入学式から俺はピンチなようだ。2

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁー。ここまで逃げれば、大丈夫、か……?」


「おい、待てっ! お前も等級ランクEだろ」


「クソっ! まだ追いかけてきてるやつがいたとは……」


 そんなわけで、俺はまた走りだす。生徒ランカーから逃げるために。

 けど、何者かに手を掴まれ、人気ひとけのない場所に引きずり込まれた。


「あなたなんでしょ? 催眠ヒプノが効かなかった等級ランクEの生徒ランカーっていうのは」


 すぐさま聞こえてきたその声に、俺は慌てて振り返る。

 すると、そこにいたのは、金髪で、胸の大きな女子生徒だった。

 彼女に確信をつかれ、動揺しながらも、俺はなんとか声を絞り出すように言う。


「ち、違う」


「そう……。私にはわからないから、それじゃ、戦ってくれる? そして、負けて」


「そんなことを素直に、はい、と言うやつがいると思うか?」


「ふ〜ん。それじゃ、やっぱりあんたで間違いないわね」


「なんで俺だと思うんだよ。普通に考えて、そんなことを言われて、素直に、はい、と言うやつなんていないだろ?」


「そうね。あんたの言う通りよ。普通ならね」


「どういうことだよ。普通だろ! 普通の反応以外のなにものでもないだろっ!」


「私の能力マギアはね、プリンセスなのよ」


プリンセス? なんだよその能力マギア。てか、そんなことはどうでもいいし、俺は忙しいから、もう行っていいか?」


 わけのわからないことを言われ、その場をあとにしようとする。


「あんたがここを離れた瞬間に、大声であんたのことを叫ぶわよ? 」


 はっ……? こいつ何言ってんだ? てか、俺がここにいることをバラすことになんのメリットもないだろ。

 いや、これは俺を脅してるということなのか。

 確かに、さすがに大勢で追いかけられることになると、逃げ切るのは難しくなるというものだろう。

 つまり、彼女はそういうことを言いたいというわけだ。ここから離れるな、と。


「それで、俺に何をさせるつもりだ?」


「そうね……。その話はとりあえず、一旦おいといて、まずは私の能力マギアがどういうものなのかってことを少しだけ話すわ。私のプリンセス能力マギアは、私の思い通りのことを相手にさせることができるというものよ。なのに、あんたは私の能力マギアが効かなかった。等級ランクEの生徒ランカー相手あんたによ。これって、どういうことなのかしらね」


 それはつまり、俺が生徒会長の言ってた人物であるということの裏付けだ。俺と戦い、ランクを三つあげるために。


「ねぇ、さっきの生徒会長の言葉。そして、黒羽香澄くろばかすみ先生が言ってた催眠ヒプノが効かなかった7人の人物。本当にどういうことなのかしら」


 これって、ピンチだよな?


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 時は、入学式が終わってすぐに戻る。


黒羽くろばさん、今年はおもしろい子が混じってるようだけど、その子は大丈夫そうなの? 生き残れる?」


「何を言い出すかと思えば時野ときの、そんなことか。そもそも、その程度のことで生き残れないのなら、それまでだということだ」


「それもそうね。で、会長はこれを思いついた張本人だけど、E等級ランクは全滅するとみてるのかしら?」


「そうですね、あの人だけが生き残るんではないですか? もちろん、私は一切手をだしませんからどうなるかまでは、わかりませんけど……」


「なるほど、生徒会長は能力マギアを使ってないし、使うつもりもないということか。それじゃ、これからどうなるのか、誰もわからないということだな」


「それは、誰が残るのか楽しみという風に捉えていいということよね?」


「はい、そういうことです。そうしないと、つまらないですからね」


「私はさすがに疲れた。私の能力マギアである催眠ヒプノは精神の方からもろにやられていくからな。休ませてもらっていいか」


「もちろんいいわよ。黒羽くろばさんの場合、お疲れ様って感じだものね。それに、この試験はまだ動き出してすらいないみたいだし」


「それじゃ、私は休む」


「試験が動きだしたら、私が呼びにいくね」


「頼んだよ」


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 どう切り抜けるか。それだけを考える。

 このままじゃ、目の前の金髪の美少女にボコボコにされて、入学式の日だというのに退学することになってしまう。


「ふふ、安心してちょうだい。ちょっとからかってみただけよ。私の等級ランクはすでにAなの。つまり、あなたをヤる必要がないわ」


「それなら、俺をどうする。というより、何が言いたいんだ?」


「言葉通りの意味よ。あんたと勝負ゲームをしないということ。そうね、私とパートナーを組んでもらえるかしら」


「パートナーってなんのことだ? 」


「ここでの初の試験から卒業までの試験において、二人一組で取り組まなくちゃいけないのよ」


「なんでそんなことをお前が知ってるんだよ。それに、なぜ俺と……」


 卒業までということは、これからの学園生活がかかってるということだ。

 それなのに、わざわざお荷物になりそうな最低 等級ランクとパートナーを組もうっていう高 等級ランクのヤツがいるわけがない。


「知ってる理由は秘密よ。ただ、あんたを選んだ理由は私の能力マギアが効かないなんて、おもしろいからよ。今までそんな人と会ったこともないしね。それに、あんたは私を裏切ることができないでしょ。等級ランクEなんて、ヤられるだけなんだからあなたにとっても悪い話ではないはずよ。それで、どうするの? 」


 まるで、棚からぼた餅だ。

 こんなの、断る理由がない。

 なにかあるのだとしても、今は気にしなくていいだろう。今、逃げ切ることができるなら。


「わかった。そういうことなら組むけど、俺は等級ランクEだからな」


「わかってるわよ。それじゃ、能力マギアを教えてくれる?」


「俺の能力マギア


「そうよ。それで、あんたの能力マギアはなんなの?」


 能力マギア。それは、誰もが持っている特殊な力だ。例えば、彼女でいうところの『プリンセス』だ。


「俺の能力マギアは、わからない」


「はっ? わからないってなに。そんなわけ無いでしょ」


 確かにその通りではある。ただ、何もわからないというわけじゃない。どういう効果の能力マギアなのかわからない。

 つまり、名前しかわからないというわけだ。


「名前は? とりあえず、名前だけでもいいから言ってみなさい。どんだけ使いものにならない能力マギアでもいいわ。とりあえず、わからないというのが一番の問題なのよ。作戦のたてようがないもの」


 なんか勘違いしているようだった。

 わからないというのが、俺の能力マギアが使いものにならないから言わなかったのだと思っているらしい。

 と、まあそこまで言うのであれば言うしかない。


「名前は、『ギルティ』」


「名前の感じからして、使いものにならなそうな感じはないわね。それで、どんな能力マギアなの?」


「わからない。これは本当なんだ。今まで、この能力マギアが発動したことがない。いや、使えたことがない」


「それってつまり、どんな能力マギアなのかもわからないってことよね。とりあえず戦力外としてカウントしろってこと? 特技とかはないの? 狙撃とか、格闘術だとか」


「俺は等級ランクEなんだぞ。できたら等級ランクEなんかになるわけないだろ」


 俺は、もう開き直ったかのようにそう言う。だって、てきないのだから。


「いや、開き直るところじゃないでしょ。拳銃ぐらい使えるようになりなさい! そうしないと、本当に話にならないわ」


 そう言われてしまった。

 まあ、当然といえば当然のことだ。

 今の時代、能力マギアが使えないとなるとどうしようもない。

 それでいて、特技も何もなければ話にならない。

 つまり、彼女の言う通りだということだ。

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