第6話 悪夢は続くよ
後日学校にて、僕は鳴尾と共に昼食を買いに行っている所を東條に見つかった。
「ちょっといいかしら鳴尾君」
「何だよ東條、めんどくせから、答えはごめんなさいだ」
「勝手にフラないでもらえるかしら。私、鳴尾君みたいな男に興味ないから」
「んああ、はいはい、で、何?」
学校では相変わらず冷静な態度に徹する東條。完全にモードを使い分けてるな。僕もここまできっちり出来れば良いんだけど。
「最近、色々な女の子達が私の所へ来るのよ。鳴尾君に傷付けられたって」
「はぁ? 何それ」
「お前と付き合うなら男のがマシだとか、女の尊厳そのものを否定する様な事言ってるみたいじゃない。面白おかしくふざけていても私、そういうの許せないんだけど」
「あーはいはい。ごめんなさい。ありゃ、結局ごめんなさいで合ってるじゃん?」
屁理屈を捏ねる鳴尾。東條は鳴尾を凄い迫力で見つめ続ける。それにしてもなんて馬鹿な事を言ってるんだ鳴尾は。今どきそんな事を言えば目をつけられるに決まってるだろ。
「......以後、気をつけまーす」
「ふん、絶対、タダじゃ置かないから。覚えておきなさいよ」
「無理無理、興味無いことすぐ忘れちまうから。代わりに覚えておいてくれ」
鳴尾はなぜか僕の肩を叩く。
「えっ、嫌だよ。鳴尾が変な事言ってるからこうなったんじゃないか」
「連れないぜぇ。それでも親友かよぉ」
「親友なら面倒ごとに巻き込まないでくれ」
厳しぃなぁ、と項垂れる鳴尾。気がつけば東條はなぜか僕を見ている。自然と目が合う。そんなに見られると危ない様な気がする。顔を少し、下に傾けた。
「あなた......」
東條が、口を開きかけた時、僕は本能的に逃げた。
「ごめんね、購買売り切れちゃうから!」
ほら行くぞ、と鳴尾のケツを叩き走り出した。
僕はこんな調子で、無事に学校生活を送る事は出来るのだろうか。
これからきっと僕の身の回りはめちゃくちゃな事になると予想される。
何処まで騙し続けられるのか。
何処まで通用するのか。
先を考えれば考えるほど、どうしようもない。
そして、僕に出来ることは、学園内の鎮静化だろう。
東條や鳴尾だけでなく、この短い間で変わってしまった人が多い。このままでは先日の佐藤のような奴が男女問わず生まれてしまう。
何よりも、このままでは僕の思わぬ二面性が暴かれかねない。きっと、時間の問題だと思う。上手く東條を妨害しながら、元の鳳来に戻すんだ。
そう、普通でいいのに......そう思っていた僕の日常は壊れてしまった。
購買に着くと商品はまた売り切れていた。
「入荷の絶対数が少ないんだよなぁ」
鳴尾がボヤく。
「全くだよ」
「またコンビニ行ってくるかな」
「僕の分も適当に頼むよ」
「レンちゃんって意外と人使い荒いよな」
頬をふくらませて、鳴尾は怒っているつもりなんだろうか。可愛くも何ともないし、変な顔だ。
「さっさと行けよ。お前のせいだろ!」
僕はそんな鳴尾を叱責する。五百円だけ渡すと、鳴尾はダラダラと歩いて行った。教室へ戻る。
その道中、同性カップルを沢山見かけた。
あの炎堂さんまでもが自分と同じくらいの体格を誇る男子と手を繋いで歩いていた。
炎堂さんは伸ばしっぱなしの髪を綺麗に纏め、隣にいる男子を華やかな笑みで見つめている。それはもう女子の姿を彷彿とさせた。うっぷ。
もしかしたら、鳳来学園は手遅れかもしれないな。
僕は自席に着き、頭を抱えた。
「ーーーレンちゃん、レンちゃん」
「何だよ」
「見ろよ、ガチャでSSR引いたぜ」
寝起きにガチャ報告をしてきたのは鳴尾。
僕はいつの間にか寝てしまっていたらしい。
「おい、飯はどうしたんだよ」
「は? 購買で焼きそばパン買ってただろ、それどうしたんだよ」
あれ、そうだっけ。僕は思考し、口元から垂れる唾液を裾で拭う。
ワイシャツの裾には青のりが付着している。
そして思いだした。
ーーーーーあぁ、全て夢だったのか......。
それにしても、くだらない夢だったな......。
「ーーーレンちゃん、レンちゃん」
「んあ、何だよ」
「何だよって何だよ、人に昼飯買わせに行かせといて自分は呑気にお昼寝かよ」
「あー、サンキュ」
鳴尾がボヤく。机の上には鳴尾に買わせに行ったパンとカフェオレが置いてある。またメロンパンかよ。
幸せな夢は霧散した。夢は夢のままで、という事なのだろうか。残酷な光景が目の前に広がる。
男同士で弁当を食べさせ合う奴ら。壁をドンドンして意中と相手を落とす練習をしている奴ら。僕はメロンパンを食べながら教室を眺める。
女子は静かにしている人も居れば、髪を引っ張り合い殴りあっている輩、それを野次る角刈りのふとましい女子......?
とにかく、一部の女子達まで男性化が進んでいってしまった。
どうして、こんな事に......。
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