第一章「迫る闇・容疑者:中川・英志」


「月曜日だりぃ~。4限サボっちゃおうか?」

 食堂で一緒に食べているトシ、英志と佐藤さんと女子クラスメートが朝の講義を終わってだらけていた。

「ダメですよ高山君! 最近欠席が多くて」

「そうだよ俊雄。このままじゃ水泳部がおさらばだ」

 舌打ちを鳴らすトシが椅子の背凭れにもたれ、携帯を取り出す。俺達の雑談に構わず、いきなり声を上げた。

「バイバイ祭りって今週末だっけ?」

「あッ、そういえば一昨日、公園に向かっていた時にその準備を見かけたような気がする」

「財布忘れた一昨日だな」

「ぐぅぅ、滅相ない」

「またアレか? 俊雄との待ち合わせして先に着きたいせいで財布を忘れたって」

「ピンポン」

 おかげで借りができてしまう。話題を逸らしたくて、祭りの話に戻した。

「み、皆どうする? 祭り行くか?」

「特に欲しいモンねぇけど、佐藤はまだ行ったことがねぇよな?」

「そうだね。そもそもバイバイ祭りって何のことかしら?」

 そう言えば佐藤さんが真朝町出身ではないか......トシめ。見事に一本取られたそうだ。

「佐藤さんが二年間ここを通って知らないって珍しいよね」

「アレだろ。例の伝染病で去年は中止となった」

 どこの店へ行ってもトイレットペーパーなどが全く存在しない黒い時期のこと。いまでも思い出したくはない。

「その頃も緊急状態となって早速に私が帰った。具体的にどんなお祭りなの?」

「真朝町で毎年、日昇商店街で開催祭りの事だよ。物を売ったり買ったり、または交換したりする、独特なお祭りだ」

 丁寧に説明する英志に佐藤さんが興味深そうに聞いていた。

「由来と言えば、余り物には福があるということだ。商店街の店が余分を安く売ったり、人々の不要物を換価による買ってもらったりする。また、参加者同士も自由に持ち込む物の交換なども出来る。全ての物に価値があるから、思いがけずに捨てるより他の人に譲る、それはバイバイ祭りの一義だ」

「へ~。素敵」

 確かにこの町の伝統的な祭りに違いない。暗黙のルールとして、最低限交換する物は故障もなく、まだ利用道のある物だけを持参することだ。俺はその風に補足した。

 いつも外国人が多いこの町は、その時には何故かにあまり見かけない。観光客だから交換に値する物はないから寄らない。来るとしたらウロウロと屋台で喰ってばっかりしかしない。その二つのパターンが普通なのだ。正直、もったいないと思う。

「高山君はどう? いい物を見つけた?」

「俺は一応いい酒をあるお祖母さんに交換した。家にあった古い演歌のCDを譲った」

「僕は八百屋さんで作られた五穀味噌を買った。凄く上手かった!」

「高校の頃お兄さんと一緒にゲーム交換を結構やってたんだ」

 佐藤さんが結構びっくりしたようにみえた。この町の人なら普通に日昇商店街を知ってそうなる。繁栄しているこの町の人気スポットの一つなのだ。

「噂の何でもある商店街って以外と本当だよね」

 この町の出身である俺達がそう聞いて、どこかに自慢を感じて鼻が高くなった。

 佐藤さんと一緒に行くと約束して、そのまま次の授業に向かう。途中で自販機に寄った俺達が何となく祭りの話から高校時代の話に移った。正確に言うと、俺の話が切口となっただろ。

 トシや高山さんが同じ学校に通っていたが、真朝町からだいぶ離れている所らしい。

 都会出身の佐藤さんは流石に東京で勉強した。俺も郊外にある私立高校の卒業生だ。英志だけが真朝町高等学校に通ったみたいのだ。

「へぇ、英志って真朝高生か? 知らなかった」

「コイツはあんまり大学時代の前の事を話さねぇタイプだ」

「えへへ、つまらない話ですよ

「真朝高……ふーん」

 佐藤さんに気になったことがあったみたいだが、聞ける前にチャイムが鳴って、慌てた俺達が早く教室に入る


                 ***


「お待たせ!」

 寮の外に待っていた英志に謝る。これから一緒に自己訓練をやる俺達が軽くストレッチしてジョギングを始めた。

 準備運動程度の軽いペースで走りながら、本日のゴールを決めている。

「公園まで行こうか」

「うーん、ちょっと物足りない。川岸まで行こうよ!」

 この化け物が人並みの体力だと思い込んで俺にいつもそんなに無茶なことを振ってくる。だが、付き合っている自分は確かにそのおかげで強くなってきた。

 あるところまで進んだら加速し、俺達があっという間に競走し始める。住宅街を通過して、商店街に通らず、そのまま南に向かっていった。

 大通りに沿って、川岸が目に入ったら最後の人頑張りに入る。お互い負けたくない俺達が更に加速に気合いを掛けた。恐らく周りのビールに住んでいる人々を何人びっくりしたに違いない。

「よっしゃオッラァァ!!」

 勝ち取った俺が声と共に腕を空に届く程上げた。負けて悔しい英志にうるさいと言われ、地面に腰を落とす。

「へへ、俺だって負けてらんないよ相模!」

 英志の隣座って、休憩を取っていた。

 今夜のような星空の下に訓練して何故かに元気をくれる。こうして友と一緒に鍛錬して、何もない日々を送るのは掛け替えのない事だ。

 正直に言うと、困ることだってある。だが、授業を通ったり、試合に挑んだり、ふざけたりして、何だか平和だと想う。

 息を整え、そのようなことを考えていた俺に英志が一言を投げた。

「力になっているんだ」

「?」

「この間の話さ。僕はさ、どうしても『何か』から逃げようとしている」

「英志……」

「別に敬達に頼りたくない訳がない。けど、何というか……怖いんだ。僕の過去を話す事」

 俺はコイツと出会ってから、自分の過去の話を避けると分かってきた。そのせいで英志と俺達の間に置かれた巨大な壁のような感じだ。

 高山さんが英志が好きになってその話題に関して何回喧嘩したことがあるらしい。俺もトシもコイツを甘やかすかもしれないが、あまり探ろうとしないことにした。

 彼女もある日半分諦めて追求しなくなる。

正直、英志は彼女ではなく俺にこの話をしていいか迷ったが、どうしても知りたい気持ちもある。

「……何が怖いか?」

「知って僕への見方が変わる」

 どうして今になって話す気になったか分からないが、今俺の目の前にいる英志は怯えている子供のようだ。

「怒るぞ英志」

 俺の返事に英志が途方をくれた

「お前の過去なんてどうでもいいんだ。俺にとって過去というものは大事なことじゃない。ガキの頃に、未来のことばかり悩んでいたさ。しかし、それを気にし過ぎて『今』に生きていないと気づいた」

 考えてみれば、俺も誰かに向かってこれほど気持ちをさらけ出すのも初めてかもしれない。

「もし気づくのが遅れたら、どれぐらい後悔したかと思って怖くなった。時間が戻ってこない大事な資源だ。下手にするとなにも残さずに全てを失ってしまうのだ。だから俺は決めた、『今』に全力生きる事」

 妙に、親父の事が頭に浮かんできた。例の事故からずっと彼のことは考えられない日がない。しかし、親父がよく俺に似たようなことを言った。 

『この使えない足が俺は背負う物だ。息子である二人共じゃない。下半身がダメとなったお父さんを気にせず、自分の人生に生きろ。大丈夫、お父さんは強いさ』

「だらか英志、話したい覚悟ができたら、俺だけではなく、誰よりお前のために涙を流してきたあの子にも話すんだ。一応トシにも入れておいて。でなきゃ愚痴ってくるんだアイツ」

 英志に満面笑顔を見せて元気にしようとした。

 考え込んでいた彼は寂しい笑顔を浮かべ、地面に倒れる。

「そうだね。美月にも不公平だ……ありがとう、相模」

 俺達はしばらくそのまま無言のままに夜空を見つめて、訓練を再開した。

 途中に英志が元通りの自分に戻ったが、彼の心の中に他人に見せない戦いが繰り広げているように感じた。

 その巨大な壁の隙間に覗いたような気がし、いずれ彼の真実を知ると知ったら、親友として何であろうと受け入れると密に誓った。


                ***


「やがて『嵐』が訪れる……」

 その言葉は最近、俺の頭の中に繰り返されている。不思議になんでもない日々を送ると俺が予兆として受け取っていた。

 暗闇の中に浮かび、向うから何かが光っているように見える。近付こうと近付けられなくて、その向うにある何かが俺を呼んでいた。

「もし運命に抗うなら、汝の歩むのは茨の道だ」

 運命だと……

 どっかに聞き覚えのある声が俺に告げる。

「機会を与えよう……我が恩恵を。だが、忘るな。与えるのは只の機会に過ぎぬ」

「機会? 恩恵? どういうこと……一体……」

「来たれその時に、詞の意を悟る」

 微かに輝く光が爆破のよう眩しくなって俺の目をくらます。呑み込まれそうになって体中が妙に軽くてなっていった。

 段々と消えていく俺という存在は無念や後悔もなく、ただ迫りくるその何かがを待つしかできなかった。抵抗もせずに、体に包まれた温もりは体内まで染み込む。

 薄々と、真っ白となったその空間がぼやけて見えなくなった。


                 ***


「ああ!」

 汗まみれになった俺は刺激的な夢を見て急に起きた。悪夢というより、凄い事を夢見たような感じがするのだ。通りでこれほど汗だくだ。

 息を乱していた俺は部屋を見回して思考を整えようとする。そして、少し落ち着いたら携帯の着信音が耳に入る。

『先に行くよ』と、英志からのメッセージだ。

 時間を見て寝坊してしまったを確認した。だが、いつも通りと違って俺は変に慌てていない。ゆっくりとベッドから立ち上がって着替え、キャンパスに向かう。

 歩けば歩く程、我に返っていた俺は英志に返信した。

『寝坊だ。2限が始まる前に間に合う』

 今日は何という晴天だ。雲一つもなく、涼しい風が吹いている。穏やかな一日になりそうだが、どうしても夢の事が頭から離れない。具体的にどんな内容かが思い出せない割に、物凄く大事な物だと感じていた。

 正直、最近は何でもないの一日とかつてない奇妙な出来事ばかりの連続だ。予想外の物に苦手な俺は、最近の神社の男といい、大学をよく訪れる警察や変な人、そして今朝の夢の事などにどかか緊張感を覚える。

 まるで、今から俺の理解範囲を超える何かがあるその気持ちが嫌いなのだ。

 余計にあの日のことの思い出してしまう程……

 たかがの夢にこんなに取り乱す自分を馬鹿馬鹿しいと思って、キャンパスのエントランスに待っていた英志たちをみたら、下らない心配と悩みを晴らしてくれる。

「や、寝坊助よ」

「おはようの一発いかがででしょう、高山君?」

「勘弁だ。何か不機嫌そうだけど、大丈夫か?」

「何でもないさ。不愉快な目覚め方をしただけだ」

「それならこれどうぞ」

 英志に卵サンドを渡されるの時、朝食抜きで来たと気づいた。それを予測して相棒はご馳走を用意してくれるなんて。

「お前ってヤツよ。いただ来ます!」

「後は昼ごはん分けてやるよ。今日たくさん作って来ちゃったし」

「高山さん……」

「そして最後に俺様の出番だ。これ!」

 トシはにカバンの中から桃色のノートを取り出してドンと俺に突き付けた。

「佐藤のヤツに講座のメモを借りて来た。これでサボった授業に関しては問題なし」

「……お前たちぃぃぃ‼︎」

 友情に満ちて涙も押さえきれず俺は、トシと英志の間高山さんを挟んで、キツく抱きしめる。

「なんといい親友たちに恵まれたんだ俺ぇぇぇぇ」

 タップしている高山さんが苦しんで息を切らしていた。熱い友情や感謝に溢れる抱擁から彼らを放したら、瞬く間に渡せらたフワフワな卵サンドを食い荒らす。

 2限までに十分ぐらいがあって、二階の事務所の自由使用のコピー機で佐藤さんのメモをコピーしておいた。

 その後、俺たちは三階への教室へ向かう。

「でもよ、ただの夢で遅刻なんて敬くんらしくないよ?」

「最近この二人バカ程の鍛錬してっからさ」

 確かに最近では結構鍛錬しているのは認める。多分、単なる疲労だろう?

 迫る大会の準決勝に関するストレスの上、課題や勉強が全然進んでいない。精神的なストレスの悪影響で変な夢見たりする事もあるかもしれない。

「そうだね。一応大会終わってのんびりした方がいいかも。しばらく部活も休んでおくか?」

 3階に上がって307の教室に入り、先生が来るまでに高山さんが付いていると。だが、チャイムがなってから何分経っても誰にも現れなかった。

 体調を崩してるかと思って俺たちはのんびりしていたが、何の連絡もなく十分になる.

「もう帰って良いんのか?」

「ダメだよお兄さん……っと言いたいけど、確かに変んだよね」

 俺は少し前に外に出て他の教室の様子を窺ったが、普通に授業が行なっている事を確認した。

「僕、事務室に聞いてみる」

 英志が立ち上がった所に、開かれる教室の扉の向こうからいよいよ先生が入ってくる。少し考え込んでいた顔を浮かび、立っている英志が目に入る。

「おっ、先生! ちょうど事務室を伺う所でした」

「中川……」

「は、はい?」

「付いて来て下さい。残りに皆が自習を」

「せんせー、もしかして授業はないという事っすか?」

 高山さんがかったるい兄を睨みつく。

「事情があって中川以外の全員がここに残ってもらいます」

「事情……ですか?」

「貴女は?」

 机の上に誰かがさり気なく座っていると先生がその時に気づく。

「あっ、申し訳ありません。一年の高山・美月です、こちらの高山・俊雄の妹」

 何故いるかを聞かない先生は軽く頭を下げて、英志にまた話しかけた。

「中川、カバンなども持って行って」

 英志はともかく、教室にいる皆が気になりそうにブツブツと呟いていた。本人はとりあえず先生の言葉にしたがってカバンを取る。だが、まためんどくさがる声が俺の隣から先生に問いかかる。

「せんせー。すみませんが、何故エイちゃんが呼ばれるっさか?」

「ちょっとお兄さん!」

 高山さんが直ぐにトシを叱ったが、彼はそれを無視して先生に話し続けた。

「俺は言うのも何だが、何の連絡もくれないで自習しろとか言われる上、エイちゃんだけついて来いと。何か変だと思うっすけど」

 先生が困りそうにトシに声を上げようとなったが、後ろからメガネの男子クラスメートがそれを口を挟む。

「すみませんが、自分が中川さんのことより授業のことは気になります。一応ここの生徒なので、授業が中止となった理由ぐらい聞かせてもらいたい」

 勉強熱心の奴でもこの時になってストレートだなと関心した。

 先生は更に深刻な表情になり、少し声ば震えている。俺達が何も説明もせず、落ち着けと言われたものの、クラスの全員が余程に不安になりかけた。

「説明くらいして頂けますね先生」

「今日って課題があったのに、なんでいきなり自習ですか?」

「中川に何かあったんですか?」

 騒がしく進展しているクラスを収まらない先生がそのように次から次に質問を浴びられる。そもそも大したことないと思うのに。

「おえトシ、先生が可哀そうだ。何でそんなに事を煽ったんだ」

「俺よりそっちのダメな先生に聞いた方がいいんだ」

「皆……そこまでにして下さい。確かに何の理由もなく授業が中止となって気になる。けど先生にそれ程を当たるのも失礼だぞ」

 いきなり声を上げた英志はカバンを肩にかけながら、前に出た。

「俊雄のことを代わって謝ります。では、行きましょうか?」

「中川……貴方はやっぱりそのような事……」

 英志を見つめていた先生は何かに悩んでいるように握っていた手を震わせる。

 そしていきなり、開いていたドアの横から声が教室内に響き渡たった。

「遅いんだよ先生」

 入ってきたのは、白いシャツと赤いネクタイを着るいかめしい顔付きの男だ。後ろになった茶色の髪の毛で薄い髭が顎を包み、鷹のような鋭いアンバー色の目で教室を見渡す。

 一目瞭然にインパクトのある人だとも言えるだろう。

 彼の視線が英志に辿り着くと、彼を貫く程冷たく睨みついた。一方、英志があの男を見た途端にその場に凍えついた。

「た、高巻警部」

「俺の事を覚えたくれたか。光栄だ。なら話が早い」

 高巻という男がズボンの後ろのポケットから何かを探りながら、澄んだ声で英志に告げる。

 その言葉は、教室にいる俺達全員を含め、衝撃的に静まり返った。

「偽証罪と殺人犯罪の容疑で逮捕する」

 がちゃりという音が聞こえ、立ち尽くす英志は無言のままだ。

 俺と高山兄妹は体が勝手に動いたかのような勢いで立ち上がった。誰より先に沈黙を激しく破ったのはトシだ。

「オエどういうことだ‼ その手錠を外せ!」

「部外者が控えてもらうぞ。行くぞ中川」

「ぶ、部外者だと⁈ このッ」 

 トシが飛びかかろうとした前に俺は後ろから止めた。

「放せケイ!」

「お、落ちづけトシ!」

「言っとくけど、手を出したら公務執行妨害罪だ。コイツの隣の牢屋を用意してやれるぞ?」

「何だとテメェ!」

 暴走になったトシを抑えるに苦労している俺に他のクラスメートが手かし、アイツを何とか席につかせる。いつでもまた襲い掛かるだろうと思った二人のクラスメートが彼を放さないでいた。

 しかし片方を縛っても、もう一人の誰かがまた前に出る。

「ちょっと待って下さい! 何かの間違いでしょ? 英志君は殺害なんて」

「信じようが信じまいが事実は事実だ。コイツは容赦なく人を殺した犯罪者だ」

 普段、俺はこの所に高山さんを落ち着かせて冷静に状況を把握していくのだが、その言葉が耳入ったしだいとても冷静にいられなかった。

「違う! 彼がような人じゃない!」

 言った俺に続いてクラスの何人も同じように声を上げる。隣の教室から野次馬が集まる程大騒ぎになっていた。

 だが、無敵にようにその警部は余裕だと言わんばかりに落ち着いていた。おかで俺までは熱くなってくてつ いあることを言葉にした。

「根拠や証拠は何なんだ! あれば見せてもらう!」

 俺に賛成してる声援が建物の一階までに届く程轟いていたが、警部が舌打ちを鳴らして威厳のある大声を張り上げた。

「やかましい‼」

 一瞬、307教室が沈黙に落ちる。

「たかがの大学生が身の程を弁えろ! 根拠? 証拠? お前らに提出義理一つもありゃしねぇ」

「し、しかし……」

「それに大事な事が気づいてないようだ」

「大事な事……ですか?」

「無罪なら、何故先から本人が抵抗などしていないだろ?」

 その質問を聞いた途端、俺は英志に振り向いた。確かに手錠が掛けられてから無言のままだ。まさかだと思ったのに。

「いきなり手錠を掛けて途方をくれたに決まってんだろが!」

「そうなの! そもそも英志に弁解隙間も与えず!」

 高山兄妹は言い放って、妹の高山さんが英志の隣まで駆けつけた。

「英志君、ね、怖いでしょけど、違うよね? 君そんなことをするはずが」

「殺した……」

 あっさりと、英志はそのように罪を認める。

「……な、なに?」

 高山さんが一歩を下がり、動揺をしていた。唖然とした俺とトシが動きたくても、違うと叫びたくても、体が動かい。

 その言葉、僅かな三文字だけが俺達の知っていた世界を覆ったようにしてしまった。

「だって。もうこれでいいな? 他の言いたいことがなければコイツを連れて行く」

 高巻警部は英志を連れて教室を出ようとしたその時、俺達の手が届かない場所へ連れ去れれる風にみえる。誰一人も追いかけよもせず、ただそこに立ち尽くして連れて行かれる中川・英志の姿を見ていただけだ。

 俺の頭の中に、ある言葉が止まずにに繰り返している。

『嵐がやがて訪れる』


                  ***


 英志の逮捕からの翌日。

 彼は日昇警察署の留置所にいるのが中村先生のおかげでわかった。美月は英志のお母さんに連絡しようとしたが、何回掛けても電話に出てこないそうだ。

 弁護士や家族ではない俺たちが英志との面会は多少難しいだが、彼女の美月と一緒でなんとなく許されるらしい。面会室がそもそもそんなに大きくはないため、同時3人までは大丈夫だそうだ。

 幸い、大学のメインキャンパスから日昇警察署がそれ程遠くない距離だ。名前を共有する商店街に近いおかげで朝早く向かっていった。

 ただの15分しか時間がなくて、何を話せばいいのかを考え込む俺たちはまだ実感がしていないのだ。

「呼ばれるまでそちらで座ってお待ち下さい」

 受付の人に言われた通りにして、待てば待つ程息が詰まるような感じがした。早く読んでもらいたい同時に呼ばれたくないという複雑な気分だ。

 もどかしく貧乏ゆすりをするトシ昨日から何も言っていない。無理もないだろうと思った。

 いきなり大事な親友はその風に逮捕されるなんて、それに殺害犯罪の容疑で、そのショックはまだ新鮮だ。

「早く呼んでくれないかな?」

 疲れそうに絞った声で言った高山さんが昨日から全然寝ていない様子だ。逮捕の後、彼女を最後に見たのはオロオロと教室から出ていいく所だった。俺もその後、当てもなく町を歩いて思考を整えようしする。だが、何を考えばいいか結局わからない。

『殺した……』

 諦めた口調でその事を言い出したら英志の姿が目に焼き付いていた。

「……何を……言えばいいか? 何を聞けば?」

 ふと口からその言葉を漏らした俺にトシがいよいよ何かを言う。

「説明してもらうに決まってんだろ。 お前、その中途半端な答えでいいのか?」

 返す言葉がなかった。

 しばらくして、呼ばれた俺たちが重苦しい真っ白な部屋までに案内された。真ん中にでかいガラスを挟んで分離されたここは面会室のようだ。

 たった一つの椅子を高山さんに譲って、俺たちはでかいガラスの丸い口のような部分の前に待っていた。

 1分も経たず、向こうから警察官が英志を連れる。目に入った途端、高山さんが椅子から立ち上がって手をガラスに置いた。

「英志君! 大丈夫なの?」

 返事もせずに英志がガラスの向こうにあった椅子に座って俯く。

「英志君……」

 高山さんがいつでも泣きそうな顔だと思っていたものの、彼女の口からでる言葉が正直驚いた。

「答えて、何があったの? 本当に……人を……」

 英志はまだ下を向いたままに無言だだが、ドンと大きな音が後ろに立っていた警察官までギョッとした。

「彼女が質問をしたんだよエイちゃん。答えろ……違うんだと言えよ」

「お兄さん」

「……できな」

「ざけんな! お前が人を殺すだなんてムリだろ! メチャクチャ力強いと認めてや流けど、クソ優しいお前にはそんな事をできるわけねぇだろうが!」

 溜まった感情をドンドン突き付けるトシは、ガラスをぶつけた拳を震わせていた。

「英志……お願い、何かを言ってくれ。俺たちがこの状況を理解しようとしてる。俺たちが知っているおま」

 言い切れず、頭の中にあの夜の言葉を思いだした。 

『知って僕への見方が変わる』『どうしても『何か』から逃げようとしている』『……怖いんだ。僕の過去を話す事』

 深い意味じゃないと思った、その怯えている子供のような言葉が、今俺に恐ろしい真実を見せつける。

「覚えただろう敬? このことを言っていた。皆が知っている僕は罪深い男の成り果てだ。僕は……今まで生きていたろくでもない人生にこの終わりが相応しいかもしれない」

「そんな事を言って私が納得すると思うの⁈ はい分かりましたおさらばだと言うと思うの⁈ 私が知っている君がそんな人じゃないってば……英志君は……私の英志君は……ヒッ」

 泣きじゃくる高山さんが腰を椅子に落とした。

「また泣かせてしまって……こんなダメな彼氏でごめん美月……でも高巻警部が言った通り、真実は真実だ。罪を犯して、報うべきだ。当然だろ? あの時の罪を償わないと。幸せな終わりが……僕にはない」

 頭の中が混乱や乱雑に呑まれていく。俺の目の前にいるのは、怯まない強さを持つライバルであり、何度だって救ってくれた友であり、殺害のような残酷な事がとてもできなさそう俺の親友だ。

 でも、その全てはただの蜃気楼とでも言うのか。かぶった画面で俺たちを騙そうとした振る舞い?

「違う……英志だって何を言おうと……」

「美月や俊雄はともかく、敬、君まで不合理で相当な衝撃だ。ごめん、今日はこれ以上で失礼する。色々考えないと」

 英志はそのまま立ち上がって、警察官と一緒に面会室は後にした。

 俺たちはしばらくそのところから動かず、状況を把握しようとしている。

 トシが高山さんを慰め、今まで見た事のない深刻な眼で英志のいた席を睨んでいた。

 2、3分が経ったら、どこかで聞いたような声が俺たちを呼びかける。

「あの〜、君ら。ここに出てってもらえるかな?」

 視線をその声の主に移ると、前キャンパスの一階であったタバコの匂いのおじさん。彼も俺の事を思い出したみたいのだ。

「この間の細かい君か」

「すみません……すぐに出ます」

 まだ動揺している高山さんを連れて、俺たちは廊下に出る。まだちゃんと歩けない彼女を近くにあった椅子に座らせて、トシが近くの自販機で水を買いに行った。

「もしかして、中川・英志の知り合い?」

「そうです。一応友人たちと恋人だ」

「そっかぁ。嫌な思いをさせちゃったね。お嬢さん大丈夫かな」

 大丈夫な訳ないと突っ込みたかったが、彼に当たるのも流石に不公平だ。曖昧なハイと答えて、壁に寄りかかる。

「僕、この物なんだけど」

 タバコ臭いのおじさんに名刺を渡された。

『日昇警察署 刑事部捜査一課 仲田・宗介 警部』

「これは……」

「自分は一応、高巻警部と一緒に中川・英志のケースを捜査している担当の一人だ」

 向こうから戻ってきたトシは思わずに持っていた水のペットボトルを手放し、俺と美月も見開く程驚きの表情になる。

 あの時この事の関係で大学を訪れただろう?

「君ら、色々聞きたそうな。まぁ、無理もないけど。一応捜査も兼ねて色々取り調べしたいんで、ちょっと付き合ってもらえる?」

 仲田警部と一緒にロビにあった休憩スペースまで案内された。警部は妙なタバコのパッケージから一本出してを吸いながら、俺たちの名前や英志との関係を問いかかる。メモ帳に記しながら、受付受付のお姉さんに喫煙を怒られる。よくあるやり取りらしい。腹立たしいそうな仲田警部は水が少し残っとていた紙カップに吸いきれないタバコを捨て、話し続ける。

「そんじゃ、中川さんが一番長いのお知り合いなら君だね松原さん。特に出会ってから不審な言動、または気になった事とかがあったでしょうか?」

「いいえ、全然。今だに英志が殺人何てとても信じられないよ」

「そうか……高山さん、妹の方、どうでしょう?」

 元気のない高山さんは膝の上に両手をおずおずと握りながら、苦しそうに声を絞り出した。

「特に何も……」

「いや違うんだろ」

 急に遮ったトシが前屈みになる。

「エイちゃ、英志は俺らと出会ってから別に悪いヤツにみえなかったっすけど、気になる事だってある。アイツ、自分の過去のことについて全然話さない事だった」

「お兄さん! でもそれは」

「アイツが人を殺したと信じたくねぇ気持ち俺にだってある。けど、何で喋ってくれねぇ……俺ら友達だ。美月だって恋人だろ? 重い荷だってわかる。辛いことだってわかるけど、やったかやってねぇかくらい素直に教えろっつの」

 彼の気持ちがわかる。俺たちが英志の友達と恋人としての失敗というような気持ちだ。俺たちの事を本当に信じてくれれば何で何も教えてくれないというわがままだな気持ちなのだ。

 解決できることかわからないが、俺たち3人はおそらく、知る権利があると思い込んでいるみたいだと思う。しかし、その俺たちは……

「ちょっと落ち着きましょう。この状態で混乱になるのは無理もないけど、今は単なる取り調べにすぎないのだ。冷静に話してくれれば正確な情報を得て、むしろ中川さんのタメになるかもしれないよ」

「な、仲田さん……教えてくれませんか? いったい何があったという」

「うーん。細かい事までは流石に言えないけど……」

 深く考え込んだ仲田警部は左右に視線を配って、俺たちに近く。

「関係者とは言えないが、部外者でもない君らをちょっとぐらいならいいと思う。しかし、聞いて騒いだり、余計なことしたりしないと約束してもらう」

 俺たちは頷いて、気を引き締めた。

「五年前、真朝町高等学校の生徒に遺体は町の南西の川岸近辺にある廃墟倉庫の付近に発見された。亡くなるまでに酷く殴り殺されたのだ。まぁ、遺体の周りにいくつかの不審要素があった為、死因は不明だったけど。目撃者もいないし、犯人と思われる人が中々いなかったのだ。まるで幽霊が殺した(やった)のように」

「酷いです……」

 正直、高山さんがこのような話しを聞いていいか心配していたが、彼女にも知る権利がある。それに、俺やトシが何を言おうと引かないと思う。

「そうだな。結構エグい感じだった。死因といい、容疑者といい、死亡時刻や動機も突き詰めがたいケースだった。長い間に進展もせず、このままだと除斥期間も迫っていたせいで解決の見込みがゼロだった。前月までだったな」

「先月に何かあったんっすか?」

「だからか。トシも気づいただろう? 最近キャンパスの辺りにパトカーや警察官がよく見かけていたんだ」

「そう言えば……」

「正にそうだだが、あるスジから情報が入ってきた。被害者の関係があった人は真朝大を通学だという情報だ。だが、事件当時担当者が洗いざらい被害者の関係者などを調べたんだ。だが、その中に中川・英志という名前は出てこなかった」」

 という事は英志はあの日被害者と会ってない事だろう?

「それならどうして英志君を調べ始めたのですか?」

「調べた関係者の中にいなかっただからこそ怪しかったのだ。事件当時、同じ学校に通っていた中川さんにも聴取が行なった」

 仲田警部は話せば話す程、親友にあのような経験があって俺達全員思いもよらなかった。アイツはずっとこれを黙ってて......

「知らべた限りに中川のアリバイも確認した。しかし、通報者によって事件当時に二人が一緒にいるのが目撃された。それは高巻さんに取って連行に自分だったが、あるモノのおかげで決定的な証拠が得るかもしれない」

 気になる事が山程あったのだ。英志を通報した人やその決定的な証拠などだが、仲田警部に聞いても答えてくれなさそうだ。

 ここまで教えてくれて正直に大サービスだと思う。

「でも、今の話しだと英志君がやったとはまだ完全に分からないでしょう?」

「お嬢さんは前向きでいいな。だがまぁ、他の容疑者がいないし、先言った決定的な証拠も簡単に覆れないと思うけど」

「でも可能性があるとは否定していませんね?」

「まぁ、それはそうだけど。じゃなければ留置場で預かってることはないさ。もちろん彼がシロという可能性はわずかでもあるかもしれないな」

「なら上手く行けば、アイツは無罪って」

 少しで僅かな希望を与えられた丁度その時、不吉な予兆のように、トシの話しが遮ったのは忘れられない男の声だ。

「ないそんなモン」

「おっ、高巻さん。お疲れさん」

「仲田、ガキに余計な希望をやってどういう事だ」

「何だと⁈」

 トシに完全に敵対視されている高巻警部が後ろから現れた。前と同じような威厳のある鋭い眼で俺たち見つめる。

「言っとくけど、中川・英志が犯人だ。これで最後に言うぞ。いい加減にその真実を認めろ」

 前と同じような展開を避けたくてトシが襲いかからないように彼に目をやったが、いきなり立ち上がった高山さんが警部の前に対立した。

「私は認めない。納得なんかしない。高巻さんがどうしてそんに英志を罪に問うか全く分からない。年下の相手をいじめるって趣味ですか?」

 嫌がりでさり気無くそのようなことを言った高山さんにあんぐり顎を開けさせる。トシが様子見で、どこか誇らしく妹を見つめる。

「根性の据わったお嬢さんだな」

「言いたいなだけ言ってろ。だが、これだけ保証する。俺は必ずあのロクでもない人殺しの中川・英志を刑務所で朽ち果ててやる」

「あんた英志君の事何も知らないくせに人殺しを言うなんて酷すぎる。これでも警部とでも言うの?」

「た、高山さん……」

 流石にこれ以上言ったらまずいだと思う。だが、言われっぱなしの高巻警部は平然とした表情を浮かべ、クスッと笑った。

「アイツの何も分からないって。それは一体どっちの方だろう?」

「何?」

「五年前の中川・英志を知っていると言ったらどうだ? そしてそれだけではなく、彼が関わったある事で断言でくいる。彼は殺害とうい犯行ができるヤツ」

「そ、そんな」

「何も分からないクソガキが帰って寝とけって。仲田、出かけるぞ。調査の続きだ」

「はい。では自分はこれで失礼です。ご協力ありがとう」

 高山さんが悔しそうにまた椅子に腰を落として泣きじゃくる。ただの会話だけで俺たちがみえてきた微細な希望を踏みにじろうとする高巻警部の最後に言った事が俺たちに無力感を覚えさせた。

 五年前に殺された高校生の不審な事件、想像もしたくはない出来事のせいで俺たちの日々が混乱に陥る。

 英志のために何かをしてあげたいが、俺たちができることはそもそもはないとドンドン思うようになっている。

 本人こそ諦めかけていたその顔を見てなおさらだ。

 警察署を後にして高山兄妹と別れた。まだ午前中なのに、一日中走り回ったほどの疲れを感じたている俺はふらりと当てもなく町を歩いていく。

 今までの状況を頭の中に整理しようとしたが、分からないことも多くて何をどう考えばいいか分からなくなった。

 覚悟ができたら俺たちに話してこいとか言い出した俺はとんでもない大馬鹿だとみえたきた。何も知らないくせに英志にそんな事を抜かして彼をなのを思っただろう?

 漫画の主人公みたいに格好つけおうとして友の気持ちを本当に理解しようとしたかと自分を疑っている。英志のためにとか思って問題を知りもせず、『側にいるぞ』となんかの甘い言葉で力になれるとどれ程おこがましいとわかってきた。

 くだらない英雄気取りを捨て、自分の無力さを心得た俺は何となく旧朝神社までに足を運んでくたと気づいく。何故ここまで来たかが自分にも分からないが、目の前にあった小さな本殿を強く意識した。

 不思議に、この古びた神社のどかかが俺を誘っているように感じている。自分も変だと思いながら、『意志』を感じているようなしないような、微かな気配がここに漂っているという雰囲気だ。

 疲れ果てているせいか、いきなり途方もない事があったせいか、どちらにせよ俺は突然頭の中に声が響いていた。

『訪れし嵐の前に立てり汝よ、運命を争うなら今此処で望みを訊こう』

 また訳の分からない言葉に意味不明の質問だ。運命を争うとは何だ? 望み? 望み……そうだね。今の俺は望む事なら……

「この眼で確かめたい。この全ての真実……その真相をどうか……フン、できたら何という都合のいい話だ」

『ホー。おかしき願いではないか?』

 妄想のくせに俺をからかいやがって。でも間違いないのだ。今の状況を考えると、英志が心を閉していく。事の始まりは五年前の遠い過去だし、『今』の俺がしようがない。

 いいえ、それだけじゃない……

『皆が知っている僕は罪深い男の成り果てだ』『あの時の罪を償わないと。』

 アイツの事を考えると、どうしても気になる。本人がどれだけが言っても、この眼で見ない限りに絶対に納得できない話だ。だから、せめてあの時に起きた事を確かめれば、英志の本当の気落ちを分かれば、力になれるだろう?

『良かろう。では、其の汝に機を与えよう。但し、争う運命は友と呼ぶ者の因縁だけだ。忘るな、優しき男の子よ』

 はっきりとしないが、どこかで聞いた覚えのある声だった。

 突然、 周りが風景が掠り筆のように歪み、俺の目をくらませてしまう。まるで自然その物がごちゃとなって変わってゆく。1秒に寒くなったり、次に1秒に汗だくになる程暑くなったりして、木々の葉っぱが枯れ、落ち、そして満開に至った。

 俺の前にそのような絵が次々と描かれるような錯覚が繰り広げながら、体が段々軽くなる。今日の衝撃で風邪なんか引いたかと自問をした。錯覚に追いつけれらない両目が重くなり、気づかない内に俺はその場で眠りにつく。深く……深く……真っ暗な世界に包まれるような眠りだった。


                   。。。


「グッ。な、何なんだアレ」

 目が覚めたら、いきなり見た覚えのない場所に倒れていたらしい。記憶に探ってみても、最後に思い出せるのが町を歩いていた事と、周りが急にごちゃごちゃとなったこと。一瞬に、RPGがフィルドからバトルに移るように現実が歪め始めるようにみえたと思う。

「最近ゲーム遊びすぎるせいか」

 ここはどこかの神社みたな場所だが、ぼろぼろですごく古い感じだ。一体どうやってここまで来たんだろ?

 まだ目眩がしてとりあえず道に出る事にしたが、全然知らない場所だ。近くにあったサインを読んで、真朝町公立公園の近くにいるそうだ。そもそもどうやって町の中心に来たかわかることさえ、何でここに来た事も全然だ。

 それに、起きてからずっと気になっていたけど、体がどこかに変な感じだ同時に自分のない服が着ていると気づく。

「い、一体どういうこ、あれ?」

 異変を気付きつつけ、自分の口から出ていた声も微妙な感じだった。自分の声に違いない……はずだが、ちょっと低めた口調だ。

 道の角にあったFAMILY MARYが目に入ってそこに向かった。

 トイレの鏡の前に立っていたその瞬間、とんでもない事が映っていた。 

 僕だけど、僕じゃない僕だ。

 いつもの茶色の髪だけど、結構伸びたスタイリッシュな感じだ。ヒゲも親父のようにカッコよく生えているが、一番インパクトがあったのは身体の方だ。毎日筋トレとかなんかをやっているようにそこそこ付いているのだ。背も伸びているし、左の手首にまで黒い球のブレスも飾ってる。

「かっけぇ……って違う! 誰だこの人⁈」

 僕が動いたら、鏡の彼も全く同じように動く。間違いなくそこにいるのは僕だとその時にわかった。でも、それはありえないのだ。

 僕は西光街(せいこうがい)私立高校の一年生である松原・敬だ。このような大人にみえる人じゃない。

「夢でもみているのかな僕は? お、落ち着け松原!」

 両手で顔を軽く叩いたり、頬を摘んだりしてどうしてもい自分を目覚めようとしたけど、失敗だった。

「ま、まさか……」

 いやいや、世の中はどれくらい様々でもありえない事がありえないと自分に言い聞かせる。しかし、触る物にしっかりと反応があって僕は何をしても目覚めないのだ。

 何を閃こうとして鏡の人、じゃなくて僕を激しく見つめていた。

 チリンという音がどこからともなく鳴り出し、左足の太もも辺りに軽い振動を感じる。鏡への集中が途切れてズボンのポケットから携帯電話を取り出したけど、僕の持っているヤツよりはるかに高そうなバーションだ。ボタンさえなくて僕の顔と合わせた次第に、まるで僕の事がわかったようにロックを解除した。

 数年後このような高性能の携帯が出てくると聞いた事ぐらいはあるけど、タツ兄から携帯を受け継いだ僕がなんでこれを持っているのかがさっぱりわからないのだ。

 トシという人からのいくつかのメッセージの着信だそうだ。

『あの警部やろうが何を言おうとオレは納得行かね。』『中村と打ち合わせしようぜ。彼ならきっと力になってくれるんだ。』『その連絡はケイに任せる。オレは美月が落ち着くまでに一緒にいる』

 意味不明のメッセージばっかりは確かだけど、一つのことが明確……ケイというのは僕の事だ、つまりあの人がこの携帯のそのメッセージを送るのも当然僕に送ると同じこと……

「ええええええええええええええええ?!」

 現実だと理解した途端、叫ばずにはいられなかったのだ。店員のスタッフも気づいてトイレのドアをノックしてくる。

「お客様。大丈夫でしょうか?」

 大丈夫な訳ないだろう⁈ 慌てながら日付を確認して2021年だと確定した。

 ありえなさ過ぎた事に落とされた僕は便座に腰を落とし、ドアを叩き続ける店員をきにする余地もなく、ひたすらに事情を整理しようとする。

 今の僕は未来の五年後にかけ、すなわちタイムリープをどうにかしてきた。経緯や記憶もな、一瞬目眩のせいで倒れて『今』に目覚めた。

 少なくとも異世界系のように注意くらいをしてくれと思う程困り果てる。

 トイレのドアが突然開けられて、その向こうから現れた店員さんが僕に何かをバタバタ言っているけど、現状で頭がいっぱい僕はふらりと外へ歩いていった。

 その後、公園までこの身を引きずって、草に倒れる。

 未来の五年の世界……まずはどうして僕はこの状況に落とされたかが知りたいのだ。ゲームのロジックで考えれば、ある目的を成し遂げてから自分の時に戻されるだろう?

 しかし、そここそは大事だ。大体クソゲームでも目的を教えてくれるのが決まりだ。でなければ、目的を果たさないだろう?

 次に考えたのは、未来の僕は何らかの実験の参加してタイムリープをして僕と入れ替わった。だが、それなら目覚めるのが非公式の施設内での赤髪の美人に状況を説明してくれるだろう? その可能性も見当外れだと思った。

 知識を絞って最後に考えられるのは、未来の僕が何かの神秘的な術を行使して……いやこれも違うだろう。

 頭が痛くなる程考え込んでいた僕が誰かに呼びかけられた。

「松原君? どうしてそこに倒れているの?」

 顔を上げると、ごく普通のメガネかけ女の人だ。見覚えのない彼女をジロジロと見つめて何かの答えを探そうとした僕が、今きっと変人にみえるだろうとある程度自覚した。

「な、何で私をそんなにジッとしてんの? やめてちょうだい」

「あ、ごめん……」

 気のせいか、その子は困ったように照れたが、少し落ち込んだ風にもみえた。

「まぁ、仕方ないかもしれない。中川君があんな目に遭って私だってもショックを受けたのよ」

 彼女の言葉を理解しようとしたが、日本語を話してくれても全然意味のわからない言葉だけに聞こえている。

「もう、しっかりして松原君! と、高山君が結構前からあなたを探しているよ。今は確かに本校の一階にいるから早く行こぅ!」

 本校はどこだとさすがに聞いたら怪しまれるだろう? でもこの場合になにをやればいいか分からなく、困りそうに難しい顔を浮かべる自分に情けをかけてくれた彼女は僕に。

「ああもう!」

 手を伸ばして立たせてくれた彼女は腕を引っ張りながら、どこかに連れて行っているのだ。

 ある程度助かったなと思ったけど、行き先に何かが待っているのはちょっと緊張していた。

 町を歩いているところに未来にいるのがもう一回確信したのだ。郊外の西光街住んでいる僕は真朝町の中心にくるのは大体週末や連休あたりものの、あちこちの変化に僕だって気づく。商店街でお袋の行くつけの八百屋さんと僕の好きなラーメン屋もなくなり、バスの色まで変わっているのがパッと目に入る。

 メガネの子も色々言っていたが、同じ町の全く変わった光景の興味の方がはるかに高いのだ。真朝町公立大学に着いて彼女は誰かを探しているようだった。

「オエ敬! 今までどこにいてたんだ? ったくお前しっかりしろ!」

 横からそのヤバそうな声に振り向くと、ヤンキーとしか思わないアフロの男が僕に迫ってくる。

「え、えっと……」

 自分の事を知っている赤の他人にどうやってを答えるのかを困り、メガネのお姉さんにオドオドと振り向いた。その人の素性を視線で問い詰めても、彼女が気味が悪そうな表情になる。

「敬!何でウロウロしてんだ? 中村に連絡したか?」

「え、えっと……な、中村さんね」

「さん?」

 しまった。端から何か変な事を抜かしたか

「ショックでちゃんと思考が回ってないと思うよ、高山君。先生との相談は後か明日にしないか? あなただって結構疲れそうにみえる」

 何で先生なのに苗字で呼ぶかを山ほど突っ込みたかったが、返って更に怪しまれるだろう。

「そうのんびりとしている場合か佐藤? 英志が逮捕されたんだよ! 中村が何とかしてくれる筈だ」

 逮捕?

「気持ちが分かるけど、私たち生徒達が突っ込むところじゃないよ。そもそも中村先生って何ができるの?」

「事情が聞いてくれんだろ?」

「事情を聞いてどうする? 状況が分かっているの、高山君? 中川君が殺害犯罪で逮捕されたの」

 さ、殺害……

「アイツは人を殺すヤツじゃねんだ! 何かの裏が絶対あるって。お前だって分かるだろう、え――――」

 人が……こ、殺されたか……僕はその言葉に動揺されるうち、佐藤と言う子はヤンキーの人の口を塞いだ。こっちをそんなに見ないでくれるかな......今は気絶しまいそういだところだ。

「名探偵気取りなのあなたは? あんなことより美月ちゃんの側にいるべきではないの? 相当落ち込んでいるしょ?」

「うっせよ! そもそも何で英志が逮捕されたから、美月が悲しんでんだろう?」

「……昨日の話を覚えているの? 皆がどこの高校って話」

「何だ急に話しを変えて?」

「私、真朝町に叔母がいるさのさ。高校時代のある夏休みに叔母さんの所を遊びに行くつもりだったけど、叔母さんが止められたんだ。数ヶ月前に酷い事件で高校生が殺された上、犯人がその時まだ不明だそうだ」

「そ、それって……」

「中川君と同じく真朝町高等学校の生徒だったらしい。だから、あの時中川君が同じ学校に通っていた事を聞いて直ぐにその話を思い出したのよ......私だって、あの心優しい中川君が殺害などできるとは信じたくないけど……」

「……な、何なんだこの状況……」

 言葉を思わずに漏らした僕の方をその二人を向いて、先から無言でいたのが忘れたと思う。このとんでもない話を聞いて反応がなければ、むしろおかしいだ。もしかして未来の僕は殺人事件に関わっているだと? 

「敬……ハアアア。佐藤、お前の心配は分かってんだけど、俺らってアイツの親友だ。助けたいと思って当然だ」

「そう......よね。それでも、焦るの良くないよ? 先生と話すのも頭を冷やしてからでいいでしょ」

「わったよ……僕もちょっと色々考えたいかな!」

 いきなりこの途方もない未来が突き出された僕はブレーキを踏みたい気持ちだ。考えをまとめ、どうするかを決めたくて早くここから離れるように佐藤さんと賛成した。しかし、また変なことを言ったのように二人はまた不思議そうな視線を浴びた。

「「僕?」」

「えッ、な、何でしょう?」

「「でしょう?」」

 首筋に垂れていく汗が僕の緊張を暴いている。振り返ってここから脱出しようと思っていたその時、高山さんが溜め息をつく。

「お前はここまで混乱になるとは初めてみたんだな。佐藤の言う通り明日にまた集合して考えよう。美月も連れてくる」

「そうそう! その方がいいよね? 私、今から職員室に行くからついでに中村先生にも伝えておくよ。先生も今朝から中川君のことを必死に考えていたらしい」

「あぁ、助かるぞ。ケイちゃん、もう落ちづけって。ほら、寮まで送ってやるよ」

「あ、ありがとう……たか」

 未来の僕と今の僕の言動の差が広すぎて、相手をどう呼ぶかのも困っていたけど、向こうは自分を呼捨てにするから未来の僕もそうだろう。しかし、この人の下の名前が全く知らない。顔と正確な考えて正男という所かな。

 必死にその場に考え、FAMILY MARYのメールを思い出した。彼もどもっていた僕にまた何かを言ってきそうで、慌てて賭けていみる。

「と、トシ!」

 緊張のあまりでその名前を大声であげてしまったのだ。

「お前本当に大丈夫なのか? ってか俺の名をそんなに怒鳴らなくていいさ」

 当たって両腕をあげたくなったのに、やると怪しまれると思った僕はぎこちなく笑いながら頭の後ろをかいた。

 一先ずこのハードルを超えてたか、トシさんと一緒に外に出て未来の僕が住む

寮に向かっていく。

 変なことを言いたくなくて静かな僕がトシさんの言うことを頷いたり、ハイと言ったりすることで何とか誤魔化そうつしていた。聞いていた話によると、昨日逮捕されたあの中川・英志さんを留置所であったそうだ。後はタカマキという警部に悪口ばっかりしていたトシさんが僕にまたとんでもない事を振りかかる。

「お前がそんなにショック受けてんなら、一杯ぐらいを行くか?」

「え、えッ?」

 そういえば「今」の僕は飲酒なら問題ないだけど、逮捕された友人の件にそれ程を悩んでよく酒飲もうとかいうと思った。大人になるまで酒のアピールが分からないと酔っ払ていたタツ兄に言われたこともあった。

 気になって飲んでみたいけど、さすがにこの状況ではやると更に厄介なことになるだろう。

「ちょ、ちょっと疲れているから、今度にしよう」

「……そうだな」

 その後、寮についてトシさんと離れた。幸い、ポケットにあった鍵に部屋番号が書いてあった。ドアを開ける時に、未来の僕でも他人の部屋に邪魔をするような複雑な気持ちだ。

 入ったら、結構シンプルな部屋の風景だ。ベッドに机、またはクローゼットと鏡立てだ。もう一回鏡で「自分」を真剣に見つめてまだ信じがたいと思った。かっこいい大人になったのはありがたいけど、この状況で知るとはあまり不本意過ぎるのだ。

 ベッドに倒れたくて眠りにつき、自分の部屋に目覚めたいだけど、それはないと段々分かってきた。僕は紛れもなく不明な理由で未来に飛ばされたのだ。

 些細でも手掛かりになる物をこの部屋に探しだして幾つかの事が分かった。

 まず、未来の僕は大学三年生で経営学が専攻みたいだ。また、ボックス部の一員で今は何かの大会に参加中。それにローゼットのドアの内側に飾っているメダルをみることで結構強いと明確した。かっこいいという気持ちが倍になる。

 すごく綺麗な部屋だから自分の部屋だと半分疑っていたけど、未来で僕はかなり整理整頓をキチンとする大人になった。どうやってかがさっぱり分からないのだけど、毎日部屋を掃除しなさいとぶつけてくるお袋が頭に浮かんだ。

「あッ! そうだ!」

 混乱のあまりに両親に連絡したみる筋もあると気づいた今にコンタクトを見つけ、電話をかけてみた。しかし、お袋も親父も出なかったのだ。タツにも当ててみたけど、圏外のようだ。諦めてまた後でかけてみることにした。

 その後、写真フォルダの中を探ってトシさん、佐藤さんと他の二人との写真が結構見かける。恐らく例に妹と中川さんだ。写真をみることだけで、未来の僕にとって大切な友達だと伝わってくる。

 結局、答えを見つけただろう……

 感情に浸る場合じゃなくて、その写真をみてどこかに安心したと同時に凄く悲しく想う。

 丁度その頃、目が凄く重く感じて疲れているのが自覚してきた。まだ少し早いけど、とりあえず着替えてから休むことした時。

「……着替えていいんだよね? 一応自分のからだではあるけど……」

 半分にこの「僕」の体が気になってゆっくりとシャツを脱いで鏡で胴体を観察する。やはり何かの筋トレをやっているねと思う程自分の体の変化に感心した。未来の僕はどれだけ鍛錬したかを考えてある程度未来を楽しみにする。

 モテるか、この体でボックスとかがやってどんな気分が気になるけど、自分の時に戻らないとそんな事がわらなくなるだろう。

 またもどかしいな気分になって着替えを済ませてから休むことにした。


                  ***


「うーん......」

 少しずつ意識が戻り、柔らかいベッドの上に寝ているのが分かった。頭はまだ朦朧な感じだが、ゆっくり目を開けて周りを確認しようとする。目覚めたのは酷く散らかしてゲームが好きの人の部屋だ。一目で誰の部屋かがすぐに分かった。

「俺、いつの間に?」

 ここは、真朝町の郊外にある両親の家でかつて俺の部屋だ。

 ベッドから立ち上がった時、肌が触っている服の材質に違和感を感じた。倒れた時着ている馴染みの物と違って、今は高校時代に通っていた征服を何故かに身につけている。

 正直、そもそも気絶した俺が旧朝神社からここに運ばれたことがはるかにおかしいと思い、状況が両親から聞いて置いたほうが手っ取り早いだろう。

 それを考えて部屋から出てリビングに向かった。

「ったく、俺の部屋勝手使っていいといつも言うのに何であのままにしているだろう。過去の執着って良くないモンだぞ」

 キッチンからのカレーの匂いでお袋がそこにいると分かった。

「起きたよ」

 少し驚いて慌ててキッチンから飛び出たお袋が俺の顔や額をしゃかりきに触りながら、具合を問いただす。

「大丈夫だ。ショックで気絶したかも」

「ショック? 何かあったの?」

「まぁ。連絡する時間がなかったけど……英志が逮捕されたんだ」

 その言葉にお袋は訝しげな顔を浮かべる。

「えいじ? 誰なのそれ? クラスメート?」

「……何に言ってんだ? 英志だよ。中川・英志だ」

「転校生?」

「何が転校生だ? そもそもそういうって高校の話だろう? って言えば、俺は何で征服を着ている?」

 まるで息子が狂っているようにお袋が無言で俺を見つめている。

 正直、それを見て不安を感じ始めたのだ。

「な、何だよその顔。ってかさ、征服の事より俺は何でお袋ん家にいる? もしかして俺が倒れた事を聞いて真朝町まで迎えに行ったのか?」

「け、敬ちゃん……や、やはりどうかしている! はやくソファに横になりなさい」

 今の変な反応が気になって、むしろお袋の方が大丈夫かと心配していた俺は彼女を落ち着こうとする。

「だ、大丈夫だって。ハァァ、お袋こそ大丈夫だろう? 親父は?」

「そ、そうようね。あなた!」

 お袋は玄関の方に振り向いて親父が外にいると分かったら、俺はそこに向かった。

「ランプをちゃんと置いといたな?」

「ら、ランプ?」

 親父が手伝う必要があると聞いて玄関の扉を開けた途端、この変な状況とはたかがの夢だと理解したのだ。

「どうした敬?」

 そこにいた、いや、〃立っていた〃のは親父だ。時々この風にある夢、悪夢とでも言うべきかもしれないことだ。あの頃の記憶を夢として再現しているような現象だ。

 「――もっと面白い夢が見ないか」

 呆れた俺は溜め息をついて、振り返って部屋にもどろうとしたが、お袋が心配そうに親父に何かを言っていた。

 後ろからドンと駆けてくる親父の重い足取りを聞いて、後ろから俺の肩を掴んだ。

「オエ敬、どうしたんだ? お母さんが様子がおかしいだと。倒れた時、頭を地面でぶつけられたのか?」

「ほっといてくれ」

 手を払って部屋の扉を開けようとしたが、阻止した〃彼〃が俺を振り返らせる。

 飽きる事だ……

「何なんだその態度? 何かあっただろう? 話すんーー」

「うっせ‼ とっとと目覚めたいから邪魔すんな」

「目覚めたいだと?」

 彼はその言葉を聞いて俺の肩を強く……握っていた?

「凄く実感だな」

「敬! いい加減にしろ。光花(ひな)、先生に診てもらう。クリニックに電話を掛けといて」

「は、はい!」

 そのシーンが目の前に繰り広げ、かなりリアルな感じのある夢だと想った。俺の肩への圧力がしっかり来る程感心したのだ。

「もう離していいぞ。今はとてもこの下らない夢を見ている場合じゃない……」

「お前……夢だと? ……コラッ」

 彼が俺の頬を軽く叩き、その微かの痛みが顔全面に伝わる事で異変に気づく。いくら夢だといえ、リアル過ぎるな感じだった。

 まさか……いや、有り得ない事だ。しかし……

「今のは効いただろう? 夢とか見てるんじゃないよ……」

 本物に近い表現にしていて説得力がそこそこあるが、例え、あくまでの仮定、俺は本当に「この今」にいるのなら、とんでもないことに違いないのだ。

『汝に機を与えよう』

 突然、その言葉を何故かに思い出したせいで変なことを考え始めていた。これならやることはひとつしかないだろう。

「俺をもっと強く引っぱたいてくれ」

 相手は何も問わず、言われて通り俺をバチンと頬を叩いた。全面に走る激しい痛みが、途方もない現実を突き付ける。

「……こ、これは……夢……」

 戸惑いながら、オドオドと彼を見て。

「じゃない」

 それが耳に入ったら、激しく目眩が湧いてきた。俺は膝が崩れて腰を落とし、震え出す両手で顔を触る。

 これは紛れもなく現実だと理解した。

 いくらリアルな夢でも、夢は夢だ。痛みをこれほど感じたり、五感がこれまで刺激されたりすることで認めざるを得ない。

「これは……夢じゃ……ウグッ!」

 突然の余りに吐き気がしてトイレに駆け出した。

 不快に、腹には何もが残さないまで全てを出してしまったら、顔を洗った鏡で自分の反映を見つめていた。

 ダサい短髪の黑い髪に痩せっぽちな身体が目に入って問答無用高校生の自分だ。

 目覚めた時に身体の違いを全然気づかなかったが、今だとこの時期での典型的な怠さが身体中に感じる。

「あ、有り得ない……有り得ない有り得ないありえ」

「敬! 大丈夫か?」

「があぁ!」

 親父の焦った声に驚かせて我に返る俺は息を整えようとした。このままだと両親が更に心配になったら厄介だ。

 自分に何回を大丈夫だと言い聞かせてドアを開ける。

「驚かせてごめん。昨日ゲームやり過ぎて頭がおかしくなったかも」

 俺の言った事をまだ半分を疑っている二人が病院に連れて行こうと言わんばかりな視線を向き合った。

「ほ、本当に大丈夫だって! お袋に俺に夜更けまでのゲームをやめろってよく言うんだろう」

「ま、まぁそれは確かに……」

「だ、だから休ませてくれる? 何だか疲労が溜まっているんだ」

「……本当か?」

 親父の目を合わせず、ただコクンと頷いて答える。何となく信じてくれたよう、両親はトイレのドアから離れて俺を部屋まで一緒に歩いてくれた。

 具合が悪かったら声を掛けてっと言われた俺は部屋に籠る。ベッドに倒れ、夢かどうかをまだ疑っている。

 焦ってばかり何も分からいの分かるが、この尋常ならざる状況にどうやって冷静でいられるだろう?

「……事情の整理だ……」

 有名のホルムズさんの言葉が頭に浮かんでくる。ありそうになくても、不可能な物を除外していって、残った物は真相だと。

 細かいなどにうるさく言われる自分にとってその言葉はまさに理(ことわり)そのものだ。

 だからまず、俺は時間を遡った……

「があああぁ! ダメだ‼ 有り得なさすぎ」

 頭を掲えながら、ベッドの上にゴロゴロと転がってその要素がどうしても不可能だとしかみえなかった。

「やっぱ夢でもみているのか? あそこで願ったことだけで過去にタイムトラベルをしたわけ――」

『数ヶ月前に酷い事件で高校生が殺された上、犯人がその時まだ不明だそうだ』

「?」

『中川君と同じく真朝町高等学校の生徒だったらしい』

「……あれって佐藤さんと……トシ?」

 俺を突っ込むのタイミングで、あるイメージがいきなり頭の中に湧いてくる。ぼやっと見え、俺はそこにいたようなシーンの再現だ。まるで記憶だが、あったことがない記憶のような物だ。頭の浮かび方が〃思い出した〃という風に感じたが、俺はそもそもその記憶を体験した事がない。

「真朝町高等か……」

 親父の平手打ちや五感の働きより、今の矛盾の臭い記憶が現状を遥かに納得してくれたのだ。神秘的に不可思議にしか想えないながらも、思い出したような〃感じ〃本物だ。

 正直、誰かに説明しようとして正気の沙汰ではにと言われるだろ。 

 ベッドから立ち上がって、机にあった小さな鏡で『今』の俺の顔を見つめている。無邪気な幼さに溢れるその顔にある瞳は確かに似合わない物だ。あの頃の自分に比べると〃生きている〃という感じがしているからだ。

 いよいよ状況をある程度納得できた俺は改めて整理しようとする。

「不可能が可能になった前提で行こう……」

 俺は英志が逮捕された後、戸惑って途方もなく町を歩いて旧朝神社に辿り着いた。その時、ストレスのせいで幻聴の類だと思った声が頭に響く。

 願いを聞かれたあの声に俺は英志の過去を巡る真相を知りたいと答えた。

「いいや、正確に見たいとか言ったっけ?」

 続いて、周りの世界がおかしくなって過去に目覚める。

「……待て、そもそも今日っていつ?」

 壁にあったカレンダーを見て日付を確認した。丁度五年前の3月16日だ。

「もしかしてあの事件が今から起きるということか? それなら……止められるかもしれ、あッ!」

 ふと気づいたが、この日付の近くにもう一つ大きいな出来事があると思い出した。勢いよく部屋から飛び出てリビングに入る親父を驚かせてしまう。

「親父! 3日後って出勤があるだろう?」

「え、ええ。昨日話したの例の会議だ。それはどうかした?」

 当たり……

「ひょっとして……真朝町の日昇区画で?」

「そうだけど?」

「ぐぅ……」

「どうしたんだ? やっぱ調子が悪いのか」

「いや! 大丈夫……は、腹が減ってるだけだハハハ」

「後10分に出来上がるのよ!」

 キッチンからお袋の声がして手を洗っていくと親父に告げ、去っていった俺の震えを抑えようとした。

 『今年』の3月19日、3日後に親父が足が動けなっくなる交通事件が起きるのだ。

「……もしかして、両方共防げるのか?」

 重い責任を感じる同時に、親友だけではなくて奪われた親父の〃自由〃まで取り戻せる可能性がある。

 俺をここに飛ばされたのが誰か何であろうと、感謝すべきだと思い始めていた。

 正直、歓喜のあまりで狂ってしまいそうだ。

 理由や術はともかく、俺は二人共を救える事その場に誓った。

 英志の事はもちろんだが、再び親父が俺の隣に立つことだけ涙が勝手に流れてしまう。何の心配や悲劇もない家族として平凡な時間をもう1回過ごせるなんて二度とはないととっくに諦めたのだ。だから、俺は必ずこのチャンスを逃すわけにはいかない。

 夕食の後食器を洗ってバカみたいな笑顔の俺に親父が声をかけた。

「もうすっかり元気みたいな?」

「あぁ。何か、悪い夢から目覚めた気分だ。さっきのもそれだったと思うよ」

「よく分からんが、もう平気ならそれでいい」

「ばっちりだ! 明日のトレーニングを付き合える程元気だぞ?」

「……お前やっぱ熱でも出してるか?」

 本当に、そんなどうでもいいやり取りを最後にあったのは5年前だと実感した。あの事件から俺の家族の何かが変わったのだ。

 あの時のお袋の涙、タツ兄と俺の無力さ、そして無理をして強がる親父の顔、その全てはまだ痛むほど鮮明だ。

 今からの悲劇を思い出して決意を固めながら、明日をできるだけ早く行動するように寝ていった。

 親父の事は事件当日に動きしかできないので、まずは英志のことに集中することだ。あの『記憶』によると、真朝高に行けば英志に会える。まずは彼と接触しない行けない。

 彼の未来、そしてこの時代に潜む真相を暴くのはそれからだ。

『皆が知っている僕は罪深い男の成り果てだ。僕は……今まで生きていたろくでもない人生にこの終わりが相応しいかもしれない』

 英志が残したその一言が予兆のように勝手に頭に繰り返される。一体、この時代の英志はどのような奴だろう。

「……何であろうとお前はお前だ。俺の親友に違いない。証明してみせる」

 本人のイメージを想像して挑発している勢いで、ベッドに倒れる俺は一発を天井に打った。


                  。。。

 

 チリリンチリリン。チリリンチリリン。

 何かのハイピッチの音に起こされたら、凄い夢を見て自分の部屋に目覚めると半分期待していたのだ。でももちろん、それがなくてまだ未来の僕の体に宿っているみたい。

 携帯を手にとって幾つかのメッセージの着信を確認した。

 トシさんが今からの一時半後にキャンパスでの集合、来週までの課題の念押し、佐藤さんが僕の具合を伺い、そして最後にお袋からの不在着信だ。最後のを見て直ぐに掛けてみた。

「――もしも~し! 敬ちゃん?」

「は、はい!」

 いよいよ昨日から僕が馴染みのある声が耳に入って物凄く安心した。あの元気の高い声が他の誰でもなく、我が母その者だ。

「珍しいよね? ビデオコールなんて」

「えっ、そう?」

「別にいいけど、お母さんも顔ぐらい見ておきたいわ」

「ご、ごめん......今はちょっと」

 この僕のない携帯の操作が分からないこともあったけど、未来のお袋の姿を見るのも何か怖いなと思う。タイムパラドックスが送る材料になるかも。

「そうなの? まぁいいのよ。どうした?」

「え?」

「え?って何よ? 敬ちゃんがお母さんに掛けてでしょ」

「そ、それは......」

 僕がやろうとした事は重大な間違いだとその時に気づいた。どうやって今の状況を冷静にお袋に説明し、納得してもらえばいいだろう。お袋なら直ぐにここ駆けつけて厄介なことになるに違いない。

 それより、過去の僕は彼らと接触して自分の時からに起きた事を知ってまたパラドックスが発生するかもしれない。一か月前に流行ってたシュ○○○ス;ゲー○のおかげでこの話題になると詳しくになってありがたくてしょうがない。

「お袋と親父は元気にしているのかな~と」

「え? まぁぁ元気は元気だけど、それだけで?」

「はい。ハハハ、それだけ」

「あ、ありがとう......」

「それじゃ切るよ、また後!」

「あッ、ちょっと待ってお父――」

 言い切れる前に僕はすぐに電話を切る。これ以上話すと、いいかどうかが分からなくて今の状況をもうちょっと把握してからまた連絡することにした。

 今日はまだ平日なので授業があると思うけど、何時にどこの教室かが不明にトシさんのメッセージも気になる。例の中川さんの逮捕が未来に飛ばされた理由かもしれないし、『今』にいる友達の事も知っておきたいのだ。

 クローゼットの中の一番かっこいい物に着替えて寮を出た。何となく大学からの道を覚えて向かい、一階のロビーみたいな所に座って待っていた。

 携帯の中に情報を収集中その時、後ろから女性の声が僕を呼びかける。振り返ると、とんでもない美女が自分に迫ってくる。少し離れた場所からでも、彼女の甘くて穏やかな香りが鼻に刺激を与えた。

「お兄さんはまだなのかな?」

 真珠を上回る白い肌と幼さをにじみ出る束ねた髪も素敵だし、ソフトに繊細な声色が耳を撫でさする程聞き心地いよい。

「敬君って昨日凄くショックがあったとお兄さんが言ったけど、もう大丈夫?」

 正直、一目惚れになってしまいそうだ。

「ちょ、ちょっと敬君! 何で私をそんなにじろじろ見てんの?」

「昨日もこの調子ですよ、美月ちゃん」

「先輩、お兄さん。どいうこと?」

 このお姉さん何時の間に現れたトシさんと佐藤さんに振り向いて、『お兄さん』を告げた言葉で思い出した。

 昨日、携帯にあった写真にこのお姉さんもいたということ。生で見て何倍より麗しくて気づかないせいで、僕は今凄く変体だと思われてるだろう。

「エイちゃんに怒られず? まッ、釈放された後二人が勝手殴り合ってもいいけど」

「フフ、ありそうよね」

「どっちが勝つでしょう? 松原君に掛けたことで結構儲けたけど」

 この人今聞き捨てならないことを言ったようなきがしたが、それはさて置き今の流れでこのお姉さんはトシさんの妹で中川さんの恋人ということだろう?

「一応大会で決めることだったのに......」

「もう美月ちゃん、元気を出して! あんなに落ち込んだら中川君の力になれないでしょう? 可愛い顔も台無しよ。ね、二人共?」

「俺に聞くな。コイツって可愛いより凄まじくて怖い雌鬼だ」

「あれ? 誰かが一発下さいと言ったなのかしら?」

「ほら、なぁケイちゃん? 可愛がって頭をなでなでしていたこのお兄さんにK.O.させちゃってひでぇヤツじゃん?」

「可愛い妹の首を締めようとしたガサツ兄のあれくらいしないと、ね敬君?」

 ......何なんだこの二人? めんどくさそうな付き合いにみえるけど、未来僕の友達みたいのだ。

「え、えっと......そうね? ぼ、僕に聞かれてもね」

「僕?」

 しまった。

「昨日もうそうだった。ちょっと可愛いけど」

 佐藤さんがそれを言っても、何故かに褒め言葉に聞こえなかった。それでトシさんはなぜかに怒った睨みを彼女に投げたようにみえた。

 まだ未来の僕の言動が把握していないけど、少なくとも一人称ぐらいはちゃんと覚えておかないと。

「と、ともかく、今日はどうする?」

 トシさんの視線に気づいた佐藤さんが慌てた風にそれを言い出したのだ。

「そうだよな......もう一度英志のヤツと話してみようと。佐藤の言ったことも気になるが、まずは繋がってるかどうかを知りてぇ」

 五年前の真朝町高校の未解決な事件、僕は未来にいる理由かもしれない。少なくとも手掛かりにもなるだろうと思って皆と一緒に行くことに決めた。

 辺りに詳しくない僕は一番後ろに歩き、皆の会話を聞いて情報を集めようとする。しかし、高山さんが何故かに何も言わずに隣に歩いていた。時々、横目で僕を観察していたような目線で見つめる。

 トシさんと佐藤さんが朝食抜きなのでコンビニを寄った僕たち二人外で待っていた。

「ね敬君、本当に大丈夫なの?」

 突然問かかった高山さんに、言葉をちゃんと考えながら、直接に目を合わずに答えてみた。

「平気というか、今の状況でちょっと混乱だというか」

「無理もないよね。あのさ、私って昨日恥ずかしい所を見せちゃったよね?」

「そ、そんなことないけど......」

 と言っても何の事かがさっぱり。

「気を遣わなくてもいいよ。私、英志君がアレを言ってもまだ納得いかないのよ。彼が話したくないならあの警部に聞けばどう思うの?」

 お願いだから、クイズのはも辞めて。この場合ではまた当ててみるしかないと思った僕は考えずに応答した。

「い、いいんじゃない?」

「......私、今英志の次だけど、敬君も心配だ。ウザいと言ったのは謝るけど、適当なのがお願い辞めて頂戴......」

 それを言われて僕が途方を更にくれた。適当を辞めるというのが根本的に何の事だろうと悩みながら、ぎこちなく笑みやよそ見で時間稼ぎをした僕は必死にどう答えればいいか困っていた。幸い、高山さんが一人で話を進める。

「まぁ、確かに昨日はあんなに教えてくれて今日も話してみる甲斐があるかも」

「そ、そうだよね」

 朝食抜き群がいよいよ出てきたおかげで留置所にまた向かい出した。高山さんが先の話を二人の通して僕にあまり気にしないのが、少し安息を与えてくれた。

 日昇警察署に着いたら、皆が何故かに自分が後ろにいることが気になったみたいのだ。何かをするのを期待されただろう?

 佐藤さんが手続きをしてくれたが、中川さんが今尋問中だそうだ。その代わりに仲田という警部に面会を頼み、近くにあったテーブルで待たされた。

 その間に皆が重い顔になって色々思い詰めてそうだと違って、僕はただただ肩こりで居心地の悪そうに待機していただけだ。このままだと怪しまることは疎か、ちゃんと考えることすらはできなくなる。

 自分を落ちつかせようと、深呼吸をして肩の力を抜いていった。少し気楽ができたら、向こうから誰かが僕たちを呼びかけた。皆の反応から仲田警部だと分かる。

「君らか? 中川なら後一時間ぐらいで会えると思う」

「いいえ、実は仲田警部とお話したくて」

「僕と? 言っといたと思うけど、捜査に関する事は詳しく話せないよ」

「すみませんが、それが分かっています。私は佐藤・恵理と申します。中川君のクラスメートです。お見知り置きを」

 行儀よく頭を下げた佐藤さんに仲田警部が軽く挨拶を交わした。佐藤さんとトシさんの間を腰掛けた彼は左右を窺い、シャツのポケットからタバコを取り出す。

 僕はタバコに興味はないけど、そのパッケージのオレンジ色と真ん中の黄色の星はパッと目に入った。

「また叱られっスよ」

「俺の今日の一本目だから内緒にしといてくれ」

 窓に近い僕に警部が開けるのを頼み、トシさんとの席を変わった。吸いながら、灰を外の落として僕たちの話を聞いてもらう。

「詳しい事を教えて頂けないのが分かりますが、出来るだけ事件の概要を知りたい」

「昨日はちゃんと説明したろう?」

「でもわからねぇ事ってまだまだ多いっス。例え、英志を通報したヤツが誰だとか」

「それは流石に教えられないよお兄さん」

 つぶったままの目に顎を人差指で摩る佐藤さんが深き何かを考えながら、仲田さんにと問かかる。

「しかし、ただの通報で中川君を逮捕するこが可笑しいですね。決定的な証拠もあるのは美月ちゃんから聞きましたが、あの通報か通報した人ではないのですか?」

「まぁ、それはそうだけど?」

「具体的にどのような物かは教えていただけますか?」

「うーん......別に内密とかが言われてないけど」

 仲田さんはもう一度タバコの一服を吸いって頭を掻き出すというめんどくさそうな表情だ。困っているとは僕だってその様子でハッキリ分かっていたが、高山さんが少し焦りの声色を混ぜた丁寧言葉で質問した。

「オフレコならどうでしょう?」

「ヤバそうなことを言うよねお嬢さん......まぁ今は丁度休憩を挟んでいいとこかな」

 高山さんが安心した微笑みを浮かび、仲田さんに頷ける。

「またエグい話になるけど、頑張って聞かせてやる。3月19日に無名の連絡のおかげで真朝町の南西にある廃墟倉庫の付近に遺体が発見された。検視によると被害者が死まで殴り殺されたそうだ」

 大人しく話を聞いていた僕みたいなよそ者はさすがに気分が悪くなりそうだ。夢にでも出るシナリオかもしれない。改めて未来の僕はとんでもないことに巻き込まれるのが確信した。

「しかし、その遺体にいくつかの要素があったさ。例えば、ある事は痛いの近く『なかった』ことだ」

「と言いますと?」

「被害者のリュックだ。ある目撃証言による事件当日の朝の、通学の時にまだあったと判明したのだ。捜査中発見されたが、現場から少し離れた場所にあったらしい。犯人がそのリュックを持ち去った理由は何かが持ち去られたと思われる」

「何でんなことを?」

「中身は散らかされたからだ。そうする必要がある前提でいその結論が出された」

「成る程」

 佐藤さんがいきなり何かに閃いたように目を開けて深刻に血相を変える。

「つまりそのリュックに残された指紋が犯罪者に結びつく証拠となりますね?」

「正解。その時幾つかの容疑者が挙げられたのだが、アリバイが確認された中川が指紋の照合が受けなかった」

「ちなみに、英志君のお母さんが確かに被害者との関係が面識の程度だと言われましたね?」

「あぁ。事件当日ずっと一緒だと証言した。隣人さんや近所の人も中川の家から出入りが目撃されず、事件当時に被害者と会わなかった事が確定された」

「誰が違うことを通報しやがったまでだったな」

 トシさんが椅子の背凭れに寄りかかって機嫌斜めとなる。分かった事に彼は未来の僕と中川さんと違って健闘系の部じゃないらしい割りに、不良っぽいな外見のせいか、誰かを殴りそうな程の怖い顔を浮かんでいた。

「でもそれだったら、中川君の母が嘘をついたと見なされませんか?」

「隣人の証言もあったし、まぁ、高巻警部がそれをあんまり追求していないのさ、リュックと中川の指紋の照らし合わせに集中している」

 佐藤さんを見れば見る程、少女名探偵のような印象を与えてくれる。必死に中川さんを助けたいという気持ちでいっぱい兄妹と違い、冷静な状況分析をしているようなキャラだった。

「しかし、この間仲田さん死亡時刻にも変な事もあったと言いましたよね?」

「あぁそれか。検視の結果に出たが、正確に言う、いつ死んだよりいつ殺されたのが問題だったらしい」

 僕を含めて皆が同時におかしいと思ったのは表情に出る。同じ事じゃないかと佐藤さんが伺ってくれたら、仲田さんがまた一服を吸う。

「検案書により、被害者は緊急な事態まで殴られたらしい。少し止めた後、何分が経ってから犯人はまた襲い掛かる。この時に殺されたとのことだ」

「それは一体?」

「こっちも聞きたいことさ。事件当時の担当者がそれに何故かにこだわっていたらしい。おかげで捜査が行き止まって真実が結局分からなくなった。ちなみにその人が高巻警部の先輩らしい。二人共はその時の捜査担当だった」

 仲田さんが吸い切ったタバコを窓の淵で消してパッケージにしまった。また周りを見て捕まえずに一本のタバコが出来て自慢げな笑顔を浮かぶ。休憩がここまでだと言わんばかりに席から立ち上がった。

「チッ、あのヤロウがその昔からこの事件に関わっていたのか?」

「あの高巻という方なんですが、中川君を逮捕した警部さんのことですよね?」

「ああ。美月がぶん殴ろうとしたヤツ」

 聞いていたその事が信じられんくて高山さんに振り向いたけど、顔から火が出る本人が怒りを溢れる叫びを兄のトシさんに向ける。

「誰がそんな物騒な事をしたの⁈ ひ、酷いな事を言ったのは認めるけど。あんなに英志君の侮辱を言って」

「まぁ、無理もない事さ。高巻さんにとってこの事件との縁もあるし。5年が経ってもあの人は事件を調べ続けたんだ」

「縁ッスか」

 その言葉はこの兄妹の下らないボケツッコミを吹き飛ばしてくれた。しかし、トシさんの反応に仲田警部がトシさんに首を掲げる。

「言ってなかったっけ? そうさ、あの人ってあそこまでになる理由…...」

 仲田警部の言葉を聞いた僕たちがその場に凍えついた。話の半分しかついていない僕でもあの人に同情しながら、落とされたこの状況がどれほど深刻だと理解してきた。


                 ***


 親父の事は事件当日に動きしかできないので、まずは英志のことに集中することだ。「行ってくる!」 

 久々家族に言ってない言葉を裏切って学校をサボり、バスで真朝町の中心に向かっていった。

 高校時代の自分が住んでいた西光街から真朝町まで40分ぐらいがかかる。段取りを徹底的に立てられる時間だ。

 まず、本人とどうやって接触すればいいか考えて何となく彼と偶然にぶつかってかだと決めた。お人よしの英志の事だからこっちがぶつかっても謝られるという切っ掛けの利用は得策だ。それを思いついた俺は多少緊張しながら、5年前の世界をつい観察することにしていた。

 当たり前ながら、本当に変わっていないと感心したのだ。正直、想像を超えた展開でもある意味興味深いだと思い始める。

 例え、もし学校に行ったなら、成長した意識の自分がモテたりするだろう。講義もかなり容易だし、ある程度楽しかったかもしれない。だが、必要以上過去を変えるのもいい訳がないと自覚しているのだ。

 親父と英志の運命を変えて何かが起こるか分からないが、俺の願いで『今』を遡った。このチャンスを理解せずにはいられないのだ。

 昔の大好きなアニメに似たようなパターンが出ていたと思いだしたが、このとんでもない状況は現実だ。必ず上手く行けると自分に言い聞かせた。

 根拠がなくても、やってみるしかないと決めた俺は気分転換に窓の外を眺めていたのだ。

 愈々真朝町駅前に到着、公立高等の方へ向かってまた気が周りに囚われる。僅かな5年に昨日歩いていた町がこれ程変わるのは驚いた。

 古い携帯を使うとも感じたが、俺達がよく通う居酒屋もまだ開店してなし、あちこちの英語訳されたサインはまだ日本語のままだった。外国の観光客が2年前に(今から3年後)盛んになって翻訳されたそうだ。

「そう言えばバイバイ祭りもそろそろだな。余裕があれば行ってみたいな。確かに5年前、タツ兄が風邪を引いて一緒に行けなくなった」

 あの頃買いそびれたゲームが手に入れられるだろうと思ったが、あまり過去と干したくなくて諦める事にした。

 町を眺めながら、道に進む俺はなくなったゲームセンターを見かた。講義が終わるまで後2時間ぐらいので少し暇があったのだ。

 久々にゲームもやっていないし、遠慮せずに寛いでいく。

 昔やっていた格闘系のヤツを発見次第、予算の500円という思いっきりの贅沢をした。

 ゲーム中に、正確に1個目の百円玉でラスボスまで着いた頃、向こうから大声が耳に入って気を逸らす。おかげでラスボスにやられたのはさて置いて席を外し、覗いたのは二人の男の奴だ。

 片方は典型的の不良少年だ。坊主頭でちょっとぽっちゃりとした体形だが、ヤバそうとしか言えない厳しい瞳から邪悪をこちまで感じられるのだ。服装も真朝高の生徒らしいい。

 彼は別の少年を脅かしているみたい。しかし、店員が向こうからあからさまいにこの暴力行為を無視している。危険な事に巻き込まれる訳には行かないので、あのメガネ君を密に謝罪してそこを後にした。無駄になった100円もったいないを感じながら。

 思ったより時間を潰してまた真朝高に向かう事しする俺は先の事が気になったが、例え警察に通報するような干渉がしてはいけないというカンがする。

 物騒な出来事を忘れようとして、俺は愈々目的地に着いた。講義が終わるまでに門で待ってチャイムがなった後に、建物から出掛けてくる生徒達の群れの中に対象wお簡単に見かけた。

 流石に俺が知っている英志より若い感じがするけど、変わるのは大体身体の大きさと顔に張ってあるバンソーコーだ。あの傷跡がこの頃にできた物だろう?

 段取りに従い、俺は向こう側歩いて英志と肩をぶつける。

「おっと、ごめん! だいじょ」

 だが、謝罪が口から出られる前に俺の背中が近くの壁につけられてた。何かあったかを認識余裕もなく、5年前の英志がこの軽い体を何事もないように持ち上げて俺を睨みづく。

スパーリングの時より何倍殺気のような物がその眼から溢れ出したコイツは得物を観察するように見える。

 掴んでいたシャツの襟をいつでも裂かれそうになって向こうから貫く視線に圧倒されながら、周りに野次馬が集まっていた。

 しばらく俺を見つめていた英志は突然乱暴な発言に呆れ果てた。

「何のつもりかテメェ? わざとぶつかったろう」

 あの虫の一匹を殺せそうもないコイツに何でこれほど脅かされているを自問した顕在意識の反面に、俺の口が勝手に弱音を吐いたような言葉を漏らす。

「ち、違う......偶然だよ」

「そっか…...しゃーねぇな」

 俺を下ろし、英志だと思う奴は肩を埃があるかのように払って近づいてきた。

「念押しのつもりさ、ちゃんと前を向いて歩けってんだ!」

「ぐッ!」

 僕はボックスを初めてから何発が食らっていたが、今の腹がくれたのが恐らく一番効いたのだ。この体はまだ鍛えていないせいやけに痛みが感じる。

 全ての空気が体から絞り出され、腸のそこからが燃え上るという不愉快極まる苦痛が体中に走り出した。朝食までが吐きそうになるのだ。

「チッ、弱ぇなテメェ。もう一発で壊れそうな」

 ヤバイ、また食らったら本当に気絶してしまう。いや、未来にそんなに変わらない腕力とこの体なら殺されるかも。それを思っていた時、ある声が大きく響き渡った。

「英志君! そこまでだ!」

 視線がぼやっとしていたので、もがいたままに聞いていただけだ。あの声は少年に近い委員長さんのような険しい口調だ。

「んだよ、明。コイツを躾けんだけだよ。聞いてさ、オレにわざとぶつけやがってたんだ。オレのことどっかで聞いて喧嘩売りに来たんだが!」

「それでも、もういいんでしょ? これ以上したら先生がくるよ」

「チッ。命拾いしてやがんな、このクソ麺が」

 閉ざさる音が耳に届いて英志が去っていくのが分かった。あの声の主が俺に手を貸して立たせてくれた。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫な訳ないだろう? ったく酷いボディだ」

 顔をあげると、恩人がちゃんとみえてくる。茶色の短髪に洒落なフードを征服の上を着る高校生らしい。緑色の瞳が自然から取られた色相に、女にモテそう美少年に近い顔付きだ。 不思議に、どこかで見かけたようなないような目鼻立ちだと思った。

「だよね、彼の事は許してくれとは言えない。けど、色々あると思ってくれればなと」

「確か色々ありそうとでも言える......だが、アイツはそのような奴じゃ......」

「あれ? もしかして、英志君の事知っている?」

「知っ――」

 怪しまれない為に舌を噛んた俺はヤバいところだった。このような振る舞いが割と難しい事だと知覚する。

「てない。先は助かった。礼を言う」

「いいえ、とんでもないのだ。しかし、その征服は真朝町の学校にはないよね?」

「あぁ。俺、西光街から来たのだ」

「遠い所から来たね、君。名前は?」

「松原・敬と言う」

「そっか、松原さんね。歩ける?」

「あぁ、もう大丈夫だ」 

 その風に言葉にしたら痛みが消えると信じたったが、まだ苦しさが滲みるのは俺の望みを叶えずに。

「あんた?」

「僕の名前は――」

 彼の口元から言葉が出てくる同時に、俺はまたあのような『記憶』が見えてくる。

 日昇警察署でアイツらが仲田警部とはなしていたのだ。事件に関すること色々聞かされたが、最後に教えてくれたのは何より重要な事だった。

 得に、ここにいる自分に対して凄い手掛かりとなる物だ。5年前である今、3日後に殺される被害者の名前。

 それは......

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