二、カノン
無数の枯葉が路面に
冷気をゆっくりと分けながら、黄色いクーペが一台、車道を抜けて行った。
「バスを降りたら北に向かって歩いて下さい。休日の朝なら、きっと逢えます」
会う約束をする際、彼女が教えてくれたのは、バス停の名だけだった。
「彫刻家さん」
振向くと、
「いらっしゃい」
カウンターの内側で、店主らしき女性が穏やかな笑みを見せた。
「ママ、窓際のテーブルを借りるわね」
直之は、二人の顔を見比べた。
「店のママという意味よ。私が母親なら、この
彼女は湯気を
直之は包みを開くと、箱から石膏像を取り出し、テーブルの上に立てた。
「ほんと、
ママは女像を見つめ、溜息をもらした。
「本当に、
直之は、彼女の名を初めて知った。
「私、
自分の名も知らせず人を招いた女学生と、大切な作品を抱えて名も知らぬ者を訪ねて来た若い彫刻家を、ママは
「アヤは、いろどりの彩。彫刻のモデルには
「でも、私は、この彫刻に色彩を感じるわ」
女像に顔を近づけて、カノンのママが言った。
「どんな色ですか?」
「炎の色ね。彩ちゃんに似たこの女の子は、火祭りの
直之と彩は、驚きの目をママに向けた。
「ママ、作品の題名、未だ知らないわよね?」
二人は、
直之が「まつりび」という題名を思いついたのは、彫刻の
初めに
女像は
この像を見ると、先ず
女像は目の前の何かを見ている。それは細かく揺れながら上昇する現象だ。彼女はその勢いに
この彫刻をみた者すべてが、「炎」を感じると言った。だが、タイトルを聞かぬうちに「まつり」まで言い当てた者はいない。女像自体はスタティックで、
「ねえ彫刻家さん、この彫刻、私に
カノンのママに話しかけようとした直之を彩が
「彩ちゃん、あなたタダで
彩が当然のように
「それじゃ、私が買わせて
「駄目よ、ママ。私の裸、店のお客さん達に見せるつもり?」
「だってモデルは、あなたじゃないんでしょ?」
「でも、みんな私がモデルだと思うわ。それに、私、どうしてもこの彫刻、家に置いておきたいの」
毎日見ていたい、鏡のように……と、彩は女像に顔を寄せた。
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