等級は全てじゃない。

1話 入学式から俺はピンチなようだ。

 俺が通うことになる秀英高校では、今日は入学式だ。

 なんてことを、漠然と思いながら、学校までの、緩やかな傾斜の坂道をトボトボと歩いていた。



 俺は学校に着くと、名前順の名簿があるのを見つけた。

 その名簿をよく見てみると、そこには入学者の名前が書いてあることがわかる。

 近くには、クラスと出席番号も書いてあった。

 俺の名字は釘宮くぎみやだ。つまり、カ行と書かれた場所を探せばいい。

 か、き、く、く、、、釘宮。

 あった。一つしか書かれていないから、俺の名字で間違いないだろう。

 クラスは、えっと、3組。番号は、えっと、17番。

 他の人の部分を見た感じ、クラスは8クラスで、一クラスは、だいたい40人くらいといったところだろうか。

 そんなことを確認し終えると、俺は自分のクラスに向かうことにした。



 今日は入学式だ。さすがに遅れるわけにもいかない。

 つまり、何が言いたいのかというと、暇なのだ。

 入学式までの時間がかなりある。クラスメイトも全然来てないうえに、知ってるやつはいない。

 さらに、俺は誰かに積極的に話しかけるなんて、高度なことはできない。

 だからこそやることもなく暇なのだ。


 そんな感じで暇な時間を過ごしてた俺は、気づいたら寝てしまったようだった。

 いつ寝たのか? そんなことはわからない。そもそも、寝たという記憶がない。

 ただ、俺の中に残る一つ前の記憶と現状がまるっきり違う。

 簡単に説明するのなら、閑散としていたクラスが賑やかになっていた。

 そして、今更のように時計の針を見ると、入学式の始まる5分前であることを知る。

 そして、教室に女性の先生が入ってきた。スーツ姿なわけだし先生だろう。

 見た目はだいたい20代後半といったところだろうか。

 そんなことを思い、しばらく待つと、先生は口を開く。


「私は、このクラスを担当する、担任の黒羽香澄くろばかすみだ。これから入学式が行われる。そんなわけだから、廊下に並べ」


 怒らせると怖そうな先生だと、声質からなんとなく判断する。生徒の大半はその言葉に従うように、廊下に並び始めていた。

 

「お前も早く並べ」


 俺は担任と述べた、黒羽くろば先生にそう言われ、波にのるかのように、彼らの後ろをついていく。

 俺は普通についていきながらも、少しだけそこに不気味さを感じていた。

 なんか、まるで彼らが人ではなく、機械のように思えたから。

 しかし、なにか起きるわけもなく、体育館に着く。

 そして、普通に入学式が始まった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 入学式は滞りなく進み、もうすぐ終盤にさしかかろうとしていた。

 

「次に、当校の生徒会長からの言葉です。生徒会長、お願いします」


「はい」

 

 そう返事をしたのと、前に出てきた人物は違っていた。 

 なぜわかったのか。それは、前に出てきた人物は、俺たちのクラスの担任である、と言ったはずの黒羽香澄くろばかすみであったからだ。

 どういうことなのだろうか。

 生徒会長が話すというのに、なぜ担任が話そうとしてるのか。

 そして、なぜ俺の他に誰も疑問をもたないのか。

 全く理由がわからない。

 ただ、この空間が異質であることはわかる。

 けど、そんなことはお構いなしに先生は喋り始めた。


「さて、貴様らの中に私の催眠ヒプノが効かなかったのは、7人だけだった。と言っても、これが聞こえているのは、その7人だけだがな」


 そう言うと、先生はこっちの方を見渡す。そして、俺は先生と一度だけ目があった。

 気のせいじゃない、間違いなく目があった。

 パンっ、と先生が一度手を叩く。

 すると、他の生徒は一斉にキョロキョロしだす。


「生徒会長、それではお話を」


「はい」


 そして、何事もなかったかのように生徒会長は話し出した。


「まずは、皆様ご入学おめでとうございます。私がここの学校の生徒会長を務めてます、永遠之鴪華とわのいちかといいます。今日は、一部を除いて二年生、三年生がこの場で祝えなかったことを、悲しく思います。そんな、二年生、三年生を代表し、私はあなたがた一年生に再度お祝いを申し上げます」


 話し出したのを皮切りに生徒は一瞬で静まり返り、生徒会長の話を聞き始める。

 そうなるのが決まっていたかのように。

 そして、さっきまでのざわめきが、嘘であるかのように。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 生徒会長の話も終盤に差し掛かる。


「──最後に、ちょっとした話になります。等級ランクEの者の中に、催眠ヒプノが効かなかった者がいるようです。もし、その者との勝負ゲームに勝った際には特別に、『3等級ランク』の昇格とします。そして、その期限はまでです」


 そう爆弾を投下し、生徒会長と名乗った少女は完璧な所作で階段を降りていく。

 と、階段を降りる途中で生徒会長が顔を上げた。

 そのとき、微笑んでる生徒会長と、一瞬だけ目があったような気がした。

 そして、生徒会長の最後の話を思い出す。

 

等級ランクEの中に、催眠ヒプノが効かなかった者がいる』


 よく考えなくても、それが俺であることはわかった。

 なぜなら、そもそも等級ランクEの者は、学年の中でも最初は5人しかいないからだ。

 これだけたくさんいる中で、催眠ヒプノが効かなかった者はそもそも7人しかいない。

 その中に等級ランクEの者がもう一人いるとは、到底思えない。

 ただ、それに気づいている者は7人しかいないということは不幸中の幸いと言うべきだろうか。

 しかし、一つだけハッキリしていることは、この後、全力で逃げなくてはいけないということだ。

 等級ランクは上位 等級ランクからなら誰でも自分よりも下位 等級ランクの人物を知れるからだ。

 そんな状況なら、とりあえず等級ランクEをやればそのうちあたると考え狙われるだろう。

 そもそも、5人しかいないのだから。

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