O女史の手記

千葉頼子

COVID-19の経緯

2002年11月、中国南部の広東省で非定型性肺炎の患者が報告された。

これに端を発し、北半球のインド以東のアジアやカナダを中心に感染拡大し2003年3月にWHOからグローバルアラートが出され、同年7月5日に終息宣言が出されるまで、32の地域と国にわたり8,000人を超える症例が報告された。

この肺炎を引き起こしたのがSARSコロナウイルスである。

このウィルスに対する治療法やワクチンは未だ確立されていない。

時を経て2020年、現在新型コロナウィルス、COVID-19が世界中で蔓延し多数の死者を出すこととなる。

ごくわずかなクリーンエリアを残し、世界中が惨憺たる有様となった。

有効なワクチン、治療法はなく、また、各地の流通が崩壊したことに加え、不幸にも蝗害や水害など各地での災害が重なり、世界的な食糧不足にも陥っている。

当初はCOVID-19は弱毒性のウィルスであり、若年者は重症化しないなどと言われており、一部の地域では楽観視されていた。

2021年には最初のワクチンが完成した。世界は希望にわいた。

SARSウィルスに対する治療法を研究していた施設が複数あったため当初の想定よりはるかに早い完成であった。

しかし初回のワクチン接種群は最初の一週間に8割が死亡、一月後にはほぼ全員死亡し、現在クリーンエリアで研究用の2検体が生存しているのみで、その2検体についても意識不明のままである。

COVID-19その後も変異を続け、抗ウィルス薬への抵抗性をも獲得した。


現在で日本の人口はおよそ6000万人、あれほど日本中を悩ませていた高齢化問題はもはや解決しており、人口は減少の一途を辿っている。

COVID-19は非常に感染力が強く、しかし弱毒性でほとんどは不顕性感染であった。

また潜伏期間が非常に長く、感染者の移動が制限されないため、あっという間に日本中に広がっていった。一部の国では集団免疫獲得による収束を試みていたが、そういった対応を取った地域はもはや存在すら危うくなっている。


感染が始まった2019年末、当初はCOVID-19は弱毒性のウィルスであり、若年者は重症化しないなどと言われており、一部の地域では楽観視されていた。

日本でも、日本人は清潔だから重傷者が少ないなどと楽観的な憶測が飛び交っており、この後10年以上もこの感染症に人類が蹂躙されることになるという考えは少数派であった。


なぜ日本や一部の地域では重症例が少なかったのか

それはこの感染症が何度も感染を繰り返し、さらに回数を増す毎に凶暴化するという特徴があるからである。

2003年のSARS収束後、武漢ではSARSウィルスの研究が続けられていた。

当初はワクチンの研究であったようで、アメリカが査察をした際、研究所から弱毒化されたウィルス株が何種か発見された。

その後周囲の住民に抗体検査を実施したところ、弱毒株の抗体を持っている人が多数おり、複数回にわたり武漢研究所からウィルスが流出していたことが発覚した。

さらに査察を繰り返したところ、人為的に作られたであろうCOVIDー19のプロトタイプともいうべきウィルスが発見される。

これが俗に言うCOVID-18である。

例に漏れずCOVID-18も複数回にわたり研究所から流出していた。

このウィルスはCOVID-19同様ステルス性能があり、弱毒性でそのほとんどが不顕性感染であった。

ただ、COVID-19にくらべ潜伏期間が短かったため比較的早く感染は収束した。

人知れず大陸全土に蔓延し、人知れず収束していたのである。


幸い日本ではCOVID-18の感染例は少なく、そのため初年度ではほぼ死亡者は出ることはなかった。

そして徐々に感染者数が減り、一時緊急事態宣言も解除されることになった。

そして秋を迎えた頃、第二波が日本を襲う。

再感染をにより死亡率は跳ね上がり、死体袋の生産が間に合わず旧築地市場では死体保管用の冷蔵庫が設置された。


現在では数家族毎に区画を分け生活し、新たなワクチン開発を待っている。

指定区域より外出することは許されず、必要なものはドローンが運んでくる。

支給される食料では足らず、足りない分は各自で賄うことになっている。

幸い私の配属された区域では先住者の家庭菜園があり、慣れないながらも上をしのげる程度に収穫が可能であった。

先月の豪雨で一部地域は流されて多数の死者が出たそうだ。

わずかな生き残りの者が少し離れた区域に配属されたと噂で聞いた。

2024年9月、いまだにこのウィルスに対する有効な治療法やワクチンは確立されていない。

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