胎動

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胎動

 大地震で孤立した東北地方の山の中にある小さな集落には誰も助けに来なかった。

 実際は、地震の被害が甚大すぎて、村への救援が後回しになっていたのであった。

 道は土砂崩れで断絶されていた。携帯も通じなかった。二か月たっても救援は来なかった。大きな余震も断続的に続いていた。最初の地震での被災者はいなかったものの、余震のせいでけがをしたり命を落としたものが、村の中にもいた。

 村の役員から頼まれて、数名の若者が決死隊として土砂を超えて下界を見に行くことになった。背嚢には大量の米と調理器具、それに雨露をしのぐ諸々の装備が入っていた。

 いくつもの土砂を超えていくと、突然道の真ん中に老人が突っ立っているのが見えた。

 両手を後ろ手に結んで、細い目でまっすぐに、少しづつ山を下りていく若者たちを見ている。

 若者たちが老人の近くに集まると、この先もがけ崩れが続いているから、今日は泊って行けという。日暮れまでまだ時間はあったが、若者たちは老人の言葉に甘えることにした。

 老人の家には数匹の犬がいた。仏壇があった。小さな仏像が陰になった部屋の中の虚空を見つめていた。老爺の一人暮らしが醸し出すものか、濡れた土を持ち込んだようなにおいがする。

 老人は味噌を説いた雑煮を作ってくれた。若者たちはこれを飲んで寝た。

 翌日目が覚めると、若者たちは体を縛られていて動けなかった。

 そのくせ、下腹部は熱くなっている。昨日老人が飲ませた雑煮には、精力剤と睡眠剤が入っていたのであった。

 老人は犬の性器をそれぞれの若者の性器にあてがい、無理矢理に射精させた。

 そして得られた大量の精液を、仏前に捧げた。

 すると大きな余震が起こった。家は大きく揺れて、床に置いてあったラジオが転げた。

 スイッチが入り、ぶつ切りの放送が聞こえてきた。

「またです。また現れました。大きな仏のような体躯の化け物です。本日は東京タワー周辺の高層ビルを破壊していきます。慌てずに非難をしてください。また、空が赤くなっている方向には、決して向かわないでください。放射能の値の突然の上昇が懸念されます。できるかぎり都市部からは逃げてください。ただし北日本には向かわないでください。北日本では仏の体躯の化け物が大量に跋扈しています。南へ逃げてください」

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