マルの幸せ

梔子

『マルの幸せ』

★マル……老犬。子犬の頃からずっと飼い主の美希と一緒。

☆美希……25歳独身、マルの飼い主。


*父親……ミキの父親。★がやっても良い。


*ほーら、美希、10歳の誕生日プレゼントだよ。

☆え?なになにー??

*美希がずっと欲しがってたものだよ。

☆なんだろー??

*お庭に出てごらん、そしたら分かるよ。

☆うんっ!


☆わぁ……!わんちゃんだぁ!かわいい!!

*ははっ、気に入ったか?

☆うん!すごく嬉しい!!

*名前はどうする?

☆うーん、マル。まるっこいからマル!

*そのまんまじゃないか(笑)

これからは家族として大切にするんだぞ。

☆絶対、絶対大切にする!


★それから、15年。美希は僕を連れて1人、マンションに住んでいる。

☆はぁ、ただいまぁ……

★おかえり、おかえり、美希!

☆あぁ、マル。ただいま。

ごはん、待っててねぇ……

★うーん……


★美希は最近疲れてる。おしごとで遅くにしか帰ってこないから休みの日の朝しか散歩に連れて行ってくれないし、第一、あんまり笑わなくなった。

それに、最近はカレシっていう奴に夢中だ。

昔もそういうことはあったけど、帰ってきて僕のご飯を出したら着替えもせずお風呂にもいかず、画面を見てばっかりなんだから。


☆はぁ……


★また、ため息。

ねぇ、ご飯食べた後になでなでしてよ!

☆ん?お水がないって?あー、ごめんね。

★あー、もう……ちがうってばぁ!

☆ちょっと、マル、もう遅いからうるさくしないの。お水すぐ持ってくるから待っててね。

★うぅ……


★昔はもっと、僕の言うこと伝わってたのになぁ……


【過去】

★ねえねえ、お散歩いこ!

☆うん!お散歩!すぐ準備するね。


☆お待たせ、じゃあ行くよー!

★やったぁ!美希、早く早く!

☆わぁ、ちょっと!マル、速いって!

危ないから走らないの!

★あっ、ごめんね。美希に合わせないと。

☆よしよし、お利口さんだね。今日はどこ行こうか?川沿いにする?それとも公園?

★公園でほかの子と遊びたい!

☆あ、そういえば、最近公園の方行ってなかったよね。プリンちゃん元気にしてるかな?

★やったぁ!楽しみ!


(今に戻る)

★はぁ……今日はもう寝よう……

おやすみ、美希……


☆あ、もう寝ちゃったのかぁ。仕方ないよね、もうおじいちゃんだし……

明日のデート憂鬱……


【翌日】

★次の日、美希は手早く僕の散歩を済ませて、オシャレをして早くから出かけていった。

でも、帰ってきたのも早かった。夕方くらい、美希は重たい足取りで、ベッドの横に座り込んで突っ伏してしまった。

★ねえねえ、大丈夫?どこが痛いの?

☆(泣いている)

★僕が舌を出していると、美希のほっぺから一滴の雫がこぼれ落ちてきた。

塩からい……あの時とおんなじ。


【過去】

☆マル……あのね、帰り道にね……

★なあに?

☆彼氏にフラれたの……もう、お前に興味ないって……

★キョーミない?ひどいね、よしよし

☆マル、慰めてくれてるの?

★えへへ、早く元気になって僕と遊んでね

☆ちょっと、くすぐったい。そんなに舐めないでよぉ。えへへ、うふふふふ。


(今に戻る)

★僕は美希のほっぺを舐めた。何回も何回も、あの時みたいに笑ってくれるように。

☆マル…………

★ね?美希、笑って?

☆うわぁぁぁぁん

★え、どうして?もっと悲しくなっちゃったの?ごめんね、ごめんね?

☆マル、ごめんね……

★美希はそう言って僕を抱きしめてくれた。

悲しい時の美希はいつもよりもっと温かい。

☆アイツなんかに構って、マルと過ごす時間削って……本当にごめんね。

★え?美希、僕の気持ち分かってくれるの?

☆これからはもっと一緒にいるからね。

私がお休みの日は、マルが疲れないくらいにお散歩して、お家でゆっくりしようね。

★僕もじんわり身体が、心臓のあたりが温かくなってきた。これって何だろう。歳を取っても分かんないことってあるんだなぁ、と僕は思った。

☆私にはやっぱり、マルだけだよ。いつもお出迎えしてくれたり、側で寝てくれたり、ありがとう……

★美希、ありがとう。だってそれが僕の幸せだから。

★あとどれだけ美希と一緒に居られるか分からない。けど、美希のことは僕が絶対守るって、改めて誓った。

だって、美希の幸せは僕の幸せだから。


★美希、一生幸せにするよ。

☆ん?ご飯?ごめんね、すぐ用意するから、待っててね。


★あれれ、伝わってない。

まぁ、それでもいっか、えへへ。

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マルの幸せ 梔子 @rikka_1221

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