君を素直に愛せる俺だったなら__もしものイツシナ

雨永よじ

第1話

モノクロームと、極彩色がもう一つの何らかの組織に立ち向かうため一時的に手を組んで戦っているっていう妄想世界。






世界では、想像もつかないようなことがごく稀に起こる。いまの状況もその一つだ。


俺は、世界で一番憎いガキとコンビを組むことになり、そいつと前線で戦っている。



(なんで俺のバディが、こいつなんだよ!)



むしゃくしゃする。


こいつにいつも、心を乱される。


殺してやりたい。



敵に向かって俺らは、走っていた。




「シーナッ!!右前方から敵!!殺れ!」



「ッ!言われなくてもわかってる!クソジジイ!」



「ジジイは余計だ!!ッこの!クソガキが!!」



俺は、相手の軽い体を持ち上げ、次々と地面に押し付けていった。


だが、数が数だ。それだけでは厳しくなってきていた。




(ッ!こいつら‥手強い…ッ!!!)



そう判断した俺は、普段は使うことのない拳銃を手にして、相手に標準を合わせる。





バンッバンッバンッ…!!





(腕は鈍ってなかったな‥)




自分の周りから敵が消えたことを確認し、相方を援護してやろうと、振り返る。





__その時、俺の視界は、一瞬にして「紅」に染まった。



(‥なんだ?)




その「紅」の正体は…



「世界で一番憎んで、一番愛した人」から‥

吹き出したものだった。



「‥シーナ?」



俺は無意識に、そいつの名前を口にしていた。




(なんだよ…これ)




愛した人が、死に直面していることを認識した瞬間に俺は…



あいつを傷つけたやつの首を、かっ切っていた。


「はぁ‥はぁ…はぁ………」




俺は……その時はじめて「人のため」に「人を殺した」。




俺は、感じたことのない程の感情の波に、おかしくなっていた。狂ってしまった。




「あ"ぁ"ッ"…!?シーナ…なんで‥どうしてッ……!?!!!あぁあああああぁあああああああああ!!!!!!!!??!!」




俺は彼女に駆け寄った。体を少し起こしてやった。


彼女は、虚ろになった目を俺に向ける。


一言、普段の彼女からは、想像もつかない程か細い声で言った。



「なに………泣いて…んだよ…クソ…ジジイ…」






___泣いてる……?俺が…?




その時、抱き上げた彼女の顔に、雫がこぼれ落ちた。


俺は顔を流れる、温かい何かに気付いた。




「泣いてるのか…?この俺が???そんな訳……ッ」



声が詰まる。



苦しい。


胸がきゅーっと閉まる………。



どんどん、息が浅くなる………



自分の瞳から、溢れだす雫が止まらなくなっていた。



「意外に…お…前…泣き虫なん…だな」


と、彼女はハハッっと笑う。



いつもなら、喧嘩になるような言葉をかけられたが…そんな気分にはどうしてもなら無かった…。


声を絞り出すたび、弱くなる声に俺は無性に悲しくなった。





こいつが消える____




なぜだか俺は、その事実が…怖かった。




その事実から逃げるため、俺は持っていた鞄から、包帯を取り出し、彼女に…。


もう、誰がみても手遅れな状態の彼女に………処置を施そうとした…



すると…



彼女が俺の手をつかんだ。



とっさに彼女の顔を見る。


彼女は…泣いていた。


「もう…もういいんだ……いい…」


「ッ俺は!お前を救いたい!!!」


バッと彼女の顔を見る。




彼女の涙で光るオレンジの瞳が見える。

はじめて彼女をしっかりと見つめた気がした。





とてもきれいだった…。





「救いた…い……??お前が…?私を…??」



「あぁ……。」



「傷だらけの…私を………?」



「あぁ!!だってお前はッ!!!!ッ……!」







「…なん…だよ…」



変なやつ。と弱く笑う。







…綺麗だ。の一言も言えなくて。


大切にしたい人にも…素直に慣れなれなくて……




…涙が止まらない。


どんどん前が見えなくなる。



「ごめん……ごめんな…」


彼女の顔に、水溜まりができる。




「お前…男のくせ…に…泣きすぎ…なん…だよ……」



彼女は、大きく息を吸った。




「…ッおい…イツハ………こっち…向けよ…」



重い頭を持ち上げて、目を合わせようとした。すると、



彼女にむらぐらをつかまれ、ぐっと引っ張られる。






____唇が温かい。








これが接吻と気付くまで少し時間がかかった。








「ッ………!!!??!」



俺は咄嗟に離れようとした。が、彼女に腰に手を回され。離れられなかった。




………いや、離れたくなかったのかもしれない。


彼女の唇は、とても柔らかく温かい。人の温度を感じたことがなかった俺は、それがとても心地よく感じた。



(人間は、こんなにも温かいものだったのか………)



俺は無意識に、彼女の顔を触れていた。


彼女とのキスはとても心地よく、何度も何度も唇を吸ったりして、長い時間唇を重ねた。



…そっと唇同士を離すと、彼女は…




______「笑っていた。」







「私も好きだよ…バカ…野郎……」



そう一言呟くと…






………彼女の身体中の力が抜けていった。











「ありがとう、シーナ。愛していたよ。」





俺は、だらんとした彼女を、抱き締めた。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

君を素直に愛せる俺だったなら__もしものイツシナ 雨永よじ @asinaga_yoji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る