第3話 ヒョウハク
3-1 危圏
────計器が明滅し、警報はけたたましく、我世は冷静さを失って舵を思い切り振り切る。セスナは無理な操縦で激しく振動し、耐久度の限界を告げるが如く機体の軋む音が乃恋の耳にもハッキリと届いた。
「なんでこんな事になっちまったんだ!俺ァまだ死にたくねェぞ畜生ッッ!!」
「落ち着いて我世さん!貴方が握ってる操縦桿はそんなに激しく動かしたr」
ガキン。
非常に耳障りで不穏な金属音が聞こえたと思ったら、我世は青褪めた顔を私の方に向けていた。
「……操縦桿、折れちまったヨ……」
「げっ……」
こうなると、最早慣性に任せるのみ。方向は変更が効かず、操縦桿を折った勢いで速度調整も出来なくなってしまった。左向きに旋回し始めた機体。これでは島に辿り着く事は無いだろう。何故こんな事になってしまったのか────ついさっき我世が言っていた事を繰り返す様に、私は思い返した。
──約15分前──
「行こうぜ」
「「はい!」」
私達はどちらもセスナには乗った事が無く、初めてのセスナにウキウキしていた。対して我世は黙々とフライト準備を進めている。洗練された無駄のない操作や表情、雰囲気がより『ベテラン機長』感を醸し出していて、様々な要因が私の心を否応なく高揚させていた。……次に我世が口を開く、ここから数十秒後までは。
「よしテイクオフだ。しっかり掴まって、祈れ。そして機長としての門出を祝ってくれると嬉しい」
???
私の頭上には(もちろん識くんの頭上にも)クエスチョンマークが大量発生した。門出、と言ったのか?このベテラン機長は……?
「なんだ、掛矢の奴はお前達に言って無かったのか?俺は今日が初フライトだ」
その裏切りに、私は声も出せなかった。識くんは反駁した様だが、私は衝撃のあまり意識が遠のいていてその内容は残念ながら知る所では無い。
気が付けば警報が鳴り響き焦る我世と、窓から状況を視認して我世を弾劾する識くんとの間に挟まれ、私は墜落前提で衝撃防止姿勢を無意識に取っていた。無論我世は私を罵り、そんな我世を識くんが
「なんでこんな事になっちまったんだ!俺ァまだ死にたくねェぞ畜生ッッ!!」
「────まずい、このままじゃ落ちる!もうおしまいだァァァ!!」
その叫びを最後に、我世は首をもたげた。
「……えっ我世さん!?我世さん!!!ダメだこの人気絶しちゃってるよパイロットなのに!!」
「まずいです乃恋さん墜落します!」
その言葉から数秒と経たず、セスナは生戸浜沖約20キロメートル地点に墜落した。
在らざる島の怪紀行 笹師匠 @snkudn
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