第8話 接触

 浴槽に浸かりながら僕は思考していた。


 思っていたより東條は健全で、男性アレルギーさえ克服出来れば学園での平穏は取り戻せそうだと分かった。きっと、それが難しいことなのだが......。

 ただ、僕はアレルギー克服についての知識が全くない。しかも、東條はとんでもない偏見持ちだ。接触できるのは喫茶店くらいだし、朔子でない時の僕は東條と面識は無い......。それでも、この前少し僕に言いかけていたような......。


 その辺はそれとなく鳴尾に聞いてみようか。女性経験も豊富だし、何よりあいつ意外と頭キレるしな。


 翌日。


「知らねぇよ!」


 放課後に鳴尾が言った。

 どうやら、術は無いらしい。


「なんなんだよ、もし仮に男性アレルギーの女の子が居たとして男性アレルギーを治すって。そんな奴相手にするだけ時間の無駄だろ? あれもしかして、仮定とされていたのがレンちゃんのことだったり」

「あー、お前に聞いた僕がバカだったよ。忘れてくれ」


 だめだ、鳴尾は狂ってやがる。結局いつも通り使い物にならない。それにしても高校に上がってから僕に対して気持ち悪い事ばかり言ってくるけど鳴尾の中で流行ってるのかソレ?


「ちょ、レンちゃーん。それだけかよー」


 それらを思考しつつ僕は図書室へ行く。後ろからは鳴尾が手を広げながら馬鹿みたいにヒョコヒョコ着いてきている。


「鳴尾は来なくていいよ」

「何でだよ〜。良いだろ〜」

「帰れよ、少し勉強していくだけだから」

「あっ、帰ろっと、じゃねー」


 鳴尾は重度の勉強アレルギーだ。僕の知る範囲では中々の馬鹿だったのだが、よくもまあ、鳳来学園に入学出来たな。スポーツがとても出来るわけでも無かった気がするし、そこだけは今も疑問だが何かの推薦枠かなんかで運良く入学したんだろうな。


 保健や医学のコーナーを見ても、一般的なアレルギーに関しての療法しか載っていない。あんな聞いたことも無いアレルギーに薬なんて効かないだろうし、様々な療法だって効果が出るとは思えない。

 ただ、花粉のように、過剰に摂取をしてみたり、適度に慣らしていくことでアレルギー反応を抑えて行く事は有効なのだろうが、治験段階で死人が出るだろう。


 諦めて、鞄を肩にかけて図書室を出ようと思った時じっくりと本と睨めっこしている東條が居た。


 洗脳学入門......ねぇ。


 物騒だな。


 そんな東條の後ろを通り過ぎる。


「あなた、勉学に精が出るのね。どこかの鳴尾君とは大違い」


 洗脳学入門の本を閉じ、東條が言った。


「いえ、雑誌を読んでいただけですよ」

「へぇ、あんな所で?」

「ま、まぁね。調べ事もあったから」


 ふぅん、と東條が漏らす。学校での東條は妙に迫力があって嫌だな。東條は訝しいような目付きで僕を見てくる。


「そう言えばあなた、」

「僕、急ぎの用事があるから」


 ほぼ同時だった。そそくさと図書室を後にする。


「まぁ、今日の所は良いわ」


 そんな言葉が聞こえた。明日明後日僕は、殺されるのだろうか。どうにかして、手を打たなければ......。


 やはり、東條をどうにかする他ないのだろうか。


 だとすれば、学校での東條を知る必要があるような。

 まずは、殺される前に行動だ。僕のクラスにはローゼス会員の女子が居たはずだ。

 女子からは東條程の殺意を抱かれる覚えは無い。分かりやすい聞き込みは出来ないだろうが、軽く話を聞くくらい、何とかなるはずだ。

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