第9話
似たような景色が暫く続く。
隣には電車の線路が、真上には星空がある。
分岐器まであとどれくらい距離があるのか分からなかったが、歩き続ければきっと辿り着くと信じて歩いた。
それらしいものを見つけた時には空は明るくなり始めていた。
線路が枝分かれしているポイントを見つけた時、清々しい気分になった。
これを見つけて終わりではない。
俺はこれから異物となり、人間が便利さを求めて開発した電車を止める。それを達成することで俺たちが反撃できたことになる。
本番はこれからなのだ。
電車が通ってから次の電車が来るまでにスパンがある。
分岐器がどう動くのかも、おおよそ予想がついた。
何回も頭の中でシュミレーションをする。
分岐器に挟み潰される覚悟ができた。
「次の電車が来たら実行だ」
次の電車が来たら。
次の電車が...。
実行の合図となるはずの電車が通ることはなかった。
「なぜだ」
どうして来ないんだ。
人間が線路に沿って歩いて来る。
こっちに来るな。見つかってしまう。
「うん?ペットボトルがあるぞ。なんだってこんなところに」
「マナーの悪い奴が捨てたんだろ」
俺は作業着を着た男たちに回収された。
「待て。離せ」
どんなに叫ぼうが届かないと分かっているのに叫び続けた。
身体はもちろん動かすことができない。
人間ってやつはなんてタイミングが悪いのだ。
「朝からやめてほしいよな」
「本当だよ」
「飛び込みなんてな」
飛び込んだ?人間が?
作業員の軍手には滑り止めが付いていて必要以上にラベルに張り付いた。
作業員たちの話によると、人間が線路に飛び込んで死んだらしい。そのせいで電車が止まってしまった。
俺は安全確認の為線路に降りた作業員に見つかり回収された。
電車が止まったことにより俺の計画も水の泡となった。
ゴミ箱近づいている。
あんなに望んでいたはずのゴミ箱入りがこんな形で実現するとは、神様のいたずらもここまで来るといじめだ。
人間に一泡吹かせようとしたら、その人間に計画を水の泡にされてしまった。
人間ってやつは。
「どこまで自分勝手なんだ」
その言葉を吐き捨てたと同時に俺はゴミ箱の入り口をくぐった。
ゴミ箱の中には既に意識が途切れているペットボトルたちがいた。
彼らにぶつかる度に軽い音が上がった。
ぐらりと目が眩んだ。
俺も、もうじき意識が途切れるのだ。
ぼんやりとしている頭に懐かしい光景が映し出された。
隣にはほうじ茶がいて、レモネードもカフェラテもいる。ここはコンビニか。
これは幻だ。死ぬ直前に嫌でも見えてしまう幻に違いない。
みんなあの時みたいに話をしている。しかしはっきりと会話が聞き取れない。
隣でほうじ茶が絶句している。
「そこまでして、自由に動きたいの?」
突然頭の中に響いた。
その問いにレモネードが答える。
「別に。自由になったらあんなことやこんなことがしたいって夢を持てるのは素敵なことだと思うわ。
でも自由に動けば動くほど、世の中の嫌な部分が目に付いちゃうものよ。
私たちを買うのは人間。購入者によっては地獄を見る。それは覚悟しておかなくてはいけない」
カフェラテが、うんうんと強く頷いている。
「俺たちの自由は人間のエゴから始まる」
幻たちが俺に問いかけてくる。
「なあ緑茶。君は自由を楽しんだかい?」
言葉に詰まる俺に幻たちが興味の目を向ける。
俺は。俺の自由は。
「味気なかったよ」
幻すらも見えなくなった。
ペットボトル・リベンジ 糸師 悠 @i10shi_yu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます