第25話 旅立ち

 翌朝、ジュエリーとルミは荷物を持ち町の出口に到着する。


 見送りとしてセリア、サニ、ルワード、リーサの4人が来る。


「ルミちゃん、今までありがとうございました。私たち離れていてもずっと友達ですからね」


 セリアは涙ぐんでルミの手を握る。


「泣かない約束でしょセリア。一緒に冒険出来て楽しかったよ。大変だと思うけど頑張って。アルティーもありがとね」


「ガアアア!」


 サニはアルティーの頭を撫でる。撫でられて嬉しそうにするアルティー。


「二人とも本当にありがとう。元気でね絶対また会おうね」


 笑顔のルミの頬には一筋の涙が伝う。サニは二人の肩に手を回し身体を引き寄せ合う。


 町を出れば長い旅が待っている。また会える日なんていつになるか分からない。


 それでも少女たちは誓うのだ。三人で笑顔で再開する日を想って。


「ジュエリーさん、地図持ってきましたので良かったら使ってください。これからの旅を応援しています。ジュエリーさんの活躍をほとんどの人が知らないですが、私はこの恩を一生忘れません」


「ジュエリー様。私セリアお嬢様の執事ルワードと申します。お嬢様の危機を救って頂いたことを聞いておりました。私もこの御恩一生忘れません」 


「地図はありがたく使わせてもらう。世話になったな」


 長く旅をしてこんなに深く礼を言われたことがあっただろうか、いやなかった。


 ジュエリーの旅は孤独で他人から理解されるものではないからだ。ルミがいたから何かが変わったのかもしれないとジュエリーは考える。


「そろそろ行くかルミ」


「でもまだケイトが……」


 ケイトは昨日、皆の前に姿を現さなかった。その理由はジュエリーだけが知っている。


「おーい、待たせたなー」


 話していると当の本人が走りながらやって来る。


「遅れて悪かった。ジュエリー、一日中考えて決めたよ。俺、強くなる。もっともっと強くなってみんなを助けられるようになる。だからアンタが困った時には助けに行ってやるよ」


 それはいかにもまだ青い少年が抱きそうなぼんやりとした理想だ。周りが聞けば「そんなのは無理だ」と鼻で笑うだろう。


 だがケイトの目は本気だ。そしてその目は少年の目ではなかった。絶望を知り現実に打ちのめされ、それでも屈しない戦士の目だ。


 ケイトは強くなることを誓い乗り越えたのだ。己の心の弱さを。


「ケイト、これからどんな辛いことがあっても諦めるな。サニ、弓の扱いお前ならもっと高みを目指せる。セリア、私の傷を治してくれてありがとうな」


「おう!」


「うん!」


「はい!」


 ジュエリーの言葉に各々が返事をする。


「ルミ、これやるよ」


 ケイトは懐中時計を取り出してルミに渡した。


「いいの?」


「パーティーからの餞別せんべつだ」


「ありがとう!大事にするね」


 ルミは嬉しそうに懐中時計を持つ。


 ジュエリーとルミは出口の方を向く。この先を進めば未知の世界を歩むことになる。危険は常に隣り合わせで常軌を逸した出来事も起こる。それでもエルフと少女は歩みを止めない。


 片やエルフは復讐の為に。


 片や少女は母と会う為に。


「行きましょう!ジュエリーさん」


「ああ、行こう」


 ジュエリーとルミの後ろ姿を見届けながらケイトは想う。ルミの言葉を。


 ジュエリーがガーレンとの闘いで負傷して倒れているところを発見した時、ケイトは見たのだ。いつもフードで覆われていたジュエリーの長い耳を。


 ルミは傷ついたジュエリーを家まで運ぶのを手伝ってもらった後、ケイト、サニ、セリアに正直に話した。三人なら分かってくれると信じていたからだ。


『ジュエリーさんはエルフなの。でも自分を人間だと思い込んでる。だからジュエリーさんに対してエルフって言わないで欲しい。お願い!』


 そう言ってルミは頭を下げた。信じ難いことだったがそれでも三人はルミの言葉を受け入れた。


 柔らかい風が吹きケイトの髪がなびく。


(——助ける。憎しみの渦からアンタを取り戻す。その為にも俺は強くなる)



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エルフ殺しのエルフ ブルーなパイン @musamura

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