第7話 正しくない世界に正攻法など存在しない

「それにしてもみんな、ほんと元気だよな」


 鳴尾は買ってきたホットドックを頬張りながら言った。そういえば、鳴尾は全く影響を受けなかったな。何でだろう。元々変わってるからか?


「あと二年以上この学校で過ごすって考えるだけで気分が悪くなってくるよ」

「そうか? 俺はレンちゃんが居れば周りがどうなったっていいけどな。でも、レンちゃんは筋肉付けんなよな、似合わないから。どうせなら俺がレンちゃんも分も筋肉付けt......」

「お前は変われば良かったのに」

「そーそー、それでいいんだよレンちゃんは」


 満足気な顔でホットドックを食べ終わる鳴尾。僕の言う事なんて適当に聞き流していた。


「......転校しようかな」

「なら俺も」


 付いてくんなよ。転校しないけど。


「みんな、正気を取り戻してくれればなぁ」

「なら、東條のお嬢様みたいにでっかい事でもやってみりゃ良いんじゃねえか」

「無理無理、あの人とぶつかり合うなんて」


 そう、無理だ。正攻法じゃ相手にならないだろう。


 正攻法なら......。


 正攻法ならっ!?


 正攻法じゃなければ、イケるかもしれない......という事......?


 イケるかもしれないと言うことかっ!?


 その日の夕方、東條は喫茶店に来た。どうやら、疲れているように見える。


 そして、いつもの様に僕は東條と話していた。


「今日は随分お疲れのようですね」

「そうなのよ、最近、あちこちから苦情が凄くてね......」


 だろうな。一種の洗脳状態から抜け出しつつある奴らも居る。当然の事だろう。

 その説得とやらの苦労話を披露する東條。いやぁ、ちょっとやり過ぎなんじゃないかな。説得の域を凌駕している。


「だから、説得するのに時間ばかりかかっちゃって。消耗するのよ」

「......洗脳の間違いじゃ」

「まあ、そう捉える人も居るってことよ。それでも説得に応じるということはそれなりの要素があると言うことよね」

「私は勘弁してね。そもそも、澪ちゃんはどうしてそこまでするの?」


 それはね......と東條が口をつむぐ。そして、深い思考を経て言った。


「......まぁ、朔ちゃんになら言ってもいいか」


 神妙な空気に僕は生唾を飲み飲んだ。この情報は、東條に対する切り札になり得る可能性を秘めているからだ。


「私多分男アレルギーなのよ」


 そんなアレルギーあるかとツッコミそうになる。それに多分って何だよ。まあ、多分は多分なんだろうな。少し前、僕の手を取っていたからな。


「......そ、それは。大変なアレルギーだね? お医者さんには診てもらったの?」

「何その変人扱い! だから皆には隠してるのよ。あぁ、恥ずかしい。言わなきゃ良かった」

「そんなアレルギー、初めて聞いたからさ......」


 もしも、男アレルギーを発症させなかった僕が、男であると告白したら東條はどんな反応を見せるのだろうか。


 ......まあ、とりあえず変態扱いだろうな。なんなら、悪化するかもしれない。臀に食い込むパンティを戻しながら思った。そして、軽はずみに聞いてみる。


「ならさぁ、アレルギーが治れば、澪ちゃんはどうしたいの?」

「そ、そそそそそ、それなら......。恋愛......をしてみたい......かな」


 頬を染め、可愛らしく照れる東條。きっと立派な恋愛脳に侵されて居るのだろう。なんだ、変な所を除けば、ちょっと変わっているが普通じゃないか。あれ、普通ってそんなんだっけ。まあいい、提案してみよう。


「だったらさ、そのアレルギー治しちゃおうよ!」

「無理よっ!! 意識を確りと持っていないと殺しそうになっちゃうんだから!!」

「何それっ!?」

「もし、乱暴でもされたらどうするのよっ!? 男なんてきっと、女を乱暴する事しか考えていない......。だから、自分の身は自分で守るしかないのよ!? 男なんてそう、みんな獣なんだわっ」

「だから、殺られる前に殺る......と?」


 なんて理不尽なんだ。このまま東條を放置していたらきっと鳳来で死人が出てしまう。主に、東條ファンクラブの誰かが死ぬ。


「ええ、小学五年生の時気付いたのよ」

「何で気づけたの?」

「え、おじいちゃんの書斎にあった******を見てから......かしら?」


 あちゃーーーー。

 見ちゃダメだよそんなの。

 それにそんなので男アレルギー症状が発症するって、何なのこの人。AVの内容について語り始めてるし、再現まで始めたぞ。そこまで見たなら分かれよ。あぁ、無理やり脱がされる所でおじいちゃん、元い理事長が来て見るの辞めされられたのね。

 でも、今の東條があるのも迂闊だった理事長のせいって事なのだろうか。


「でも、あ、あれは仕事なんじゃ......。えぇ、と。ドラマと同じ様な感じというか......」

「あら、朔ちゃん何か知ってるの? 聞きたいわ、教えて?」

「い、いや、特には......」

「はぁ。ほんと男ってクズよね。アレを思い出したおかげでまた燃えてきたわ」


 一瞬自分に言われたような気がしてヒヤッとする。狂った東條を正気に戻す方法は何だろう。その時の僕は答えを見つけることが出来なかった。


 ......僕の正体がバレた時、僕はきっと殺されるのだろうか。


 そんな心配が胸を過る。


 ウィークポイント位は聞いておきたかったのだが東條は帰ってしまった。仕方ない。


 食器を洗い、水気を吹いている時、隣にいたオーナーがひっそりと言った。


「まさか、(女装に)目覚めちゃった?」

「(女装には)目覚めてねぇよ」

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