第四章「試練の夕暮れ・関係者:松原・敬」

 僕は目を覚ますと、馴染んできた寮のベッドの上だった。頭にまだ少し朦朧が残っていたらしい。

 しかし、今のそれを気にするところではない。上半身を起こして隣に転がっていた径庭で日、3月20日の午前6時13分だと確認した。

 獅子神に言われた通りに次の日に眼覚めたのだ。

「1日しかない……絶対に謎を解いてみせる、未来の僕」

 気合いを入れてすぐにトシさん達に連絡した。佐藤さんと違って高山兄妹はまだ寝ていたらしい。

『今日は必ずあの小林・多寿子を見つけ出さないと。できるだけ早めに』

『勿論! 今日はどうしよう皆?」

『とりあえず中村先生に連絡してみる、8時に署での集合』

 立ち上がって着替えていた時に、鏡で自分を見つめていた。これは5年後の松原・敬だけど、僕はもうこの自分になる保証はなさそうだ。

『お前はもう、俺はかつての自分じゃない。俺でありながら、お前だけの松原・敬だ』

 その言葉に惹かれた。僕はその風に自分に認めてもらうなんて、想像すらないけど、僕にとって最も大事な物となった。

 そしてその言葉の主の居場所を守れるのはこの僕だ。

 鏡の向こうに、おそらく2度と会わない自分とのお別れの言葉に兼ねた、僕の僕への誓いであった。

 部屋を出て商店街を抜ける途中にバナナと缶コーヒーで早く朝ご飯を済ませておく。念のために真朝町公園によってみたが、小林さんの姿が見当たらない。警察署に向かっていた所に先生の返信が入った。

『署の変におるや。ほんで会おな』

 駆けつけて5分以内に目的地に着く。

 先に待っていたのは皆だ。まだ半分寝ているボサ頭のトシさん、やる気で目に火が出ているミズちゃん、そしていつでも優しくて大人しそう隠れオタの佐藤さん。

 今日は何があろうと皆と最後に過ごす1日だと思い出すと、胸の中には切なくなった。

「おはよう松原君、今日はやる気満々のよね」

「やることは多いからさ。いいか皆、今日で絶対にこの事件の闇を暴くんだ。僕たち全員で」

「えッ? 敬君もしかして何か分かったの?」

「まだだけど、やるべきことは分かる。僕たちは必ずあの小林。多寿子を見つけ出さないといいけない。彼女はきっとこの謎を解く鍵となるかもしれない」

「どうしてそんなこと言うの? 確かにトッちゃんといた時に怪しいこと言ったけど、もしかして彼女が事件との関係している?」

 僕は既にそういうことがハッキリ分かる。しかし、尋常に知るすべのあるはずもない自分は、密に作戦を実行した同時に皆を誘導しないとい行けない。でないと、混乱を招いてしまうだろう。

「覚えている、佐藤さん? あの涼太の人に手紙が送られてこと。その手紙を受けた後彼は英志を通報したんだ。なら、その手紙の内容より気になることは何だろう?」

「それは……」

「それを送った奴ってことか?」

 図星をついたトシさんに僕たちは見開いた。朝早いから佐藤さんの脳はまだ全力で働いていないかもしれないけど、ここでトシさんに追いこされた佐藤さんはむしろ目にハートが描かれたみたいだ。

「と、トシさん凄い……よく分かったね……」

「バカされてんのか! 恵理お前もその変な目で見てんじゃね!」

「お兄さんの奇跡的な閃きをさておいて――――」

「オエ」

「――――敬君の言うことは正しいと思う。しかし、どうやってあの人を探せばみつけるの? 真朝町って大きいのよ」

「その必要はないらしいや」

 署内から中村先生はいきなり出てくる。思った以上早めに着いたらしい。

「昨日の深夜、あの女が逮捕されたらしいや。署内のダチに相談しに来たら、そう教えてくれはった」

「先生って以外と顔広いっすね」

 この上に手間が大幅い省けた朗報はないと内心に感謝した。奇跡の中の奇跡とでも言える。

 僕たちが分かれて後、先生は署内の友達に話しを持ち込んでその友達が捜査したらしい。切っ掛けは僕が旦那の涼太の遺体が発見された同じ路地から出てくるくる目撃のおかげだそうだ。

「先生最高! 本当にありがとうございます‼」

「ええってことやん。すぐに面会ができるようにしたんだ。先生はそろそろ本校に戻れへんと。やるべき事をやってき敬!」

「あッ! 佐藤さん、一緒に来てもらえる? 僕たちでなら、上手く尋問できるだろう」

 佐藤さんは僕の頼みが思いもよらなかった顔をしたが、両手を握って可愛く胸の辺りまで上げて――――

「やっちゃおう! 尋問ってちょっと違うけどね……」

「ああ。トシさん、ミズちゃん、ロビーで待っててくれる? 後で合流するから」

「「了解」」

 署内に入って手続き中に受付のお姉さんとあることを確認した。

「高巻警部と仲田警部は今日いらっしゃいますか?」

「仲田さんは本日捜査で不在ですが、高巻さんならいますよ」

 運がまだ尽きていないようだ。

「警部と面会もお願いしたいです。出来れば今からの面会すぐ後に。ロビーに座っているあの二人と一緒で」

「かしこまりました。お伝え致します」

 僕の請求の理由を聞きたそうな顔佐藤さんにただ自信げの笑顔を見せ、二人で面会室に案内してもらった。

 これこそが、僕と未来の僕の作戦の初歩だ。上手くやらないと、与えられた唯一の有利が台無しになる。それを考えながら、あの真っ白の息苦しい部屋に入って佐藤さんと共に肝心の小林さんに向き合う。

「またアンタなの?」

 小林さんの目に光の欠片一つもないようだ。まるで諦めて全てをなくしてしまったような表情だ。

「アタシ、もう疲れているの……お願い構わないでくれる?」

「ごめんだけど、それは行けません。小林さんにどうしても聞かせてほしい事があります。そして、それは多分釈放に繋がるかもしれない」

「釈放って……アタシ、これであの時の時にやっちゃったを償っているかも」

「その言葉……」

「どうした佐藤さん?」

「ううん。ただ、中川君が以前似たようなことを言って不思議だなと」

 英志は言ったことと似たような言葉だと? 

「小林さん、単刀直入に聞きます。僕、どうしても昨日の貴女の事に関して気になる点が多い。でも、貴女は旦那の殺害に関わっていないと思う」

「松原君、ちょっと! どうしてそれを言えるの? 旦那の遺体が発見された同じ路地から出た彼女を、あなたこそが目撃したんじゃなの?」

「でも、その時もし彼女が本当にあんな事をやったら、そんなに冷静でいたとは思わない。隠していたことがあったに違いないけど、何より自分の存在を知りたくないにみえた」

 あの時、僕たちと喫茶店まで付き合ってくれることもあったけど、トシさんが涼太さんの殺害の連絡があった時に彼女も驚いた風に思わせたのだ。まるで……

「貴女、どうしてあの日その路地にいたんですか?」

「……旦那は〃あの人〃に呼ばわれたのよ。偶然にバイトからの帰り道に彼を見かけたら、路地で彼を待つように言われた。何分経っても出て来なくて……私……」

 言い切れずに彼女の身が震え出す。この時に小林さんが何かに怯えているとハッキリ分かったのだ。

「待って下さい、あの人って?」

「恐らく警部の事よ。そうじゃないですか?」

 小林さんは無言でコクンと頷いた。

「じゃ、聞くまでもないけど、貴女は旦那を殺していないよね?」

「……アタシ、妄執に目を暗ませてしまって女として最低の事をした。旦那との絡みの結果として取り返しのない事だった。ずっと彼を恨んでいたのは否定出来ないけど、例えダメな人でも娘から父を奪う何て……アタシには無理に決まってるんじゃん……」

 僕はその言葉の意味を読み取れなかったけど、片手で口を塞いだ佐藤さんが違うようだ。

「それはお気の毒です。それに小林さん、もう一つの事を確認したい。もう隠す意味はないと思うから、改めて聞かせてもらいます。貴女は旦那さんに届いた手紙の内容、または5年前の高巻・明の事件の事を何か知っているだろう?」

「…...高巻・明はあの時私の全てだったの。私、学校の他の女子に酷くいじめられていたんだ。たまに乱暴にされたこともあった。ある日彼は白馬の王子様のように私を庇って仲良くしてくれた」

 小林さんは明君の話しをしていると、未来の僕と似たような笑顔だった。彼にも言われたけど、彼は本当に色んな人に愛された身らしいのだ。人が憑かれがちの妙な魅力のあった人だそうだ。

「両親まで何の期待もされないアタシには本当に大切な存在だった。でも、あの頃の私は正気の沙汰とは言えないのよ。そのせいで彼に執着した揚句、フラれて二人の距離が耐えられない程広くなった」

「残念なことですよ......女同士として分かる気がします」

 男女など関係ないと思ったのだ。

「丁度その頃に不良集団に入っていた旦那が私を見かけたら、一目惚れしたらしい。いきなりお前は私の女だとか言い出し、ストーカーとなった自分がストーカーが付けられちゃった。本当に笑えない冗談だわ」

 密に寂しそうな小林さんの笑顔は告げた言葉と一致しない。変だとは思ったが、僕も最初トシさんに少し苦手でちょっと分かる気がした。

「やはり小林さんは事件の事と旦那と集団の繋がりが知っていたのよね。なら、あの手紙の内容もでしょう?」

「実は、あの手紙に私の事も書いてあった。とてもシンプルな伝言なの......『やってもらうことがある。金に困る事、妻だってもううんざりだろう? あの警部の英志のやっと事を教えろ』って」

「差出人は?」

「書いてなかったの......」

 彼女は話しをここまで聞いて未来の僕と着いた結論が、ほぼ確定して後の一押しで確認していく。

「でも、小林さんは誰かの伝言が分かりますよね?」

「それは......」

「さっきから貴女は何かに怖がっていそうにみえます。その人物のことを考えて無理もないのだ......小林さん、その手紙が送ったのは、清永・正弘ですね?」

「何⁈」

 さすがに驚いたくれた。しかし、未来の僕によってあの涼太さんは大人しく話しを聞く人なら、例の少年不良集団の頭のみだ。という訳で、涼太さんが英志を通報する命令を受けたことだ。

「......よく分かるよね、アンタ。そう、あの人、清永・正弘にやらせたことだ。町から離れたはずの彼はいきなりその手紙を送って涼太に金で口説いて、不吉な予兆みたいなモンよ」

「僕もそう思います。小林さん、本当に話しを聞かせてありがとうございます」

「もういいの? 重要な手掛かりだ! あの清永という男の居場所を聞かなくて―――――」

「彼女が脅威を受けているよ、佐藤さん。これ以上聞くと、命が危ないかもしれない。そうですね、小林さん?」

「......私......見たんだ......明君が中川に襲われた瞬間……」

「何⁈」

 未来の僕から聞いてなかった。

「あの時、アタシには彼を止める術はなかった。警察さえ呼べば、明君が助かったかも......あの人もそういうこと知ってて......私に…...彼を見殺したと……」

 残酷のあまりに、小林さんは沈黙になってしまう。これ以上話しを聞いて可哀そうだ。

 面会室から出て行くと、佐藤さんは珍しく僕たちに声を掛けた。

「アタシ、あの人と関わっちゃいけないと分かる。アンタらに尾行までさせちゃって、その......ごめん......」

「気にしないで下さい、今日であの人の罪を暴いてすぐに娘と合わせるといいですね」

 それを言い残して部屋から僕は出る。後ろにつく佐藤さんはまだ半分ショックで問い詰める。

「ま、松原君、どうしてあの清永・正弘が手紙を出した事が分かったの?」

「正直に言うと、ちょいっと賭けをしてみた。昨日のよるつい思いついたことだ」

 あの明らかに都合のいいがない話しでとりあえず納得してくれた佐藤さんに、腕を掴んで止めた。

「それでも、今の松原君の話しが当たったなら、涼太さんを殺害した犯人って......」

「ああ、その可能性がある」

 顔を青ざめた彼女は信じられないと呟き、状況がどれだけ深刻かと改めて考えただろう。

「じ、じゃどうやってあの人を探すの? また今朝との同じ問題だけど」

「......佐藤さん、僕を信じてくれるんですか?」

「もちろんだよ!」

「なら付いて来てくれ。あと少しで全てが明確になるんだ」

「......分かった。今日の松原君って本当にやる気満々だよね?」

 微笑んで答えた後、僕たちは一階のロビーに戻った。

 佐藤さんに高山兄妹に先の話しを伝えてもらって受付のお姉さんに、高巻警部との面会について聞いてみる。

「申し訳ありませんが、高巻さんは今多忙で面会が出来ないそうです」

 きっと僕の事を聞いて追い払えと命令しただろう。残念ながら、今の僕にはそれを構う余裕はない。

 午前9時に近い、未来の僕に出来るだけ早く真犯人の〃記憶〃に送らなければ、過去で事件が止められないかもしれないのだ。

「警部に弟を殺した犯人の事が分かったと伝えてくれませんか?」

「えッ? す、すみませんが……」

「お願いします! 警部とどうしても会わないと行けません。重要なことなのです」

 受付のお姉さんが突然のあまりの宣言で戸惑ったのだ。どうすればいいか、左右に答えを探すように首を振って、最後に僕を待たせて階段を上がっていった。

 待ちながら、皆がいたテーブルに近づく。佐藤さんは説明が終わって、兄妹二人の驚いた顔で分かった。

「オエ、敬! 一体どういうことなんだ? あの清永の野郎ってどういうことだ⁈」

「結局事件に関係しているの、敬君?」

「......まだ断言できないけど、上手く行けば、今から高巻警部との話しで分かるかもしれない」

「あの野郎との何の話しがあるんだ? あの清永の奴の話しをしても、アイツは英志を犯人をする気が変わらないだろう」

「そのつもりで警部と話したくないんだ」

「じゃ何のためあの野郎と――――」

「真犯人を捕まえるためだ」

 皆はその場に凍えづく。その言葉に疑いに溢れる目で僕に凝視され、ぎこちない程少々居心地悪くなる。

「け、敬君......今何を言った......ま、まさか、真犯人が分かるって?」

「ありえない、どうして松原君がそう自信いっぱいで言えるの⁈」

「今が話せば、皆が混乱になる。完全に確信した訳でもないけど、僕が辿り着いた答えに信じてみたいんだ」

「......敬、お前今の言葉が本気で言ったのか?」

 いきなり、トシさんは僕と目を合って遠慮くもなく問い詰めた。

「ああ。僕は確信していなでも、この道に辿ることに決めた。だから、皆はここで僕を信じて欲しい」

「......ったくお前という奴、本当に波が激しいな。3日前に怖がってた猫をしてのに、今は獲物を見つめる猛獣の目をしやがって......」

 困っていたように首を左右に振って手を上げたトシさんは、僕の答えで満足したように、決心に満ちる笑顔を見せてくれた。

「わったぞ! 今のお前に賭ける」

「ああ!」

「私もです。敬君はそこまで言うなら、付いていくしかないよね」

「ミズちゃん......」

 二人と違って、佐藤さんはまだ納得していなさそうだ。僕の宣言を聞いてから何かに思い込んでいたらしくて、沈黙を破ったのはあるとんでもない事を聞くためにだ。

「松原君、今あなたの体の中に別人が宿ってるなのかしら?」

「え、えッ⁈」

「だって、トッちゃんも言ったけど、ただの3日で変わり過ぎたのよ。それに、さっきから次から次に完璧な推理を立て、真犯人まで分かると? 気になるどころじゃないかもしれないが、どうしてそんなことを?」

「恵理!」

 妙に、未来に来てからこの風に怪しまれるのは避けたかったけど、今に佐藤さんはこうして立ち向かっても僕は落ち着いている。

「......あることに気づいたのだ。決定的な怪しい点とでも言える。それに、ある人の意図で僕たちは誘導されたと、佐藤さんは思わないか?」

「......分かった。私も付き合うよ。しかし松原君、あなたは今から主張とすることは過ちなら、どうなるかと分かるよね?」

 君が想像しているより、どれだけ苦しいくて危険な結末であること、分かる上で今こうして戦っているのだ。

「ああ、もちろんだ」

「それまで覚悟したなら、これ以上何も言わない。全力でサポートするの!」

「ったく冷やせをかきやたって」

 悪戯に怒られたやんちゃな子のように、佐藤さんがトシさんに可愛い笑顔を見せた。

 皆が支えてくれる以上、後は本番に挑むだけだ。その瞬間にその覚悟を決めてせいか、僕の後ろから勝負の始まりを告げる一声が耳に届いた。

「あのようなこと抜かして俺を呼び出していい度胸じゃねか?」

「テメェ......」

「ここは僕に任せてトシさん」

 突然現れた高巻警部はいつも通り不機嫌な表情だ。正直、作戦の中の最も難しい所はここだ。

 今から僕たちは高巻警部を真犯人の存在を示す上、その犯人こそと合わせること。それに、佐藤さんは先に言った通りに失敗したら、警部はきっと二度と僕たちに耳を傾けなくなるだろう。

「俺は忙しいから、手短に聞いてやる。どうぜ、休憩を兼ねてお前らの戯言を聞きに来たんだろう」

「どうですかね?」

 挑発のつもりでもなかったけど、警部の反応でそのように取られてしまったみたいだ。

「高巻さん、小林・多寿子との尋問もありましたか?」

「それを聞いてどうすんだ?」

「だって、そもそも通報者の殺害に容疑者である妻に一刻も早くやるのではないかと」

「貴様、何でそういうを抜かすのか?」

「仲田さんに言われましたからだ」

「何?」

 仲田さんの軽い口のおかげで完璧な嘘ができてよかったと感謝した。僕たちの推理でその答えに着いたと言い出したら、この警部に追い払われるだろう。どうぜ、20歳である皆までガキとして扱って、まともに聞いてくれない。

 だから、別のやり方で彼を揺さぶりながら、もう一つの目的が果たせる。

「仲田の奴、機密な事を軽くガキに喋らないように......アイツお人よし過ぎるんだ。だが、それと中川の容疑に関係がねぇ。わざわざとそんなモンを聞くた――――」

「もちろん、涼太さんの殺人者について話しを窺いたかったのです」

「......何の事か?」

「高巻さんは薄々でも分かりますね。彼女は旦那を殺した理由はないこと」

「ハアア。ガキに相手して俺はどうにかしてる。やっぱ戯言だけによぼ――――」

「でも涼太さんが殺した人は貴方の弟を殺した同じ犯罪者、それには気づいていない様ですね」

 冷静のままでありながら、高巻さんのは火が付いた目で僕を睨んだ。勝負はこれからだと知らせてくれる程、威嚇のある凝視だったのだ。

「貴様は今から言う言葉をよおおく考えとけ。まだなかったことにやれるぞ?」

「不思議だと思わなかったのですか? どうしてあんなタイミングで涼太さんは英志を通報しただろう? それに、何でわざわざ名乗ってやってのですか。その上に、彼は英志に何かを話した数日後殺されたなんて、どう見ても不自然です」

「中川君によって、あの時涼太さんは逮捕に関することを聞きたかったそうよね」

「も、もしかして......口封じってことなの?」

 幸い、ミズちゃんは僕と同じような結論の辿り着いたみたいだ。

「陰謀めいた事を抜かすんじゃね。簡単なことだ。涼太さんはを通報した時に、沈黙を中川に売ったとのことだ。払えなくなったアイツに最初からやるべき事をやっただけだ。本にこそがそれを証言したのだ」

 想定外の返り討ちに僕は少しううろたえた。もしかして犯人は別の手段で涼太さんにそのように言わせただろう。

 しかし、高巻さん自身に知らず、僕の仮定の有利になる。

「もし、それは嘘だとしたら」

「貴様の妄想に付き合う暇はない。それを証明―――――」

「できます」

「何だと?」

 この反応のおかげで僕の最初の質問の答えも分かった。

「小林さんによる、涼太さんが通報した理由はある人物から手紙を受けたなのだそうです」

「手紙? 一体何のこと?」

「その手紙の差出人を聞いたら、高巻さんだって僕たちの事をもう無視できなくなると思います。それは…...」

 気を引き締めて不安を見せないように、僕は警部の鋭い鷹の目に合って、今まで全ての悲劇の張本人の名前をドンと告げる。

「清永・正弘だ」

「......その名前、どこから聞きやがったのか?」

 想像通りに警部が血相を変えた。ずっと構えていたポーカーフェースが少し砕けて、隙間に動転が見えてきた。

「......仲田警部からです」

 僕はまたそのように嘘を付く。二回目で皆の不思議そうな視線を首元に激しく感じたのだ。

 しかし幸い、高巻警部が完全にかかったようだ。

「仲田め......戻ったら、今回に本気で一発をくれてやる」

 僕にとってはその言葉に、過去にあった事を踏まえて捉えた意味に、少しでも本気に聞こえた。

「仮にあの男は涼太さんの事件に関わっても、高巻・明の殺害に関わった根拠はない」

「しかし、どうして英志を通報する理由はあったのですか? おかしいく思いませんか?」

「それは......」

「僕はこう思います。5年前、英志は弟を襲った後に救急車を呼びに行った。しかし、その後被害者が二回で襲われて跡があったらしい」

 そんなことを知って高巻警部にはあまり嬉しくない話しでありそうな顔だ。

「だからもしかして、英志は救急車を呼びに行った時に、第三者が襲われた被害者を見つけた。それで、周り誰にいない場所に彼に留めを刺した。もちろん、その人はあの清永・正弘だと言いたいのです」

 高巻さんはのっけから第三者の可能性を見出したか分からないけど、涼太さんが手紙を受けた以上、削除出来なくなった。

 それこそは僕の目的の一つだ。

「......それはどうしたんだ?」

「な、何?」

「もしそれは事実だとしても、俺はあの男を追求する術はねぇ。それに仲田から聞いただろう。被害者の襲撃はあまりに酷過ぎて病院には間に合えなかったかもしれね」

「まさか、それで英志を唯一の犯人にするつもりですか」

「そもそもアイツは被害者を半殺しまで襲ったのだ。事情に変わりはねぇ。中川・英志は手の届く唯一の犯罪者である以上、亡霊を追う必要はねぇ」

 言いながら、高巻さんは僕たちの目に合ってくれない。情報交換の時に未来の僕にも言った......

『アキの虐待の事を分かったら、もちろんあの警部の事も怪しく思った。だが、アイツの遺体が発見された時に確信した。半分しか覚えないが、あの悲鳴と涙は弟を殺せる人にはない』

 高巻さんは多分、長い間に弟の殺人をひたすらに探していた。前を進むために、彼必要のあることだろう。

 そしてそのせいでどんなてでも英志を犯人にしようとしている。

「ざけんな......」

 ずっと黙って聞いていたトシさんは突然前に出た。

「テメェは最初から気に喰わなかったんだ。だが、弟のためにそこまでをやりやがってどうしても嫌いになれない。でも実に下らない自己満足で俺らの友人を犯人にする気? 弟がきっとあのようで悲しんでんだろう」

「分かった口を叩くんじゃねぇ......貴様らガキのクセに友人とかを救いたくて探偵気取りをしやがって、俺と同じなんだ」

「一緒にすんじゃねぇよ! 吐き気がでる」

「もうこれ以上聞く必要はねぇ」

 それで警部は僕たちに背中を見せて階段へ歩き出す。

「いい加減にして諦めろ。そもそもあの亡霊を引き出せる術は―――」

「あります」

 その四文字は耳に届くと、警部は立ち尽くしてさっと僕に振り返った。

「今なんだって?」

 彼の目は少し興奮で震え出している。最後の一押しだ。

「正確に言うと、あの男を見つかる方法は既に高巻さんのすぐ傍にあります」

「......抜かせ......もしろくでもないを言いやがったら、愛する友の隣の牢屋にぶち込むんだ。もうこれ以上戯言が許さんぞ」

「......仲田さんだ......彼を呼べば、清永・正弘のいい場所が分かるはずです」

 不安や嘘を探っているように警部は僕の目に睨みつけた。ここまで来たら、僕はもうおそれることはなく、決心の炎に満ちた目で見返した。

「......いいだろう。今回だけが、付き合ってやる。一度きりのチャンスだ。無駄にすんなよ」

 警部はシャツのポケットから折り畳みの携帯を取り出し、すぐに仲田さんにかける。幸いに、近くにいたらしい。

「10分ぐらいはかかりそうだ。それまでここで――――」

「それはダメです。面会室でなければ、意味はありません」

「どういうつもりか?」

「今に説明しても時間の無駄です。それに、英志もいるようにしてもらいたいです」

 その瞳にまだ疑いの跡が残りそうだったけど、これで作戦の最終段階まで辿り着いた。壁にあった時計で時間を確認した。

 五千10時に近いだ。

 未来の僕に高校の授業が終了前に〃ここ〃を片づけてるように頼まれた。

 時間の余地はたっぷりある一方、高巻警部に与えられた機会を無駄にしたら、全てが終わってしまうのだ。

 だから、時間との’勝負ではなく、今はこの警部と真犯人との2対1の戦いになっている。

「高巻さん、正直に今までの貴方の話しを聞いた限りに、お兄さんと同じような気持ちです。しかし、今は英志君も敬君も信じることに選らんだから、 私の方からもお願いします」

「同じです。ここまで付き合って頂けたら、肝心の中川君を立ち会うのも当たり前のではないかと」

「見たか? 最後まで諦めない本当の男のやり方だ。デカさんも見習っていいよ」

「皆......」

 自分はまた世界に囚われて馬鹿馬鹿しく思ったのだ。最初から僕は有利の立場だ。

 ここは最初から2対5の勝負だと再び分かった。

 最後のトシさんの言葉に刺されたかのように、高巻警部は目を逸らして――――

「いいだろう。貴様らはそこ待つがよい」

「差し支えないなら、僕は高巻さんと一緒に待っていいですか?」

「......好きにしやがれ」

 それで、高巻さんは署内から出た。おそらく外で仲田さんを待つために。

「皆、先に行って英志に状況を説明してくれ」

「おお! 任せとけって」

 全ての準備は整った。後は決めるのみだ。

 高巻さんと一緒に外に立って息苦しい二人の間の雰囲気で待っていた。

 5分ぐらいは経ち、僕はやるべきことに頭の中で振替えながら、高牧さんは突然に僕にある事を言い出す。

「名前、なんだったっけ?」

「ま、松原・敬です」

「......弟の明によく似ている、その真っ直ぐな目は......」

「そう......ですか?」

 いいか悪いかが分からないけど、僕の傍にそれをそっと告げた高巻さんはとても寂しそうにみえた。

 彼はやってきた事が許しがたいながら、この事件の全てが解決できたら、どこかに前に勧めるといいなと密に思う。

「お疲れっす、高巻さん。おや、これは松原君じゃないですか? 珍しい組み合わせっすね......」

「こんにちは仲田さん......」

「中に入れ。話しがある」

「僕に話しですと?」

「入ったら、分かるんだろう?」

 高巻さんは先署に入ってから、僕と仲田さんがその後に付いた。

「君、何か分かるかね?」

「小林さんに関する話しらしいです」

「そっかそっか。確かに君は彼女を現場からの逃亡を目撃したか」

 聞かれないように小さな声で言ったが、警部でけある高巻さんに嘘が聞かれたそうだ。しかし、彼は何も言わずに少し僕に振り向いてから、また前に向いてくれた。

「ちなみに、仲田さんは本当にタバコを吸いますね?」

「まぁ拾った悪い癖だ。俺、辞めようとしても中々辞められないな」

 まただ......今まで感じていた違和感を確信する。

「好きなブランドがありますかな」

 仲田さんは親切に黄色の星のあるオレンジのタバコのパッケージを教えてくれた。

 ......

「ありがとうございます」

「仲田、お前......最近口を滑り過ぎるんじゃねぇか?」

「中川・英志の事件のことっすか? まぁ、彼らは友達のためにやってるしょうがない。話ぐらい聞いてあげたくなるっす」

 階段を上がって後ろに付いている仲田さん様子を時々窺ってみる。いつも通りに平然とした表情が見せない顔だ。

「どこへ行くんっすか?」

「面会室だ」

「そうっすか」

「例の小林さんと確認したい事だそうです」

「…...君、いつ高巻さんの助手になったんだろう?」

 小馬鹿されたような笑顔で言われたけど、怪しまらないようにその事を言い出した。高巻さんはまた僕の嘘を暴かないでくれたのだ。

 持ち込んだ話はここまで効果があって、正直にまだ信じられない。

「今日の係官って確か、斎藤だっけ? 昇給どうなったんだろう」

 廊下にを通し、高巻さんが先に面会室に入る。その時、仲田さんは僕の肩を掴んで和やかな笑顔を教えてくれた。

「高巻さんの事を悪く思わないでくれ。彼なりに決着をつけたいだけです。親友は本当に無罪なら、そう証明できる方法が必ずあるんだ」

「…...ありがとうございます。仲田さんに助けられっぱなしして、大変お世話になっています......」

「まぁ、僕はただ正義を実行する警察に過ぎない。では、中へ」

 仲田さんは先に、そして最後に部屋に入った僕は直ぐに扉を閉じる。

 中にいたのは皆、佐藤さんと高山兄妹、高巻警部、そしてガラスの向こうに英志と係官だ。皆の顔からすると、僕は何かを喋るように待っていたらしい。

 しかし僕はこの時をずっと狙っていたのだ。ここは僕が話すべきではなく、むしろ誰かの反応で分からせることのみ。

 何秒に静まり返ったその部屋の沈黙を破ったのは、震えあがった中川・英志の小さな声だった。その言葉こそがこの闇の全てを追い払う凄まじい真実となる。

「......き、清永、さん......」

 英志の視線は仲田さんに固定されていた。見開いて青ざめ、目の前見ている事を信じられないような衝撃の表情だ。

 皆は分かるはずものなくてその視線を辿って仲田警部に集中する。高巻警部以外に。

「貴様…...今何だって?」

「聞いた通りです。高巻さん。嘘までに付き合ってくれて感謝します。約束通り、清永・正弘に合わせました。貴方は確かにその彼を仲田・崇介だと読んでいましたけど......」

 僕のやろうとしたことがいよいよ分かって、一瞬に頭が真っ白となったよう顔の皆はどう反応すればいいか困りそうにみえた。

「何の事っすか? 俺に別人と勘違いしているそうっすけど?」

「そこは〃僕〃じゃないですか? 仲田さん」

「......何?」

「ずっと気になったことですけど、貴方はよくそうやって一人称を変わりますね。それに、ある場面に限るのだ」

「気のせいじゃないのかな? それってそんなに大事なことじゃないよ。癖だけっしょう」 

 最初に〃俺〃に集中していたおかげか、いつの間に仲田さんの喋り方のその特徴に気づいた。未来の僕に話したら、大事な事に理解させてくれたのだ。それは......

「貴方の本性、つまり本当の自分の事を話す時にいつも〃俺〃になる。さっきもそうでした。タバコはどこかで拾ったと教えた時もそうです......」

「おえおえ勘弁して下さいよ。そこの中川さんも似た人と勘違いしているだけっすよ?」

「仲田…...お前…...言われてみれば、中川の尋問どころか顔すら合わせたことはねんだ…...」

 所詮、僕たちも同じことに気づく。

「忙しいからに決まってるっしょ。ほら高巻さんまであんな事を言っ―――――」

「それだけじゃないです......涼太さんは英志を通報した時に、あるとんでもない話しをした。英志から金をもらって警察に黙ってあげたという取引らしい。英志......そいういうことがあったか?」

「…...ない......」

 仲田さんから目を逸らさずに英志は答えてくれた。

「じゃ、涼太さんはどうしてそのような事を言ったのか。小林さんによると、ある手紙をもらって英志を通報したそうだ。ちなみに、その手紙にあの嘘の取引の事は一切に書いてなかったみたいだ。じゃどうして勝手に話しの内容を変えただろう?」

「…...」

「高巻さん、涼太さんが通報した日に最初にあったのは貴方ですか?」

「いいえ......それはコイツだ」

「やはりか。涼太さんはその命令を受けるなら、高巻さんに会った前になる。だから、仲田さんにしかできないことだろう」

「......別の日にあの差出人にあって――――」

「それはないのです。小林によると、その手紙を受けた次第に涼太さんはここに来たらしい。朝になるから彼女に外出した時を聞いて、他の人とあった余地の有無が確認できます」

「......」

 すっかり黙り込んできた仲田さんは弁解や反論は控えていたらしいのだ。僕にはこの一本の道に踏み込んだ時点、後戻りはなくなった。

「貴方は何故真朝町に戻ったか分かりませんけど、確かに今までの話しはただの僕の思い上がりに聞こえる。でも、それに今の英志の反応を追加したら、せめて調べる必要ぐらいができてしまう。そうですね、高巻さn」

「......仲田、貴様はまさか本当に......」

 どれだけ自分の姿を変えようとしても、昔の知り合いが誤魔化せないのだ。その理由でこの人は決して英志の前に姿を表さない。それに、最初から事件の事を教えるのはむしろ惑わせるためだった。

「被害者の死因を巡る不思議な点と英志の話しの間にあった矛盾、それを利用して高巻さんに敵対をさせるのは目的でしょう。それは恐らく、英志から貴方の話しを聞いて調べたら、気づかれる危険があったからです」

 それに、過去で未来の僕は2つの大きなことで気づく。一つ目はタバコを頻繁に吸っていた涼太さんと同じブランド、そこから〃拾った〃だろう。

「.....お前、細かい事にこだわるタイプだろう本当......」

 もう一つはその台詞こどだそうだ。その全てを揃って未来の僕は思った、町を離れた清永・正弘は再び戻った時に英志が逮捕される。どう考えてもタイミングが良すぎるのだ。

 この男は戻った理由なんて分からないけど、意図的に英志を逮捕されるの目的らしい。

 どう考えても涼太さんの殺害も口封じと言うことなら、彼は隠している事はただ一つとなる。

「......斎藤。お前の昇給、残念だなぁ......手を出して何とかしてあげようか......例の借りの変わりに」

 今の状況を無視した彼は向こう側の係官のその言葉をかけって、何も言わずその係官が一人で部屋を出て扉に鍵をかけたそうだ。

「オエ斎藤何のつも――――」

 ガチャという音がなった瞬間に、僕たちは悲惨な状態に陥ったことが分かった。

「彼より自分の身に心配した方がいいのよ」

「ガッ」

「敬‼」

 左腕で僕の首を苦しく締めながら、右手でこめかみに銃口が向けられている。すなわち、人質にされたしまったのだ。

「勝手に動かない方がいいぜ......コイツの脳みそが簡単にばら撒いてしまうさ。バーンと」

「貴様......本当に、あの清永・正弘だったんだ」

「まぁな......ガキにバレたのは腹立たしいが、高巻お前にあれほど簡単に騙せたとは想像以上だ。さっさと銃をこっちよこせ。それにテメェら地面に伏せろ」

 高巻さんは従ってくれてしまって、持っていた拳銃を地面においてこっちに蹴飛ばす。

 一方、英志はその全ての展開を見てさっきから強くガラスを叩いていたのだ。

「お願い! 彼らを何も竹しないでくれ‼」

「それはコイツら次第だ英志。そもそもテメェは不要な希望を持ってしまったせいでこうなっちまったぞ。大人しく刑罰を受けたら、楽に済むだろう」

「どうするつもりか。署内だぞ? 逃げ場はないさ」

「警察って本当に頭の回転の遅い生き物だなぁ。さっきでこの署内の数人の子分がいると分かんねぇのかよ?」

 高巻さんはその言葉を聞いて冷や汗まみれの顔上げる。それは僕たちを無残に絶体絶命な状況だと知らせてしまったのだ。

「正直にまた手を汚さずにこの事件を見届けようとしたな。しかしもうバレた以上、逃す訳には行かない」

「......ざけんな......ずっとお前なんかに騙せれていたのか......」

 トシさんの声で彼が暴走寸前だと怯えたのだ。この男に怒らせてどうするか分からないけど、隣の佐藤さんと高山さん目が僕にあることをハッキリ伝えてくれたのだ。言葉もなくて彼らは何を考えているかをすぐに分かる。

「まぁ、テメェらクソガキがあんに必死になってしょうがないこと」

「ちッ。たかが元不良の分際で大学生に暴露されちゃって偉そうに言うな」

「何だと?」

 トシさんはゆっくりと地面から立ち上がった瞬間、清永が銃口を頭から離れてゆく。きっと立ち向かった青年に向けようとしたが、その途中に僕は全身を後ろに彼と共に倒した。

 聞こえた限りにトシさんと高巻さんは駆けつけきると思うけど、清永は迅速に立ち上がって迫ってくる警部に――――

「グゥワッ!」

 ――――瞬きの間にどこかに隠されたナイフで脇そ突き立ち、その光景に戸惑ったトシさんの胴体の真ん中に猛烈な一発を放った。

「ガァァ――――」

 ただの3秒で二人がやられてしまう。僕に整える暇もくれず、顔を蹴られて簡単に処分されてしまった。

「余計なことをしやがるな......」

 冷静な声色で拳を鳴らして僕に迫る彼は、前と同じようなガチャの音に止められた。彼の後ろに両手を震えながら、足をがくがくとしていたミズちゃんは銃口を清永に向けている。

「お嬢さんよ、あの物騒な物下手に手にして傷つけられちゃうぞ」

「か、彼らから......離れて」

「どこへ?」

「と、扉を開けて外に出て......言うことを聞け!」

 清永以外、その場にいた全員は凍えづいた。今はもっとも気になるのは高巻さんの重傷だ。この場からどう逃げるかを、全面に走った痛みを耐えながら、必死に考えていた。

「君は撃たないぞ。いや、むしろ撃てない」

「撃つよ! 大事な人を守るなら」

「はぁぁ。この経験で何も懲りてないなお嬢さん」

 追い詰められた子猫のようなミズちゃんと違って、拳銃を持った女子が何事もなくて穏やかに近づいていく。ミズちゃんは一歩を下がって向こうのガラスを恐慌に叩き付ける英志は、恋人の名を必死に呼んでいた。

「貴様は自由じゃない。俺を撃つなら、背中を見せた時点で撃っただろう。お前は人に撃っちゃダメとうい社会の縛りに装束された身だ。ほら」

 清永は何の躊躇もなく銃口を至近距離までミズちゃんに近づく。

「それにお嬢さんは俺を撃つならどうなるか分かるかな?」

「…...」

「そうだ......貴様は俺と同じように雑人者になる。お嬢さんはその選択で今まで通り全力生きていけるのか?」

 そっと拳銃を触れて震えやまない彼女に、親切な笑顔を見せたその清永が間違いなく悪魔と同じような存在にみえた。

「俺と愛しい彼氏の類でなきゃ、つまり人を殺す自由を分かる者しかできないことさ」

 無難に拳銃を取り上げた水ちゃんは膝を崩して地面に座り込んむ。

「美月ちゃん! 大丈夫だ......何とかするよ」

 涙を流していた彼女を抱いた佐藤さんの目で、清永の直射から庇うつもりだと見受けた。しかし彼は拳銃をこっちに向かいながら、英志を隔てるガラスに近づいただけだ。

「やぁ英志、久々だな」

「清永......テメェ、それ以上オレの友達に出したら――――」

「殺すぞとか? 笑わせるな。たまたま拾った泣き虫ガキのクセに。なぁ英志、いいこと教えてやろうか?」

 あの男を見て英志は歯噛みの表情に激怒がにじみ出る。

「あのクソデカの資料全部読んだ限りにさ、あの大事なか弱い幼馴染はお前の襲撃で病院には間に合いそうもないんだ。最初から高巻の野郎はどんな道でもお前を犯人にしようとしたんだ」

「......オレは、その罪をずっと背負っていたんだ。オレのせいで明が死んで報いたかったんだ…...でも、彼をか弱いなんて呼ばせねぇ。テメェさえなきゃ、アイツはきっと応急間に合えなかったんだ!」

「その希望に溢れた目、本当にうんざりだ。そもそもアイツをそこに呼び出したのは俺なんださ。半殺しの肉の塊を見つかったら、英志君英志君とうごめいてたんだ。絶好のチャンスだとなと思って利用させてもらった。ありがとうな、英志」

「清永ァァァ!」

「それに高巻よ」

 まだ拳銃をこっちに向けてたままで、あの男は足で横たえていた高巻さんをひっくり返し、胸を強烈に踏み潰した。

「何故この町に戻ったか聞きたそうだ。隣の町にな、テメェを想像して警察の気分を味わいたくなった。それで故郷はどうしても懐かしくなって何と! ここに移ることになったんだ。神様に本当に愛されているな俺は」」

 清永は微かな笑顔を高巻警部に見せて足に力を更に込めた。胸骨が潰されそうに悶えた警部が見苦しかったのだ。

「俺の自由をずっと邪魔にしてたテメェへ罰だったんだ、弟の死って。だが長年に渡って会うと、まだあの事件の事を調べると見たら、犯人がない限りにテメェは黙らないなと」

「それで英志を利用したか? あの事件とその裏にいた集団を調べたら、いつかお前の存在に気づいくと」

「こんな姿をしても、コイツは中々腕のいい警部だ。俺は連中を操ったおかげで見つからずにいてたんだけど、町を外れたのもコイツのせいだな」

「グワアアァァ!」

 地面は突然、血で染まっていく。警部の体に突き立ったナイフが抜かれ、清永はトシさんの前に投げ込んむ。

「手に取れ。これでねつ造が完了だ」

「テメェの言う事を聞くと――――」

「やんなくても頭をばら撒いてから持たせるぞ。まぁ、好きにしろってこった」

 片手で携帯を取り出して誰かにかけて、やれだけと言って切った。5秒ぐらいの後に、火災警報は署内に鳴り出した。

「んじゃ、ここまでだ。ああばよ!」

「......どうだろう?」

 今度立ち上がったのは僕だ。

「敬! やめろ。あの野郎に立ち向かうな!」

 英志は全力でガラスを壊そうとしがら、僕を止めようとする。しかし、これはチェックだ。警報のせいで半分にあの男に叫んでいた。

「お前のその自由勝手、もう許すつもりはない」

「ほぉ、それって」

 僕に真っ直ぐ銃を向かって――――

「どうやって止めるっていうんだ」

 引き金を引こうとした。

 警報のせいで銃声が聞こえない。トシさんをナイフに持たせるのは揉め事があって数人が殺された。そのようなねつ造で時間を稼いで清永はまたこの町から消えるつもりだろう。

 でも、僕は目的を果たしたことなんてこの部屋にいる6人は知るはずがない。物騒な結果として、全員が殺さることで。

 しかし、後は〃彼〃を信じて任せるのみ。もう全てのピースが揃った以上、後は任せたよ......もう未来の僕。

 あの時、最後に聞いた音は向けられていた拳銃の発砲だった。

 そして、暗闇だけだ......


                   ***


「お疲れ、高校の俺......待っててくれ」

 〃記憶〃はそこまでらしい。

 俺はその時その場にいたら、きっと同じ結果になっただろうと悔しむ

 時間は午前10時35分だ。

 失敗した今日から死亡時刻をある程度推測できたが、やはり今日はどの道でもアキは殺されてしまいそうだ。

 それはこの5年前の収束となるようだ。獅子神がくれた機会でそれを覆すなら、清永と対立することになる。

 しかし、この体で俺一人にはダメかもしれない。だから、この〃今〃で唯一頼れる見方を納得しないといけない。

 つまり、今日でもっとも不安定な精神を持つ英志と先に向き合わなければならないことだ。 

 真朝町へのバスに乗ってその目的を果たそうとしてる俺は、アキと英志でけではなく、勇敢に戦ってくれた高校の俺のためにもなった。

 そして、そのために俺は今朝出掛ける前に取り返しのない莫大な犠牲、親父を無難に会議に行かせたのだ。

 俺なりに、彼と別れをしたんだ。

『親父......俺、まだまだ未熟な奴だ。しかし、親父の望み通り、俺は全力で生きてみせる。何があっても......だから、』

 両手を強く握り締めて彼に心底から笑顔を見せて――――

『親父も絶対にこれからトレーニングに付き合わせてくれ! 俺、ボクサーになるから!』

『何だよいきなり。そのような不吉な言葉を......いいか敬』

 僕に拳を突き出して俺何かの何倍より眩しい笑顔で―――――

『お父さんは強いから、心配すんな。何があっても、お父さんはいつもお父さんでいるよ』

 そして俺に背中を向けて車に入った親父を見届く。何回と〃ごめん〃と呟きながら。

 それでこの時代にやり残すことなくなったのだ。存分に4日間の青春のやり直しを楽しんだおかげでとても軽い気分だ。

 バスは町に着いたら、行くべき場所へ駆けつけた。

 今日は確か、清永の野郎は町を離れることを集団に知らせる日だ。失敗した今日牡牛野郎のあの時の反応、それは朝の辺りに違いない。という訳で、今日に英志は学校に行かないことだ。

 今日にアイツも俺ん家に誘おうという言い訳をしてアキにメッセージを打った事で、学校にはいないと分かった。

 だから彼はきっとあの場所に行くに違いない。

 英志は恐らく、事件までにずっとそこにいる可能性は高いだ。今日のここについて疑問は少し思ったのだ。

 そもそも、アキはどうしてここに来たのか。ここは集団が集まる所が警察さえ知らず、英志に教えらると到底思わない。

 それに英志はここにアキと偶然にあった可能性は、未来にいろ高校の僕の最後に記憶が証明してくれたのだ。

『そもそもアイツをそこに呼び出したのは俺なんださ』 

 あの野郎はそれを言って、この事件に潜んでいた最後の謎を示す。ずっと高巻警部へ敵対を持って町を離れる前に、狂った精神しか生み出さない落とし前のつけ方だ。

 真犯人として、彼は今日アキの殺害を見計らっているが、高校の俺は言った通りにもう自由勝手にはせさない。

 その全てを顧みたら、この涼しい春が眩しく照らす倉庫の方から、犯罪者となる中川・英志が現れる。

 倉庫へに進んだ道を辿って彼の前に立ち向かう。この間と同じように英志はとても機嫌斜めのようだ。

「二度と来んなと言ったはずだろう?」

「今日はどうしてもやるべき事はある。それは最初、お前と話すことだ」

「とっとと帰れ。今日は構う気は――――」

「警察にここを通報するよ......」 

 携帯を持っていた右手を上げる。

「ここで俺を襲っても、緑のボタンを押せる自身ぐらいはある」

「......場所を変えよう。今日のここはよっぽどいてはいけないんだ」

 近くにあった川岸まで英志に案内された。幸い、今から起こることにはこのような広い場所があって助かるのだ。

「さっさと吐け。話しってなんで?」

「......今日、お前はとんでもないことをやるんだ......お前はアキを襲って殺そうとするかも」

「また漫画みたいな事言いやがって......テメェ、しんめんぞ」

「アキは、留学が決定になったのだ」

「な、なに......明が......」

「アイツは恐らくこの町から長い間いなくなるだろう」

「......明までか......くっそうぅぅぅ」

 今のコイツの表情を記憶に焼き付けようとしたのだ。どうぜ、これは紛れもなく中川・英志の本性だ。

 クソ親父に捨てられ、学校の酷い連中にいじめられ、あの狂った悪魔のような野郎に洗脳されて揚句、今の英志は不満や痛みを無暗に振るう生き物だ。

 唯一のカタルシスであることだろう。

 でもそれなら、彼の心の中にある暗闇は追い払えるのは、何回コイツと拳で語った俺しかできない。

 俺は今から、高校の俺の体で英志と一勝負をすることだ。

 正直、勝てるかどうかが分からないが、限られた時間でこの方法しかない。それに、俺の方からも英志に謝罪できる唯一の道だ。

「悲しいか? 納得いかないか? また誰かに捨てられてって」

「分かった口で言って――――」

 一秒も与えず、俺は英志の顔に綺麗なストレートを放って後ろに惹かせた。

 どうせ、そのセルフの最後に俺を襲ってくるだろう。

「よくも......今日に限って......いいだろう......やんのかコラッ‼」

 怒りに目を暗ませた猛獣のように英志は飛びかかった。想像通りにこの体の出せる威力だけが足りない。

 ワンツーに、上からやボディーまで止まない英志の連打を何とか躱せていて、隙間を狙ってカウンターを二つくらいが食らわせた。

 しかしこの飛んだ体力を持つ化け物と違い、特にこの体を宿る俺はこうして長く持たない。

「攻撃をした気になりやがって......」

「俺はお前を見捨てない!」 

 一歩前を引いて誘い込み、かかった英志にそれを告げてカウンターのアッパーを繋がり――

「変なこと抜かすんじゃねぇ!」

――態勢を直ぐに立て直して途端に左のフックが綺麗に返されてしまった。0.5病に気絶したような怯んだが、また降って来る連打に備える。

 右ストレートに――

「テメェみたいな幸せ者、出来損ない不要物のオレの何が分かんだ⁈ ガァァ!」

 ――左に腰をまげてボディーで反撃した。

「知った口を叩くのはお前だろう。今日ここでいるためにいくら犠牲したかしらないくせいに!」

「知る訳ねぇだろう! 昨日出会ったばっかじゃねぇか⁈」

 食らってしまったアッパーより、その言葉が誰ほど正確かと痛かった。しかし、英志は本当に手加減なんかしてない。

 さっきから攻撃が激しくなり、誰だってこのような連打をまともに食らって死ぬのもおかしくないんだ。

 鼻血の温もりが嫌ほど口辺りに感じて目も霞んでしまう。後一、二発が食らったらやられるだろう。

 根性で何とかなりそうもない。しかし、僅かでも俺の攻撃のダメージがドンドン溜まって効いていそうだ。

「ハァァッハァァ......」

 英志が息切れになっていた。

「ハハ、確かに赤の他人だと言える......でもそれは関係ない......俺はあの野郎みたいにお前を見捨てない」

「うるせぇ……お前が何かわかる。あの人がオレに〃強さ〃を教えてくれた。それ以上侮辱を抜かすなら、本気でころ――」 

 話に夢中していたアイツのガードに潜り込み、腰の入れた一発を全面に届ける。

「だから……」

 怯んだ英志に立ち直る暇を与える余裕ができく、続いてにジャブをフックに繋がった。

「昨日も言ったろう......」

 さっきと同じながれで、フックの返り討ちがお見通しで後ろのステップで避けて右のストレートを、一閃のごとくまたアイツの食らわせる。

「そんな物騒なことを言わせない‼」

 英志は地面に倒れ、すぐに立ち上がった。コイツのことなら、今からは最も危ない所だ。窮鼠猫を噛むということだ。

 そして俺の相手はネズミじゃなくてむしろライオンに近い化け物だ。

 顔を上げた英志を見ると、コイツにこれ以上言葉が通じなさそうだと判断した。迅速に距離を埋めて、ひたすらに俺を仕留める狙いで次から次に強烈の連打が降ってかかる。一発と一発の間はドンドン早くなって避けにくくなる。

 足や腰が燃えて追いつけなくなるせで、俺の動きは鈍くなったいた。

 できる限りに英志にカウンターを打っていたが、嚇怒に痛みなどが感じられなくなったらしい。

 全身は降参だと喚いて疲れ果てのせいか、さっき食らった何発のせいか、いつでも気絶しそうになる俺は長くもたない。おそらく、後は一発しか放さないだろう。

 一発だけなら……

「くたばりやがれぇぇ‼」

 一か八かだ。英志は素早い動き方で左足を踏ん張って腰をねじ、全力を駆使する右のストレートを放った。コイツの大好きな決め手だ。

 引かずも緩まずに、俺はその拳へ前に一歩を出して頬掠っただけで、ギリギリ避けられた。顔の中心を狙った右のカウンターに俺の全てを託した。英志を救いたくて、怖がらずに本当のアイツを向き合うという気持ちで、気合いを掛けてその一発を放った。

 その時、俺の右側の脇から痛みが電撃のように全身に走る。もう耐えられずに俺はそのまま膝を崩して地面の倒れた。

 脇を押さえながら、地面に悶えていた。

「痛ァァッ、チックシヨウ‼」

 もし英志は先の一撃で倒さなかったら俺はもうお終いだ。目を開けて周りを見てみる。

 俺は倒れていたからすぐ近くにアイツは見事に転がっていた。

「ガァァ......ヤベッ......気を失うとこだった......ガァァ......」

 ずっと前からその状態で戦っていた身になってほしいなコイツ。

 正直、俺は英志の事が知らなかったら、先のカウンターはできなかったと思う。アイツと最初にスパーリングした時にその強烈なストレートでやららてしまった。

 一時間ぐらいぐっすり寝かせたおかげで、身に刻まれたのだ。

「ったく......内出血してるのかな......」

 仰向けになって呼吸を整えようとした。止まない脇の痛みは脾臓のダメージだと心配をし始めた。アイツが戦うために体を利用する許可をくれても、流石に体を壊したくなかった。

「死にはしねぇだろう?」

「言うかよおま、ガアッ! やっぱ何かが壊れたか......」

「何でわざわざこんなことしに来やがったのか? オレはお前を酷いことをしたのに、あのおかしいなことまで言って......」

「だろう......俺は狂っているかも......」

 少しでも痛みは楽になっていく。今日が終わったら念のために先生に診てもらうかと。

「答えろ......もう何もする気はない.....」

 英志の声は疲れていた。すっかり正気が取り戻されたみたいだ。

「......アキから話を聞いたら、つい俺の親友を思い出してしまったさ」

「親友?」

「あぁ。お前とよく似ている奴だ。クソ真面目に嫌な程いいヤツ。俺は一人を除いて誰より強いだと思う奴」

「オレはそんなに立派なヤツじゃねぇ......ただの弱虫だけだ」

 先の戦いで誰だがそのようなことを思うだろう。でも、それは英志の芯に潜む本当の自分だ。俺はずっと見逃していた彼自身の劣等感。

「そうだね。でも、それもまた彼と一緒だ」

「何?」

「信頼のある先生に言われた事だが、人間は常に強さに拘るんだ。だが、弱さを完全に捨ててはいけない。弱さと言う物はどんな生き物でももっとも恐ろしい強敵だ」

 確かに、俺はあの時英志に負けて教えてくれたことだ。

「訳の分からんことだそれ」

 ......あの時コイツは似たような事を言ったと思い出して、同じようにムカついた。

「弱さはさ、力を飲み込んで力をくれる。俺達を抜け殻にして制覇しようとする。だが、それを乗り越える者こそは真の強さを知る。だから、弱さに目を逸らしてはいけない。どれだけ苦しくても立ち向かって勝つんだ。それは強さを得る意味だ」

 英志は何も言わずに、そこに倒れて俺を真面目に聞いてくれる。

「だからさ、お前のことを知ってふと思った。何で一人で毎日あんな恐ろしい物と戦うお前は、弱さを知らないあの人に付くだろう。俺に聞いたら、お前は十分強いんだ。お前こそはまだ分からなくても、その内に分かるんだ」

「......清永さんはあの時、彼だけがオレに手を伸ばしてくれたんだ。綺麗ごとで意志を隠すこともなく、全力で自由に生きている。オレはそのようになりたかったんだ」

 社会に拒否されて少年達に自由と強さの意味を与える清永・正弘。あの男の魅力や説得力は分からない訳がない。数回しか会っていないが、印象が強く残ったのだ。

 英志にここまで影響しておかしくないだろう。

「しかし…...あの時、お前みてぇなヤツがいたらどうなるんだろう?」

「お前バカかよ? ずっと傍にあるんじゃないか?」

「?」

「ハァァ。身近にあるモノ見失ってしまうってこれか。アキの事だよ」

「あ、明......か?」

「お前は自分に囚われて気付かなかったかもしれないが、アイツは自分を貫ける程強い奴だ。多分、ある意味に俺とお前よりだ」

「......アイツは最近警部の兄のせいでオレから離れていく。でも、アイツは友として思うのは思うんだ......でも、テメェの言う通り......目の前に留学のことが言われたら、先と同じように正気を失っただろう......オレ、アイツを傷つけたかも......」

 俺は無言で、英志にその可能性に悩ませたのだ。もうそれはあくまでも可能性でしかなくなった。

 第一の目的は、これで果たした。英志はアキを襲うという出来事を阻止すること。

「いいか。お前の限られた選択は二つだけだ。彼を支えてやるか、彼の事を忘れて前に進むだけだ」

「......それは......」

 立ち上がれるようになった俺はゆっくりと英志の所まで歩き、手を伸ばしてあげる。

「どの道でも、俺はお前を支える。言っただろう? お前を見捨てないんだ。改めて約束してやるよ」

「......何で? 何でオレ何かに......」

「勝手に決めたことだから。それって俺の自由だろう?」 

「......フン......それかよ」

 愚痴っても、英志には笑顔ができている。俺の手を掴まずに立ち上がって目を閉じたまま、空を見上げた。

 その時の英志は、長い間に抱えた重い荷を下ろす事という、心を解放しかける選択を選んだ。少なくともその風に俺にはみえた。

 時間がかかるかもしれないが、コイツはこれできっと5年後にアキの真似物ではんくて素直に自分でいられる。

 第二の目的、中川・英志を向き合い、心を力ずくでもこじ開けることは成し遂げた。

 後は最後だ......

「英志......いきなりだけど、お前の頼みがある。嫌なら分かるけど、もうちょっと付き合ってくれる? アキと合わせたいんだ」

「明と?」

「あぁ。それに今日でなきゃダメだ。それ以上は言えないが、どう?」

「......テメ、お前......名前何だって?」

 もう忘れたのかと突っ込みたかったが、抑えきった。

「改めて......松原・敬という」

「敬か......いいだろう。でもその代わりに、また俺と勝負しろ」

 勝負より苦戦の方が適切だろう。

「不思議にお前と戦うと、何かスッキリするさ」

「ハハハハハ! いいんだ。でも少し休ませてくれよ。こう見ても俺はもうヘトヘトだ」

「ったく本当弱いか強いかハッキリしねぇヤツめ」

 それで、英志を納得したのだ。

 先の戦いの比べると、今から挑戦に行く場面は遥かに危ない。高校の僕の記憶に見た限りに、俺は一人で何とかできない相手に立ち向かう。

 でもコイツとなら話しは変わるだろう。

 近くのコンビニで水やおにぎりを買って体力を養っていた。さっきのボディーから受けたダメージはまだ完全に消えていないくて、障害になる心配をした。

 英志は素直に見せないが、時々に俺の方を向いて心配していたに違いない。

「って、どこで明に会うのか?」

「お前達のアジトの辺りに」

「何だと⁈ それは行けねぇ。さっきも言っただろう? 今日は特にあそこは寄っちゃ行けねぇんだ」

「知っているんだ」

「知る訳ねぇだろう! いいか、今朝清永さんはこの町を出るとオレらに知らせた。あの辺にいる連中はさっきのオレみたいに混乱の状態だ」

「アキはお前と会わない理由は警部の兄にバレたら不味いんだろう? 集団や清永のことを聞くために署まで連行されるし」

「いくらそれでも他の場所だってあんだろう? 何でわざとアキをそんな場所に―――――」

「呼んだのは俺じゃないんだ......」

「ん、何?」

「そのうちに分かる......お願いんだから、信じてくれるか」

 目に戸惑いがあった英志は少し考え込み、舌打ちをならして腹立たしい声で答えてくれる。

「わったよ......」

「ありがとう」

 時間は1時45分だ。後数時間でアキは学校を終わってこっちに向かう。本人が知らないが、小林に尾行されるのだ。

 向こうの倉庫には何人がいるか分からないが、間違いなく二人は近くに潜んでる。小林の連絡を待つ牡牛やる、そして今から起こる事件の犯人だ。

 休憩を兼ねた時間つぶしをし、4時の少し前に倉庫の近くにあったサインで待つことになった。

 向こうから人の気配はあまりなさそうにみえる。

「ちなみに、清永は町を出ると言った後何をしてた?」

「さぁな。用事があると言ってそのままアジトから立ち去った」

 わざと朝から姿を消しらしい......今どこにいるのか分からないのは、嫌な気分だ。

「明......」

 考え事に囚われていたところに、英志の囁きで我に返る。向こう側からアキは何かを探してるように左右を見て歩いてくる。

 それで事件の全貌を大体分かってきた。おかげで、今から全ての関係者はこの事件でどの役割をして今からの行動にもハッキリとなる。

 獅子神から与えられた試練を乗り越えるなら、間違い一つたりとも許されず、ここで最後が終点として全てが決めるのだ。

「英志君! それに......敬君? どうして君はここに? もしかして、あの手紙は君の?」

 手紙? ......似たような事を思い出して清永の居場所は何となく分かったのだ。これはきっとここから遠くはいない。

「明......本当か? お前…...留学するって......」

「えッ? ど、どうして英志君はそんなこと......敬君が何かを言った?」

「あぁ。悪かった......」

「い、いいえ。大丈夫だよ。昨日からずっと英志君に会って言いたかったからさ」

 またその真面目そうな笑顔なのに、アキは少し緊張にみえた。きっと、英志はどう反応するかが気になっている。

「その......来月になるけど、実はアメリカに行くよ! ......あれ? 二人共征服どうした?」

 まだ土に汚れていた征服に気づいてアキの顔が青ざめた。コイツのこの鋭いところがめんどくさいなとは思ったのだ。

「も、もしかして喧嘩をしちゃった?」

「なあに? ちょっとコイツと遊んでいただけだ」

 親指で俺を指してアイツに、飛んだ遊びをしたなと強く突っ込みたくなる。

「それより明......実はオレもお前と会いたかったさ。敬のヤツから留学のことを聞いてオレは正直......その、狂ったっていうか怒ったていうか」

「は、はあぁ。やはり怒らせたお知らせだよね......でもえい――――」

「だが、それはお前が悪いって訳じゃねぇ。みっとともなくてガキみたいに暴れたオレに、コイツが目を覚ましてくれたんだ」

 驚いたアキは恥ずかしかった俺に振り向いた。まるで友達の背中に悪いことしたかのようにアキの目を合わせない気分だった。

「オレの人生はめちゃくちゃだ。今でもお前この町から出て行くと考えたら、腹が立つんだ。でもそれはあくまでもオレが弱えってこと。いつか、お前に喜ぶようにその弱さを乗り越えてぇんだ」

「英志君......」

「明、オレを構うなよ。向こうへ行きてぇなら、自由にすりゃいい。お前は帰るまでには素直に向かい合えるように、縛りのない人生を生きたい......」

 高校の俺の言葉に思い出す。与えられたことを自分の物にするとは今の英志だ。あの男に教えられた事を別の観点で活かしていたアイツ、きっと自分なりに前に進むとにたようなことだ。

 俺の知っている未来の英志は自由とは言えない。彼は犯した罪の人生に縛られ、自分を殺したままで仮初の幸せで満足していた。

 あの男はやったことがさておいて、英志の強さのイメージとあり続けていたのだ。今の英志なら、それに縛られなくても素直にありのままで全力で生きていけるだろう。

 そのアイツは今俺の目前に、ひと肌脱いでアキを励まそうとしている。

 正直、親友として誇らしく思った。

「まぁ、後で一発くらい殴らせてほしいけどな!」

「お、おえお前!」

「…...分かった! その時は手加減無用だよ。僕だって、英志君を素直に向き合いたいだ!」

 ......他の二人の組み合わせ程、今のコイツらは手にあまると感じてしまう。アキに危害が加えないように俺ほど高億の体を張ってのに、結局化け物の英志の一発で済むなんて苛立つのだ。

「んじゃ。これでいいな、敬?」

「え?」

「約束通り付き合ってやったんだ。二人共さっさとこっから離れろ」

「ええ…...久々に英志君と出会ったのに」

 感情に浸った一瞬にここに来た目的をすっかり忘れてしまったみた。

「いいえ。後一つだけだ」

「聞いてねぇよそれ。お前は明と合わせることしか言えなかった」

「そのために手紙を送ってくれたよね、敬君?」

「手紙なんか送ってないよ俺は......」

「ええ? じゃ、誰からかな?」

 正確に〃いつ〃になるか分からないが、もう直にアイツが現れるはず。それまでアキから目離してはいけない。

 話すことすら無論できないし、何となく時間を稼がないといけなのだ。

「明、コイツはともかくお前はもう帰れ。ここはいていいとこじゃねぇ」

「でも......」

「待って英志、まだだ。もうちょっと待ってくれ」

「先から何なんだお前。あんな怪しい態度をしやがって何かを隠し......お前まさか警察を呼んだのか?」

「そんなことをしない約束しただろう?」

「ならとっとと帰れつっの」

 周りに強く意識をしながら、英志を納得しようとかなり苦労していた。清永がきっとどこかに潜んでいるに違いない。それで、アキは一人になった瞬間に仕掛けるだろう。

 だが、この場面にどうすれば―――――

「そこになにをやがんのか、中川!」

 最悪のタイミングで突然現れたのあの牡牛野郎だった。俺はともかく、英志だってアイツを見てあまり嬉しそうにみえなかった。

「何か問題あんのか、涼太?」

「オエとぼけてんじゃねぇよ、このクソガキ。この二人を見て問題あって当然だ!」

「ガキと言われても涼太って二つしか上じゃねぇだろう」

 煽られて牡牛野郎と構う余裕はなくても、避けられなさそうな問題だ。アキの位置に気を留めてアイツの動きに注意をする。

「まぁいいんだ。実はコイツらを探していてたんだ......付いて来い、話してぇことあんだ」

 ぽきっと拳を成り上がり、邪悪な笑顔で告げた牡牛野郎の狙いは明らかだ。さっきに聞かなくて顔に書いてあるのだ。

 その時、英志は前に出て一ミリぐらいの距離でアイツに立ち向かった。

「アイツら今から帰るとこだ......じゃますんなよ」

「ほぉ、いい度胸じゃねか。やんのかコラッ!」

 俺の後ろから突然にアキの声は聞こえる。少し焦った口調でこの間と同じよう光景が繰り広げる。

「待って! 喧嘩する必要はない。付いていくから英志君と敬君に――――」

「お前の綺麗ごとはコイツの通用しねぞ明。コイツは理解できるのは拳と恐怖だけだ。涼太さんを子犬のようにケツを付き回ってるクセに」

「拾ったクソ野良猫のテメェに言われたくねぇこっちゃ。やっぱテメェもしめんぞ中川......」

 この展開は行けない......コイツとここで揉めあったら、清永に隙間を与えることと同然だ。

 しかし、引かない牡牛野郎との対立が免れないみたいだ。それなら、俺と英志が二人で何とか――――

「一体何の騒ぎこれ」

 後ろから突然、待っていたあの男の登場があった。

 未来で仲田・宗介としてであったアイツ、この事件の張本人である清永・正弘だ。

 今のアイツを見て時間は本当に人の外見の変えるとちょっと驚いたのだ。髪型やメガネだけで過去で初めて会った時、気付かなかくて嫌でも納得したのだ。

「清永さん......」

「清さん! ま、またいたんっすか?」

 英志と牡牛野郎はここで彼と会うのは想像外な顔だ。失敗した昨日も牡牛野郎は似たようなことも言ったと思い出される。

「まぁ、野暮用でまだ少し残る」

「何か手伝えることがあれ――――」

「うせろ涼太」

 清永は目を輝かせていた野郎をいつもの冷静な声色で無残に遮った。途方にくれた牡牛野郎は正直、少し可哀そうにみえたのだ。

「で、でも......」

「二度と言わせるな」

「は、はい......」

 負け犬の顔を俯いた牡牛野郎には俺達が完全に消えたかのように、睨みもくれずに立ちさっていく。

「おぁいや待って。忘れる所だった」

 再びその目に再び光が戻って清永に呼び止めれらたアイツは、子犬みたいに振り返ってはいと大きい声を上げた。

「タバコがくれてから、うせるがよい」

「あ、ああ! やっぱあのブランドが気に入ったっすよね? よかったら、新しいヤツを――――」

「口より手を動け。もう行って欲しいんだ涼太よ」

 言われた通り牡牛野郎はそうして、小さなオレンジ色のぐしゃっとしたパッケージに書いてあった黄色の星を、ズボンの後ろのポケットから取り出して清永の手にそっと置く。それを目撃してコイツはやれば、大人しくいいヤツになれるなと密の思ったのだ。

 それで足を引きずっていった牡牛野郎はここを後にして、残されたのは俺達4人だけ。

「おかげで汚い癖を拾ったな俺は。まぁ、アイツは真面目な男だけど。俺と出会わなければ、立派な市民になれただろう?」

 清永はタバコのパッケージをしまってその差し出口を挟んだ。

「清永さん、時間がよかったら、相談したいことがあります!」

 英志の喋り方の変化のあまりが俺とアキに驚かせてしまうのだ。少し未来のアイツを思わせてくる。

「残念ながら、英志も消えて欲しい。あの二人と話しがある」

「で、でも......」

「英志......今朝に聞いただろう? 俺はもうこの町に飽きたんだ。出来るだけ早く出て行きたいんだから、とっととうせろ」

 声をまるっきりに呑んでしまった英志はその場にオドオドしていたのだ。その時に理解したのは、自分の人生の悲劇の連鎖より清永の影響で英志は遥かに縛られているんだ。一瞬、この場面で役に立ってくれるだろうと心配をさせてしまった。

「話しって何なんだ?」

「英志は去ってもらうから分かるぞ」

「いいえ、彼は立ち会ってもらう。そもそもお前は俺達と用事があるわけないだろう?」

「......お前は確かに松原だっけ?」

 彼から目を離さずに頷いただけだ。

「気に食わない目をしてんな......俺はお前に何かをやった覚えはないが、何だその敵対の態度は」

「先に俺の質問を答えてもらいたいんだ。俺達と何の用だ」

「け、敬君......落ち着いて。話しぐらい聞いてもいいんじゃない? あそこに喫茶店はあるから」

 お人よしのアキでも人の目が多い所を勧めて彼も何かの違和感を感じるだろう。しかし、コイツの目的が分かってそう簡単に聞いてくれない。

「いいや、彼にはそれはできないことだ。どうぜ、ここを呼んだ張本人としてお前をここにいてもらわないと困る」

「僕を呼んだと......あッ! まさかあの手紙のこと」

「何のこと明?」

「僕、今朝靴箱にある手紙を見つけた。『アイツに会いたいなら町の果てにある廃墟倉庫に来るがいい』と。敬君との約束があってけど、どうしても英志君のことかどうかが気になって......」

 そして結果として、俺のメッセージを返信をしなくてあんな目に合わせたのだ。ここのうろついていた英志と会って留学の話しをした。

 でも、実にはそれは清永にも想定外でありがたい偶然だ。英志に犯人をするチャンスもできたし、例のカバンの中身を散らしたのもきっと彼だ。どうせあんあ手紙があったら、高巻警部はカバンに指紋の検査がしないだろう。

 元々の5年前と失敗した昨日も、コイツの幸運でアキを目撃されないように殺害できたのだ。

 しかし、今は違う。

「そんな......清永さん、本当ですか?」

「......お前、どうやってその手紙のことを知ったのか?」

「細かい事に拘る男として当然のことさ」

 自慢げの笑顔をアイツに見せた。俺を向いて目を凝らすことで清永を少し怒らせた風にみえた。

 次にどうなるかに気を引き締めた。

「......ハァァァ。社会に縛れる子羊までに俺様の自由を邪魔されるとは。付いていないな~」

 瞬きの間に全てが起こった。俺の首を掴んで地面に落とされ、見えるのは清永の顔だけだった。あまり近すぎたせいで、仲田を振る舞った時の同じ匂いを嗅げてしまう。

 彼は手にドンドン力を込めていたせいで息苦しくなってきた。

「敬君!」

「貴様は最初から怪しいと思ったんだ。その目は俺を睨むように見えるが、会ったはずない赤の他人は普通にそれはない......誰だか分かんないが、念のために貴様も削除してやる」

 高校の俺の記憶で見たが、この野郎の強さが改めて恐ろしいとと思わせる。足掻いても膝で蹴っても、手は全く揺るがない。このまま気絶してしまうと......

「辞めて‼」

 ちゃんと息が喉に通れたら、何があったか分かる。アキは体当たりで清永を転がせて俺を助けてくれた。

 しかしそれは喜ぶ事ではない。

「アキ‼ あの野郎から離れろ!」 

 すぐに立ち直った清永が目に入ってそこに駆けつける。なるべく野郎をアキに近づけさせない。ここはしばらく人が通らないせいで、誰もが助けて来ない。三人でもコイツに囲まれているとでも言えるのだ。

 アキに手を出せる寸前、俺は一発を放たれて食わせた。しかし残念ながら、英志より遥かに手ごたえはなさそうだ。

「ほぉ、パンチぐらいは打てそうじゃないか? いいだろう。少し楽しませてもらおうか?」

「お願い辞めて! こうする必要は、ガァッ!」

 まだ転がっているアキに、周辺に轟いた強烈な蹴りを顔に当たり、ぶっ飛ばせてしまった。

「貴様は順番を待ちやがれ。後で兄へのプレセントにしてやんよ」

「お前‼ アキに手を出すなんて許さない!」

 両手を上げて距離を埋めたが、英志との戦いで体はまだ完治ではなくて身動きが鈍いだ。清永は俺の連打を簡単に避けて両手を捕まえた。

「期待をしてたのに、これくらいッか? 弱いな、貴様は」

 猛烈な頭突きを食らって膝が崩れ、半分に気絶してしまう。状況の悪化に少し絶望し始めて必死に考えていたのだ。

 早く何かをしないと、アキも俺も殺されてしまう。もう二度と、アイツの死体などを見るは勘弁だ......何とかなれないか。

 それを思った時、目の前に人の影が現れれた。見上げると、絶体絶命の状況を打破するチャンスが生まれたかもしれない。

 この過去と未来を交錯する戦いの引き金となった――――

「何の真似か、英志?」

「これまでにして下さい、清永さん」

 英志は構えるなどなく、あの野郎に立ち向かっていたのだ。手が少し震えるのを見たが、妙に英志の先の声はどうも落ち着いてはいた。

「さっきうせろと言ったんじゃないか? 何であんなヤツを庇うのか?」

「そこに倒れているヤツは一応、オレの友達です......さっき蹴った明と同じです」

「それがどうした? コイツらが消えてもらわなければならないのだ」

「どうしてですか?」

「俺様の自由を障害しようとして、下さなければならない罰だ。あの警部も、先に俺様の計画に手を出してアイツも、許されないその罪を犯したからさ」

 この男、清永・正弘は獅子神の言う通りに嵐だと、告げた言葉で確信した。全力生きる者として、この悲惨なやり方で自分を貫き通す。こうやって町の少年達を利用して治安を乱し、惨劇な事件を起こした。この〃嵐〃に立ち向かう英志は震えた手を、強く握り締めて躊躇が声から完全に消す。

「罪っか......なら、オレもその罪を犯すとは自分の自由でもあるだろう?」

「貴様までか......あんなに可愛がったのに。いいんだぞ英志、自由であり続ける強さを見せてやる」

 二人は距離を広げて腕を上げて全く同じ構えを取った。右手を顎に近くて付け、左杖を外に向いた肘で前出した。それを意味することを途方にくれる余裕がなく、ふらふらと立ち上がって英志で普通に構える。

「寝かしていいんだぞ。もう限界じゃねぇか?」

「なぁに、この野郎に一発ぐらいぶん殴らせて。アキの分もな」

「フン、遅れを取られるなよ」

「英志こそ!」

 英志は先に一瞬で清永のガードに入って胴体の真ん中を狙っていたが、俺と同じように左手で掴まれれて返り討ち食らいそうに、俺は回り込んで横からストレートを放った。

 しかし、空いていた右腕でストレートが完全に防御されしまった。服装で見えないが、感触でこの野郎に相当な筋肉が付いていると分かる。

「ヘェェ、割と息が合ってんな貴様らは」

 腹立たしい余裕っぷりの清永は英志の手を離してまた距離を空けて、構えを取り直した。

 二人のコンビでも攻撃があっさり避けられるなんて、嫌でも強いであることは認めなければならないそうだ。

 どうせ、これは英志がずっと憧れていた通よさの紋章だ。簡単にはやられないのはある程度想定内だった。

「その意気で行こう。俺は隙間を作ってお前がそれを狙え」

「チッ、命令してんじゃねぇ。やんなら、しくじるな」

「へッ、素直に分かったぐらい言えよ」

 今回は俺が先に仕掛ける。見た限りに、清永は俺と似たようなカウンタースタイルの類だ。

 それなら英志の踏み潰すスタイルに任せるのは危ない。まだ5年後の経験がないせいで、カウンターをどう対応すれば分からなさそうだ。

 俺はあの野郎にワンツーの連打でおびき寄せようたする。返されるカウンターと返すカウンターの繰り返しで、ボディーが肘で防御された瞬間通常の右を避け、英志に完璧な隙を作った。

 清永の腕を空いてた手で掴んで――――

「今だ‼」

 その風に英志に合図をして気付かれる余地もなく、俺の後ろから現れて破壊的なアッパーを顎に繋がる。

 清永の腕を離すと、効果のあったその一撃で怯んだ。だが、未来の〃記憶〃で俺はこの男の恐ろしさが分かった。

「仕掛けろ! アイツはまだ平気だ‼」

 俺の言葉に清永は驚かれてすぐに立ち直ったが、彼の表情に余裕が欠けている。俺達を本物の敵として認識したかもしれない。

「やってくれたなぁ......来いや‼」

 挑発した口調はゆったりでなく、吠え未に近い。

 さっきのコンビネーションを見破って待たずに、俺に迫って仕留めようとしたが、ギリギリなタイミングで拳で顔を塞いだ。地面に座り込ませて、血走った目で清永は飛びかかってきた。

 幸い、英志の連打で気を逸らして下がらる。

「しくじんなって言ったろう? 一々にお前を救う余裕はねぇ。やんなら俺の足を引っ張るな」

「......おお!」

「二人とやり合って本当にうんざりだ......」

 コイツにはとても思わないことだ。戦闘力や判断力はプロ並みで、二人でここまで持ちこたえるどころか、勝てるかどうか疑わせるなんてありえないのだ。

「清永さん、お願いします。これ以上アナタと戦いたくない。アイツらにこれ以上手を出さなければ――――」

「オエオエ英志よ、勝てる気でよく俺様にその言葉を向けてんな……いいか? 俺を止めなければ、あの警部の弟を殺すぞ! 止めらえるなら全力でかかってくるがいい‼」

「清永さん......」

「目を背けるな、英志!」

「お、お前」

「あの野郎が言った通りだ。お前は今自由を駆使して彼を立ち向かう選択しただろう? それなら迷いを捨てて全力で戦え‼ 俺だって付いているから、怖いものなんてないよね」

 どれだけ格好つけようと、正直に俺はとんでもない程怯えていた。託された物の重さを抱えながら、あの化け物を相手して正気を保つだけでいっぱいだ。

「オレの自由......か......」

 拳を見つめて英志は深く呼吸をした。決心の付いた目を見せ、もう一回構えを取って清永に立ち向かう。

 彼は何故かにその全てを見守って、英志の覚悟を見かけたら自分の構えでその覚悟に応えた。

「行くぞ、英志」

「はい、清永さん」

 二人共は距離を埋めていく時、取り残された俺に英志は叫ぶ。

「オレは隙間をくれてやる! 前みたいな一発で決めろ!」

「おお!」

 泥沼となったその戦いは、英志と清永の血染めた拳による猛烈な殴り合いだった。二人は全てを捨てて、ただ相手を倒そうと唯一の目的にした。

 近い距離で隙間を見計らって、突然後ろからアキの声が耳に届く。

「辞めてくれ......こんな暴行は無意―――――」

「黙って英志に信じろアキ! 今のアイツはお前と俺のために必死に戦ってる。お前のやり方は最も正しいかもしれないが、拳で解決する時だってある。前へ歩き出すために、英志はここで踏ん張らないと!」

「敬君......」

 コイツならいつだってあの化け物のど真ん中に立っていくのはありそうだ。しかし、気持ちなら分からなくもない。

 でも、今俺の自由の全てで英志に信じることにした。

 そして、その信頼が正しいかどうかは、次の一秒で明らかとなる。 

 清永は英志に腹に破壊力に満ちた右の一発を食らった時、震え止まない足であの激痛をこらえ、出せる威力で見事なストレートを全面に打てた。

 清永を怯ませて地面に倒れていく英志は、絞り出した声で俺を呼び出す。

「やれ、敬ぃぃぃ‼」

 〃け〃の辺りに俺は英志を追い抜き、立て直す隙間を譲らず、全体全力で駆使した最後のストレートを解き放った。

 清永・正弘は、その最後の一撃で地面に倒れる。

「ハァァァ、ハァァ......や、やったのか」

 俺にはもう出せる力はない。この体を限界まで追い詰めた以上、もう立ち上がらないように密に願った。

「英志!」

 酷く血塗れになっている英志までヘトヘトと近づいて、隣にしゃがんでいたアキと彼の様子を窺う。

 幸い、5年前のコイツの体も頑丈で使った。

「とにかく二人共を病院に連れていこう。救急車を呼ぶ」

「あぁ、すまないアキ......どう英志、気分は?」

 乱れた息の中に英志の口元は笑顔の似たような形に歪んで、何となく言葉を並べた会話のようなことをした。

「すっきり......自由に......えきた......あり…...がとう」

「えへへ、いいってことよ」

 アキに振り返ると、目尻に何かが動いたことに気付いた。俺の頭の中に世界はスローモーションのようになる。

 膝付いてのし掛かった清永は、ズボンの後ろに手で何かを掴んでアキに凝視をしていた。

 これこそは収束の点だ。清永に立ち向かう力が英志も俺にもないが、このままだとアキは殺されてしまう。

 俺の脳が目の前に繰り広げている事を分析できる前に、体が勝手に動いてしまった。反対側に見つめているアキに飛びかかり、次の瞬間に俺の全身に走り出した痛みは生まれてこの方、最も痛みとして知った感覚だった。

 激し過ぎて悲鳴するさえ力がない。

 しかし、それでもアキをナイフの突撃に庇った。例の脾臓の刺された上、これは重傷でも他ならない。

「け、敬君‼‼」

「貴様…...そこまでコイツを守るんだ…...何と勇ましい.....自由の発揮......」

 遠いから、サイレンの音が聞こえた。俺の名前をアキと英志の声を飲み込んでいく。

「そこを動くな! 日昇警察だ!」

「明? ここで何をしている?」

「兄さん! 早く救急車を呼んで。敬君が俺を庇ったんだ」

 半分意識していないが、警察が来たらしい......

 どうやってここが分かっただろう?

「オエ敬! しっかりしろ! やったんだ。清永さんに勝ったんだ!」

「お前、確かに中川叔母さんの.......今何だって⁈」

 周りに色んな声が聞こえたから、何がどうなっているのかが判明できなかった。意識が遠ざかっていき、ただ体の冷たさしか感じられんかった。

 それでも第三の目的、高巻・明の殺害の阻止に成功したらしい。

 だが、代価として彼に謝罪しなければならんくなった。奇跡的に俺と別の松原・敬となった高校の俺の体を張って、.結局障害に加えてしまった。

 ごめんなさいとしか呟けなかった俺はそのままで目を閉じて、また馴染みのある暗闇の狭間に落ちてゆく。


            試練を乗り越えた、運命を抗う人の子よ


                 今は安く眠るべし


               契を果たしき汝に、我は授く


          無限なる因果の彼方に宿る輝かしき彼のお宝

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