、


「お前の能力が効かないやつがC等級ランクとかにいてもおかしくないってことじゃねーか!」


 そうだ。つまり、そういうことだ。


「なによ! てか、そもそも、あんな大勢の人数に使うこと自体が初めてなのよ!」


「まじかよ……」


 なるほど。こいつA等級ランクのくせに意外とぬけてるところがあるのかっ……!

 てか、なんでそんなやつがA等級ランクなんだよ!

 いや、まてよ。もしかして、こいつ、本当はA等級ランクじゃないんじゃないか?

 それなら俺と組もうという理由にも納得がいく。


「なんで私に疑わしい目を向けるのよ! 私は列記としたA等級ランクよ!」


 そう言いながら生徒手帳を見せてくる。

 そこにはしっかりと、A等級ランクと書かれていた。

 それはそれで疑問だわ……!

 なんで、A等級ランクなのか余計に疑わしいわ!


「てか、もっと速く走れないの? このままじゃ追いつかれちゃうんだけど!」


「いや、俺は結構本気で走ってるんだけど……」


「それで本気なの? 私、今の5倍の速さで走れるんだけど?」


 マジかよ。てか、そろそろマジで本当にやばいんだが……。体力切れる、マジで。


「はぁ、仕方ないわね」


 彼女はそう言うと、急に立ち止まる。

 それに合わせて俺も彼女の近くに立ち止まる。


「て、おい! 実際、お前は走る必要はないけど、なんで止まったんだよ!」


「そんなの、こうするために決まってるでしょ!」


 そう言うと彼女は、俺のことをお姫様抱っこして……てっ!


「な、なんで、そうなるんだよ!」


「いや、あんた遅いし。それに、体力もないみたいだから仕方なく、私が抱っこしてあげてるんでしょ! もうちょっと感謝するべきよ!」


 まあ、それは確かにその通りではあるんだが、考えてもみろ。

 俺の今の状況ってのは、傍から見たら女の子にお姫様抱っこされてる男子って状況なわけだ。

 まず、その時点で恥ずかしい。

 で、もう一つ大事なことがある。

 お姫様抱っこされてるってことは、身体の上半分。

 つまり、女子特有の大きな二つのやわらかい膨らみが体に当たってる。

 で、本人はそのことを気にしてる様子が一切ない。

 まあ、そんなことを気にしてる様子がないというよりかは、たぶん逃げることに集中しすぎているだけなんだろうけども……。

 ただな、俺は男子なんだ。

 つまり、その感触がすでにやばいというわけで……。

 そんなわけで、少しの間耐えてみるも、結局、耐えきれなくなった俺は、言ってしまった。


「その、さっきから、その、当たってるんだが……」


「えっ……? ああぁぁぁ!」


 もちろん、彼女は俺の言葉でそのことに気づいた。


「これだから、これだから、男子ってのは最低なのよ! 今、どんな状況なのか考えたらわかるでしょ!」


 そう言いながら、俺はその場に降ろされた。いや、落とされた。

 つまり、今は止まってるということだ。

 結果、


「「おい、待て!」」


 追いつかれそうになってるわけで……。


「ちょっ……! あんたのせいで、追いつかれちゃうじゃないの!」


 これは俺が悪いのだろうか? いや、俺が悪いな、うん。


「こうなったらもう仕方ないわ。最終手段よ! 絶対に、手をはなさないでよ!」


 そう言って、彼女は俺の手を掴むと、ひと目のつかない道を進みだした。

 もちろん、追っても来てるはずなのだが、声が全く聞こえないどころか、足音一つしなくなった。

 俺は疑問をいだきながらも彼女に引っ張られるがままに進んでゆく。

 そして、彼女は唐突に立ち止まった。


「これで、追ってはあらかた撒いたはずよ。まあ、たまに来れるやつもいるんだけどね」


 そんなことを言い出した。

 いや、待てよ。これって、フラグなんじゃね?

 そう思った通り、


「あなたは等級ランクEですよね?」


 誰か来た。

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