第2話 姫の始めて
12年が長いか、短いか? それぞれの中で時の長さ・重さは図れないもんだか、生き物すべてには寿命というヤツがあって容赦なく今日がなくなる。それでもたった一人でも誰かに手を貸せる生活とは、なかなかに波乱万丈である。
ウチの姫は、以前の所で何年生活をしていたのか知らない。ただカメの種類などに違はあるが、約20~30年とも言われる。イヤ~ウチの姫様が20年以上いたらさて執事の老後は安泰ではいられない。
ウチの姫の特徴は、人間様の幼稚園児、若しくはイヌ・ネコに匹敵する程の知恵者である。イヤ執事のひいき目では決してない。ウチにやって来た姫は色んな世界を知った。先ずはそこから…。
ず~っと屋内にしかいないので、コンクリートの壁と水と有象無象のカメ達に囲まれて生きて来た。最初に姫の驚いたもの、それは激しい雨とカミナリ様。光は鳴るは土砂降りだわに、驚いたの何の。あの長~い首を引っ込めるでなく小さくなっていた。冷たい水が上から降って来るなんぞは、掃除の時くらいだったろうし、光るものと言えば電燈位か?気象で言うなら、次は雪。ひらりひらりと舞い落ちる雪をじっと見つめていた刹那、鼻の上に無事着地。姫は慌てたねぇ、手で振り払っては首をかしげる、竦める。それでも懲りずにじっと見てたけどね。風も知らなかったので、突風に転がったこともあったなぁ。
その次は、言葉が分かる(と思われる)。ウチには大まかに毎日接する者2名、時々やって来てとんでもない名前を連呼するおっさん1名、その他不定期のやって来るものに大別できるが、普段の2名を上手に使い分けている。よ~く怒られるは突かれるはの執事と、とにかく大甘のハハである。で、姫はどんな態度になるか。ハハにはひたすらいい子でいようとガンバル。噛むことも引っ掻くこともしない。たまに噛んじまって目いっぱい怒られているが、ひたすら低姿勢で反省をするフリをする。これが執事になると噛もうが引っ掻こうが蹴ろうが反省のハの字もない。そりゃあ冷たいもんだ。こっちも手加減なしで叱るからノーサイドだが、おかげで夏中あちらこちらに傷が出来る。噛むと言ったがカメには歯がない。強靭な下顎が武器であり、長~い爪がそれを助ける。名前を呼ばれる声と匂いが姫の区別できる一因である。
言葉が分かるとは、姫の態度で一目瞭然。悪口言われると、まず顔を見て誰が言ったか確認。の後知らん顔する、寝たふりする、次に声を掛けると無視する、捕まえると当然の様に噛む。褒められるとスリスリとスリ寄ってくる。あ~面倒っちいヤツなのだ。当然エサという言葉には事の他反応よろしく、どこかを歩いていても自分の家にまっしぐら。自分の名前を意識し始めたのは、2年目に入る頃からだったなぁ。
次は、そんな姫の日常をご紹介
お姫様がやってきた 薫姫 @kaorucyan
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