第9話 情報戦

 そして、意見は多角的かつ、多数あれば有るほど知見は広がる。僕はその日の夜、オーナーに話を聞いてみた。きっと三十歳であればそれなりの、経験から限りなく正解に近い何かを気づかせてくれたり、教えてくれるだろうと期待していた。


「あの澪ちゃんが男性アレルギーねぇ。でもさ、朔ちゃんこの前一緒に遊びに行かなかったっけ?」

「蓮田ですよ。オーナーはその名前で呼ばないで下さい。パワハラで訴えますよ」

「あぁ、蓮田君は怖いなぁ。最近特に怖い」

「なんか真面目に聞く気なさそうだし、今日はもう部屋に戻りますね」


 僕は席を立った。やはり、この人と真面目に話そうとした僕が馬鹿だった。頼りにならないおっさんだこいつは。それにしても、僕の周りのヤツはどうしてこんな奴ばかりなんだ。類は友を呼ぶとは信じ難いぞ。


「待て待て待て! 聞いてやるから」

「聞いて欲しくないんでもう良いですよ」

「聞きたい! 聞きたいから! 俺、結構退屈なんだよ!」

「だろうなぁ! お前友達居ないもんなぁ!?」

「居ません! だから面白い話、聞かせて下さい!」


 クローズ後、夜の喫茶店。客一人いない空間で行われるやり取り。オーナーと過ごす締め作業の時間も意外と嫌いではなかった。オーナーは気さくだし、話も合う。僕の中では、早くも鳴尾の様に話しやすい雰囲気があると言っても良いだろう。


 かと言って、いつまでもバイトが僕だけなのは何でだろう。面接に来る子はこの一ヶ月の間見たことが無い。それにこの喫茶店ルシエルもまだ開店してから二年目と日は浅い。

 僕と入れ替えになった人が居たとは聞いた事あるが、本人からあまり言うなとの聞きつけを守り、情報はあまり得られなかった。正直関係も無いんだし特に話を聞きたいとも思えなかったのだが。

 とりあえず今回、話があると言ったのは僕だ。仕方ないのでもう一度席に着いた。


 それから。


「ひゃははははは!!」

「笑ってないで答えてくださいよ。真面目に話してるんですから」

「ギャグだろ! そんなんギャグだろうが!」


 オーナーは涙を流して笑う。やっぱ人選ミスっぽいな。秘密は守る主義らしいので何を言っても問題ないと思っていたがこんなに笑われると不愉快だ。


「でもまぁ、やりたい様にするのが一番良いだろ」

「と、言いますと」

「相手がどうであれ、世の中は情報が制する。戦だって情報無くして勝つ事は難しいだろ? だからまずは、周りを知ることは大切だってこと」

「訳分からない投資話じゃないんだから」


 オーナーは平日の日中、カウンター下のパソコンを覗いてカチカチと良くやっている。僕にはよく分からないがチャートを眺めていることが多い。


「いいか、情報は全てに通ずるんだ。何より、情報が無いよりはあった方がいいし有れば有るほど何事も優位に進むだろ?」

「そうですけど。何だか、思っていたより普通の事だなぁって」

「大人ってそんなもんだぞ? どんな意見を求めてたんだか。ちなみに俺は蓮田みたいにそんな経験した事ないから経験者としてアドバイスだって出来ないしな」


 もっとこう、斬新かつ、自分の発想にないことを教えてくれるものかと思っていた。

 結局は自分の考えがより正しいのだと再確認できただけ。


「まぁ、そりゃそうですよね」

「力になれなかったのなら悪かったな。経過があれば是非に聞かせてくれよ」


 ニヤニヤとオーナーが言う。ほんとこの人はふざけてばかりだ。それだからいい歳こいて彼女の一人も出来ないんだろう。


「気が向いたらですかね」


 僕は自室に戻る。装い物を身から剥がしつつ思った。


「このまま、深入りして戻れるのだろうか......」

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嘘つき朔子さんの代償が払えない〜新たな扉を開いた僕は青春出来そうにない〜 アキタ @akitawa

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