断章「自分との出会い・獅子神
。最後に覚えるのは親父と話した後、新鮮な空気を吸いたく寮の前にある小さな公園に出た事だ。
思考を整理しながら、いきなり濃霧に囲まれていて周りに何も見えなくなった。当然、寮に戻ろうとした。
しかし、すぐ後ろにあったはずの建物は完全に消えてしまったようだ。どれだけ深い霧の仲でもすぐそこにあって迷うこともないけど、どれだけ歩いても辿り着かないのだ。
普通に、誰だってこれで混乱に陥るだろうけど、時をかけた僕には微妙に当然となったこと類だ。
「誰かいますかぁぁ? おおおおいいい!」
無謀に暗中模索より先に他の人がいるかどうかを確かめるのが優先だ。それを思った僕は何分経って周りにそのように叫んでいた。
残念ながら、答えてくれる人はいない。
「もう尋常を超えるような展開には勘弁してくれよ……あれ?」
ブツブツ言ったら、微かに草道のような物が目に入る。周りが全然見えなくても、その道の周りに木や建物が無くて、ただただ霧の中に進んでいただけだ。
他の選択に限られているから、先の僕の愚痴を答えてくれたような幻の道に辿ってみた。
不思議に思ったのは、初春の寒さに偏る涼しさが肌に感じない。熱くも寒くもないここの空気は新鮮と同時に、妙な神秘的な雰囲気が漂う。文字通り別の世界に踏み込んだような気分だ。
もちろん、タイムリープの次に異世界に飛ばされるのはどれだけカッコよくみえても、今の僕にごめんだ。
時間を半分意識していたけど、僕はその道に進んだのはおよそ5分に近いかもしれない。それくらいが経ったら、真っ先にある場所が何となく見えてきた。
広い所に、池がある。石造の席のような物に囲まれて、池の真ん中に摂社が建っている。更に池のその向こうに階段が伸びるけど、その先に何があるかが霧のせいで見る事が出来なかったのだ。
しかし、草道の終わる先にあった石造の席にに背中を丸めていた人がいた。正確にその背もたれのないその席に座っていた訳ではなく、地面に腰を落とされて俯く事だ。
その人に声を掛けて振り向いてくれたら、僕は正直に二の句が継げなくなった……
*「このまま消えていけば楽になるだろう……」
どれぐらいの時間が経ったか分からない。正直、知る興味もないのだ。あの展開の後、この新しい現実に生きていけないだろう。
自分の時に戻る術もないし、事件の真相を知るために戻されとしても、未来が変わった可能性がある。
親父が死んだという未来だ。短期間でありながら、被害者の高巻・明と出会って友達になった揚句、死を防げなかったという未来だ。
英志の救えないことしか、そのままに残ってしまった。
正直、もう十分だ。疲れ果てて、できることなんか思いつかない。
何もかも失敗したダメな俺のせいだ。
「あのう、すみません……」
誰かがいるらしい。当然、こんな時間に高校生が一人で公園にいて気になるだろう。しかし、他人に構う気は全くない。
立ち上がってそこから離れようとしたが、見覚えのない場所にいたと気づいた。
まぁ、今は半分意識しているので無理もないことだ。体が勝手にぐずぐずどこかに動いたのかもしれないだけだ。
前に池がいると見て、その先には階段があった。今はそれを登るのはとても気がくて、先の声に振り返って立ち去ろうとしたのだ。
「……そっか。もう狂っているか。このような無残な幻覚を見たくもないのに」
言葉がつまり、亡霊を見ているそこにいたのは俺だった。15歳の高校生である松原・敬他でもない〃今〃の俺だ。
「あッ! こ、これは……一体……」
「クスッ、反応してくれてリアル感がするようね。いや待て、本物なのか?」
水面まだ足を引きずったら、自分の反映で大人の体に戻ったのを確認した。その時に分かった、もう一人の人生をダメにしたということだ。
「そっか。失敗してもうタイムアップか……グスッ、アハハハハ!」
。そこに僕を見て訳の分からない事を言って、妙に笑っていた未来の僕がいた。
正直、会えたらどんな感じかなとずっと思っていたが、この魂が抜けた顔をしているとは想像外だ。
「し、失敗? どいうことですか?」
問いながら、未来の自分でも丁寧語が不要かという疑問を抱く。
「5年だも自分は自分だ。何を礼儀正しく話してんのか? やるべいの奴がいればそれはむしろ俺だ……」
やはり自然に〃俺〃系となる。改めて、宿っていたその体と未来の僕の言動を見たら、ピッタリ合っているなと思った。違和感が全然なくて、格好良さそうにみえる。
しかし、その光にない目と虚しい笑顔の裏に何かあっただろう。
「全ては俺のせいだ。英志を救いたかっただけだが、お前の人生を滅茶苦茶にしたのだ……今からどうなるか分からないが、自分の無力さで英志もアキも、親父までが……」
「親父だと? もしかしてあの足が奪われた事件のこと?」
「……それを防ぎたくて勝手なことをやってせいで、彼は……親父を……」
未来の僕は言葉に出来ないことが分かった。その事件が本来にあった事で親父を助けようとしただろう。
「……ど、どうにかならない?」
「何の事か?」
「未来の僕が過去に飛んだだろう? もう1回それをやれば、親父が助けるだろう?」
「んな物が知っている訳ないよ。お前と同じように、突然自分のない時代に起きて散々だったんだ。きっと今こうして合わせてるのは、それぞれの時に戻されるだろう」
「でもそれなら……」
「あぁ。俺のことはどうなるか知らないが、少なくてもお前は新しい残酷な現実に目覚めるのだ。この出来損ない大人の自分のおこがましさのせいで……許せないと思うから、今殴ってくれても何もしないよ」
今は未来の僕の正気外れの事を構う暇もない。このように僕たち二人がいるなら、ここは普通の場所ではないと考えていいかもしれないだろう。
必死に周りに手掛かりなどのような物を探そうとした。そのうちに、未来の僕は諦めた風に石造の席に腰を落とす。動揺し過ぎて当てにならなさそうだ。
階段に向かって池を回り込んだ時、真ん中の摂社への小さな橋に気づく。霧のせいで見えなかっただろう。
その摂社も調べてみたが、見つかったのは巻物だった。
「これは?」
開いて中身を確認すると、意味の分からない誌みたいな物が書かれている。もしかして何かのヒントとかだろう。
未来の僕に一応見せた方がいいと思って彼の所に戻す。そもそも自分だから、〃彼〃って変だろう?
「これを見たかった。読んで何かわかるかな?」
興味もなさそうに手に取った未来の僕は、読んで何かが分かったように見開く。
「何でこれは……」
「一応、我が大事なほ宝なり――――」
*向こうの階段から降りてきたのは、1回あったことのある人だ。上品のあの青海波が描かれた黒い着物の、旧朝神社の前にいた奇妙な男。
ガキの俺は知らなさそうな顔だ。
「何故ここに?」
「妙なる事を。無論、ここは我が住処なり」
「住処?」
あの男はゆっくりと池を回って、俺が座っていた石のベンチの隣に腰掛けた。
「初にお目にかかるだろう? そこの若き人の子よ」
「は、はい! 初めまして。松原・敬と言います」
礼儀正しくガキの俺を見ると、昔どれだけダサかったと少し胸が刺される。
「こなたこそ。我に獅子神(ししがみ)と呼ぶが良い」
「獅子神さん、ですか?」
「変わった名前ね」
「そうかい? 試練を与へき恩人に対してなめき言の葉を」
「あッ!」
突然その言葉に俺達は流石に途方をくれる。すぐに幾つかの質問が浴びられると察した獅子神という男が、手を差し出して控えられた。
「汝の質問を答えてやろう。されと、説明せねばならぬことあり。我は何者かを。それに、汝はいかで此の試練に与えたことも。さもなくば、話しはならん」
堂々とそのような独特の喋り方で、この男の話しを聞いても何かの意味があるだろう。そもそも、俺の失敗で何もかもが壊れてしまったのだ。
「人の言の葉で、我は守り神と言ふ。されど、儚い寿命の人は容赦なき時間の流れで我の存在を忘れき。神族にして、其の上わびしきことはあらず。忘れ去なれ、無に歸るという哀れなる始末。我も以前、其の危機に晒されき。〃其れ〃までぞ」
獅子神は俺の手にある巻物を指した。正直、あのような無理に決まっている単語を並べて、誰もが信じてくれないとんでもない話しだ。しかし今の俺らは違うだろう。特に、この巻物の内容を考えてみたら尚更だ。
「さて分かるだろう?」
「あぁ……何となく」
「ちょっと待って。僕は分からないんだ。それ、僕たちにどんな関係があると言うんだ?」
巻物の文字が書かれた表を差し出し、下右にあった1ヶ所をガキの俺に指差した。
「ここの2つの文字、ローマ字でも分かるんだろう?」
「……あッ! も、もしかして?」
分かったようだ。そのガキの俺は目を輝かせて勢いよく獅子神にあることを聞き出す。
「で、では、獅子神さんは僕たちの状況がわかるよね?」
「もとより」
「なら、何とかしてくれないか? 例え、親父が遭った事件をなかったようにするト――――」
「其れは出来ぬ事なり」
「えッ! ど、どうして⁈」
やはりか……希望を持たなくて正解だったみたい。
「我は汝に与へられき試練はただ一つ。汝の願いに従ひき唯一ばかりなり。それ以上宿世を歪むことなど、許し兼ぬ」
「そ、そんな……」
「つまり……俺の干渉のせいで……」
獅子神は立ち上がって、池の前まで歩いた。俺達を向いて、掌を上にした手を伸ばす。すると、周りにあった小さな漆黒の小石は池から浮き上がり、その掌の上に積み重ねた。
俺達は一瞬、見ていた事を疑う。この人、この何かが本当に神様という訳か?
「人間界に全ての存在に秩序を従うべし。定めの宿世を逆らう事はあらず。されど神族の力でさえ有らば、ある程度は許さる」
言いながら、右手の積み重ねの真ん中の小石は無難に抜かれる。彼の前に少し浮い左手の積み重ねの頂点に置かれた。
「されど、宿世を揺さぶり過ぐと、秩序に乱れが生まれる。その乱れによる湧きあがる混沌は我ら神族でもせむかたなし」
右手の小石をまた2つが抜かれたが、今回は積み重ねは崩して地面に落ちる。その途中に、全ての漆黒の小石は埃となって消えた。
「此れぞ、今回の汝の選択の反響なり。願いで委ぬ宿世は二つ。それ以上は許されず」
言い切って左手に残った小石の積み重ねが、また空中に浮上して池に沈む。
それでちゃんと分かった。俺はそもそも親父を助けようとしたせいで、全ては最悪の展開に至った。全てを救おうとしてのに、結局何一つも救えなかったとうことだ。
「なら、親父の事に干渉をしないなら、もう一回未来の僕を過去に戻させてくれる?」
俺はガキの頃こんなに理解の悪い奴だったかと思いながら、彼にそんな都合のいい話しがあるわけがな――――
「無論、可能なり」
「ほ、本当ですか⁈ 聞いたか? 何とかなりそうだ!」
正直、そんな違った答えに気を引き締めていたのだ。怪しい程いい話し過ぎる。
「先に秩序を歪み過ぎては行けないと言ったのに、何でもう一回のやり直しが許してくれる?」
俺の質問に獅子神は悪戯っぽいの笑顔を見せた。
「汝と同じことを望む故。されど、此れ以上秩序の揺さぶりがすべからず。今度は正真正銘果てのついでなり」
「そっか。でもそれで十分だね、未来の――――」
「俺には無理だ」
ガキの俺はまだ分からないようだ。俺は体験してきたこと、それに失った事の重さを。英志とアキを救いたい気持ちが確かだが、その代わりに……
「親父を見捨てる訳ないだろう……死ぬよりましと言っても……俺は彼の自由を奪う結末から目をそむけろと……」
「親父の自由……言いたい事がわかるけ――――」
「お前には何が分かるんだ⁈」
怒れで目の前には見えなくなってガキの俺に当たってしまう。長年に渡って今の体験までに積もり重なったすべたが、噴火のように爆発してしまった。
「お袋とタツ兄はどれだけ苦しんだと思うのか? 親父は仕事まで失ってお金に困っていたんだ。何より、親父はあの日からずっとあんな物に座りっぱなしして自由に奪われたんだ。俺達の家族がどれだけ苦しんだか分からないガキの俺のクセに、分かった風に言ってんじゃねぇ‼ ……俺はもう疲れたんだ……前の前に大事な人が傷つけるのを見て、消えてしまうのもううんざりだ……」
「……」
流石にガキの俺は返す言葉はない。これで理解してくれるなら、後はどうするに決まることだ。
「親父を救えないなら、英志を救う義理はな――――」
微かながら、顔の右側に痛みを感じた。弱いながら、俺を遮るには十分、ガキの俺の素人以下の下手くそ一発だった。
「僕はこんなみっともない大人になるなって、納得できない……」
「それは悪いが、俺はお前だ。お前は俺と似たような体験をしたら、同じことになる。ガキは引っ込んで大人の言う事を聞くべきだ」
この数日に何回あったパターンが、自分に襟を掴み撮られるなんて想像を超える展開だ。
「僕はどんだけ大変な目に遭ったと思うんだ⁈ いきなり何の前振りもなく未来に目覚め、とんでもない件に巻き込まれた上、親父の事件をあんな形で知って……自分ばっかり名情けをかけてどうすんだ?」
一応〃自分〃に言っているが。
「でも最も気に入らないのは、あの親父をダメ人間にする言い方だ!」
「自由に奪われてから当然おも――――」
俺は言うところだったこと、ここで自分を向かって言葉にしたら、決して取り返さないだろう。ずっと向き合わなかった本音は自分のちっぽけなことを知らせてくれる。
「分かったみたいだ……僕は……あの時親父の姿を見て同じように絶望したんだ。でも、彼の言葉で救われたんだ。今まで悩んで来たことがどれぐらい無意味で、今からすべきこと全てを!」
親父に言われたこと……
『この使えない足が俺は背負う物だ。息子である二人共じゃない。下半身がダメとなったお父さんを気にせず、自分の人生に生きろ。大丈夫、お父さんは強いさ』
一瞬にその時の親父の言葉でけではなく、過去で生きた数日の事も頭に浮き上がる。
『青春してるならそれでいい』
『いいか敬、青春を裏返すと生きてると同じことだ。人生は高校(今)で終わらないよ。人と出会って、恋に落ちて、家族を作って、その全ては青春をしてるんだ』
『今日も全力で生きて来い!』
何故その事が今にして思い出すか分からないが、どこかに大事なことを掴むところだ。
「いいか? 僕はあの時の環境の違いで別に意味を受け取ったけど、親父はただ僕に……僕たちに与えられたこと全部自分の事にして欲しかったんだ。彼は足が奪われてもあの上半身を見ただろう? またバカ程筋肉がつているだろう? まだ僕の時代と同じような優しい笑顔だ。足が動けなくても、親父はまだ親父だ。僕の、僕たちの憧れの強さの象徴だ!」
与えられた事を自分の物にする……か。
俺の目の前に親父の事件の後の姿がみえてくる。お袋と二人揃って、まだ何事もなく笑って恥ずかし思わせる、俺の変わりのない最高の両親だ。
5年前のあの背中を追いかけていたが、追いつけないことを実に気づいていた。そのせいで俺はもどかしくて親父をダメな人間にしてしまう。その反面、まだ俺を全力で支えてくれる親父は足の動きを失っても全力で生きていく。彼なりの〃青春〃って訳か。
「だから、自分の人生を行きたい。親父は強いんだ。彼はあの状態でもまだ満足している。愛しているお袋と息子たちがいる。とんでもない運動の細工を考えて元気いっぱい。僕たちのやるべきことが彼を心配するんじゃない、僕たちの大事な人を助けるんだ。僕たちの人生を全力で生きること他でもない!」
ガキの、高校の俺は襟を掴んだ手に震わせ、僕に堂々と立ち向かっていた。おかげで、俺に気づいていない事を理解させてくれる。
環境の違いは本当に恐ろしい程、自分をこれまで変えられると感心した。
「俺は……何をしてきたんだ……まったく……自分までに説教されて本当に正気失ってしまいそうだ」
上を向いて落ち着こうとした。さっきの一発より、今の連打は凄まじかったのだ。生まれてから、最も痛いパンチかもしれない。親父のこと、そして英志やアキにしていたことまではどれだけ勘違いしてたか、痛い程思い知らされたのだ。
高校の俺は放してくれて俺の傍す座る。
「怒鳴ってごめん……まぁ、自分はどれだけ頑固な奴が自分が一番分かるけど」
「まったく、変わることと変われない事が本当に途方をくれる……ありがとう……愈々、悪夢かれ目覚めた覚悟ができたんだ」
「なら良かった!」
コイツの笑顔を見ると、自分の過去にそのような素直な笑顔がないと思った。この高校の俺はもうはや俺がかつての自分ではないのだ。
5年後に今の俺より立派な大人になりそう、というのは恥ずかしすぎて言えなかった。
「さっき言った環境の違いって?」
「あッ、それはトシさん達を出会っておかげのこと。あの時、もしそのまま親父のあの姿を見たら、未来の僕と似たようなことになったかも。でも短いながら、皆と過ごしてきた3日間が本当に貴重な経験だ……」
彼の笑顔を見たら、改めてどれだけいい友達に恵まれたかと思い出す。トシの奴にさん付けではちょっと引っかかったが、それはコイツの勝手だ。
「んじゃ、覚悟を決めてなら、やる事は一つだけだね」
「あぁ」
握った拳を見て親父の事を思う。彼に謝罪しなくていけないと同時、感謝すべきだ。まだあの事故を起こさせるのは流石に気に入らないが、英志を見捨てた時点では俺は俺でなくなる。
だから、答えはたった一つだ。そしてそれをさっきから無言のままで待っていた獅子神は俺達に問い詰める。
「それで汝の答えを聞こう、此れからもう一度嵐に立ち向うのか、人の子よ」
俺と孤高の自分を目を合わせてお互いに頷いた。ここまで来て決心が付いた以上、もう迷うことなどない。
「「はッ!」」
「良かろう。それならば早速――――」
「いや待って。時間をくれ」
俺が挟んだ言葉で堂々とした宣言を遮った獅子神は、神様らしくもなく目を剥いてしまった。
。「時間って?」
未来の僕の突然の要求に僕と獅子神は驚かされる。もう1回僕たちをそれぞれにい行くべき時代に飛ばせれる所に、右手を差し出した未来の僕はとんでもないことを言い出した。
「今すぐ行く必要はあるか? 事の始まりからコイツと俺は初めてこうして会話できるんだ。この場を借りて情報交換ぐらいさせてくれないか? それに、獅子神に三つの事について聞きたいんだ」
「ほおお……おかしきこと言うよね汝は」
自分の顎を撫でりながら、獅子神は未来の僕の言葉を少し興味深そうに検討していたらしい。答えが気になるぐらいの何秒が経ち、彼は悪戯のあるで笑顔で応えてくれる。
「汝の察しありの通り、今すぐに旅出る要はあらず。先に我に問う事を聞こう。其の後、人の時で30分を与えよう」
ずっと不利の立場で置かれた僕たちはいよいよ有利になったというその気分は、正直に爽快に極まりない。
「ではまず、ずっと気になったが事だけど。コイツからくれる〃記憶〃のこと。限りがあるらしい、全ての記憶はあくまでも英志に中心する。それを受け取っていい?」
「さよう」
「ま、待って。僕からくれるきおく?」
「実には、お前のおかげで色々調べられたんだ。それはね」
未来の僕によると、事件について英志に中心する情報を分かった次第、彼は覚えるような形で見えるらしい。僕はそのように未来の僕の力になっていたなんて、正直に驚いた。
「だから今作用が分かった以上、効率的に駆使できるんだろう。2つ目、また俺達をお互いの時代に入れ替わる。正確に知りたいのはそれぞれの〃いつ〃にする」
「そうね……正確に言はば、前と違った時点に眼覚めるのは汝ばかりなり。嵐の訪れる其の日の始まりに」
「と言うことはコイツは何事もなく5年後の〃続き〃に目覚める。分かった、最後だ。もしアキの殺害を阻止できたら、その後はどうなる?」
「……フン。其の事を聞いていかがか、人の子?」
「俺の未来が変わるかが知りたい。それに」
続きの言葉を言う前に、未来の僕は僕に不安がった瞳で目を合わせる。
「彼の過去の変更もそのままに残るんだろう? 全てが終わった後自分の時に戻り、未来に人の意志に干渉された過去に生きていくんだろう?」
「嵐を乗り越えるには、なすべし事は2つなり。昨日と明日に潜む暗闇に悟り、事の真相を理解すべし。成し遂げせば、後は其の嵐の起点を静まるのみなり」
前から思ったけど、この獅子神の独特な喋り方のせいで話しを付いて行けるのが苦労だ。幸い、未来の僕は何となく理解出来たみたい。
「つまり、過去と未来に黒幕を暴いてから過去で事件を阻止すること」
「でも、どうしてそうする必要はあるんですか? 殺害を阻止することだけで十分じゃないですか?」
「もう忘れたのか、幼き人の子ぞ。これぞ試練なり。汝は二人なりとも変わりはあらず」
これまで関わったから、二人共真相を暴けって。突然難度を上げて本当に困った神様だ。
「問題ない。そもそもこの事件を解決するなら、俺達がお互いの協力が不可欠だ」
「さよう。されば彼の場で待とう。人の時で30分が経りせば、来るが良い」
獅子神はそう言って階段に登る。その先にどんな場所かが知らないけど、僕たちのこの世界の終点に違いない。
僕たちの携帯はさすがに圏外だ。しかし、時計はまだ普通に動いている。
「では、あんま時間がないから早速情報交換だ」
「あぁ。まずはお前からだ。俺は既に英志に関することが分かる。特にお前と彼と皆のあの感慨深いの激励をな」
半分からかったような風に聞こえたけど、それを無視して今日まであったことを手短に説明した。涼太という男と小林さんの話しになると、未来の僕は目を見開く。
「あの二人は突然未来に現れたと? それにあの牡牛野郎は英志を通報した奴か? 笑えない冗談だ」
「牡牛やろうって?」
続いて、未来の僕は過去の3日間に過ごした事も説明してくれる。大体の事が僕には分かったけど、肉詰めとして開いていた空白を埋めてくれた。
「未来の僕はあんなに明の子と仲良くになったとはね……それにその彼の遺体を見つけた後、親父の事件のお知らせか……さっきの様子って無理もないね」
「まったくだ……でもこれでお互いに向こうの事が分かった」
未来の僕の話しを聞いてある事に気づいた。今まで僕たちは同じ時間帯でいていたことだ。この後は一日がずれても、その事に変わりはなさそうだ。
携帯に時間を確認すると、15分ぐらいを費やしたらしい。与えられた時間の半分しか残らなくて、僕たちは次に作戦会議に移る。
「どう、未来の僕? 真犯人の心当たりはある?」
「正直な所で、俺はそれを知る術はないんだ。だって、事件がまだ起きてないんだ。それに、俺は見たのは犯行後。全ての手掛かりが未来にあるんだ。そしてそれを手に入れられるのはお前だけだ。でも、やるるべきことぐらいは分かるだろう?」
「小林・多寿子を見つけることっか?」
「あぁ、彼女はとぼけたフリをして事件と無関係に振る舞っている。彼女にはきっと何かを知っている。あの涼太の奴を殺したか分からないが、例の手紙の内容を知らなに訳なにんだ」
僕も至った結論だ。あの時彼女は英志の事を分かった口調したのに、事件についてなにも知らなくて不自然だ。トシさんまで気づいて、あの時彼女を見逃さなくてよかったのだ。
正直、見つかる自信はないけど……
「皆と力合わせて必ず見つけ出すんだ!」
「そう来なくっちゃ……それに、もう一つ気になったことがある。手掛かりになるか分からないが、事件に関わる人達の中に誰かが妙な所が多すぎるんだ」
「妙な点?」
「ここ数日考えて見て。お前達は誘導された気分はないか? それに、俺は少し気がついたことだ。あの言葉を全く同じようにあの場に言われて……」
未来の僕はその事について教えると、似たような引っかかりがあったっと、ふと思い出した。
「それだ! 僕もその人に妙だと思った。何らかの癖何じゃないか。でも、未来の僕はそれを言ったら……」
僕の方も話して、二人で何かを掴んだような気がしたのだ。
「早とちりで決めつける余裕はない。小林にあったら、ソイツの事について問い詰めろ。後は……」
提案を話し合って、未来でいる僕のやる事が決まった。後は、未来の僕は事件を阻止するに待機だけ――――
「いいや、その前に一つ大事な事をしなくては行けない。でもそのために、お前の許可が必要なんだ」
「僕の、許可?」
「真相に分かった時点でお前が責任を果たしたと同然だ。しかし、その事件こそを阻止するのは俺だ。どうぜ、俺の願いで全てが始まったんだ」
それを言った未来の僕はきっと今、自分のせいで何の関わりもない僕が巻き込まれ、無念を感じているだろう。
「そしてその事件を防ぐなら、張本人との戦いだけではない。英志にも向き合わなければならない。そのために俺はお前の体を張ることになるんだ。それが、俺は知っている英志に通じる唯一の方法だ……言いたいこと、分かるだろう?」
「い、いいよ! どうせ未来の僕の体でもあ――――」
未来の僕は温もりに満ちた笑顔で僕を見つめて、そっと肩をつかみ取った。
「いいえ。お前はもう、俺はかつての自分じゃない。俺でありながら、お前だけの松原・敬だ。お前はこのとんでもない体験で得た強さ、尊敬するべきだ」
僕は……得た強さ……
今こうして未来の自分にそのようなこと言われると、複雑な気分になる。誇ろに思っていいか、知った未来の自分と違う自分のなる怖がっていいか、正直に分からない。
しかし、少なくとも今の未来の僕の真っ直ぐな目と同じようになりたいと、ハッキリ分かったのだ。
「頼む! 英志を救うためなら……き、傷跡は残らないようにお願いしたいけど……」
「ハハハハ。保証できないね。でも頑張る」
「ああ!」
僕は未来の自分に拳を差し出す。
「やろう! 未来の僕の大事な親友を助けよう」
「おおう!」
決心を込めて未来の僕と拳をぶつけ合った。さすがに5年後の鍛えた体のせいで、その感慨深いな光景を台無ししたのだ。つまり、その拳にぶつけられて凄く痛かったのだ。
*俺達は作戦を練って獅子神に会いに行っていた。微妙に、俺はさっきから落ち着いた感じでいる。物事の新しい観点に目覚めたか、愈々やるべき事がハッキリ分かったおけがか、どちらにせよ今の気分は明鏡止水とでも言える。
「この階段いつまで続くんだろう? ったく神のクセに俺達苦労ばっかりさせて」
「神様らしいよね」
「ったくよ。あッ、そうさ。聞きたかったんだが、お前アイツらと仲良くできたみたいんだ」
「エヘヘ。トシさん達がお世話になってくれっぱなしなんだ。本当に未来の僕が恵まれたって感じ」
「しかしトシの奴にさん付けか。全てが落ち着いたら、からかわれるんだろう」
「だよね。あッ! そうだ!」
突然、少し俺の後ろに付いている高校の俺はそのように声を上げた。
「事件の事で頭いっぱいだけど、実にはいくつかの事を未来の僕に報告しないと!」
「報告?」
「そうそう。まずはアレだ! その、まぁ……言っていいかな?」
その昔の言葉に詰まり方は正直、自分の嫌いところだった。まだあんまり自分に自信を持たなかった頃とはいえ、コイツが俺より遥かに凄い経験をしているのに、まだこの短所で恥を思わせる。
「そこはハッキリ言うんだ! 卒業してからに気づくが、人にちゃんと話さなきゃまともに聞いてもらえないぞ」
「ご、ごめん。でも、未来の僕に聞き辛いかも」
「いいから言えよ。余計にきになるんだ」
「この間、佐藤さんとトシさんが付き合っていることに気づいたんだ……」
「……ぐ、アハハハ」
確かによく効いた一発だったが、コイツにそんな事で気を遣うと見て、思春期ってどれほど単純な時期に感心したのだ。
「そっか。トシの奴に一本取られたか。今度あったら、何かを奢ってもらおうかな。しゃぁぁ、悔しいぃぃぃ」
「そうに見えないけど?」
「まぁ確かに痛いんだけど、俺じゃダメなら、少なくともいいヤツに付き合って欲しい。それはトシなら文句言えない」
「凄いよね……平然としてそれを言って」
「まぁ、アイツも一応俺の親友だな。後他に何かあるのか?」
「そうですね……大したことではないけど、高山さんについて……」
コイツにあるとんでもない事を言われ、思春期ってどれほど鈍感な時期に怯える。たった3日で、コイツは堂々とあんなようなことをするなんて、大胆だなと思わせた。
「み、ミズちゃん……か。参ったな……まぁ、分からないことはないが、戻った時点で彼女にそんな呼び方をするに心の準備が」
「呼び方でそんなに動揺する事か⁈ わかんないな大人の事」
ガキの分際に言われたくもないことだが、そこっは静かに思うことにする。
「……なぁ、未来の僕。実はずっとあったら、聞きたいことがあったんだ」
突然その場に立ち尽くした彼の目を見て、聞きたい事がハッキリ分かる。よく今まで我慢したと感心しながら、これ以上に獅子神を待たせて平気かとちょっと心配となった。
それでも、今の彼に先の借りを返すチャンスかもしれない。
「結局……答えを見つけたんですね?」
「あぁ。もちろんさ」
「それは、教えてくれない……かな?」
「そうだね……」
これ以上時間を延長してもいいか分からないが、コイツの遅いペースのせいにすることに決める。不死身の神様に儚い5分に拘らないだろう。そもそも人間と違った時間感覚を持つに決まっている。
それを自分に言い訳して、悠々と階段に腰を落として高校の俺を見つめていた。
「あくまでも俺は着いた答えだ。さっきも言ったが、お前はもう既に別の〃自分〃だ。いずれにせよ自分の答えに辿り着くかもしれない」
「はい!」
「人はね、常にどうしても他の人の中に何かを求める生き物だ。それは恋か、友情か、張り合いか、恨みをぶつける対象。なにせよ、人に何らかの形で〃絆〃を築きたくなる。お前の悩みは絆に価値があるかないか、それはもう親父を見た途端に分かったんだろう?」
あの時、俺は家族の絆までに疑問を抱いていたのだ。しかし、親父の事件を知って心の揺さぶりで分かった。俺はあの時何かを感じたから、人間として壊れていないと。その悲劇の中から与えられた大事な閃きだ。
「お前はただ人に〃何〃を求めればいいか分からないだけだ」
「人に何を……か?」
「難しい話しだが、いざとなって分かる。少なくとも、俺にはアイツのとの出会いから分かったこと。俺には〃支え合い〃を求めるんだ。俺達は常に友達の傍にいるんだ。お互い夢や野望、成し遂げたいことに苦戦に助け合うことだ。そう繰り返して成長していきながら、最強の絆で結ばれている。それこそは俺が辿りづいた答えだ」
彼の表情で想像外の答えらしい。困ったことであったが、彼を誤魔化したくもないのだ。綺麗事を並べて友情を語るのはもう勘弁だ。
そこで俺は自分の素直な気持ちを伝えたに過ぎない。
「分かるような分からないような……難しいね」
「ガキの頃に嫌いな言葉かもしれないが、そのうち分かるさ。今は深く気にしなくていい」
「でも……良かったね……諦めてなんかじゃない」
「もっと自分に自信を持てよ。こんなにかっこいい大人になるさ!」
「アハハそうだね! ……でもその体までの努力は楽しみしてない」
「思ったより楽しいけど。さて、アイツをこれ以上待たせちゃダメだ。行こう」
その後俺達は階段を登り切った先に、壮大な神社が前の目に現れた。旧朝神社と似たような所だが、あの古びた場所と大違いだ。本来あの神社はこの縋っただっただろう。
左右に黄金の獅子に歓迎され、巨大な黒い鋼の門をくぐった先に、いくつかの綺麗な花はあちこちに咲いていた。
「こ、ここは……あの獅子神という男の住処……か?」
流石に高校の僕も途方をくれる。本殿は主に豪華な印象を与える紅くに染り、全ての柱は漆黒な鉄製で出来ているらしい。この神秘的な世界とピッタリ合う、俺達の世界のない雰囲気を漂う場所だ。
獅子神は本殿の前に俺達を歓迎したのだ。
「随分かかったな。いそぎは整ったか?」
「一応ね」
「決心の付きし目なり……実に素晴らしい」
「おかげさまというところかもしれないが、嘘を付く男じゃない俺は」
俺の言葉の意味を流石に読み取れなった。神とはいえ、全てがお見通しではなさそうだ。
「獅子神は英志を助けたい理由が分かった。しかし、ハッキリ俺達から言っておきたいことがあるんだ。ね?」
「さすがに未来の僕も同じことが考えていたんだ」
高校の俺は深刻な顔で、俺と一緒に獅子神にある大事なことを告げる。
「力を借りても、神に頼る柄じゃない……俺達はあくまでも獅子神と協力しているだけだ」
「何の事だ?」
「僕たちは歳の差でも、自分の力で全力生きていくのが教われたのだ。自分の手で自分の未来を切り開く、その僕たちに神などには頼らない」
立派に言う高校の俺を見て密に誇りを思った。流石に、俺だって任せっぱなしなんて出来ない。
「俺達は獅子神に機会を与えてくれて感謝はしている。でも、その中途半端な形で英志を救おうと、正直に感心しない」
「全くだ! 僕たちを入れ替わる前に何の前振りもないせいで、どれだけ苦しんだかを知っているのに」
俺達を聞いていた獅子神は無言のままだ。普通に、この期に及んでこの男にこのような事を言うのは無意味だと思われるだろう。
しかし、俺達は嫌でも細かい事に拘るんだ。親父や大事な友人のおかげで、俺達は今日に自分としていられる。
常識外れ神様などの力ではなく、俺達は俺達の手で俺達の道を歩んできた。
この経験もあくまでも、与えられた事を自分の物にしているに過ぎない。
「だから、言っておきたかったんだ。俺達は英志と違って、あんなような物は授けないぞ?」
「……人の子よ、勘違いするな。我は本来神族なり。侮辱を程々にせよ。今回ばかりがなかりしことにせよ」
神様を怒らせた俺達は、よくこのようなモノと小喧嘩を売るなんて、その後に冷や汗をかかせる。
「分かりした。しかし、まだ未来の僕の最後の質問ぐらいはちゃんと答えてくれる?」
何の事か分からないが、その風にあっさり言い出す高億の俺が本当にあの歳で大胆だなと思った。
「この全ての事件が解決したら、僕の過去と彼の未来はどうなる?」
確かに見落としたことだ。獅子神が言ったのは試練を乗り越える状況だ。技と何も言わなくて、これだからわがままな存在である神とは。
「フン。当たり前な事、新たなる朝が訪れるなり」
彼はそれ以上教えてくれそうもない。しかし、新しい朝に裏に幾多の意味に悩む余裕はない。
今やるべき事はただ一つ、英志とアキを救うことだ。後の事は後にしようと、見つめ合った目に書いてあった。
「それには一回我が試練の機を与えよう」
「時間切れか……な、高億の俺」
「はい?」
「これは普通に人に滅多にない一緒に二度ない機会だ、別の時との自分に向き合うなんて。だから、妙に今ありがとうと言いたい同時に何故かに色々謝りたくなったんだ」
「分かるよそれ。でも、僕も未来の僕にあって良かった。新たなる朝は何なんだか分からないけど、忘れてもきっと僕たちの中この大切な時間が残るだろう?」
「だといいな。頑張れ、俺!」
「そっちこそ、僕!」
突然に眩しい光が濃霧を貫き通して周りを輝き出す。晴れた周辺に想像を超える美しい世界が目に入った。
無数の空に浮かぶ島、または彼方に広がる大地、ここは恐らく例の神族の生きる別の世界だ。
霧を追い払った光は俺達を包まれ、離れさせてゆく。
「人の子よ、御武運を……」
意識が少しずつ薄くなって俺は何時の間に眠りについた。目覚めたら、俺は……俺達は命を懸ける最大な勝負だ。
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